安倍晋三が12月14日、日本テレビ「ZERO」の選挙特別番組に中継で出演した際と、テレビ東京の選挙特別番組に同じく中継で出演した際、それぞれのキャスターに失礼な態度を取った記事を「The Huffington Post」(ハフィントンポスト)が載せている。
先ず「ZERO」での態度。《安倍晋三首相、「ZERO」村尾信尚キャスターの質問を無視 イヤホンを外して話し続ける(全文)》(2014年12月15日 16時53分)
記事には、〈冒頭、村尾氏は低い投票率を挙げて「国民がアベノミクスを信任していると思うか」と質問。安倍首相の反論をふまえて、村尾氏が別の質問をしたところ、安倍首相はイヤホンを外して一方的に主張を展開した。〉とある。
そして遣り取りの一部を紹介している。
安倍晋三「今年の初の賃上げは、自民党・公明党政権による初めての賃上げのチャンスだったんですが、我々は生かして2%上げて。これは15年ぶりの出来事でありましたし、ボーナスはですね…」
村尾キャスター「安倍さん、安倍さん、あの……」
安倍晋三「(イヤホン外す)ボーナスは7%上がりました。これは24年ぶりのことでありましたね」
村尾キャスター「働く人の約7割は、中小企業に勤めているんですけれども……」
安倍晋三「来年も上げていきます。来年の10月はですね、消費税の引き上げを1年半延期しました。そして再来年の春も上がっていきます。そうなっていくことによって、次の消費税の引き上げも経済的な対応ができる。そういう経済を私たちは手に入れることができると、このように確信しています」
村尾キャスター「あの……」
安倍晋三(イヤホンつける)
村尾キャスター「賃上げをするというんですが、中小企業の人たちに、それだけの(賃金が上がったという、あるいは賃金を上げようという)世論があるんでしょうか。働く人の約7割は、中小企業に務めているんですよ」
安倍晋三「中小企業のみなさん、大変だと思います。しっかりと中小企業だけでなくて零細、小規模事業者のみなさんに実感していただけるようにしていきたい。
しかし、2年前や3年前を見ていただきたい。あの時代は、まさに行きすぎた円高によって会社はどんどん倒産をしていきました。倒産件数は、安倍政権になって2割減ったんです。10月、11月の倒産件数というのは、24年ぶりの低いレベルになっています。私たちの政策によって、間違いなく雇用を作り、そして仕事の場を守っています。
さらに私たちの政策を進めていくことによって、中小企業、また小規模事業者のみなさんが潤うようにしていきたい。ただ村尾さんのように批判しているだけでは、これは何にも変わらないわけです」
村尾キャスター「私は批判していません」
安倍晋三「(イヤホン外す)変わらないわけです」
村尾キャスター「私は……」
安倍晋三「我々はしっかりと進めるべきことを進めていきたいと思います」
村尾キャスター「私はプラス成長の可否を安倍さんに問うているのです」
安倍晋三「(イヤホンを外したまま)また零細企業の方々に対してですが、『今、原材料が上がって大変だ』という声もあります。そういうみなさんに対しては、政府系金融機関の低利の融資を行っていくことにしています。
また『材料費が上がって、借金の返済が大変だ』という方々に対しては、我々は金融機関に返済の猶予をするような要請をしていて、10月に6万社、11月に11万社がその融資を受けています」
粕谷賢之氏(日本テレビの報道局解説主幹)「総理」
安倍晋三「(イヤホンを外したまま)さらに私たちは、ものづくりの補助金制度をしっかりと作って、頑張っていく中小企業のみなさんを応援していきたい。中小企業、零細企業、あるいは小規模事業者のみなさんの場で、雇用が守られ、賃金が上がっていくように、これからも努力を続けていきたいと思っています」
粕谷氏「総理、ひとつだけ」
安倍晋三(イヤホンつける)
粕谷氏「来年、すぐに戦後70年を迎えますけれども、アベノミクスの次にあるものは何でしょうか?」
安倍晋三「(イヤホンを一度外して、つけ直す)え……ちょっとね、そちらの音がうるさくてね。1回1回(イヤホンを)取らせていただいているんですけど。ちょっとね」
アナウンサー「申し訳ございません。ここでお時間となりました。安倍総理、どうもありがとうございました」
安倍晋三「音がうるさくてね。ちょっとね音がうるさいんだけど。ええ」
アナウンサー「はい、ここでお時間となりました」(中継終了)――
相変わらず自分に都合のいいだけの統計を持ち出す狡猾な情報操作を駆使している。そういった情報操作を得意としているということなのだろう。
事実音がうるさければ、「ちょっとそちらの音がうるさくて、はっきりと聞き取れないのですが」と最初に言う。だが、「音がうるさい」と言っている割には村尾キャスターの「中小企業の人たちに、それだけの(賃金が上がったという、あるいは賃金を上げようという)世論があるんでしょうか」との質問に的確な対応の発言をしている。
音がうるさかったのではなく、2%の賃上げの話をしていたとき、村尾キャスターに「安倍さん、安倍さん、あの……」と遮られそうになったのを、実質賃金が上がっていないことのアベノミクスにとっては不都合な事実を指摘されると思い、不快に感じ、その質問を回避しようとしてイヤホンを外したのだろう。
このことは村尾キャスターがアベノミクスの否定的な面として現れている世の中の動向をありのままに質問しただけのことを、「ただ村尾さんのように批判しているだけでは、これは何にも変わらないわけです」と、批判と把えた反応と合致する。
いわば安倍晋三はアベノミクスにとって不都合な事実は全く存在しないと自負している。多分、万能だと妄信しているに違いない。だから、自分に都合のいいだけの統計を持ち出して情報操作をすることまでして自己正当化に執心する。結果、批判は許さない。
批判を許さない頑なまでの感情を内心に凝り固まらせているに違いない。このような感情が国会質疑などでの批判的な質問に執拗に反論する態度となって現れる。時にはキレる。
枝野民主党幹事長が安倍内閣閣僚の「政治とカネ」の問題を追及したとき、枝野本人が直接革マル派活動家と関係しているわけでもないのに、民主党政権時代に大臣だった枝野が「殺人や強盗や窃盗や盗聴を行った革マル派活動家が影響力を行使し得る主導的な立場に浸透していると見られるJR総連、JR東(総連)から献金を受け取っていた」とお門違いの批判をし、何日か後に自身のフェイスブックに秘書を騙って自身が書いたのか、実際に秘書が書いたのか、秘書名で国会答弁とほぼ同じ趣旨の枝野攻撃の記事を載せた執拗さにも現れている。
これは自身を完璧な政治家だと信じているところから起きている態度の数々であろう。完璧だから、やることなすことに不都合な事実はないと妄信し、批判を許さない感情を凝り固まらせるに至って、批判に対して執拗な反論を試みることになる。
人間は不完全な生きものであり、そうであることを自覚していたなら、間違いに対して反省の心理が働くことになる。だが、安倍晋三は事実でない事実まで並べ立ててクロをシロと言いくるめようとする。
次に池上彰氏の場合。
《池上彰氏の質問に安倍首相が反論 集団的自衛権「何回も申し上げた」【選挙速報】》(The Huffington Post/2014年112月14日 23時07分)
記事。〈安倍氏は池上氏から、低い投票率や解散権の行使についての所感を尋ねられ「政治においてしっかり信頼を獲得するよう努力していきたい」などと落ち着いて答えていたが、「集団的自衛権のことはあまり触れなかったのではないか」と問われると、声のトーンが上がった。〉・・・・
安倍晋三「そんなことはありませんよ。テレビ討論会でもずっと議論したじゃないですか。街頭演説で1時間の講演なんかできないですから。いくつかの新聞はそれが争点だとキャンペーンを張っていた。自民党が負けたらそれが原因だったと言われるかもしれないが、勝ったら訴えなかったというのはおかしい。
選挙というのは公約をお配りして理解して頂いて投票して頂く。それが基本的な姿勢。お示しした政策にご理解を頂いた。集団的自衛権については夏に解釈変更をしていますから、それを加味した上での選挙でした。テレビの討論会においては何回も申し上げています」
「何回も」のところで声のトーンを上げたということらしい。
池上彰「憲法改正が視野に入ってくる。やはりご自身の手で成し遂げたいか」
安倍晋三「国民的なご理解が必要です。3分の2の勢力をつくったとしても国民投票で過半数の支持を得なければなりません。そこから理解を得ていきたい」
池上彰「憲法改正に向けて一歩一歩進めていくということですね」
安倍晋三「そういうことです」(以上)
安倍晋三はアベノミクス解散と名づけ、アベノミクの是非を問うことを最大の争点として前面に立て、集団的自衛権と憲法改正問題は争点としてはアベノミクスの背後に置く選挙戦術を取った。
アベノミクスの是非を問うことと同じように前面に立てなかったのだから、何回かは発言していても、目立たないようにしていたことになる。
自身がそういう選挙戦術を取りながら、認めるわけにはいかない不都合な事実の指摘に思わずトーンが上がったといったところなのだろう。
自身を完璧な政治家だと信じて批判を非常に不快な攻撃として許さない感情を持ち、完璧な政治家だと信じるあまり自身に不都合な事実は頑なに認めようとせず、結果、自身に都合のいい事実のみを流布する情報操作で安心を得る態度は、精神分析医なら、自己愛性パーソナリティ障害ではないかと診断するに違いない。
自己愛性パーソナリティ障害とは、ありのままの自分を愛することができず、自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込むパーソナリティ障害の一類型だそうだ。
自身を完璧な政治家だと信じるに至っている人格は、多分、A級戦犯被疑者であった祖父岸信介の膝に抱かれ、それを揺り籠とし、戦前日本が偉大な国家であったことの数々のお伽話・メルヘンを聞かせられて育ち、偉大な政治家と信じるに至った岸信介や佐藤栄作と血のつながりがあることが影響しているのではないだろうか。
祖父岸信介と大叔父佐藤栄作が偉大な政治家である以上、自身も偉大な政治家でなければならないと自己規定した。いわば自らのアイデンティティをそこに置いた。
批判や不都合な事実の許容は偉大な政治家としての自画像を損なうキズとなる。
要するにば許容するだけの精神の余裕がないことになる。だから、簡単にキレる。
と言うことは、実質的には偉大な政治家でも何でもないことになる。精神の狭い、偏執的な粘着質の性格に彩られて、執拗なところだけが安倍晋三の本質的正体といったところなのだろう。
尤も自画像実現への執念が安倍晋三をして二度目の内閣を担わせたのだろうが、良識ある国民にとってはその国家主義、独善主義は大いなる迷惑である。