野田内閣、総合こども園法案に見る待機児童と少子化解消の本気度

2012-05-11 10:59:01 | Weblog

 野田政権が目論んでいる幼保一体化の総合こども園法案は満3歳以上児の受入れ義務のみで満3歳未満児は受入れ義務がなく、待機児童解消には役立たないと早くも批判が渦巻いているばかりか、総合こども園が文部省所管の幼稚園が関わり、厚労省所管の保育園が関わり、総合こども園自体は新たに内閣府所管となるということから、従来の縦割りが残る上に三つ巴の権益争いが展開する予感を披露する識者も多く見かけることとなっている。

 縦割りと権益争いの懸念は総合こども園法案が内閣府と厚労省と文科省の共同提出となっていることから、太鼓判付きで窺うことができる。

 5月7日の朝日テレビ「ビートたけしのTVタックル」でもこの問題を取り上げていた。

 待機児童解消につながらない理由は厚労省発表の2011年10月時点の保育所入所待機児童46620人に対して総合こども園に入所を義務づけられていない3歳未満児41137人

 計算上は5500人しか入所できず、約88%程度の児童の入所待機解消に役立たないことになるが、受入れる幼稚園もなくはないだろうから、もっと増えることになるだろうが、そもそも幼保一体化を考えたのは少子化が原因で幼稚園の定員割れが一部現象化し、保育園に入所できない待機児童を幼稚園で受け入れて、その解消を図ろうとしたのだという。

 だが、幼稚園側は3歳未満児を受入れた場合、給食室の設置と職員の増加が必要になり、その財政負担がそれゆえの幼稚園側からの反対も大きく、3歳未満児受け入れの大きなハードルになっていると番組は伝えていた。

 総合こども園法案がどのような内容になっているのか、内閣府設置の少子化社会対策会議決定だとしている、《子ども・子育て新システム法案骨子》少子化社会対策会議決定/平成24年3月)から必要な箇所を拾い出してみた。

 「少子化社会対策会議」は野田首相を会長として、全閣僚が委員に任命を受けている。いわば内閣総がかり政策だということになる。

 〈1 基本的な考え方

すべての子どもの健やかな育ちと、結婚・出産・子育ての希望がかなう社会を実現するため、
 以下の三点を目的とする幼保一体化を推進するとともに、二重行政の解消を図る。

(1)質の高い学校教育・保育の一体的提供
(2)保育の量的拡大
(3)家庭における養育支援の充実〉――

 「すべての子どもの健やかな育ちと、結婚・出産・子育ての希望がかなう社会」の実現が幼保一体化の理念だとしている。

 若い女性が、まあ、40歳以上・50歳以上の女性が結婚・出産・子育てしてもいいわけだが、「結婚・出産・子育ての希望がかなう社会」となるための条件の無視できない一つが待機児童解消であるはずで、待機児童解消に繋がらない総合こども園であるなら、見せかけの理念、聞こえをよくしただけの理念となる。

 また、「二重行政の解消」を謳っているが、所管はタテマエ上は内閣府となっているが、総合こども園法案が内閣府と厚労省と文科省の共同提出となっていることからも分かるように文科省も厚労省も関わっているとなると、些か怪しい目標と言わざるを得ない。

 〈7 施設の一体化(総合こども園(仮称)の創設)

(1)基本的位置づけ

○ 学校教育・保育及び家庭における養育支援を一体的に提供する総合こども園(仮称)を創設す
  る。総合こども園(仮称)の根拠法として総合こども園法(仮称)を制定する。

○ 総合こども園(仮称)においては、

1. 満3歳以上児の受入れを義務付け、標準的な教育時間の学校教育をすべての子どもに保障する。
 また、保育を必要とする子どもには、学校教育の保障に加え、保護者の就労時間等に応じて保育
 を保障する。

2. 保育を必要とする満3歳未満児については、保護者の就労時間等に応じて保育を保障する。

○ 総合こども園(仮称)については、学校教育、児童福祉及び社会福祉の法体系において、学
  校、児童福祉施設及び第二種社会福祉事業として位置づける。
○ なお、満3歳未満児の受入れは義務付けないが、財政措置の一体化等により、満3歳未満児の受
  入れを含め、幼稚園及び保育所等の総合こども園(仮称)への移行を促進する。〉――

 法的義務はないが、幼稚園が受入れた場合の保育を必要とする満3歳未満児に関しては「保護者の就労時間等に応じて保育を保障する」と謳っている。

 待機児童解消は若い母親の就業機会の喪失回避と就業機会の持続保障につながり、このことは次の子どもの出産へとつながっていくはずだ。定員一杯で預けるに都合のいい適当な保育所がないために次の子の出産をためらったり、諦めたりする若い母親がかなりいると聞く。

 いわば断るまでもなく、待機児童解消は少子化対策と一体化している。少子化対策としても考えた総合こども園であり、待機児童解消はその前提だということであろう。

 当然、人口面から見た日本社会の維持、その健全性にも関わってくる。

 企業側から待機児童解消を言うと、雇用確保、あるいは雇用喪失回避の欠かすことのできない対策ともなり得る。46620人の保育所入所待機児童がいるということは、元々専業主婦をしていられる女性は専業主婦できる夫の収入があるからこそで、その多くは幼稚園に入れるだろうから、その子供は待機児童の数に入っていないはずで、46620人に近い母親が子育てのために仕事を辞めたりしていると見ていいのではないだろうか。

 ということは、待機児童問題は雇用問題を通して日本の経済の一端、その健全性の一端にも関わっていることになる。

 これ程にも重要な待機児童問題である。
 
 理念は実現の具体的な方策とその実現可能性の具体的な提示があって初めて、政策としての初期的な信用を得る。

 逆説するなら、このような提示によって本気度を占うことができることになる。

 ということは、総合こども園に満3歳以上児受入れの義務づけを行なっていなくても、従来の施設のままで残る保育園と幼稚園、新たな施設としての総合こども園を併せた三体制で待機児童解消の具体的な方策と実現可能性の具体的な提示があったなら、総合こども園一施設のみでは待機児童解消に繋がらなくても、創設の正当性を得ることになる。

 いわば本気度を確認できる。

 だが、「総合こども園法案」にも、「総合こども園法案(概要)」にも、「総合こども園法案(要綱)」にも、「総合こども園法案(案文・理由」にも、「総合こども園法案(参照条文) 」にも、「待機児童」の文字は検索してみたが、一つとして出てこない。

 待機児童問題と深く関わっている「少子化」という文字にしても、「総合こども園法案(概要)」に、
 
 〈誰もが安心して子どもを産み育てられる社会を実現

 女性の社会進出を促進
 
 →少子化問題を改善し、今後の経済成長につなげる〉と謳っている、具体的方策の提示とは無関係の一箇所のみで、他のページには会議の名称である「少子化社会対策会議」の「少子化」のみである。

 これでは総合こども園だけではなく、全体としての「子ども・子育て新システム」に関しても実現に向けた本気度を窺うことはできない。

 総合こども園が待機児童解消につながらないことが分かっていて、それを全てとしていることから、総合こども園法案や関連する要綱等に「待機児童」という言葉が消えることになったのだろうか。

 あるいは消すことになったのだろうか。

 「待機児童」という文字と「少子化」という文字の現れ方から野田政権の総合こども園実現の本気度を確かめてみた。

 実現の本気度が希薄な法案内容であるなら、総合こども園の実現に漕ぎつけたとしても、当然、希薄な効果しか期待できないことになる。

 消費税のうちから多額の投資する必要性を失うことになる。

 野田総理大臣「一体改革では、未来への投資を強化することで全世代対応型の社会保障制度の実現を目指している。子育て支援に消費税による財源を向けることは、人生前半の社会保障を強化する意味がある」(NHK NEWS WEB

 果して言ったとおりのことになるだろうか。

 最後に一つ提案だが、「少子化対策」という言葉は、少子化に向かっていくことに対する、それを阻止する言葉を意味しているが、これを子どもを多くする意味の造語だが、「多子化」(たしか)という言葉に変えて、「多子化対策」とした方が積極的な意味を込めることができると思うが、どうだろうか。

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