特定秘密保護法案には「北朝鮮による核・ミサイル・拉致問題に関するやり取り」も秘密事項に指定されている。なぜ秘密なのか、その理由は説明されていない。
北朝鮮の核実験とミサイル発射の動きはアメリカの衛星が捕捉して日本政府等にも伝えると同時に日本のマスコミも報道しているから、日本政府が米国防省のマスコミ公表に合わせた共同歩調でもあるはずだ。
米国防省がマスコミに秘密にしていた場合、日本政府だけがマスコミに公表することはあり得ないからだ。
勿論、北朝鮮が核やミサイル廃棄の姿勢を取るようになり、その交渉に向けたテーブルでのそれらが合意するまでの遣り取りは秘密にしなければならない場合もあるだろうが、それは合意するまでの秘密であって、わざわざ秘密指定することはないはずだ。
シリアの今回の化学兵器廃棄の欧米との交渉の遣り取りは逐次マスコミによって公表されている。
いわば秘密にするかしないかは交渉の過程で生じる必要性に応じて措置すれば済むことであって、それを最初から全てに網にかけて秘密にすることは国民の知る権利の侵害に当たるはずだ。
国民の知る権利とは権力を監視する権利でもあるはずである。権力の動きを知ることができなければ、国民の権力監視は機能しない。
このようなことは拉致についても言うことができる。右翼の軍国主義者安倍晋三の第2次内閣が始まって最初の北朝鮮に対する本格的な拉致外交は今年2013年5月14日から5月18日午後帰国までの飯島勲内閣官房参与の、日本のマスコミに知られることとなった秘密訪問である。
安倍政権はこの訪朝の成果に関して何ら国民に説明していない。
その理由が飯島勲の拉致解決に向けたテーブルでの北朝鮮当局との遣り取りを相手との関係から秘密にしなければならない必要不可欠な措置であるなら、そうであることの説明を国民に対して行う責任があるはずだが、その責任すら果たしていない。
と同時に秘密にする以上、その場合の拉致交渉は交渉自体が途絶えたのではなく、先ずは進行形でなければならないことになる。なぜなら秘密にする以上、引き続いた交渉による最終的合意によって秘密を解消し、公表する責任を負うからだ。
勿論、交渉自体が途絶えた場合であっても、以後の改めての交渉のために秘密にしなければならない遣り取りも生じる。但しその場合でも、そうであることの説明を国民に対して行わなければならないはずだ。そして改めての交渉の段取りを早急に付ける責任を政府は負うことになる。
そういった説明もない。飯島訪朝後、飯島自身がテレビで日朝関係は「参院選までには動く」と言いながら、参院選から4カ月経過しても今以て何の動きもなく、政府はモンゴル大統領やベトナム首相に拉致解決に向けた強力を要請するにとどまっている。
このような外国首脳に対する引き続いての協力要請は飯島訪朝が交渉の継続性を持っていないことの証明であり、そうである以上、当然、何の成果もなかったことの証明以外の何ものでもないはずだ。
改めて断るまでもなく、飯島訪朝が交渉の継続性を持っていたなら、継続性が生きている間は外国首脳に協力要請をする必要は生じない。
だとすると、国民に対して何の説明もない秘密措置は、例え北朝鮮当局との交渉上の遣り取りの必要とされる秘密措置を含んでいたとしても、飯島訪朝の失敗をも隠す秘密措置と見なければならない。
そもそも飯島訪朝は安倍晋三の取って置きの拉致解決の方法論の具体化に向けた一つであったはずだ。もう何度もブログに利用しているが、安倍晋三は次のように発言している。
2012年8月30日、フジテレビ「知りたがり」
安倍晋三「金正恩氏はですね、金正日と何が違うか。それは5人生存、8人死亡と、こういう判断ですね、こういう判断をしたのは金正日ですが、金正恩氏の判断ではないですね。
あれは間違いです、ウソをついていましたと言っても、その判断をしたのは本人ではない。あるいは拉致作戦には金正恩氏は関わっていませんでした。
しかしそうは言っても、お父さんがやっていたことを否定しなければいけない。普通であればですね、(日朝が)普通に対話していたって、これは(父親の拉致犯罪を)否定しない。
ですから、今の現状を守ることはできません。こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ。
そこで思い切って大きな決断をしようという方向に促していく必要がありますね。そのためにはやっぱり圧力しかないんですね」――
2012年9月17日付け産経新聞インタビュー。
安倍晋三「金総書記は『5人生存』とともに『8人死亡』という判断も同時にした。この決定を覆すには相当の決断が必要となる。日本側の要求を受け入れなければ、やっていけないとの判断をするように持っていかなければいけない。だから、圧力以外にとる道はない。
金正恩第1書記はこの問題に関わっていない。そこは前政権とは違う。自分の父親がやったことを覆さないとならないので、簡単ではないが、現状維持はできないというメッセージを発し圧力をかけ、彼に思い切った判断をさせることだ。
つまり、北朝鮮を崩壊に導くリーダーになるのか。それとも北朝鮮を救う偉大な指導者になるのか。彼に迫っていくことが求められている。前政権よりハードルは低くなっている。チャンスが回ってくる可能性はあると思っている」――
そして機会ある毎にほぼ似たことをバカの一つ覚えのように発言している。
当然、一国の首相として国民に説明した拉致解決方法論の成果が問われていることになり、北朝鮮当局との拉致交渉に於ける必要とされた秘密措置は別にして、飯島訪朝に於ける自らの拉致解決方法論の成果如何を説明しなければならないはずだ。
もしそれをも秘密措置としていなら、いわば北朝鮮当局との遣り取りの秘密に含めた秘密としていたなら、拉致解決方法論が役立たなかったことを隠蔽していることになる。
要するに特定秘密保護法案は国家安全保障上必要不可欠な秘密指定だけにとどまらず、国家安全保障上という口実のもと、政府の無策・失政も秘密指定に含めて隠蔽可能とすることができるということである。
そのような恣意的な秘密指定=隠蔽は国民に対する説明責任を欠くことになって、国民の知る権利を反故にする。