――安倍晋三の風船製の地球儀を抱えたカンボジア・ラオス訪問は両国を二人の男にプレゼントを競わせる美人に似た立場に立たせる――
その地球儀たるや、風船でできているゆえに軽っぽさの象徴となっているに違いない。
右翼の軍国主義者安倍晋三が11月16日からカンボジア・ラオスを訪問、11月17日午後10時前帰国した。この2カ国訪問で就任1年足らずの間に東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の全てに足を運んだことになるそうだ。
足を運ぶことはその気にさえなれば、誰にもできる。数が多ければいいという問題ではない。最重要事項は訪問の中身、実質的な成果である。その実質的な成果をマスコミは政府関係者の発言に替えて伝えている。
〈今回首相が訪れた両国は中国との関係が強く、首相のASEAN各国訪問の最後に残った。中国が警戒する積極的平和主義に対して両国の支持が得られたのは「期待以上の成果」(政府関係者)だったといえる。〉(MSN産経)
〈首相が今回、両国首脳とまとめた共同声明には、中国が策定に消極的な「行動規範」について、早期締結を目指すことが明記された。カンボジアはASEAN関連会議の場で南シナ海問題を取り上げることに反対してきただけに、首相同行筋は「今回の外遊の最大の成果」と評価する。〉(YOMIURI ONLINE)
だが、様子の異なる報道もある。〈首脳会談では安倍首相が「実効性ある行動規範が早期に作成されることを期待する」と水を向けたのに対し、フン・セン首相から具体的な言及はなかった。ラオスとの合意文書もぎりぎりまで調整に手間取った。〉(時事ドットコム)
だとしても、成果を確信していることは間違いない。成果への強い願望が実際には成果ではなくても、時には成果の確信へと高めてしまうこともある。
勿論、安倍晋三自身、最大限にその成果を誇っていたはずだ。11月17日、帰国前にラオス首都ビエンチャンで行った内外記者会見の次の発言が自身でも如何に成果を誇っているか如実に示している。
安倍晋三「私は首相に就任以来、地球儀を俯瞰する戦略的な外交を進めてきた」――
成果を誇らずして、このような自信ある言葉は出てこない。いわば成果が保証する自信である。
マスコミは今回の訪問を「中国に対抗」とか、「中国の影響切り崩し」と、その狙いを伝えていたが、個別的成果とは別に全体的成果の着地点をそこに置いているということなのだろう。
このことは次のマスコミ報道が証明してくれる。
〈親中国で知られるカンボジア、ラオス歴訪には政府内に慎重論もあったが、首相は「このままでは両国とも完全に中国側に行ってしまう」と押し切った。〉(YOMIURI ONLINE)
要するに「私は首相に就任以来、地球儀を俯瞰する戦略的な外交を進めてきた」という自信は、今回の訪問が十分に「中国に対抗」し得た、あるいは「中国の影響切り崩し」に一定の成果を見た自信に裏打ちされた自身の外交姿勢に対する自信であるはずである。
この自信が安倍晋三自身の評価通りのものであったとしても、中国がカンボジアとラオスを土俵とした日本の中国対抗、あるいは中国の影響切り崩しを指を加えて眺めているだろうか。
外務省HPの《安倍総理大臣のカンボジア及びラオス公式訪問(主な成果)》(2013年11月17日)の両国共同声明によると、日本はカンボジアと日本が長年実施してきた経済・社会インフラ、農業、教育、人材育成、保健、女性、ガバナンス等の分野に於ける政府開発援助の継続的支援と日本の先進的な医療技術・制度を活かしたカンボジア保健医療向上に向けた協力強化で一致している。
ラオスに対しても似たようなもので、農業、教育、人材育成、保健、女性等の取組に対する引き続きの支援と、ビエンチャン国際空港ターミナル拡張計画及び第9次貧困削減支援オペレーション(PRSO)への支援表明、運輸・交通インフラ整備支援の着実な実施を重要だとする認識の一致を行っている。
カンボジアにしても、ラオスにしても、発展途上国という性格から、何も断る理由はない日本の経済的支援であり、日本の経済的援助であろう。大体が発展途上国は各先進国の支援・援助をイイトコ取りの形で受け入れて自国の発展を図る図式にある。
だとしても、中国にしたら両国に対して中国の影響力を維持し、引きつけておくために日本に対抗した支援・援助に改めて乗り出すだろうから、乗り出した場合、発展途上国のイイトコ取りの性格上、カンボジアもラオスも中国の支援・援助にしても断る理由は何もないはずであり、複数の国からのイイトコ取りであることによって援助する側のそれぞれの経済支援・経済援助の価値はそれぞれに相対化されて甲乙つけ難く重要であり、支援・援助する各先進国国とも打ち出の小槌とされるような有り難い存在と化しかねない。
いわばカンボジアもラオスも否応もなしに二人の男にプレゼントを競わせる美人に似た位置に立たされることになるし、自らも立つことになる。
問題はカンボジア・ラオスの経済的なイイトコ取りの立場はイイトコ取りの性格上、援助国との経済的一体性の固定化は期待不可だが、政治的立場の一体性への固定化に対する期待可能性はどうかである。
期待可能となったとき、日本の政府関係者の成果は実質性を持ち得ることになる。
日本の政府関係者が成果としているとマスコミが伝えている安倍晋三唱導の「積極的平和主義」と中国がフィリッピンやベトナム等と争っている南シナ海の領有権問題の平和的な解決へ向けた法的拘束力がある「行動規範」の策定問題に対する両国の態度を外務省の上記共同声明から見てみる。
カンボジアとの「積極的平和主義」
〈(1)政治・安全保障
安倍総理大臣は,カンボジア和平プロセスにおける主導的役割を含めた地域の平和と安定に対する日本のこれまでの貢献を踏まえつつ、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、地域及び国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献していくとの日本の安全保障政策について説明した。フン・セン首相は日本の平和国家としての歩みを高く評価し、日本の一層の貢献を支持した。〉――
右翼の軍国主義者安倍晋三と「積極的平和主義」は逆説的で俄に信じがたいが、「積極的平和主義」の外交の推進を訴えたのに対してカンボジアの〈フン・セン首相は日本の平和国家としての歩みを高く評価し、日本の一層の貢献を支持した。〉としているのみで、「積極的平和主義」の外交理念そのものを支持したわけではない。
「積極的平和主義」は中国の外交に対するアンチテーゼとして打ち出された外交理念だから、カンボジアが支持した場合、中国外交に対する否定、とまでいかなくても、日本寄りの外交姿勢(日本寄りの政治的立場の一体性)を示すことになる。
「積極的平和主義」の外交理念を明確に支持しなかったということは、中国の反発を買わない範囲内の日本政府の主張に対する同調に過ぎないということであるはずだ。
このことは「行動規範」問題にも現れている。
〈(5)地域・国際社会における協力
――(中略)――
海洋を巡る問題については、両国首脳は、アジア太平洋地域における「法の支配」の原則を確立するために、1982年の国連海洋法条約を含む国際法の普遍的な原則に従って平和的に解決することの重要性を強調し、南シナ海における効果的な紛争解決に資する実効的な行動規範(COC)の早期締結に期待を表明した。〉――
早期締結を目指して共同歩調を取るとか、協力していくとかではなく、あるいはカンボジア自身が早期締結に向けて行動すると表明しているわけではなく、両国首脳は〈早期締結に期待を表明した。〉に過ぎない。
要するに安倍晋三にしたら、早期締結に同調した行動を取って欲しかったはずだが、同調しなかったから、早期締結への期待表明に後退させたということだろう。
このことはカンボジアが政治的立場の一体性をどの国により置いているかを示している。
カンボジアよりも中国の影響が大きいラオスに至っては更に後退した表現となっている。
〈1.政治・安全保障
安倍総理大臣は,地域の平和と安定に対する日本のこれまでの貢献を踏まえつつ、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、地域及び国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献していくとの日本の安全保障政策について説明した。トンシン首相は説明に留意し、日本の平和国家としての歩みを評価し、日本の一層の貢献を支持した。〉云々――
安倍晋三の説明に対して〈トンシン首相は説明に留意し〉たのみで、賛意も何も示さず、後は外交辞令で済ませている。
「行動規範」についてもラオスはカンボジアと全く同じで、〈早期締結に期待を表明〉しているに過ぎない。
首相同行筋が最大の成果としたとマスコミが伝えている「行動規範」の早期締結への目標明記といった、政治的立場の一体性を日本に置くようなことはどこにも書いてない。中国から少しもで日本に政治的立ち位置をシフトさせることができたとき初めて、「中国に対抗」、あるいは「中国の影響切り崩し」と言うことができる。
できたとは言えないのだから、安倍風船地球儀俯瞰外交の買い被りも甚だしい。
いくら安倍晋三が「私は首相に就任以来、地球儀を俯瞰する戦略的な外交を進めてきた」とカンボジア・ラオス訪問の成果を誇ろうとも、カンボジア・ラオスの中国との政治的立場の一体性に何らかの影響を与えて、日本との一体性を必要とさせない以上、経済的支援・援助はカンボジアの国力向上・民生向上には役立つだろうが、政治的には一人の美人に他の男と張り合ってプレゼントを贈るのに似たバラ撒き程度の効果した期待できないはずだ。
当然、訪問の外交成果を誇るのは合理的判断を欠いた見せかけの自己評価としか言いようがない。