昨24日投開票の北海道5区補選、野党自民党候補の町村信孝が12万5636票、与党民主党新人の候補者に約3万票の大差をつけて当選した。与党候補の敗因をマスコミの多くが「政治とカネ」の問題が響いたと書いている。町村本人も、当確後の発言で、「1年前は政権交代への期待があったが、民主党の政治とカネ問題への鈍感さ、隠そうとする体質への反発が有権者にあった」(毎日jp)と「政治とカネ」の問題を与党敗因の第一番に挙げている。
だが、NHKは今朝のニュースで中国漁船対応への国民の評価や出口調査で内閣に対する「評価する」が47%に対して「評価しない」が53%だと敗因要素に加えていた。
この47対53は「NHK」が10月12日に公表した世論調査による菅内閣支持率では「支持する」48%に対して「支持しない」35%の内、どちらとも言えないとした、あるいは支持・不支持を表明しなかった残り17%の内、その殆んどが「評価しない」に流れたとほぼ見ることができるはずである。
世論調査は特殊な地域のみを対象とした調査ではなく、全国を対象としているだろうから、出口調査が北海道5区という一地域の調査であっても、基本的には相互に関連し合う関係にあり、共に準ずるだろうからであることと、出口調査は投票に来た有権者を対象としているため、一般的な世論調査と異なって、内閣や政党に対して態度を明確にしていると考えることができるから、どちらとも言えない、あるいは支持・不支持を表明しない要素が消えて、「評価する」と「評価しない」が47%対53%の全体で100%となったことも頷ける。
尖閣沖中国漁船衝突事件での中国人船長の釈放は9月25日。その後の世論調査では釈放に対する評価と、その釈放が検察独自の判断であり、政治介入はなかったとしている政府の説明に対しても、釈放は「不適切」、説明は「信用できない」が共に80%前後を占めていたが、釈放から1ヵ月後の北海道5区補選投開票の24日に向けて、菅内閣に対する評価がさらに下がっていることが予想される。
このことは依然として中国に対して毅然とした態度を一貫して取ることができない内閣の姿勢も影響しているはずである。日本側から常に関係修復の首脳会談を求め、相手の容認を得て会談が実現するという中国を上に置き、日本を下に置いた上下関係、あるいは中国を大国に位置づけ、日本を小国に位置づけたかのような中で両国関係が推移している状況に多くの国民は少なくとも不信と不満を抱いているはずだ。
例えば菅内閣が今月末開催の東南アジア諸国連合会合で日中首脳会談の開催を中国に求めていることに対して前原外相は「時期は焦らなくていい」と発言しておきながら、中国がその発言に「分からない。なぜ急がなくていいのか。(前原氏は)毎日、中国を攻撃する発言をし、外交官の口から出るべきでない極端な言葉さえ使っている。・・・・両国関係はあまりにも重要だ。それを絶えず傷つけ壊すことには耐えられない。中国の指導者が何か言ったのか。我々は良好な接触をしようとしているのではないのか。なぜ必ず刺激しようとするのか」(asahi.com)と不快感を示すと、「日中は隣国であり、戦略的互恵関係を進めていくことが両国の国益に資する。わたしは、そういう大局に立って、互いの問題点を解決する努力が大事だと申し上げてきたつもりだ」(NHK)と釈明。
この釈明に中国側は、「この表明に留意している。日本側が我々と共に努力し、戦略的互恵関係を維持、推進することを希望する」との談話を発表。
これは日本側からの釈明の形を取った許しの要請であり、中国側がその許しを容認する、そのことによって物事が進むことを知らしめている、少なくとも心理的には上下関係の構図を暗に取っていう前原外相の釈明であり、それに対する中国側の談話であろう。それが、「この表明に留意している」の言葉に表れている。
さらに言うと、「日本側が我々と共に努力」は「努力」の主体を日本のみに置いていて、いわば日本を努力させる側に置いていて、「中国と日本が共に努力する」と「努力」の主体を対等に両国には置いていない、双方を対等の立場に置いて対等に努力するとしていない談話となっている所にも上下関係としていることが端的に現れていることで、中国を上に置いた物言いと言える。
「政治とカネ」だけを争点として投票行動を決定したのではなく、菅内閣が中国に対して一貫して毅然とした態度を取ることができないこと、世論調査に国民が示している、「政治に期待を持てない」、「指導力に期待できない」等をも有権者が投票判断に見据えた、菅内閣への審判を背景とした民主党候補への審判として現れた北海道5区補選の結果だと言うことであろう。
では自民党町村当選は自民党政治への審判を背景とした町村候補への審判としての当選かと言うと、そうではなく、9月の民主党代表選で小沢候補に対する拒絶感の反動が菅候補に向かわせたのと同じ構図を取った、菅内閣に対する否定的審判が向かわせた、その反動としての肯定的な審判と見るべきで、それが3万票の差をつけたということであるはずである。
民主党がいくら「政治とカネ」の問題を抱えていても、菅首相が首相としての信頼感を獲ち得ていたなら、あるいはリーダシップあるリーダーだと信任されていたなら、政党支持率では依然として民主党が自民党を上回っていることが政権交代への期待が決して萎んでしまっているわけではないことからして、敗北という結果を招くことはなかったはずである。
基本的には参院選敗北と同様、北海道5区補選敗北も菅首相に責任があるということである。