誰もが知っていて、余計なお世話かもしれないが、先ず「僥倖」の意味。
【僥倖】「〈ぎょうこう〉思いがけない幸運」)(『大辞林』三省堂)
昨日5月22日の衆院「社会保障・税の一体改革特別委員会」での新党きづな代表の内山晃議員の質問。
内山晃代表「1千万円以上の負債を抱えて倒産する企業が1月~3月までの累計で1日35社以上。自殺者が相変わらず3万人を超えている。生活保護者が209万人とこの間数字が出ていた。今でも消費税が(製品価格に)転化できずに身を削って飲食店や商店が払っている。
このままにして今の時点で消費税増税すれば、さらに失業者が増え、中小零細企業が倒産していく。国民生活に多大な影響を与えると懸念され、消費税増税実施後の国民生活はどのようになるのか、どう推測されているのかお尋ねをしたい」
岡田社会保障と税の一体改革担当相「(要旨)社会保障と税の一体改革をやらなければ、これらの問題の先送りになる」
内山晃代表「学識経験者やシンクタンクの予測が出ているが、2015年と2011年を比較して家計収支にどのような影響が生じるかの分析結果。実質可処分所得は4.8%以上減少するとの試算結果が出ている。
消費税増税5%の引き上げに家計が耐えられるのかということが出ている。デフレを脱却して、2%程度のインフレ率となり、4%程度の名目成長率になったとき、消費税増税可能な状況となるのではないのか。
家計の消費税負担は年収300万で11万円。年収500万円で17万円。年収1千万円で29万円の年間の負担増になるとの試算も出ている。
家計消費需用を13兆9180億円減少させる。国内生産額は21兆2643億円減少。雇用が114万9千人減少。税収は10兆円余り税収が伸びるけれども、国・地方併せて2兆1660億円減少する。こういう数値も出ている。
こういった数字が消費税増税行ったときにどう総理は責任を取るのか」
野田首相「先ほどの江田さん(みんなの党幹事長)のご意見と近いと思います。ギリシアの話をされていました。食い扶持を与えないで増税したからダメになった――。
そのとおりだと思うんです。だから、国際社会での共通課題は成長と財政再建の両立なんです。成長やらないで、緊縮だけやろうなんてことはまたく思っていませんし、これまでもやって参りました。これは政権交代した直後、四半期でプラス成長になったということ、この間も申し上げました。
今も足許は、これは油断なりませんよ、だけど、復興需要を取り込んでいく、今足取りになってきていると。こういうものを加速して、きちっと成長は促進していくということを前提としています。
その上で消費税を上げたときのマイナスの影響だけをお話されるています。それは私は公平な議論ではないと思います。上げることによって負担に注目をして、そういう見方をする識者もいます。でも、逆に何もやらないことのリスクを語る識者もいます。
で、この場合むしろ、国際社会では共通している認識じゃないでしょうか。成長と財政再建やるんだと。財政再建はやらないんだというメッセージが出たら、その時に金利が1%上がったときのリスクはこれは政府のリスクだけじゃないです。利払いだけではなくて、企業の資金調達等々含めて、企業にもろに影響します。経済に影響します。そういうことはバランスを良く考えていただきたいと思います」
最後腹立たしげに言う。
内山晃代表「どちらにブレるかですね。出たとこ勝負ではダメなんです。きちっと、そういう悪い結果が出るという、私が言っていることはあり得ないとでもおっしゃるんですか。
野田さんはこういうことを言ったじゃないですか。『景気の回復局面にあったとき、言ってみれば、風邪が治りかけたときに冷たい水を浴びせて肺炎になってしまって、その後の日本経済、偉い目に遭ったという教訓がある』
これ、野田さんの言葉ですよね。2004年10月財務金融委員会。野田発言です。
これ、自公政権の定率減税を廃止して、97年消費税増税など9兆円負担についての教訓発言じゃないですか。今まさにあなたはこれをやろうとしてるんじゃないですか」
野田首相「午前中の質問で聞いていただいたなら、それに答えたんですが、風邪を引いたときにはやらないということです。それが教訓です。だから経済をよくするために全力を尽くすということです」
内山晃代表「じゃあ、2014年には風邪を引いているんですか」
野田首相「風邪を引かないように経済の好転を図っていく。全力を尽くしていく。だから、名目成長率3パー、実質2パー、こういう政策も目標掲げているわけです」
内山晃代表「そういう状況の数値になっていなければ、消費税増税行わないってことですか」
岡田社会保障と税の一体改革担当相「これは総合判断なんですね。条件にはしておりません。しかし、全体の状況を見て、まさしく、それはその時のリーダーのほんとうに重要な政治判断、総合的に判断をして、最終的に決めることになります」
持ち時間は15分で、質問の最初に同じ議員数の共産党は持ち時間が1時間、公平に扱って欲しいと委員長に申し出ていたが、残り時間が数分になったために年金問題で質問相手を小宮山厚労相に変更。
野田首相は、「消費税を上げたときのマイナス影響のみを話するのは公平な議論ではない」と言い、消費税増税のマイナス面に注目する識者もいれば、増税しないことのリスクを語る識者もいると発言した。
増税判断・反増税判断はどちらも絶対ではないと言ったのである。いわば前者が正しいかもしれないし、後者が正しいかもしれない。判断の正否は増税時の経済状況にかかっている。そのために「風邪を引かないように経済の好転を図っていく。全力を尽くしていく。だから、名目成長率3パー、実質2パー、こういう政策も目標掲げてているわけです」とした。
このような状況の中にあって野田首相は後者に賭けた。当然、賭けた判断の実現に危うい状況(=「名目成長率3パー、実質2パー」以下の風邪を引きかねない経済状況)に至った場合、増税判断の撤回が必要となる。撤回が結果責任に当たるはずだ。
にも関わらず、岡田克也は増税判断の撤回は全体の状況を見ての総合判断だという。この総合判断は野田首相が言う「不退転の決意」にも反する。不退転の決意まで示して増税判断に賭けた以上、賭けが外れ、増税判断の実現が危うくなった場合、潔くその判断を撤回するのが、反増税判断が正しいと出たことに対する責任でもある。
いわば名目成長率3%、実質成長率2%を達成できない経済状況が出来(しゅったい)した場合、政治的な総合判断ではなく、増税判断撤回を条件としなければ、反増税判断こそが正しかった見做される側に対して「公平な議論」ではなくなる。
なぜ内山代表は消費税増税を取り下げてもらわなければ公平な議論ではないと言わなかったのだろう。
尤も野田首相はあれこれ言って逃げるだろうが、一応は言うべきだろう。
野田首相は「国際社会での共通課題は成長と財政再建の両立」だと言い、「これまでもやって参りました」という表現で両立を図ってきたと発言、その証拠として「政権交代した直後、四半期でプラス成長になった」ことを挙げた。
だが、生活保護費受給者は内山代表が「生活保護者が209万人とこの間数字が出ていた」と言っていたが、2012年1月時点で209万1902人のことを指し、この数字は昨年2011年7月から年々過去最多の更新記録となっている。
但し今年2012年1月から3月のGDP=国内総生産の伸び率が年率に換算プラス4.1%と、3期連続のプラスとなり、そのうちGDPの6割を占める個人消費が1.1%の増加、4期連続のプラスだということだが、このことに貢献した主たる要因が政府がカネをつぎ込んだエコカー補助金制度復活と東日本大震災後の自粛ムードの反動にあるという。
と言っても、生活保護費受給者が下げ止まりもなく年々増えている貧困世帯増と所得格差の二極化、若年層の貧困化、低収入が影響した未婚男女の増加等を見ると、エコカー補助金制度復活と東日本大震災後の自粛ムードの反動を要因としたGDP年率換算プラス4.1%・3期連続のプラスは中所得層以上の国民の貢献であって、低所得層には無縁の景気と言える。
無縁とは低所得層が共にも参加したGDP年率換算プラス4.1%・3期連続のプラスではないということであり、参加できない低所得層にとっては消費税増税は打撃となり、明日の安心どころか、今日の安心さえ危ういのになおさら危うくなることを意味する。
多分、世論調査で消費税増税反対50%~60%近くはこれら景気回復のための個人消費に参加できない低所得層がその多くを占めているに違いないと見ると、この種の低所得層が国民の半数近くを占めていると予測することもできる。
そして野田首相は「成長と財政再建の両立」のために「今も足許は、これは油断なりませんよ、だけど、復興需要を取り込んでいく、今足取りになってきていると。こういうものを加速して、きちっと成長は促進していくということを前提としています」と、消費税増税の前提として“復興需要取り込み”による景気回復を予定している。
だが、この“復興需要取り込み”による利益獲得の構造は大企業を頂点として、ピラミッド型に底辺に向かって広がっていく形を取り 底辺の不特定多数の低所得層(その多くを貧しい被災者が占めるに違いない)にはさしたる恩恵が行き届かないばかりか、政治自らが政策的に創造した景気回復政策では決してないゆえに東日本大震災を偶然に与えられた思いがけない幸運――僥倖とする景気政策となる。
大体が災害からの復興を国の景気回復の契機とするのは他人の不幸を自分の幸福とするようなもので、被災地・被災者に対して失礼に当たるはずだ。
勿論、復興需要が景気を刺激し、GDPを押し上げる機会となるが、あくまでも予定外とし、政治の責任・内閣運営の責任として自らが政策的に創造しなければならない景気回復政策であろう。
このことはリーマン・ショック以後の景気回復が証明している。中国特需、あるいはアメリカの一時的景気回復の恩恵を受けた外需による他力本願の日本の景気回復であり、日本の政治自身が創造した景気回復政策による自立的景気回復でなかったためにアメリカの景気後退、ヨーロッパの金融危機を受けた中国経済の縮小によって日本の景気も停滞することになった。
東日本大震災を景気回復の契機とすることまで含めた他力本願一辺倒の日本の経済構造は自立的景気政策を創造し得なければ、いつまで経っても同じことの繰返しを続けることになるに違いない。