野田首相が民主党政権として4月29日(2012年/日本時間30日)、初の公式訪米を実現させた。この「初」という点で、歴史に名を残すかもしれない。
但しその指導力不足から、政策の見るべき実現で名を残すことは期待不可能に見える。
4月30日(日本時間1日)発表した日米共同声明は米軍普天間飛行場移設問題に関して何も盛り込まず、いわばパスしたという。沖縄の反対が強く、普天間の固定化が現実味を帯びてきたと伝えるマスコミもある。
民主党政権下で日米関係がギクシャクしたのは鳩山首相が普天間の「国外、最低でも県外」移設を謳いながら、最終的には自民党政権が決定した辺野古へと回帰、辺野古移設を以て日米合意とした迷走が原因であり、次の菅首相がその日米合意を踏襲しながら、辺野古移設決定にまでに至らず、次の野田首相も同じく辺野古移設の日米合意を踏襲しながら、沖縄の強硬な反対に遭って何ら進展を図ることができないでいる。
要するに民主党政権三代、普天間移設問題で何ら指導力を発揮できないままの状態にある。
重要・肝心な政策で指導力を発揮し得ずに他の政策で発揮することが期待できるだろうか。一事が万事で、重大な政策に指導力を発揮できなければ他のどのような政策でも発揮できようはずがない。
逆説すると、困難な普天間移設問題で指導力をより良く発揮できてこそ、他の政策に関しての指導力を確約できると言える。
見るべき指導力を満足に発揮できない無能の結果としてのここにきての日米共同声明での普天間問題パスということであるはずだ。
そもそもからして普天間飛行場の辺野古移設の実現を以って民主党政権の指導力発揮としていいはずはない。
2002年8月、那覇市で発表した「民主党21世紀沖縄ビジョン」には次のように高らかに宣言している。
〈3) 普天間米軍基地返還アクション・プログラムの策定
普天間基地の辺野古移設は、環境影響評価が始まったものの、こう着状態にある。。米軍再編を契機として、普天間基地の移転についても、県外移転の道を引き続き模索すべきである言うまでもなく、戦略環境の変化を踏まえて、国外移転を目指す。
普天間基地は、2004年8月の米海兵隊ヘリコプター墜落事故から4年を経た今日でも、F18戦闘機の度重なる飛来や深夜まで続くヘリの住宅上空での旋回飛行訓練が行われている。また、米国本土の飛行場運用基準(AICUZ)においてクリアゾーン(利用禁止区域)とされている位置に小学校・児童センター・ガソリンスタンド・住宅地が位置しており、人身事故の危険と背中合わせの状態が続いている。
現状の具体的な危険を除去しながら、普天間基地の速やかな閉鎖を実現するため、負担を一つ一つ軽減する努力を継続していくことが重要である。民主党は、2004年9月の「普天間米軍基地の返還問題と在日米軍基地問題に対する考え」において、普天間基地の即時使用停止等を掲げた「普天間米軍基地返還アクション・プログラム」策定を提唱した。地元の住民・自治体の意思を十分に尊重し、過重な基地負担を軽減するため、徹底的な話合いを尽くしていく。〉・・・・・
そして2005年、2006年、2008年と改定していって、2008年7月8日発表の「民主党・沖縄ビジョン(2008)」を見て見る。
〈3) 普天間米軍基地返還アクション・プログラムの策定
普天間基地の辺野古移設は、環境影響評価が始まったものの、こう着状態にある。米軍再編を契機として、普天間基地の移転についても、県外移転の道を引き続き模索すべきである。言うまでもなく、戦略環境の変化を踏まえて、国外移転を目指す。
普天間基地は、2004年8月の米海兵隊ヘリコプター墜落事故から4 年を経た今日でも、F18戦闘機の度重なる飛来や深夜まで続くヘリの住宅上空での旋回飛行訓練が行われている。また、米国本土の飛行場運用基準(AICUZ)においてクリアゾーン(利用禁止区域)とされている位置に小学校・児童センター・ガソリンスタンド・住宅地が位置しており、人身事故の危険と背中合わせの状態が続いている。
現状の具体的な危険を除去しながら、普天間基地の速やかな閉鎖を実現するため、負担を一つ一つ軽減する努力を継続していくことが重要である。民主党は、2004年9月の「普天間米軍基地の返還問題と在日米軍基地問題に対する考え」において、普天間基地の即時使用停止等を掲げた「普天間米軍基地返還アクション・プログラム」策定を提唱した。地元の住民・自治体の意思を十分に尊重し、過重な基地負担を軽減するため、徹底的な話合いを尽くしていく。〉・・・・・
2002年発表と何ら変わっていない。強い思いで、このように決めたということであり、その思いを維持してきたことを表しているはずだ。
そして2009年8月30日投開票の総選挙に向けた選挙運動で鳩山代表以下、民主党は普天間の「国外、最低でも県外」を掲げて戦い、民意を受けて政権交代を果たして、鳩山首相は普天間「国外、最低でも県外」移設の公約の実現に向けて行動を開始した。
要するに普天間移設問題では鳩山首相のみならず、鳩山首相の次の菅首相も、その次の野田首相にしても、「国外、最低でも県外」移設こそが自らの指導力発揮の方向としなければならなかった。
特に菅首相は野党時代、しかも場所は沖縄で、「沖縄に米海兵隊は要らない。米本土に帰ってもらう」と演説しているのだから、沖縄米海兵隊米本土帰国を自らの指導力発揮の方向性としなければならない発言の責任を負っていたはずだ。
だが、鳩山首相は指導力発揮叶わず、退陣に追い込まれ、日米関係のギクシャクというおまけまでつけた。
そして次の菅首相は自らが負うべき指導力発揮の方向性を違えて、日米合意を踏襲するとして辺野古移設を目指す誤った指導力発揮の方向を目指し、誤っていながらも辺野古移設を実現できないままに退陣に追い込まれた。
「過去の発言について、色々言うことは控えたいと思いますが」とか、「国際状況の変化を併せて考える中で、内閣総理大臣として就任し、任を持った立場での状況を考えた中で、在日米軍の抑止力は安全保障の観点から極めて重要だ」とか言って言い逃れに終始した。
確かに「民主党・沖縄ビジョン(2008)」には「戦略環境の変化を踏まえて、国外移転を目指す」と書いてある。「戦略環境の変化」が悪化したゆえに国外移転は無理になったということは許されるかもしれないが、「普天間基地の移転についても、県外移転の道を引き続き模索すべきである」と宣言している県外を実現させる責任は免除されるわけのものではないはずだ。
指導力発揮の方向性を誤っていることに気づきさえしなかったのだから、その指導力たるや最初から見せかけ以外の何ものでもなかった。
だから、退陣するまで、東日本大震災の危機対応に関しても福島原発の危機対応に関しても、その他政策の全般に亘ってその指導力欠如を問われ、内閣支持率が終始低迷することとなった。まさしく一事が万事であった。
そして野田首相。与党民主党の一代表として、総理大臣として普天間「国外、最低でも県外」移設の指導力発揮の方向性を目指すべき責任を負いながら、その責任をケロッと裏切って、県内辺野古移設日米合意を錦の御旗に掲げ、それさえも実現できずににっちもさっちもいかない状況で立ち往生している。
普天間問題を切り離した他施設の返還等はその場を凌ぐだけのゴマカシに過ぎない。
当然、鳩山首相や菅首相同様、消費税増税でも、社会保障改革でも、他のどのような政策に関して指導力発揮は期待不可能であろう。
その証拠を訪米した野田首相の発言から提示してみる。
4月29日午後(日本時間30日午前)、ワシントンの駐米大使公邸で東日本大震災の被災地救援に当たった米関係者ら約100人を招いてレセプションを開催した。《日米の“絆”を強調 野田総理が初の公式訪米》(テレビ朝日/2012/04/30 11:50)
野田首相「国と国との関係は、ガーデニングに例えられることがあります。私としても日米関係がより美しい花を咲かせるために、先頭に立って土作りや水やりに努力していくことを誓い、感謝の言葉とさせて頂きます」
いくら被災地救援に当たった米関係者の前での発言であっても、あまりにも善意一方の言葉で、果たして一国の首相にふさわしい喩えだろうか。
例えばアメリカ原子力規制委員会(NRC)は福島原発事故直後から日本への全面的な支援を打ち出した。だが、日本側から断られた事実は「美しい花」ばかりの関係ではなかったことを証明しているばかりか、この美しくない事実を隠す役目を果たす野田首相の善意一方の発言ともなり得る。
マグウッドNRC委員「事故発生直後はあらゆる手段を使って日本から情報を入手しようとしましたが、正直ニュースで報道された以上のものはありませんでした」
3月12日アメリカ・NRCからの支援の申し出に対して原子力安全を所管する独立行政法人幹部の返信メール。
日本側返信メール「私たちは事故の状況をよく理解しています。支援はありがたいですが、既に十分な業者を国内で確保しています」
マグウッドNRC委員「緊急時の協力体制が整備されていなかったので、情報の入手や支援を展開する方法がなかった。もし私たちの経験や専門機器を提供できていたら、事故後数日間に何らかの違いがあったのではないかと悔やまれる」(以上NHKクズアップ現代)
日米が確固不動とした軍事同盟国同士であっても、すべての利害が一致するわけではなく、美しいばかりの関係ではない。なぜなら、友好な関係を目指し、そのためにそこに妥協を必要としたとしても、基本姿勢として常に自国国益追求を至上主義としなければならないからだ。
このことはもし日本がTPP参加を決定したなら、否でも悟ることになる二国関係であろう。交渉の項目によっては食うか食われるかの熾烈な闘いも否定できない。
「美しい花を咲かせる」ばかりではない、その逆の場合もあり得る国益と国益を激しくぶつけ合わなければならない二国関係を美しいばかりの「ガーデニング」に譬える。
友好は友好、国益は国益と厳しく使い分ける現実政治の冷徹さに立ったバランスある指導力をとてものこと感じさせない発言内容としか言いようがない。
一国の首相として基本のところでは常に厳しい姿勢を保持していなければならないはずだが、砂糖より甘い認識を曝してご満悦である。
日米首脳の記者会見を今朝のNHKテレビが流していた。
オバマ大統領「野田首相は自らをバスケのポイントガードのポジションに例え、目立つプレイヤーではないが、集中してやるべきことはやる人だと言った」
野田首相はオバマ大統領に対して自己紹介にかこつけて、自分は指導力のある指導者だと宣言したのである。鳩山元首相がオバマ大統領に対して言った「トラス・トミー」と本質的には同意義だが、野田首相の方がより直裁的な指導力所有宣言となっている。
対してオバマ大統領は記者会見の場で出席者全員ばかりかテレビを通して全世界の人間に野田首相のこの発言を紹介することで、発言通りに守らすべく、あるいは守らなければいけないようにすべく、約束の手枷・足枷をはめたといったところだろう。
「集中してやるべきことはやる人」なら、見事やって欲しいと。
だが、鳩山首相の「トラス・トミー」と同様の運命に陥るのは目に見えている。いくら感謝の気持を伝えるためであっても、二国関係を「ガーデニング」に譬えるような甘ちゃんである。
普天間「国外、最低でも県外」移設の指導力発揮の方向性を間違えているのも気づかない指導力オンチである。
このことは美しい言葉を散りばめた譬えが得意なことも証明する指導力不足であろう。真に指導力ある指導者は美しい言葉づくりにエネルギーを注がない。簡潔な言葉の発信と忠実な実行力――有言実行あるのみである。
野田首相はその逆を行っている。