政府の「需給検証委員会」の第1回会議は4月23日(2012年)の開催である。
この第1回会議を伝える記事。《今夏の電力不足、0.4%に大幅縮小 政府試算、関電は16.3%不足》(MSN産経/2012.4.23 19:23)
文字体裁は筆者。
記事冒頭の記述。〈政府は23日、原子力発電所の再稼働がない場合の今夏の電力不足予測について検討する需給検証委員会の初会合を開いた。〉――
当然、北海道電力泊原発1号機、2号機が定期検査のために停止中で、3号機が5月初旬(実際の停止は5月5日)に定期検査に入り、停止することを予定していたのだから、日本の全原発停止は「需給検証委員会」第1回会議で想定内に入れて事態であり、このことを踏まえた「原子力発電所の再稼働がない場合の今夏の電力不足予測について検討」ということだったはずだ。
このことは北海道電力が4月23日に北電管内全原発停止を想定して7月・8月の原発を除いた電力供給量を公表したことが裏付けている日本の全原発停止の想定であろう。
この公表に関して、《泊3号機5日定検入り 原発42年ぶり全停止 道内、最大3.4%電力不足》(MSN産経/2012.5.3 13:34)が触れている。
北海道電力公表の今夏7月・8月の原発ゼロを想定した電力供給量
――483万~485万キロワット
一昨年波の猛暑を想定した最大電力需要量
――500万キロワット
電力不足率で言うと、3.1~3.4%不足
平年並みの暑さを想定した最大電力需要量
――484万キロワット
余力がないことになる。
記事結び。〈電力不足回避へ再稼働の期待は高まるが、ストレステスト(耐性検査)の原子力安全・保安院の審査は停滞。さらに、保安院は泊原発で想定される最大の地震の揺れの強さ(基準地震動)の引き上げを4月23日に決定、これに伴い原発の安全性の再確認も必要となり、再稼働への見通しは不透明となっている。〉・・・・・
原子力安全・保安院が基準地震動引き上げを決定した同じ4月23日に北海道電力は原発ゼロの場合の電力供給量を公表した。保安院の発表に当たっては前以て北電に報告してあっただろうから、保安院の報告を受けた北海道電力の公表ということであろう。
だが、「需給検証委員会」は原発稼働ゼロを前提とした今夏電力不足予測の検証を役目としていたはずだが、第5回会議でその前提を崩し、〈原発再稼働を前提としない報告書案を提出する一方、再稼働した場合の試算も提示した。〉
その原発再稼働とは勿論、大飯原発3号機・4号機を指している。
《大飯再稼働なら強制節電回避…政府が新試算》(YOMIURI ONLINE/2012年5月10日12時42分)
何ためなのだろうか。
〈政府は10日、今夏に深刻な電力不足が見込まれる関西電力管内の需給見通しについて、関電大飯原子力発電所3、4号機が再稼働すれば、昨夏以降に定着したとみられる企業や家庭の節電を前提に、電力不足がほぼ解消されるとの試算をまとめた。
政府が原発の再稼働を前提に今夏の電力需給見通しを示したのは初めて。大飯原発の地元・周辺自治体などで続いている再稼働論議にも影響を与えそうだ。
大飯3号機・4号機の再稼働電力供給量――236万キロ・ワット
夜間余剰電力利用の揚水発電の増加分 ――210万キロ・ワット
〈揚水発電は、一日を通して一定の発電量がある原発と組み合わせることで最大の効果を発揮する。〉と記事は解説している。
以上の設定による検証結果。
一昨年並みの猛暑の場合。
需給の逼迫時に大口需要家に節電を求める随時調整契約を加味した場合――不足率0%
加味しない場合――不足率0.9%
〈この水準は、一般的に発電設備の故障に備えて必要とされる3%の予備率には届かないものの、電力使用制限令や計画停電など強制的な節電策は回避できるめどが立つ。〉としている。
要するに原発稼働ゼロを前提とした今夏電力不足予測の検証を役目としていながら、再稼働を前提とした電力不足の検証にまで踏み込んで、最も電力不足が予想されている、それゆえに停電等の不便をより多く負うことになる関西電力管内に於いて大飯原発を再稼働しさえすれば、強制的な電力使用制限もないし、計画停電もありませんよとする検証を行ったのである。
そのことは誰にしても、どのような停電もない方がいいに決まっている人間の心理を再稼働した場合の生活に与える影響(=無影響)の方に誘(いざな)ったはずだ。
あるいは停電などない方がいいに決まっているという人間の心理をより強めたはずだ。
このことを動機とした検証だったのか、《電力需給検証委 「原発ゼロ」前提覆す》(東京新聞/2012年5月10日 13時55分)から見てみる。
記事は再稼働を前提とした検証を〈参考値として提示した。〉ものだとしている。
果たして単なる参考が目的だったのだろうか。
〈「原発ゼロ」で今夏を乗り切れるかどうかを見極めるのが議論の前提条件だったが、事務局が委員の求めに応じて原発の供給力を見込んだ試算を提出、政府の再稼働方針を「後押し」する形となった。〉・・・・・
この記事も、「需給検証委員会」が自らに課せられた役目を踏み外しているとした文脈で伝えている。
動機自体は分からないが、委員の要請による再稼働電力供給量だとしていることが問題となる。
首相官邸HPによると、「需給検証委員会」は「電力需給に関する検討会合及びエネルギー・環境会議」の下に置かれていて、委員長は国家戦略を担当する石田勝之内閣府副大臣、副委員長が牧野聖修経済産業副大臣。連絡先が内閣官房国家戦略室の門松、吉田、末藤(TEL:03-3581-9280)となっている。
いわば大本は内閣官房設置の総理直属機関国家戦略室であって、政府の人間が頭に鎮座し、牛耳っている組織だと分かる。
当然、委員の要請に基づいた再稼働前提の電力供給量=電力不足率0%~0.9%ということなら、国家戦略室の意思が働いた、役目を超えさせた検証と見るべきだろう。
国家戦略室が役目を超えさせたからこそ、「需給検証委員会」は役目としていない検証まで、いわば越権行為的に行い得た。
上の意思なくして、下が上の意思に反することはできない。直ちに越権行為となる。
いわば、一方で原発を再稼働しなければ、これだけ電力不足が起こりますよ、その一方で、再稼働した場合は電力不足は起こりませんよと対比させたのは国家戦力室の意思によるものと見なければならない。
国家戦略室の意思は更に上の内閣官房、更にその上の首相官邸の意思を受け継いだ使命とみなければならないだろう。
枝野が主導したのか、仙谷が主導したのか、あるいは野田首相自身が主導したのか、あるいは3人が雁首を揃えて共同で主導したのか分からないが、原発を再稼働しなければ、これだけ電力不足が起こりますよ、再稼働した場合は電力不足は起こりませんよが首相官邸から発した意思に基づいた対比と見做さざるを得ない以上、本人たちは否定するだろうが、例えこのことが勘繰りから生じた非事実であったとしても、誰にしても、どのような停電もない方がいいに決まっている人間の心理をどちらに動かしたかを考えると、原発再稼働に向けた世論誘導の情報操作と解釈しなければならない。
なぜもっと正々堂々とした方法で地元住民に十分に理解できる原発安全性の確認の手続きを踏み、最終的に地元住民と地元自治体の了解に任せる正々堂々とした態度を取ることができないのだろうか。
あまりにもこせこせした遣り方に見える。
野田首相や仙谷や枝野にふさわしいこせこせした遣り方だと言うべきか。