安倍晋三の「自衛隊応募者7倍の競争率」発言が映し出す恒常的な買い手市場の積極的入隊ばかりは誤情報発信

2015-10-23 08:57:21 | Weblog


 興味ある記事に出会った。《長期雇用の自衛官 今年度応募者が20%減》NHK NEWS WEB/2015年10月22日 6時48分)

 自衛隊には幹部自衛官以外に現場部隊の中核として長期間雇用される自衛官と2年から3年の任期で短期間雇用される自衛官の2つのタイプがあって、最も肝心な人材ということになるのだろう、前者の長期雇用の自衛官の今年8月から9月にかけた募集に対する応募者は昨年度の3万1145人から約20%落ち込んだと伝えている。

 記事は一方で内閣府の今年1月調査で自衛隊に良い印象を持つ国民が92%になっていると、そのギャップをも伝えている。

 この92%は昭和44年の調査開始以降最も高い数値だそうだ。

 なぜこの記事に興味を持ったかと言うと、安倍晋三が徴兵制が必要がないことの理由の一つとして「自衛隊に応募する方、実は7倍の競争率なんですね」と、自衛隊が隊員募集に関してさも恒常的な買い手市場にあり、そのような状況下での積極的入隊ばかり、いわば引く手あまたであるかのように言っていたからだ。

 但し今回の応募者減は2015年8月から9月にかけの応募に関してであって、安倍晋三の発言は自民党が圧勝した2015年7月21日投開票の参院選を前にした2015年7月6日夜、自民党のトーク番組『CafeSta』に出演の中でのことだったから、時間差はある。

 だが、同じ恒常的な買い手市場であっても、安倍晋三が応募者の中身をどのように認識していたのか――積極的入隊であったか否かの認識に関しては時間差は問題でなくなる。

 このことは最も肝心な人材と見られているはずの将来の自衛隊の現場部隊の中核を担う応募者が減ったことについての防衛省の理由に現れている。

 防衛省「民間企業の採用が増え、募集に影響したことが考えられる」

 この言葉を即座にそっくりと裏返すと、民間企業の採用が少ないとき、いわば不況のとき、自衛隊に対する応募が多くなるということになる。

 と言うことは、民間企業に就職できないないために生活費を得る必要上、仕方なく自衛隊に入隊するという消極的選択の応募者がかなり存在していたと考えることができる。

 それが2015年8月から9月にかけの募集では、全部が全部そうではないだろうが、少なくとも20%近くが消極的選択を免れることができて、本来の希望先である民間企業に就職できた。

 勿論、安倍晋三や中谷元がいくら否定してもリスクが伴わないはずはない、今後増えると予想される自衛隊の海外活動への忌避から民間企業を志向した者も少なくないだろうが、それでも尚、不況で民間企業の採用が少なければ、いくらリスクを忌避しても、次善の策として自衛官募集に応ぜざるを得ない消極選択を強いることになる。

 また例え好景気から企業の採用が多くなったとしても、希望の企業に就職できなくて、同じく次善の策としての消極的選択から自衛官に応募というケースも多々あるはずだ。

 「Wikipedia」によると、長期雇用の自衛官は一般曹候補生(いっぱんそうこうほせい)と言い、陸海空自衛隊に於いて将来、曹(下士官)になるために訓練される非任期制隊員たる士のことだと解説している。

 会社で言うと、中間職と言うことになるのだろうか。上からも突かれ、下からも何やかんやと言われながら、現場では先頭に立って部隊を指揮し、ときには敵部隊の前面に立たなければならない。当然、部下の命を直接預かることになり、最も精神的負担の大きい役割を与えられることになる。

 安倍晋三と中谷元が自衛隊を海外派遣してもリスクは高まらないと言っているから、そのことの証明も同時に担わなければならない。証明できなかったときの安倍晋三と中谷元に対する腹立たしさは想像に難くない。

 記事が2年から3年の任期で短期間雇用される自衛官とは、同じく「Wikipedia」によると、自衛官候補生(任期制隊員)略称「自候生」)と言い、陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊において平成22年度から採用される任期制隊員(2等陸・海・空士)のうち、教育期間中の身分を自衛官の定数外とし、任期制自衛官として任官された隊員の初任期は自衛官候補生の期間を含め陸は2年、海・空自衛隊は3年(2任期目以降は現行任期制隊員と同じく陸海空いずれも2年)となると解説している。

 任期途中で退官する自衛官も存在するだろうが、工場の期間工のように任期毎の採用と言うことなら、長期雇用の一般曹候補生と比べたなら、精神的にも立場上も遥かに責任は軽い。

 自衛隊の海外派遣が頻繁化し、なお且つ民間企業の採用が活発な状況にあったなら、任期制隊員の中からも任期切れを待って退官する自衛官が増えるかもしれない。自衛隊で何年間と激しい訓練に耐えてきた根性・精神力を“売り”にして。日本の企業は特に根性・精神力を“買い”の価値ある対象とする。そのことに便乗もできる。

 一般曹候補生の2015年8月から9月にかけの募集で昨年度の3万1145人から約20%落ち込んだ理由が防衛省が説明しているように民間企業の採用が増えたことにあるとしたら、恒常的な買い手市場であることに変わりはなくても、不景気の時代を過ごしてきたのだから、現在自衛官として勤務している内、積極的入隊者の中に相当数の消極的入隊者も混じっていることになる。

 応募者の中にも好景気に反して希望の企業に就職できずに消極的な選択としての応募ということもある。

 と言うことなら、安倍晋三は自衛隊最高指揮官として徴兵制が必要がないことの理由の一つとして「自衛隊に応募する方、実は7倍の競争率なんですね」と言っていたその「7倍」の難関を経て入隊した自衛官の全部が全部自衛隊でなければならないとした積極的入隊者ばかりではなく、20%かそこら、あるいは不況である程そのパーセンテージは増えることになるから、30~40%は不況で集まった消極的入隊者の可能性があると分析していなければならなかったはずだ。

 だが、恒常的な買い手市場での積極的入隊者ばかり、引く手あまたであるかのような情報を発言した。

 これは分析能力を欠き、自衛隊最高指揮官としてのその資格を疑わざるを得ない国民への誤情報の発信に当たる。

 当然、徴兵制の必要がないことの理由の一つと見ていることに関しても、消極的入隊者の自衛隊のリスクが増大した場合の退官の予想と考え併せると、極めて疑わしいことになる。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする