安倍晋三は衆院選投開票日12月14日夜のNHKのインタビューで答えている。
安倍晋三「先ずは(政府、経済界、労働界でつくる)政労使会議で来年の賃上げに向けて合意を形成していきたい。賃金を上げていくことによって皆さまに景気の回復を実感してもらえる」(時事ドットコム)
衆院選圧勝を受けた自民党総裁としての記者会見の中でも同じことを発言している。《安倍総裁記者会見》(自民党本部/2014年12月15日月曜日・午後2時~)
一部抜粋――
安倍晋三「15年苦しんだデフレからの脱却を確かなものとするため、消費税の引き上げを延期する。同時に景気判断条項を削除し、平成29年4月から消費税を10%へと引き上げる判断が解散のきっかけでした。同時にその大前提として、日本経済を、国民生活をどのようにして豊かにしていくのか、経済政策のかじ取りが今回の選挙に於いて最大の論点・争点になったと言えると思います。そして昨日、『アベノミクスをさらに前進せよ』という声を国民の皆さまからいただくことができました。三本の矢の経済政策をさらに強く大胆に実施してまいります。
明日早速政労使会議を開催し、経済界に対して来年の賃上げに向けた要請を行いたいと考えています。今回の選挙戦では、全国津々浦々をめぐり、物価が上がって大変だという生活者の声や、原材料が上がって困っているという中小・小規模事業者の方々からの声がございました。こうした声に対して、きめ細かく対応することによって個人消費をテコ入れし、地方経済を底上げしていかねばなりません。直ちに行動してまいります。年内に経済対策を取り纏めます。
さらに、来年度予算を編成し、年が明ければ通常国会もあります。農業、医療、エネルギーといった分野で大胆な規制改革を断行し、成長戦略を力強く前に進めてまいります。引き続き経済最優先で取り組み、景気回復の暖かい風を全国津々浦々にお届けしていく決意です」――
今日12月16日の政労使会議で来年の賃上げに向けた要請を行う。上がった賃金で「個人消費をテコ入れし、地方経済を底上げしていく」。そして「年内に経済対策を取り纏め」、そのようにして「景気回復の暖かい風を全国津々浦々にお届けしていく」・・・・
要するにアベノミクスの景気回復の好循環は企業団体に賃上げを要請し、上がった賃金で個人消費を促してモノが売れるようにして、モノが売れた企業から経営を良くしていって、全体的な景気回復につなげていくという方式だけで成り立たせていることになる。
経済対策は年内だろうと、来年だろうと実効性期待不可能を既に証明しているから、アベノミクス景気回復の好循環の要素とはなり得ないからだ。
既にブログに書いたことだが、2012年12月26日に政権を担ってから、2014年4月の消費税5%から8%への増税を視野に入れた、デフレ脱却と実体経済回復に向けた経済対策を打ってきた。
更に消費税増税後は駆け込み需要の反動減を睨んで、それ相応の経済対策を打ち、さらに予定していた2016年10月の10%への消費税増税に向けた経済対策に備えていたはずだ。
《平成25 年度予算案の概要》(国立国会図書館/2013. 3.7.)には次のような記述がある。文飾は当方。
〈「2本目の矢」である財政政策について政府は、1月11日に総事業費20兆円を超える緊急経済対策を閣議決定し、この経済対策を実施するための平成24年度補正予算案を1月15日に閣議決定した(1月31 日国会提出)。そうした中で、平成25 年度予算案は、平成24年度補正予算と一体をなす「15 カ月予算」として編成された。これにより景気の下支えを行い、民間投資・消費の持続的拡大に向けて平成25年6月にも成長戦略(「3本目の矢」)を策定し、実行するとされる。〉――
具体的に見てみる。
12年度補正予算で2.4兆円の公共事業を組み込んだ約10.3兆円の「日本再生に向けた緊急経済対策」に取り組んでいる。
大まかな内訳は次のとおりである。
「復興・防災対策費」約3.8兆円(東日本大震災からの復興加速約1.6兆円+事前防災・減災等約2.2兆円)
「成長による富の創出」約3.1兆(民間投資の喚起による成長力強化約1.8兆円+中小企業・小規模事業者・農林水産業対策約1兆円+日本企業の海外展開支援等約0.1兆円+人材育成・雇用対策約0.3兆円)
「暮らしの安心・地域活性化」約3.1兆円(暮らしの安心約0.8兆円+地域の特色を生かした地域活性化約1兆円+地方の資金調達への配慮と緊急経済対策の迅速な実施約1.4兆円)
要するに「日本再生に向けて」10.3兆円もの経済対策を打った。
そして2013年度本予算。一般会計総額は約92兆6千億円で、経済対策関連約10.3兆円。約5兆2千億円の公共事業費の計上。
12年度補正予算と同様に、「成長による富の創出」だ、「暮らしの安心・地域活性化」だと、名前だけ見ると麗々しい経済対策を並べて、各事業を実施してきた。
さらに13年度補正予算で5.5兆円の経済対策を盛りみ、そのうち1.0兆円を公共事業に回している。
さらにさらに2014年度本予算は一般会計総額95兆8823億円。公共事業費は約6兆円。
この予算でも前予算を引き継いで、「復興・防災対策費」及び「成長による富の創出」や「暮らしの安心・地域活性化」の各事業に予算を配分している。
そして当初予定していた来年10月の消費税率10%引き上げに備えた経済対策として2014年度補正予算を年内に編成する検討を始めたものの、解散で立ち消えとなった。
かくこのように安倍政権発足2012年12月26日からのほぼ2年の間に多額の予算をかけて経済対策を打ってきた。だが、民主党政権を引き継いだ東日本大震災の確かな復興は未だ見えてこないし、「成長による富の創出」も、「暮らしの安心・地域活性化」も、見えてこない。
安倍政権2年間の経済対策の成果が見えてこないことの証明が7月~9月GDP改定値は物価の変動を除いた実質の伸び率が前の3カ月比でマイナス0.5%の2期連続のマイナス、年率換算マイナス1.6%という散々な内容にある。
要するに麗々しく銘打った「日本再生に向けた緊急経済対策」は、安倍晋三は円安と株高を援軍としていながら、経済対策としての実効性を持たせることができなかった。
考えられる理由は二つ。公共事業偏重であることに間違いがあったか、安倍内閣自体に実現能力がなかったかである。
十分に実現能力があれば、政策自体を間違えることはなく、的確な政策を生み出す。的確な政策を生み出してこその実現能力だからである。優秀なアスリートが優れた練習方法を編み出すのと同じである。優れた練習方法が優秀なプレーを生み出す。
政策と実行能力双方に欠陥があると見なければならない。
自らが打った経済対策から成果を何ら上げることができなかったにも関わらず、「この道しかない」と胸を張ってウソぶき、記者会見でも同じフレーズを恥知らずにも繰返している。
安倍政権の2年間で日本経済と国民生活を「どのようにして豊かにしていくのか」取り組んできたにも関わらず、政策と実行能力双方の欠陥とその成果の無効化という前科を正直に自白もせずに、「日本経済を、国民生活をどのようにして豊かにしていくのか、経済政策のかじ取りが今回の選挙に於いて最大の論点・争点になった」と、そのような政策は今後の課題だとばかりに恥ずかしげもなく言う。
「『アベノミクスをさらに前進せよ』という声を国民の皆さまからいただくことができました」と、さも何らかの成果を既に上げているかのように鉄面皮にも言うことができる。
2年間の失敗を隠して、「直ちに行動して」、「年内に経済対策を取り纏めます」と言う。
これまでと同様、所詮、同じ事業項目を並べた経済対策に過ぎないのは目に見えている。そんなものを更に前進させてどうなると言うのだろうか。政策と実行能力双方の欠陥と成果の無効化を繰返すだけのことで、ただ単に自公与党に3分の2を超える議席を与えただけで終わるだろう。
以上のことから読み取ることができる結論は、題名で謳ったように安倍晋三は経団連への賃上げ要請だけでアベノミクスを乗り切ろうとしているということである。
賃上げ要請は国民には分かりやすい。だが、実体経済の底上げ・活発化をせ果たさずに企業も早々に賃上げに応ずることはできるだろうか。2014年春闘のように賃上げが一部の企業にとどまる僅かな金額であったなら、個人消費にさして回らないことになるし、7割を占める中小零細企業の従業者は目に見える賃上げから再び蚊帳の外に置かれないとは限らない。
結果、今年の春闘のように5%から8%消費税増税の3%分と円安を受けた生活物資の高騰分に賃上げ率が追いつかずに個人消費が低迷した同じ情景が繰返さない保証はない。
これが安倍晋三という一国のリーダーの正体である。口先だけの情報操作、自分に都合のいい統計を並ばるだけの情報操作で自身をさも大したことのあるリーダーであり、アベノミクスがさも大層な経済政策であるかのように国民の前に見せている。