安倍晋三の対韓国慰安婦支援の10億円拠出は自身の戦前日本国家・軍共々の無誤謬神話証明の一環

2016-08-14 09:34:03 | 政治
 
 日本と韓国の間で長年懸案となっていた従軍慰安婦問題が2015年12月28日の外相岸田と尹(ユン)外交部長官の日韓外相会談で日本側が旧日本軍の関与を認めたことで一応の合意を見た。その合意が花壇語の共同記者会見で明らかにされた。

 「日韓両外相共同記者発表」外務省/2015年・平成27年12月28日)   

1 岸田外務大臣

 日韓間の慰安婦問題については,これまで,両国局長協議等において,集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき,日本政府として,以下を申し述べる。

(1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。

安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

(2)日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

(3)日本政府は上記を表明するとともに,上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で,今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
あわせて,日本政府は,韓国政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

 外務省のサイトにはこのあと尹(ユン)外交部長官の発言要旨が載っているが、省略する。

 安倍政権は財団が設立された場合はその資金として10億円の拠出を決めていた。

 これらの合意に応じて韓国政府は今年7月に元慰安婦支援目的の「和解・癒やし財団」を発足させ、発足に対して安倍政権は8月中の拠出を目指しているという。

 但し韓国ソウルの日本大使館前の韓国人慰安婦を模した少女像の撤去に関しては当初は日本政府は10億円拠出の条件として露骨に要求していたが、少女像を設置した市民団体が移転に応じない姿勢を崩していないために10億円の拠出を先にして、その支援を通して撤去に理解を求める柔軟姿勢に転じたということだが、撤去要求は本質的には変化はないことになる。

 露骨に要求していた頃の岸田と稲田朋美の発言を振り返ってみる。

 2016年1月4日午前の閣議後会見。

 岸田文雄「(少女像は)適切に移設されるものと私は認識している」(asahi.com

 2016年1月6日の自民党外交部会等の合同会議。

 稲田朋美「慰安婦問題は日韓の最大の懸案事項であると言って過言ではないが、今回の合意で最終的かつ不可逆的に解決をするということは、大変意義があることだ。

 謂れなき非難に対しては断固反論するのが、我が党の立場であり、大使館前の慰安婦像の撤去はこの問題の解決の大前提だ」(NHK NEWS WEB
 
 こういった論調の発言を最近はトンと聞かない。

 2015年12月28日の日韓外相会談で、〈慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。〉と表明したことが、旧日本軍が売春業者の手を借りて募集して集めたケースもあったが、直接韓国人女性を暴力的に拉致・連行して慰安所に閉じ込め、強制売春のセックススレーブとしたケースを歴史の事実とし、その責任を認めた、いわば証言に当たるものであるなら、少女像はその証言通りの歴史を目に見える形で証明する建造物の意味を持つことになる。

 だが、安倍政権が安倍晋三を筆頭にその撤去を求めているということは旧日本軍の直接的な関与による暴力的な拉致・連行もセックススレーブ化した事実も実際には認めていないことになる。

 そのような歴史的事実は存在していないとしている撤去要求でなければ論理的な整合性を失う

 このことは日韓外相会談合意約20日後の1月18日(2016年)参院予算委員会での中山恭子の日韓外相会談で旧日本軍の関与を認めたことは著しく日本の名誉を傷つけ国益に反するのではないかとの質問に答えた安倍晋三の発言が全て証明する。

 安倍晋三「先ほど外務大臣からも答弁をさせていただきましたように、海外のプレスを含め正しくない事実による誹謗中傷があるのは事実でございます。性奴隷 あるいは20万人といった事実ではないこの批判を浴びせているのは事実でありまして、それに対しましては政府としては、それは事実ではないということはしっかりと示していきたいと思いますが、政府としてはこれまでに政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかったという立場を辻本清美議員の質問主意書に対する答弁書として平成19年、これは第一次安倍内閣の時でありましたが、閣議決定をしておりまして、その立場には全く変わりがないということでございまして、改めて申し上げておきたいと思います。

 また 当時の軍の関与の下にというのは、慰安所は当時の軍当局の要請により設営されたものであること、慰安婦所の設置、管理及び慰安婦の移送について旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したこと、慰安婦の募集については軍の要請を受けた業者が主にこれにあたったこと、であると従来から述べてきている通りであります。

 いずれにいたしましても重要なことは今回の合意が、今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっておりまして、史上初めて日韓両政府が一緒になって慰安婦問題が最終的且つ不可逆的に解決されたことを確認した点にあるわけでありまして、私は私たちの子や孫そしてその先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかないと考えておりまして、今回の合意はその決意を実行に移すために決断したものであります」――

 旧日本軍が直接的に関与した事柄は慰安所の設置と慰安婦の管理、慰安婦の移送であって、韓国人女性の暴力的な拉致・連行も慰安所に閉じ込めてセックススレーブ化した事実もないとしている。

 だから、その証明としている少女像は撤去されるべきだということなのだろう。

 いわば歴史の事実の否定と少女像撤去要求は一対を成している。

 安倍晋三とその一派は兼々戦前の大日本帝国を理想の国家像としている。現在の日本という国を戦前の大日本帝国のように政治的にも経済的にも軍事的にも世界の強国の地位を占めたいと願っている。

 戦前の偉大な大日本帝国の再来への願望である。

 安倍晋三のその願望は執着と言ってもいいはずだ。

 それ故にこそ、大日本帝国は偉大なだけの過ちのない国家としなければならない。国家・軍共に無誤謬だとする神話を確立しなければ、再来への願望は否定されることになる。

 国家・軍共々の無誤謬神話は戦前の戦争を侵略戦争と認めずに自存自衛の戦争としているところに象徴的に現れているが、侵略戦争を起こした戦前の日本国家の戦後世界への再来の願望は滑稽な逆説そのものとなる。

 慰安婦の強制連行、セックススレーブかは何も韓国だけにとどまらず、戦前日本軍が占領していたインドネシア、台湾、フィリッピン、昭南島(シンガポール)、ビルマでも元慰安婦の証言によってその事実が明らかにされているゆえに、インドネシアでは収容所に収容した民間オランダ人のうち、未成年の女性と若い成年女性を彼女たちの意に反して日本軍のトラックで連行して慰安婦としているが、韓国の事実を否定できたとしても全ての事実を否定できるわけではないもの関わらず、安倍晋三たちは韓国の事実の否定に10億円まで出して多大なエネルギーを注いでいる。

 このような企みも戦前日本国家・軍共々の無誤謬神話証明の一環としているからに他ならない。安倍晋三にとって戦前の大日本帝国は世界から些かの批判も受けてはならない完璧な国家でなければならないのだろう。でなければ、理想の国家像とすることはできないし、その再来を現在の日本に求めることもできなくなる。

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