安倍晋三の北朝鮮ミサイル対応:国会答弁や政府答弁書と矛盾する「国民の生命財産を守る」は単なるカラ約束

2017-09-14 11:43:55 | 政治

 2017年4月4日、シリア政府が同国北西部の反政府勢力支配地域をサリン使用の化学兵器で空爆、翌々日の4月6日、トランプ米大統領はその懲罰、報復として地中海展開の2隻の米駆逐艦から59発の巡航ミサイルを用いてシリア政府軍の空軍基地の航空機、防空システム、燃料貯蔵庫等を攻撃、破壊した。

 文飾は当方。

 2017年4月13日参院外交防衛委員会

 浅田均(日本維新の会)「今まで巡航ミサイルを配備するとかいうことになると、それは攻撃であると。我が国は防衛を主体に先制攻撃という能力は持たないわけですから、だから巡航ミサイルというものの配備についてもそういう考え方で排除されてきたと思うんですけれども、(北朝鮮が)本当にもう200キロまで撃ち込んでくると。だから、方角さえ間違えれば北朝鮮からの弾道ミサイルが日本に着弾する、そういう差し迫った危機を迎えているわけです。

 そういう危機を排除する、それに対して抑止力を持つために、巡航ミサイルの配備、あるいは、日本の戦闘機というのは航続距離が短いですから、空中給油を可能にして、そういう敵基地に接近できる作戦を展開できる、そういう能力を持つために空中給油機能を強化する、あるいは最初に申し上げましたように、巡航ミサイルを配備する、そういうことも選択肢の中にある、検討項目に加えていただきたいと思うんですが、この点はいかがですか」
 
 安倍晋三「言わば、日本がいわゆる先制攻撃をするということは、これはあり得ないわけでございますが、言わば北朝鮮がミサイルを発射し、日本に残念ながらミサイル防衛能力をくぐり抜けて着弾するという事態が起こる中において、それを反撃をする能力を持つべきではないかというのが自民党の議論、あるいは提言の問題意識の中心でございます。

 言わば抑止力として、ミサイル防衛能力はいわゆる抑止力とはならないわけでありまして、彼らに対して反撃する能力を持って、それを抑止力とするべきではないかという、そういう論点でございます。

 しかし、日本においては、言わば米国にその抑止力は、打撃力としての抑止力は、敵基地攻撃能力については米国に依存をしているわけでありまして、現在自衛隊は敵基地攻撃を目的とした装備体系は保有しておらず、また保有する計画もないわけでありますが、しかし、その上で、先ほど申し上げましたように、我が国を取り巻く安全保障環境は一層厳しくなっているわけであります。

 先ほどシリアについての議論が出されたわけでありますが、言わばサリンを弾頭に付けて着弾させるという能力については既に北朝鮮は保有している可能性があるわけでございまして、先般シリアにおいて100名近くの赤ん坊や子供たちも含む無辜の民が犠牲となったわけであります。ああした現実をしっかりと踏まえながら、それはさせないという言わば抑止力をしっかりと持つべきであろうという議論が当然あるわけでございます。

 その上において、今、日米の同盟を強化をしているわけでございますが、その上で、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しくなる中で、日米間の適切な役割分担に基づいて日米同盟全体の抑止力を強化をし、そして国民の生命と財産を守るためには我が国として何をなすべきかという観点から、常に様々な検討は行っていくべきものと考えております。

 日本の総理大臣であり、自衛隊の最高指揮官である安倍晋三自身が「北朝鮮がミサイルを発射し、日本に残念ながらミサイル防衛能力をくぐり抜けて着弾するという事態が起こる」可能性に言及しだけではなく、「サリンを弾頭に付けて着弾させるという能力については既に北朝鮮は保有している可能性」を指摘した。

 日本の弾道ミサイル防衛システムは海上自衛隊イージス艦の海上配備型スタンダード・ミサイルSM-3が大気圏外で迎え撃ち、失敗した場合は航空自衛隊の地上配備型のパトリオット・ミサイル3(PAC3)が高さ十数キロの地上近くで迎撃する2段構えの仕組みとなっていると言う。

 2段構えとなっていること自体が迎撃ミサイルが100発100中でないことの証明だとブログに何度か書いてきたが、海上配備のSM-3が迎撃失敗した弾道ミサイルを迎撃する地上型PAC3にしても同じとしなければ、論理的矛盾が生じる。

 この論理的矛盾に日本の総理大臣であり、自衛隊の最高指揮官である安倍晋三自身が「ミサイル防衛能力をくぐり抜けて着弾するという事態」の可能性を口にしたことで整合性を与えたことになる。

 安倍晋三のこの発言は2017年4月13日のことだから、それから5カ月しか経過していない。5カ月の短時間で迎撃サイルの命中率が100%近くに到達したと言うことはあり得ないはずであし、もし到達していたなら、安倍晋三はそのことをさも自身の貢献であるかのように誇らかに宣言するはずである。

 迎撃ミサイルが100発100中ではないという技術的不足は日本本土に向けて発射された場合の北朝鮮ミサイル対応の「国民の生命と財産を守る」システムにしても100発100中でない技術的不足を抱えていて、前者・後者はその相互的言い替えとなる。

 こういったことに危惧を抱いだのだろう、民進党衆議院議員の逢坂誠二が質問主意書で政府に尋ねた。

 質問本文情報(平成29年4月19日提出)   

質問第240号

北朝鮮軍のサリンを弾頭に付けた弾道ミサイルの迎撃に関する質問主意書

提出者  逢坂誠二

 現在、防衛大臣は、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射する可能性が高いとして、自衛隊法第82条の3でいう「破壊措置命令」を発令しているものと承知している。かかる破壊措置命令は、昨年八月以降持続的に命令を出しておく常時発令の状態にあり、我が国の防衛に寄与しているものと承知している。

 平成29年4月13日、参議院外交防衛委員会において安倍総理は、「サリンを弾頭に付けて着弾させるという能力については既に北朝鮮は保有している可能性がある」と答弁した。

 これらを踏まえて、以下質問する。

一 北朝鮮軍が「サリンを弾頭に付け」た弾道ミサイルを発射し、我が国の首都圏に着弾する可能性が生じた場合、市ケ谷の防衛省敷地内に配備された航空自衛隊の地上配備型迎撃ミサイルのパトリオットなどで迎撃するという理解でよいか。

二 パトリオットの対弾道弾射程は20キロ程度であり、首都圏で「サリンを弾頭に付け」た弾道ミサイルをパトリオットなどで迎撃した場合、その弾頭も破壊され、運搬されてきたサリンも我が国の領土に拡散されるという理解でよいか。

三 首都圏で「サリンを弾頭に付け」た弾道ミサイルを迎撃した場合の国民への被害シミュレーションを行った事実はあるか。

四 首都圏で「サリンを弾頭に付け」た弾道ミサイルを迎撃する場合、比較的地表に近い高度で弾道ミサイルが破壊されるため、首都圏に在住する国民への健康被害が生じることは否定できない。政府はかかる被害はどの程度であると評価しているのか。死傷者は生じる可能性があると考えているのか。

五 首都圏で「サリンを弾頭に付け」た弾道ミサイルを迎撃した場合の被害想定を政府が公表できないとすれば、国民の不安をどのように払しょくするのか、政府の見解を明らかにされたい。

六 パトリオットの対弾道弾射程は20キロ程度であり、国民への健康被害が皆無であるとは到底考えられない。政府はこれに対して国民に分かりやすい説明を行う準備はあるのか。見解を示されたい。

 右質問する。

 答弁本文情報(2017年4月28日受領) 

 答弁第二四〇号

 内閣衆質一九三第二四〇号
 平成29年4月28日

 内閣総理大臣臨時代理 国務大臣 麻生太郎

 衆議院議員逢坂誠二君提出北朝鮮軍のサリンを弾頭に付けた弾道ミサイルの迎撃に関する質問に対する答弁書

 一について

 弾道ミサイルへの対処については、現実に生起した個別具体的な事態を踏まえて、最も適切な対応をとることとしており、一概に申し上げることはできないが、一般論として申し上げれば、我が国の弾道ミサイル防衛システムは、スタンダード・ミサイルSM-三搭載イージス艦による上層での迎撃と、ペトリオット・ミサイルPAC-三による下層での迎撃を組み合わせた、多目標対処を念頭に置いた多層防衛システムであり、サリン等の化学兵器が搭載された弾道ミサイルについても、これにより対処することとしている。

 二から六までについて

 お尋ねの「『サリンを弾頭に付け』た弾道ミサイル」を含め、化学兵器が搭載された弾道ミサイルをペトリオット・ミサイルPAC-三等により破壊した場合の我が国の領土における被害については、弾頭の種類・性能、迎撃高度・速度、気象条件等様々な条件により異なることから、一概に申し上げることは困難である。その上で、一般論として申し上げれば、弾道ミサイルに搭載された化学兵器については、弾道ミサイルの破壊時の熱等により、無力化される可能性が高く、仮に、その効力が残ったとしても、落下過程で拡散し、所定の効果を発揮することは困難であると考えられる。

 政府としては、国民の命と平和な暮らしを守るため、あらゆる事態に万全の備えを整備しておくことが必要であると考えており、サリン等の化学兵器が搭載された弾道ミサイル対処についても、不断の検討を行っているが、その詳細についてお答えすることは差し控えたい。

 我が国に向けて弾道ミサイルが発射された場合には、政府としては、できる限り速やかに、警戒しなければならない地域の住民に対して屋内への避難を呼び掛けるなど、所要の情報を国民に提供することとしている。また、その際に留意すべき事項については、内閣官房の国民保護ポータルサイトにおいて説明されているほか、国と地方公共団体による共同訓練や都道府県の国民保護担当者に対する説明会等のあらゆる機会を利用して周知に努めているところである。

 この答弁書は平成29年4月19日提出の質問主意書に対して同年4月28日に閣議決定、同4月28日に衆議院議長が受領と言うことだから、安倍晋三が閣議を欠席していて、代理の麻生太郎が閣議決定の判を押したとしても、提出から閣議決定までの10日近くの間に安倍晋三は目を通していなければならないはずだから、我関知せずとは言えないはずだ。

 にも関わらず、日本の総理大臣であり、自衛隊の最高指揮官である安倍晋三が国会答弁で指摘した、「日本に残念ながらミサイル防衛能力をくぐり抜けて着弾するという事態」の可能性を無視して、日本の弾道ミサイル防衛システムを100発100中の論理で装わせた答弁書の内容となっている。

 100発100中としているから、「化学兵器が搭載された弾道ミサイルをペトリオット・ミサイルPAC-三等により破壊した場合」のみを取り上げて安全性云々を展開することができることになる。

 勿論、この100発100中論は化学兵器搭載の弾道ミサイルに限らないはずだ。例え核搭載の弾道ミサイルであっても、同じ100発100中の防御システムとなっていなければ、矛盾することになる。

 100発100中の危機管理となっているからこそ、「弾道ミサイルへの対処については、現実に生起した個別具体的な事態を踏まえて、最も適切な対応をとる」、事後対応の危機管理体制とすることができるのだろう。

 答弁書の以下の文言も100発100中論の危機管理で成り立っている。

 「一般論として申し上げれば、弾道ミサイルに搭載された化学兵器については、弾道ミサイルの破壊時の熱等により、無力化される可能性が高く、仮に、その効力が残ったとしても、落下過程で拡散し、所定の効果を発揮することは困難であると考えられる」

 この文言はあくまでも「破壊」した場合に限った、いわば100発100中であった場合のみ有効な安全性の保障であって、安倍晋三が国会答弁したように可能性として否定できない「ミサイル防衛能力をくぐり抜けて着弾するという事態」が発生した場合は、即ち「破壊」できなかった場合は口先だけの安全性の保障に堕すことになる。

 ところが一方で100発100中だとしていながら、「その詳細についてお答えすることは差し控えたい」と前置きしているが、「政府としては、国民の命と平和な暮らしを守るため、あらゆる事態に万全の備えを整備しておくことが必要であると考えており、サリン等の化学兵器が搭載された弾道ミサイル対処についても、不断の検討を行っている」と、あらゆるケースに備えた危機管理に手を尽くしているような矛盾したことを言っている。

 こういったことを考慮せずにこの答弁書が確約している北朝鮮の弾道ミサイル発射に対する日本の防衛システムの危機管理上の安全性の保障だけを信じた場合は一歩間違うと、国民の生命と安全に関して安全神話を成り立たせかねない。

 迎撃ミサイルの100発100中と言うことはそういうことであろう。

 この答弁書は安倍晋三の国会答弁の“非安全性”と矛盾する“安全性”の保障となっているが、あるいは安倍晋三の国会答弁の“非安全性”とこの答弁書の“安全性”の保障とは矛盾することになるが、この答弁書とも、安倍晋三の国会答弁とも矛盾する“非安全性”を示すことになる国民生活に関した危機管理が繰り広げられている。
 
 政府が内閣官房を先頭にして自治体と手を組んで各地で実施している、北朝鮮から発射された場合の「弾道ミサイルを想定した住民避難訓練」のことである。

 政府答弁書が保障するように日本の迎撃ミサイルが100発100中であるなら、「弾道ミサイルを想定した住民避難訓練」は必要ない。

 この矛盾にどう整合性をつけるのだろうか。

 安倍晋三が国会で答弁したように迎撃ミサイルが100発100中ではなく、「サリンを弾頭に付けて着弾させるという能力については既に北朝鮮は保有している可能性」を事実としているなら、「弾道ミサイルを想定した住民避難訓練」がサリン等の化学兵器搭載、あるいは核搭載の弾道ミサイルの地上着弾を受けた毒ガス拡散・放射性物質拡散を想定した内容となっていない国会答弁との矛盾はどう整合性をつけるつもりなのだろうか。

 整合性を何ら付けないままの「国民の生命・財産を守る」はカラ約束に過ぎない単なるスローガンと化す。安倍晋三たちはカラ約束のスローガンで、「国民の生命・財産を守る」を繰返し口にしていることになる。

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