記者の質問のたびに答える内容が猫の目のようにくるくる変わる猪瀬都知事の記者会見であった。借用証をこの通り存在すると見せたが、ニセモノの借用書だから、答える内容を変えなければならなかった。もし、この借用証に徳田氏側から異議申立てがなかったとしたら、前以て話をつけておいたからなのは断言できる。
事実真正の借用書なら、こうまでも答える内容がくるくると変わることはない。一言で言うと、ウソつき猪瀬都知事ということになる。
先ず最初に猪瀬都知事が徳洲会グループのボス徳田虎雄前理事長との面会から昨日11月25日の借用書の所在確認までの経緯を時系列で記載してみる。
2012年11月6日 神奈川県鎌倉市の病院で医療法人徳洲会グループ徳田虎雄前理事長と面会
2012年11月14日 東京都内の和食店で、前理事長の次男の徳田衆院議員と仲介人(政治団体「一水会」の木村
三浩代表)の3人で会食
2012年11月19日 徳田議員から電話で議員会館に足を運ぶよう求められた。
2012年11月20日 1人で議員会館を訪れて5000万円を受け取り、徳田氏が用意した借用書に署名を求めら
れ、借用証を書く
2013年1月下旬頃 徳田毅議員に返却の連絡を入れる
2013年2月3日 2月4日に行うことになっていた借入金返却の打ち合わせが徳田氏側の不都合で急遽キャンセ
ル
以後公務と妻の介護に忙殺される。
2013年8月23日 借入金返却のため妻名義の貸金庫から保管していた現金を取り出す手続きを確認
2013年9月26日 徳田氏と連絡を取り、この日を返却の日と決める
鈴木特別秘書が都内のホテルで徳田毅氏代理人である徳田秀子氏に面会、借入金を全額返却
後日、借用証は徳田毅氏事務所から都知事の事務所に郵送される
2013年11月25日朝 借用書が猪瀬氏の貸し金庫にあることを確認(以上)
記者会見での猪瀬都知事の冒頭発言は東京都のHPにも記載されているが、次の記事を参考にした。《猪瀬直樹知事、5000万円の「借用書」問題で緊急会見【発言全文】》(The Huffington Post/2013年11月26日 19時41分)
記者との質疑は東京都のHP――《知事の部屋/記者会見》(平成25年11月26日)を参考にした。
必要な個所のみを取り上げて、その都度矛盾やウソを突いていくことにする。先ずは冒頭発言から。
猪瀬都知事11月19日に、徳田毅議員から電話にて、議員会館においでいただきたいとの話がありました。翌11月20日、衆議院第一議員会館の徳田毅事務所を訪問し、徳田毅氏と面会したところ、徳田毅氏から5000万円をお貸しすると話され、徳田氏が用意した借用書に署名を求められました。これ、借用書であります。
受け取った金銭は、自宅に持ち帰り、使う予定もないので、妻の貸し金庫に預けることにしました。今年1月下旬ごろ、お借りしたお金を返す旨を徳田毅氏に連絡し、2月4日に借入金の返却の方法を打ち合わせすることになりましたが、前日の2月3日に徳田氏側から都合が悪くなったとの連絡が入り、打ち合わせは急遽キャンセルになりました」――
11月19日の徳田毅議員から電話では5000万円の話は出ず、翌11月20日に議員会館で徳田毅議員に会って初めて5000万円の話が出たことになる。
そして徳田毅議員が用意してきた借用書にサインした。但し5000万円は「使う予定もないので、妻の貸し金庫に預けることにし」た。
「使う予定もない」のになぜ借りたのかは後の発言によって分かる。
猪瀬都知事「選挙にお金がかかるという話題が出ましたときに、僕自身は3000万ぐらいで選挙をやるつもりですというふうな話をしました。で、実際に今回の選挙でかかった費用は3000万円でした。あと、確認団体分入れて3700万円でした。ただ、そのときには、その後の生活とか、その先のことが全く見えなかったので、お金をお借りするという、個人的にお金をお借りするという気持ちになっていました」――
要するに選挙資金としては使う予定はなかったが、都知事選に落選した場合にだろう、「その後の生活とか、その先のことが全く見えなかったので」、将来的生活資金を予定して、そのことに備えて借りることにしたということになって、「使う予定もない」は整合性ある発言となる。
但し、「使う予定もないので」が選挙資金としてのことであるなら、政治資金としての使途目的を持たせた両者間のカネの遣り取りということになる。
例えば親元を離れて東京の大学に通学し、マンションに下宿している息子が次の月の部屋代を払済みだが、理由をつけて他のことに使ってしまったと親にウソをついて余分に1カ月のマンショ部屋代をせしめ、遊興費に使ったとしても、親と息子の間のカネの遣り取りで交わされた使途目的はあくまでも部屋代であって、遊興費とすることはできないのと同じである。
要するに猪瀬都知事がいくら個人的使い途で5000万円を受け取ったと抗弁しようとも、徳田毅議員は5000万円を政治資金として提供し、猪瀬都知事は政治資金と分かって受け取ったが、後の方の記者との質疑で、「私の貯金で選挙をやりますということで、選挙の責任者には伝えておきました」と言っているように選挙は貯金してあった自己資金「3000万ぐらいで」で済ますつもりでいたから、選挙資金としては「使う予定もな」かったが、将来に備えて個人的に借用したという経緯を取るということになる。
以上のことを言い換えるなら、猪瀬都知事が「個人の借金」としていることはそのことを相手に伝えていない以上、あるいは相手に伝えて了承を取っていない以上、猪瀬都知事自身の個人的事情に過ぎないことになる。
了承を取って初めて、徳田毅議員も使途を猪瀬都知事の「個人的借金」として貸すことになる。そうでないのだから、政治資金としての性格を抹消させることはできない。
猪瀬都知事「借入金返却のため、妻名義の貸し金庫から保管していた現金を取り出す手続きが8月23日に確認できたため、返還する準備を進めました。ブエノスアイレスから帰国後、徳田毅氏に連絡をとり、借入金の返却日時を9月26日とすることとし、その日、特別秘書の鈴木が都内のホテルで徳田毅氏の代理人である徳田秀子氏に面会し、借入金を全額返却いたしました。
お借りしたときに作成した借用証は、徳田毅氏事務所から、後日、人を介して私の事務所に郵送されてきました。
経緯は以上であります」――
先ず徳田毅議員に連絡を取って返済を申し出たところ、徳田毅議員の代理人である徳田秀子(虎雄前理事長の妻で徳田毅議員の母)が来たので、鈴木秘書が5000万円を全額返却した。
借用証に関しては「お借りしたときに作成した借用証は、徳田毅氏事務所から、後日、人を介して私の事務所に郵送されてき」た。この「人を介して」の意味が分からないが、後で記者の質問を受けて訂正している。
兎に角借用証は全額返還と同時に受け取らなかった。「後日」郵送されてきた。「後日」がどのくらいの時間差か、後のほうで徳田氏自身が応えている。
猪瀬都知事「えーと、9月26日ぐらいのところのあたりで戻ってきてるということになりますが、はい。」
はっきりした日付は分からないことになる。「9月26日」は5000万円を返却した日だから、「後日」ということにはならない。だから「ぐらい」としたのだろうが、正当性を証明する話す事実の全てが曖昧な表現となっている。当然、現実にあった事実と受け取ることができないことになる。
猪瀬都知事「お金を返しに行きましたら、その場に借用書がなかったので、それで、後で徳田毅さんの事務所のほうから送ってもらうようにということで返していただいたわけですね」
記者「じゃ、事務所から知事のほうに郵送で来たということですか」
猪瀬都知事「そうです。はい」――
と言うことは、徳田毅議員は返却の連絡を猪瀬都知事から前以て受けていながら、常識的には考えられないことだが、借用証を代理人である徳田秀子氏に持たせなかったことになる。
この常識では考えられないことを記者は追及せずじまいにしてしまった。
徳田秀子氏は徳田毅議員が指示した代理人である以上、徳田秀子氏に借用証を持たせるはずである。借用証は手許に残してカネだけ受け取ったことになる。
説明に矛盾があるとしか解釈できない。
「徳田毅氏に連絡をとり」、「徳田毅氏の代理人である徳田秀子氏に面会し」たという発言も、あとで飛び出すことになる発言と矛盾する。
猪瀬都知事「お返ししたのは、えーと、徳田秀子さんにお返しして、毅さんのほうのご連絡いろいろと、うちの特別秘書のほうでいろいろあちこちご連絡したときに、徳田秀子さんが連絡先になりましたので、そこにお返ししておいたということになります」――
ここでは徳田秀子氏は徳田毅議員の代理人としてではなく、徳田毅議員に連絡がつかず、「徳田秀子さんが連絡先」となったために徳田毅議員の代理として徳田秀子氏に返却したということになる。
いわば最初から徳田毅議員から代理人に指定されていたわけではないことになる。
天下の都知事でありながら、また高名な文筆家でありながら、なぜこうも発言が二転三転するのだろうか。
但しこの場合、借用証は持っていなかった可能性に正当性は生じる。上記発言に続いての記者との質疑で持っていなかったことを改めて証明する。
記者「すいません、秀子さんのほうはですね、『借用書を見たことがない』とおっしゃっているそうですが、そのあたり……」
猪瀬都知事「あっ、だから、秀子さんとこになかったんです。なかったので、借用書を毅さんの事務所のほうから、もうお返ししましたのでということで、送ってくださいということだったんです」
記者「秀子さん自身は、ご自身はそのとき借用書の存在を知らなかったということですか」
猪瀬都知事「はい。それ知らないと思います。なぜかというと、毅議員と僕の間で借用書を書いてますので、その秀子さんは知らないと思います、借用書の存在とか、そういうものについて。はい」――
猪瀬都知事は徳田秀子が借用証を知らなかったとすることに成功したが、「あっ、だから、秀子さんとこになかったんです。なかったので、借用書を毅さんの事務所のほうから、もうお返ししましたのでということで、送ってくださいということだったんです」と言っている意味は、徳田秀子が「借用書を毅さんの事務所のほうから、もうお返ししましたので」と言ったことになり、鈴木秘書が「(じゃあ)送ってください」と応じたことになる。
だとすると、関係者の話として徳田秀子が「借用書は見たこともない」と発言したとしていることと矛盾するし、猪瀬都知事自身が「はい。それ知らないと思います。なぜかというと、毅議員と僕の間で借用書を書いてますので、その秀子さんは知らないと思います、借用書の存在とか、そういうものについて。はい」と言っていることとも明らかに矛盾する。
ここにウソがなければ、このような矛盾は発生しない。発言のウソは借用証存在自体のウソに限りなく重なる。
当然、借用証が「えーと、9月26日ぐらいのところのあたりで戻ってきてるということになりますが」もウソということになる。
もしこの「借用書を毅さんの事務所のほうから、もうお返ししましたのでということで、送ってくださいということだったんです」が鈴木秘書から5000万円返却後に猪瀬都知事が返却の報告を受けたとき、相手はこう言っていましたので、私はこう答えておきましたという遣り取りの報告だとしたら、借用証は存在することになるが、11月22日午後の記者会見で借用証の存在を知らないとか、「いらなくなったらいらないということで破棄してしまうということもありますので」とか、存在抹殺のための奥の手を使う必要は生じなかったことになる。
借用証存在証明のための猪瀬都知事の創作としか受け取ることはできない。
借用証は亡くなった妻の名義の貸し金庫は使えなくなったので、自分名義に変更した貸し金庫に事務所の職員に指示して保管させた。
順を追わずに肝心なところだけを拾い上げる。
猪瀬都知事「きのうの朝、貸し金庫にあることが確認されたので、それで公開することにしました。つまり、どこにあるかちょっと自信がなかったものですから、書類の山だったものですから、それで確認ができたので、今こうやってお見せしているわけです」――
いくつかの質疑の後の遣り取りで矛盾が生じてきて怪しくなる。
臼井東京新聞記者「その借用書は最近つくったもの、借用書というのは公正証書と違って、立会人、公証人もいませんし、いくらでもつくれるものだと思います。そう思っている人が多いかと思います。貸し金庫にお入れになったとおっしゃってます、スタッフの方が。その報告、お受けになっていなかったんですか、そんな大事なものなのに」
猪瀬都知事「いやいや、それは誤解なので、これは間違いなく原本です。原本です」
臼井東京新聞記者「貸し金庫に入れるように指示されたんですか」
猪瀬都知事「いや、それは、だから、大事なものは貸し金庫に入れるということでありまして……」
臼井東京新聞記者「スタッフの方が借用書をお受け取りになって、そして、貸し金庫にお入れになったとおっしゃいました。その報告をお受けになってなかったんですか、26日の後の時点で」
猪瀬都知事「お金を返したら借用書が戻ってくるのは当然のことだと思っていました」
臼井東京新聞記者「もう一遍お伺いしますけど、貸し金庫にお入れになる、そのときに、借用書が自分の手元に、事務所側に戻ってきたことをスタッフの方に確認されなかったんですか」
猪瀬都知事「いや、だから確認してますよ。だから、僕が見てなかったと言ってるだけであって、普通に返済されたら借用書は戻ってきますので、それで、お金を返したということで、それでもう僕としては、片づいたなと思っております。で、この借用書については、徳田毅さんにも見ていただければ、これが本物だということは確認していただけます。はい」
臼井東京新聞記者「もう一遍お伺いしますけど、じゃあ、26日、借用書が返ったときで、ご報告お受けになっていたんですか」
猪瀬都知事「えっとね……」
臼井東京新聞記者「だから、貸し金庫に保管されるように指示なさったんですか」
猪瀬都知事「それは事務的なものですから……」
臼井東京新聞記者「でも、大事なものですよね、知事にとっては」
猪瀬都知事「これ、返ってきたっていうことは、もう当然のことで、当たり前だと思ってますから。ええ。当然、返ってくるのは。お金返したら借用書が戻ってくるというのは当然のことだと思っています。で、それは、鈴木特別秘書から、借用書は戻ってますよという報告は受けてるが、どこにどうしまったのかについて知らなかったということであります」――
借用証は郵送されてきた。当然、剥き出しの状態では郵送できない。当たり前のことだが、封書で送られてきた。差出人が徳田毅自民党議員となっていたとしても、猪瀬都知事が前以て徳田議員からの郵送があったならと指示を出しておくか、差出人が徳田毅議員となっている封書が届いたという報告がなければ、それが大事なものかは事務所のスタッフは判断できないことになる。
ところが記者の「報告をお受けになってなかったんですか、26日の後の時点で」との質問に明確に答えることができず、「大事なものは貸し金庫に入れるということでありまして……」と、そういう習慣になっていることを言っているが、いくら習慣だろうと、中身を知らないまま、あるいは中身を知らされないまま大事なものとして扱う矛盾が生じる。
デタラメを言っているしか思えない。
しかも、「大事なものは貸し金庫に入れるということでありまして……」と言いながら、その舌の根が乾いているはずもないうちに、「鈴木特別秘書から、借用書は戻ってますよという報告は受けてるが、どこにどうしまったのかについて知らなかったということであります」と、大事なものは貸し金庫保管の習慣に矛盾することを平気で言っている。
これで借用証所在に決着をつけたつもりでいるだろうが、散々な矛盾した発言の展開は決着がつないまま残ることになる。
借用証のウソから発しなければ、こうまでも矛盾した発言を1億もカネをかけた結婚式並みに派手に披露することはできない。
もしこれで決着がつくとしたら、徳洲会グループ側と前以て話をつけておいたからだと、名誉毀損裁判を覚悟して改めて断言しておく。