――優秀な人材はいつの時代も大都市を目指す――
昨日2014年12月27日、安倍内閣は《地方から日本を創生する 「長期ビジョン」「総合戦略」》を閣議決定した。
①2020年までの5年間で地方での若者雇用30万人分創出とその他で「地方の安定的雇用の創出
②2020年までに東京圏10万人転入超過の地方移住と企業地方立地促進等の均衡化による「地方への新しいヒトの流れの創出」
③「働き方改革」や様々な支援によって、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶える」
④中山間地域等、地方都市、大都市圏各々の特性に応じた時代に合った地域づくりと各地域の連携によって安心な暮らしを構築。
「5年間で地方での若者雇用30万人分創出」と謳っているが、日本は一都一道二府四十三県、占めて47自治体が存在する。「2020までに東京圏10万人転入超過の地方移住」とは具体的には東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)転出人口4万人増、転入人口6万人減の人口移動政策を内容としていると言うから、東京圏の4自治体を抜かして単純計算で43で割ると、一自治体で約7千人弱。
7千人としても、各自治体の市町村数で割ると、微々たるものとなる。一口で若者30万人の雇用創出というと大層な数字に思えるがそうではない。但し東京一極集中の例からして各自治体に於いても、その自治体で比較大都市の地位を獲得している県庁所在地やその近辺に人口移動にしても企業地方立地にしても集中することになるのだろう。
全国単位で格差はある程度是正されたとしても、地方自治体単位では格差は逆に拡大する可能性を残すことになる。例え農業が活性化されても、各自治体に於ける交通インフラが整備されていて交通の便も良い地方比較大都市とその近辺にほぼ集中することになって、辺境に位置する限界集落とか消滅集落予備軍といった状況は取り残されることになるに違いない。
また、「地方若者雇用30万人」と言っても、賃金が大きな動機づけとなる。企業がかつて人件費が超格安の中国を目指したように人件費が安いからと地方立地を進めようとしたら、より賃金の高い東京圏、その他を目指す流れを決定的には変えることができず、人手不足を招く可能性は否定できない。
人手不足解消に初任給を上げたとしても、地方立地の有利性確保のために非正規雇用を増やしたり、初任給のみを上げて、以後の賃金上昇率を抑える手に出たら、賃金に対する動機づけとしての意味を失って、企業の地方立地の魅力を損なうことになる。
特に優秀な人材はいつの時代もそうであるように賃金の高みを目指すから、余程の理由がない限り、賃金のより安い地方企業には目もくれない状況が生じない保証はない。
さらに言うと、高い賃金がより高度な文化の享受を約束する。都会と地方で同じ映画を見ることができるが、映画館の設備の違いで味わいは違ってくる。特に演劇やコンサートは大都会では頻繁に開催されて、いつどこでも鑑賞することができ、高度な芸術的雰囲気を堪能できる。
文化的環境の整備まで含めた地域づくりとなると、県庁所在地等の地方に於ける既成都会のある程度整っている文化的環境を基盤とすることになって、地方に於ける格差拡大の動因の一つに加えることになりかねない。
いずれにしても、閣議決定が謳っているように「地域づくりと各地域の連携によって『安心な暮らし』」を保障するためにも、賃金を東京一極集中の阻止及び地方雇用増加の動機づけの出発点としなければならないはずだ。だが、既に地方ごとに賃金格差が生じている。
《平成25年賃金構造基本統計調査(全国)の概況》によると、産業全体の平均で東京の賃金は364万6千円。最低の宮崎県が227万7千円で、136万9千円の格差があり、ついで沖縄県が228万4千円で、136万2千円の格差を頂いている。
初任給を、《平成25年賃金構造基本統計調査(初任給)の概況》から見てみる。
東京大学卒初任給、207万7千円。高卒初任給164万7千円。
最低の沖縄東京大学卒初任給169万5千円。東京100%にして、82%。
高卒初任給132万2千円。東京100%にして、80%。
この割合が生涯ほぼ付き纏うことになり、生涯賃金を決定づけていく。どのくらいの格差が生じるのだろうか。
さらにこの格差は正規雇用と非正規雇用間でも無視できない金額で決定的な違いを生じている。
当然、賃金格差がこのままの状態であるなら、能力と決断力と許される環境に恵まれさえすれば、若者は地方には目もくれずに大都市、特に東京を目指すことになる。
安倍政権は2015年度から地方就職大学生に卒業後地方で一定期間勤務を条件に自治体や産業界と共同で奨学金返済減免の基金をつくる方針でいるが、奨学金減免だけでは追いつかないだろう。
このような賃金格差の抹消に向け、尚且つ地方に於いても賃金を動機づけとすることができるようにするには先ずは最低賃金の全国一律1000円からスタートすべきだろう。最低賃金がより上の段階の賃金を決定づけていく基準となるからだ。
安倍政権は賃上げを行った中小企業に対して助成金を支援する方針でいるが、最低賃金1000円とすることによって生じる負担に対してこそ助成金を支援すべきである。でなければ、スタートの賃金はあくまでも最低賃金を基準とすることになって、中小企業が少しくらいの賃上げに応じたとしても、大企業と中小企業の賃金格差、そして大都市と地方都市の賃金格差の是正には役立たない。
多くが賃金格差是正を地方創生の条件としているが、11月25日発表の自民党の今衆院選挙の《重点政策2014》には「最低賃金」の言葉が一言も触れられていない。
賃金格差を念頭に置かないまま、あるいは賃金の動機づけを考慮しないまま、地方創生を語っているようだ。この方向の観点を失っていたなら、地方創生は絵に描いた餅で終わるに違いない。