仙谷官房長官の“恫喝”は思想・信条の自由、職業選択の自由を脅かす発言

2010-10-22 09:07:01 | Weblog

 10月15日(2010年)の参院予算委員会で質問に立ったみんなの党の小野次郎議員の要請で政府参考人として出席した経済産業省古賀茂明氏(55)の発言に対して、仙谷官房長官が「こういうやり方は甚だ彼の将来を傷つける。優秀な人であるだけに大変残念だ」と警告紛いの発言をしたことが問題となり、審議が一時中断した。

 この発言を野党は“恫喝発言” と看做し、批判。18日に鶴保庸介参院決算委員長(自民)が、19日には前田武志参院予算委員長(民主党)が国会内に官房長官を呼び、厳重注意したという。

 鶴保庸介参院決算委員長の注意。《答弁「品位汚さぬよう」=仙谷氏に異例の要請-鶴保委員長》時事ドットコム/2010/10/18-11:47)

 鶴保委員長「国務大臣としての品位を汚すことなく、真摯且つ適切な答弁に務めることを強く望みたい。・・・・国会を冒涜(ぼうとく)する答弁であり、当該政府参考人に圧力を加えるのではないかとの指摘がある」

 前田予算委員長の発言自体はどのような内容か、調べた限りでは仙谷官房長官を呼んで厳重注意したと書いてあるだけで、詳しく伝える記事は見当たらなかった。

 自民党は不適切発言が改まらないようなら、問責決議案の提出もあり得るのとの態度を取っているが、決議案を出して民主党内の小沢派が呼応した場合、面白い展開となるに違いない。

 この仙谷官房長官の発言を大方は不適切な“恫喝”だと把えているが、単に不適切だけにとどまらない、ブログ題名に記した内容を含んでいるように思える。この発言が飛び出した15日の参院予算委員会の小野次郎議員との質疑応答を予算委員会の動画から文字に起してみた。

 小野議員「エー、今日お配りした資料の中に天下り根絶、これは民主党政権のスローガンにもありますけれども、骨抜きにした民主党政権の政策を批判したために、退職を要求されたり、あるいは2週間の国内出張を命ぜられた、経済産業省の改革派の官僚がいるという報道があります。

 古賀茂明さん、今日、来ておられますか?(どこにいるか顔を左右に動かしてから、いる方向に向けて軽く一礼する。委員長が名前を呼びかけると、)いや、来られていますから。

 この報道の事実、一部での真実なのか。お伺いしたいと思います。一部でも真実だとすれば、大人の世界の陰湿ないじめじゃないですか。大臣、お答えください」

 大畑経産相「エー、お答え申し上げます。え、この新聞報道を、をでございますが、あたしも読ませていただきました。えー、私としては、あのー、事務方から、あー、経済産業省、内での、オー、常務(日常の業務)として、エー、このような形に、えー、すると、いうお話は、えー、お伺いしましたが、このような趣旨のものではない。私も経済産業大臣としてですね、えー、このような形の、おー、ものが、行われていたと思っておりませんので、え、ご指摘をいただきまして、また、実態といったものを、しっかりと、をー、をー、おー、私自身も受け止めて、そしてご本人の、お話等を受けたわまりながら、ご本人の、オー、経験や、あるいは、あー、そして、えー、能力、そういうものが、十分、発揮できるような形で、えー、対応してまいりたいと思います。以上です」

 菅首相そっくりの頻繁な、あー、えー、をーの連続となっている。話し方も明確でなければ、意味も明確に通っていない答弁となっている。菅首相で既に頻繁過ぎる「あー、えー、をー」は信用できないと学習している。

 小野議員「大畑大臣は剣道の達人でもおられるし、アー、人格から、聞いておりますので、そういった、あー、対応をされると思いますけども、私は、その省内の話、まあ、夫婦喧嘩は犬も食わないという話もありますけれども、そんな省内の人事のことで、この問題提起しているんじゃないんです。

 この古賀さんという形が、こうした、まあ、言葉によっては江戸所払いみたいな、2週間も国内出張。今、私たちは主張といったら、日帰りですよ。一泊する、それもありますけれども、2週間も国内出張続けるなんて、そんな出張聞いたことがない、国内で。

 そういうことをされている理由が前公務員改革審議官であって、特に民主党政権の、この天下り根絶という、表向きはスローガンになっているけれども、実は骨抜きにしてしまった、それを批判したってことがもし理由だとしたら、これは大変大きな問題だと私は思います。

 古賀さん、折角お見えですから、お伺いしますけども、今、民主党内閣は、現役出向は天下りではないって説明していますけれども、これは内閣が掲げている、天下り根絶というマニフェスト以来掲げている、スローガンと反すると私たちは思いますが、どうしてこういう解釈に政府の中で変になってしまったのか、前公務員改革審議官としての知見を是非お聞きしたいと思います」

 古賀茂明「お答え申し上げます。あの、現役出向、えー、一言で現役出向とよく言われておりますけれども、現役出向という形もありますし、それから官民交流法に基づく民間企業への派遣とうものもございます。いずれにしても、役人は、えー、公務員の身分を保持しながら、えー、外の組織、企業に、いー、派遣されると、いうものでございます。それで、えー、あの措置を、えー、見てみますと、実は私が公務員事務局に、あ、すみません。それで、ちょっとすみません。今申し上げるのは個人的な見解でございますので、経産省の意見とかですね、そういうことでは全くありませんので、その点お許しいただければと思います。

 それで、えー、あの、まあ、天下りがいけないと、いう理由の、ま、理由は二つぐらいあると思いますが、一つは、天下りによってですね、そのポストを維持する。それによって大きな無駄が生まれる。予算、ムダな予算が、あー、どんどんつくられる。維持される、というところに問題があると、いうのが一つと。

 それから民間企業を含めてですね、えー、まあ、そういうところと、癒着が生じる。そして、また例えばその企業、業界を、守るための規制が、変えられないということですね。そういったことが起こる。あるいは、ひどい場合は官製談合のような、法律に反するような問題が出てくる。

 これが天下りの大きな問題点だと思います。一部に、あのー、退職金を二度取るとか、そういう話がありますけれども、それはもう本質的な問題ではなくてですね、むしろ、重要なのは、ムダな予算が山のようにできる。あるいは癒着がどんどんできると、それが問題だと、いうふうに考えております。

 この点は民主党も、あの、私が、あのー、公務員事務局のときにですね、そういうところは非常に強く批判されておりましたので、この我々として公務員事務局の中で色々なグループがりまして、えー、まあ、守旧派といったらおかしいですけど、それでもむしろ進めたいという風なところもありますけれども、それでも民主党が批判をしているので、それはできないと、いうことでずっと止まっていたものだと理解をしている。

 それは、ま、今回、まあ、堰を切ったように、実施されていくと、いうことになって、その経緯については、私はですね、非常に、あのー、不思議なロジックだなあと思っていまして、先程申し上げた二つの大きな問題点、ムダが生まれる、あるいは維持される。それから不透明な癒着が生れる、いうことはですね、公務員の身分を維持していっても全くおなじことが起きる可能性があるので、その点が非常に問題だというふうに私は把えております。これは全く個人的な意見であります」

 古賀氏は官僚の一人である。その発言の言葉の使い方が政治家の発言に見る言葉の使い方と殆んど変わらない、こうも似通っているのかと驚く程の言葉の駆使に思えた。同じ日本人だからなのか、それとも政治家と官僚が日常的に近い関係の世界を築いていることからの言葉の近似性なのだろうか。それとも官僚が作成した国会答弁書を読むうちに官僚の言葉遣いに政治家が近づいていったことからの似通いなのだろうか。

 小野議員「今日は委員長始め理事のみなさんから政府参考人として、えー、事実実現しております。感謝を申し上げると、また同時に大畑大臣には、別に僕は依怙贔屓する気はありませんけれども、適材適所、能力を最大限に発揮していただくということが、まあ、あの、大臣として官僚を使っていく大事な要諦だと思いますから、是非お守りいただきたいし、また、内閣のほうには、骨抜き、私たちはそう思っておりますけれども、是非、えー、マニフェストに掲げて以来、政府のスローガンでもあります、この天下り根絶、実施、実現を強く指摘しておきます。

 それでは中国船衝突事件について伺いますが・・・」

 小野議員が次の質問に移り、名指しされて答弁に立った仙谷官房長官が小野議員の質問に直接答える前に政府参考人として出席した古賀茂明氏について最初に発言する。

 仙谷「えー、私は質問いただいておりませんけれども、さっきの古賀さんの上司としてですね、一言先程のお話に、えー、私から、あのー、おー、話をさせていただきます。簡単に言います。あのー、私は、あのー、小野議員のですね、今回の、今回の、古賀さんを、こういう所に現時点での、彼の職務、彼の行っている行政と関係のない、こういう場に呼び出す、こういう遣り方は、甚だ彼の、将来を傷つけると思います。――」

 小野議員(席から)「委員長、止めてください」

 仙谷「優秀な方であるだけに大変残念に思います。――」

 5、6人の男女の議員が委員長席に詰め寄る。審議中断。例の如く、「ただいま速記を中止しておりますので、音声は放送しておりません」

 残念なのは殴り合いの攻防とならないことだが、詰め寄った議員と委員長の話し合いがついて、委員長の発言。

 委員長「エー、ただ今の、ただ今の官房長官の発言については、議事を精査の上、理事会に於いて、然るべくご議論をいただく措置をいたします。続いて発言をしてください」

 再開。

 そして、冒頭に書いた参院決算委員長と参院予算委員長の仙谷官房長官に対する厳重注意という経緯を辿ることとなった。

 仙谷官房長官の発言を問題とする前に、古賀氏の、現役出向は天下りであると直接的には明言していないが、公務員の身分を保持した外の組織、企業への派遣と言っていることから、現役出向=天下りと見ているのだろう、私自身の観点から現役出向=天下りであって、古賀氏が言っているように「ムダな予算」と「癒着」が生じることを説明したいと思う。

 かねがね日本人の人間関係は権威主義の上下関係を取り、そのことが日本人の思考と行動を規定していると書いているが、この一つの大きな現れが中央を上に置いて地方を下に置いた中央と地方を上下関係で規定した中央集権体制、あるいは中央集権主義であろう。

 この上下関係が中央及び地方の思考と行動を規定することとなっている。いわば上に位置する中央は下の地方を従わせ、下の地方は上の中央に従う上下関係の文脈でそれぞれが思考し、行動を取ることになる。

 中央省庁と民間企業の関係も中央が許認可権や業務発注とその予算を握っているゆえに中央と地方の上下関係に準じている。

 現役出向であてっても、それが企業への出向であっても、上に位置する中央の省庁の官僚である。そのことだけでも既に職務能力とは関係のない上下関係を天下り先に持ち込むこととなり、そのような上下関係が給与や身分の点で必要もない丁重な扱いを強いることになり、そこに生産性を阻害する能率上のムダや人件費のムダを生じせしめることになる。

 例え本人の能力が優れていても、下手には扱うことができない上下関係が天下り先の職員、社員の能力を抑える役目を果たすことになるだろう。

 ただでさえ上に位置する中央の省庁の官僚である上に出向者が出身省庁の上層部の有力者とどうつながっているかも問題となる。有力者の贔屓を得ていたなら、出向者への扱いはその有力者への扱いと同等となって、天下り先での上下関係はなお一層上下の差が大きくし、大きくすることに応じて生産性を阻害することになる。

 また天下り先も出向者に余分な人件費や丁寧な扱いを行うことによって、いわば上に位置している身分だと本人に十分に理解できる待遇を行い、出身省庁の上層部にもそのような扱いをしていることを知らしめ、そのような恩着せをすることによって出身省庁からの見返りを期待し、見返りを獲得することによって出向者に払う敬意と経費、生産性のムダを取り返そうとする。天下り先がムダを回収したとしても、当初のムダ自体がそもそもからして非生産的なムダだから。そのムダに費やすカネもムダなカネとなる。

 いわば癒着とムダの際限もない再生産である。

 中央を上に置き、地方や民間を下に置く権威主義を土台とした中央集権主義を払拭しない限り、現役出向であっても一般的な天下りと変わらない状況は続く。

 仙谷官房長官の「甚だ彼の将来を傷つけると思います」「優秀な方であるだけに大変残念に思います」の発言だが、勿論、部下の人事は上司の手の内にある。

 だが、国会という場でこのような言葉を発するのは古賀氏個人にとどまらない他者全体に対する宣言ともなる発言であって、個人的宣言は個人的思想に依る。

 いわば仙谷官房長官自身が思想として抱えている発言だと言うことである。

 仙谷官房長官自身が、「甚だ彼の将来を傷つけると思います」という発言によって古賀氏の批判を封じようと意志した思想・信条の自由を脅かす発言であり、と同時に、自身の意志によって古賀氏の将来を左右しようとした職業選択の自由を脅かす発言となっているということである。

 単純に恫喝、あるいは国会を冒涜する答弁、不適切であるということを超えているはずだ。

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