安倍晋三夫人安倍昭恵が戦後75年目という節目の年に当たる2016年8月22日にハワイの真珠湾を訪問、アリゾナ記念館で日本軍の奇襲攻撃で亡くなった約2400名の犠牲者に祈りを捧げたという。
真珠湾攻撃は日本時間1941年12月8日未明、ハワイ時間12月7日だそうだ。
この訪問を「現代ビジネス」が、《安倍昭恵・首相夫人が単身パールハーバーを慰霊訪問した理由》と言う題名の8月22日付記事と、《昭恵夫人が語った安倍首相「真珠湾訪問の可能性」》と言う題名の8月23日付記事で取り上げている。
アリゾナ記念館を訪れたのは真珠湾攻撃が実施されたのと同じ午前7時55分だというから、なかなか念の入った訪問である。
「オバマ大統領が広島に訪問したことで、被爆地ヒロシマのこと、そしてあの戦争のことを改めて考える機会を持った方も多いはずです。パールハーバーについて、様々な議論や見方があるのは知っていますが、憎しみや怒りを超えて、次の世代にこの記憶を語り継いでいかなければならないと思っています。
犠牲者を悼むとともに、これまでの平和に感謝し、これからの平和を築いていくために、祈りを捧げました」・・・・・・・
「この一年、戦後70年ということで、戦争について考える機会がたくさんありました。今年5月には、オバマ大統領が被爆地・広島を訪問し、17分間のスピーチで平和の尊さを訴えました。そのスピーチに感動を覚えながら、日本もアメリカも、お互いに過去を振り返り、そして、さらに前に進む時期に来たのだな、と気づきました」
「私たちには、次の世代に歴史の記憶を託していく義務があります。しかし、その歴史について、実際にふれて学んだものと、教科書で習ったものとでは、伝えられるものがまったく違うと思うのです」・・・・・・・
「一方で想像していた以上に、アメリカが冷静に歴史を振り返っていることも感じました。というのも、展示された資料を見ていると、日本軍が残忍だった、というようなことが書かれているわけではありません。正直に言うと、来る前はもっと″怒り″が全面に出された施設なのかと思っていました。
ところが、展示物を見ると、日本には日本の経済的な事情、国際社会の中での苦しみがあった、というような説明書きが随所にありました。『リメンバー・パールハーバー』という言葉が、怒りや憎しみの代名詞ではないと気づくとともに、アメリカが成熟した民主主義の国であり、そして日本とアメリカがそうした歴史を踏まえたうえで成熟した関係を築いている、ということをあらためて実感しました」・・・・・・・
「まず、私はこの世界で最も尊重すべきものは平和であると考えています。そこで、平和な世界を築くために、私にできることはなんだろう、ということはよく考えます。
主人は、日々世界各国の首脳と話し合う中で、国際協調に取り組んでいます。彼が日本の平和のため、世界の平和のために懸命に努力していることは、間違いありません。しかし、これは日本に限ったことではありませんが、権力者はなかなか理想ばかりを語っていられません。『平和、平和』と口にしても、国際政治では必ず利害が衝突してしまいますから。
だからこそ、私は理想を語るのです。平和な世界を築くためには、力なき人たちの横のつながりを強くしていくことが大事だと思っています。それは、女性や子ども、そして貧困に苦しむ人たちだったり、少数民族だったり、LGBTの人たちだったり、障害を持った方々だったり…。そうした人たちに会い、苦しみについて聞き、解決の手段を考え、同じように苦しんでいる人たちが手を取りあうきっかけをつくる。それが、私の役割だと思っています」・・・・・・・
多くの人を共鳴させる尤もらしい言い回しとなっている。
「憎しみや怒りを超えて、次の世代にこの記憶を語り継いでいかなければならない」と言い、「日本もアメリカも、お互いに過去を振り返り、そして、さらに前に進む時期に来たのだな、と気づきました」と言っている。
だがである、日本の現在の国家権力層を形成する多くが日本の戦前の戦争を侵略戦争とする歴史認識に立たず、自存自衛の戦争だと歴史認識している。
当然、「お互いに過去を振り返」ったとしても、それぞれに思い描いている過去は相互に異なることになる。
多分、本人は気づいていないのだろう、安倍昭恵は異なる過去を一緒くたにする詐術を用いた。
そもそも戦後日本の国家権力層が戦争を総括せずに放置してきたのは、総括して打ち立てるべきと思い定めている歴史認識が前者ではなく、後者と定めていて、それが世界の常識に受け入れられず、反発を受けることを知っていたからだろう。
望み通りの戦争総括ができないために仕方なく彼らは靖国神社参拝を通して「お国のために戦った戦争だ」と、その戦争を自存自衛の戦争として肯定し、戦争肯定を通して戦前国家を肯定する儀式に邁進することになる。
安倍昭恵にしても2015年5月21日に靖国神社を参拝し、「先の『大東亜戦争』は、我が国の自存自衛と人種平等による国際秩序の構築を目指すことを目的とした戦いでした」とする歴史認識を掲げている靖国神社内の遊就館にまで訪れている。
当然、アメリカが奇襲を受けたパールハーバーに建てたアリゾナ記念館の「展示物を見ると、日本には日本の経済的な事情、国際社会の中での苦しみがあった、というような説明書きが随所にありました」と言っていることはある種の免罪となって、自存自衛の戦争とする歴史認識に好都合となる。
だが、真珠湾奇襲作戦は日本海軍航空隊の航空機によって日本時間1941年12月8日未明に開始され、その日のうち午前9時前に終わった半日だけの攻撃であって、犠牲者は約2400名、それ以降の日米戦闘で日本軍と戦ったアメリカ軍の多くの兵士が犠牲とはなったものの、真珠湾攻撃に関しては日本の陸軍部隊がハワイに上陸してアメリカ国民を蹂躙したわけでもなく、それ以後もアメリカの如何なる国土にも上陸してはいないし、航空攻撃を仕掛けているわけではない。
その点、アメリカの国民は余裕を持って戦争を振返る余地があると見なければならない。
国土と国民を激しく蹂躙された中国や台湾、タイ、マレーシア、フィリッピン、インドネシア等々とはその罪深さの点に於いて大きく異なる。「日本の経済的な事情、国際社会の中での苦しみがあった」からと言って、他国の領土と国民を武力で暴力的に侵害していいという理由とはならない。
当然、如何なる免罪とすることもできない。
要するに安倍昭恵は、本人は気づいていなくても、安倍晋三と同様に侵略戦争とする歴史認識ではなく、自存自衛の戦争だとする歴史認識に立って、それゆえに可能としている戦争総括を抜きにほんの端っこの一部を手に触れただけで、戦争の全体と、その全体に基づいた未来を語ろうとしているに過ぎない。
オバマが広島を訪問したことの日本側の同種の行為として安倍晋三が真珠湾を訪問すべきだとの声が上がったが、訪問時のオバマとの首脳会談後の記者会見で「訪問の計画はない」と答えている。
この点について「現代ビジネス」の編集者は安倍昭恵に尋ねている。オバマ広島訪問後、広島平和記念資料館への訪問者が増えたという。
記者「それこそ安倍首相が真珠湾を訪問すれば、さらに注目が集まり、多くの日本人が訪れるようになるかもしれませんね。オバマ大統領が広島を訪問したことを受けて、安倍首相も真珠湾を訪問すべきだという声が聞こえてきます。昭恵さんは、その可能性についてどう思われますか?」
安倍昭恵「夫は夫、私は私ですから、行ったほうがいい、と進言したりはしません。でも、夫も訪問したいと思っているかもしれません。私が『パールハーバーに行ってきます』と伝えたところ、神妙な面持ちをしていましたから」
例え訪問することになったとしても、表面的にどのようなパフォーマンスを言葉とジェスチャーで演じて見せようとも、安倍晋三の精神そのものは戦争の総括を置き去りにすることで答を日本の戦争を侵略戦争とするのではなく、自存自衛の戦争だと成り立たせた歴史認識を見えない後光のように掲げて過去を振返り、翻って将来の平和を語る当り障りのない訪問とするに違いない。