次期衆議院議員選挙 争点とすべき 2つのこと ◎森友・加計政治関与疑惑にまみれた 指導者を続投させるべきか否か ◎成長実感ゼロのアベノミクスを 効果があると見せかける幻想に 今後も付き合うべきか否か |
米大統領トランプは2017年9月19日、国連総会で初演説、「私は、あなたたちが自分の国を第一に考えるのと同じように常にアメリカを第一に考える」と述べたとマスコミが伝えていた。
如何にも対等に聞こえるが、カネ持ちの大国が自国第一で考えるのと貧しい国が自国第一で考えるのとは自ずと違いがあり、違いが出てくる。前者は益々カネ持ちになり、後者は何らかの地下資源、その他の資源に恵まれていなければ、あるいは最低限、民主的な政治指導者という人的資源に恵まれなければ、国民の貧しさはジリ貧状態に陥って、両者の格差は常に拡大傾向を取ることになる。
トランプからしたら、このようなことは自国第一主義の前に思考の形さえ取ることはないのだろう。
トランプの北朝鮮に関する国連演説要旨を以下の記事から引用してみる。文飾と当方。
「日経電子版」(2017/9/20 12:38) 【北朝鮮】 一、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制は向こう見ずで下劣だ。核・ミサイル開発を無謀に追求し、全世界に脅威を与えている。 一、北朝鮮は自国民を飢えさせ、弾圧している。罪のない米国民を拘束、スパイ教育のために海岸から13歳の日本人の少女(横田めぐみさん)を拉致した。 一、北朝鮮が敵対的な姿勢をやめるまで、孤立させるために全ての国が連携する時だ。 一、北朝鮮の脅威により米国が自国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる。 一、ロケットマンの金正恩氏は自殺行為を行っている。 一、北朝鮮は核放棄以外に未来がないと理解する時だ。 |
トランプは北朝鮮に拉致された横田めぐみさんのことを取り上げている。
もし北朝鮮がミサイル開発も核開発も放棄せずに米本土に到達する核搭載のICBMを手に入れ、その実験を繰返し、数を増やしていって近隣諸国のみならず米国の安全保障が危険に曝された場合は、「北朝鮮を完全に破壊する」以外に選択肢はない。
いわば“北朝鮮完全破壊”宣言となっている。
アメリカの軍事力を以ってすれば、「北朝鮮を完全に破壊する」ことなど簡単なことだろう。但し一方的にそうすることが可能なのかどうかが先ず第一に問題となる。
一方的に“完全破壊”が可能だとしても、米国その他の国の安全保障を名目とした金正恩に対する敵意・憎悪の“完全破壊”の代償が北朝鮮国民にも同時併行の形で降りかかることになる。
いわば“完全破壊”は金正恩独裁体制のみの対象で終わらずに国民をも対象とすることになる。
それが“完全破壊”である以上、実行された場合は国民を対象とした犠牲も徹底的な惨状を極めることになる。
そうなっても構わない計算の上で北朝鮮国民を巻き込む“完全破壊”の警告を行ったのだろうか。
それとも可能な限り国民を“完全破壊”の対象から外すことができる金正恩独裁体制のみを“完全破壊”の対象とした軍事攻撃が可能だと計算しているのだろうか。
問題はもう一つ。北朝鮮側の軍事的反撃を一切封じ込めることのできる“完全破壊”を目指したアメリカ及び日本などの同盟国の軍事攻撃は可能かである。
トランプはこの点に触れていない。反撃封鎖可能の策を頭に置かずに“北朝鮮完全破壊”説を国連総会で勇ましく唱えたのか、それ相応の痛手を被る覚悟で唱えたのか。
後者だとすると、アメリカや日本などの同盟国及びそれぞれの国民も北朝鮮国民と同様、北朝鮮国民よりもひどくないかもしれないが、“完全破壊”の代償を受けることになる。
要するに「北朝鮮の脅威により米国が自国や同盟国の防衛を迫られ」た場合は「北朝鮮を完全に破壊する」と警告を発し、実際に迫られて“完全破壊”を実行するという問題だけで済むわけではない。
トランプは国連総会という世界的な公の場で“北朝鮮完全破壊”宣言を唱えた以上、その“完全破壊”の対象が金正恩独裁体制だけで完了させ得るのか、北朝鮮国民をも巻き込む“完全破壊”となるなのか、はたまた“完全破壊”の代償が北朝鮮の反撃という形を取ってアメリカや同盟国及びそれぞれの国民にも及ぶのか、全世界に向けた説明責任を負うはずだ。
トランプはまた、「スパイ教育のために海岸から13歳の日本人の少女を拉致した」と横田めぐみさんについて触れている。触れているだけで、救出方法についての言及はない。
米国が北朝鮮に対して“完全破壊”の軍事行動に出た場合、もしそれが金正恩独裁体制のみを対象とせずに北朝鮮国民をも巻き込む“完全破壊”であったなら、日本人拉致被害者だけではなく、拘束されている米国民の生命の安全との兼ね合いはどうなるのだろう。
助かる、助からないは“完全破壊”の偶然に任せるのか、軍事行動前に成功確率100%の何らかの救出作戦を講じるのか、どちらかを頭に置かないままに拉致された日本人、あるいは拘束された米国民に一方で触れながら、他方で北朝鮮の“完全破壊”を唱えること自体が矛盾することになる。
事はそう簡単ではない。北朝鮮に対してミサイル開発・核開発を放棄させることも、最終手段として軍事攻撃に出たとしても、事は簡単に済むわけではない。
当然、国連総会演説で言葉強硬に警告を発すれば、それで片付くというわけでもない。このことはトランプの演説に金正恩が早速反応した「史上最高の超強硬な対応措置の断行を慎重に検討する」とした言葉に現れている。
この「史上最高の超強硬な対応措置」とは北朝鮮外相が「太平洋上での水爆実験」ではないかと自らの憶測を述べている。
「慎重に検討」だから、トランプの“完全破壊”と同様、実行されるかどうかは不明だが、言葉を用いただけの実行されない警告、あるいは挑発の応酬が常態化した場合は双方共に犬の遠吠え視されることになって、そのように解釈されないために言葉に出したとおりの行動に無理やり出ると言うこともある。
アメリカが“完全破壊”の軍事攻撃に出る前に北朝鮮側からの軍事挑発という危険性も可能性としては十分に考えられる。双方共に軍事色を全面に出せば出す程に衝突の危険性は高まる。
少なくともトランプの国連総会演説は北朝鮮を軍事的に刺激するには十分過ぎる言葉となっている。そして今のところ、それは逆効果となって現れている。
逆効果はまた、双方に対して軍事色を高めるキッカケとなり得て、世界最強の軍事大国アメリカ大統領としてのトランプの“北朝鮮完全破壊”が実行に移される現実味を少しずつ増していくことになる。
実行に移された場合、どういった破壊の形を取るのか、全世界に向けた説明責任を負うと既に書いたが、説明のために残された時間は衝突の危険性が高まるのとは逆に少なくなっていく。あるいは早急に必要となり得る場合もある。
逆効果は拉致被害者に対しても敵国人としての色合いを増していくことでもあるから、何らかの良からぬ影響を与えるはずだ。
河野太郎はトランプが演説で横田めぐみさんのことに触れたことを「高く評価する」と述べ、安倍晋三は「めぐみさんの両親、拉致被害者、家族にとって非常に勇気づけられるメッセージだった」と謝意を示したとマスコミは伝えているが、トランプの“北朝鮮完全破壊”演説の逆効果を考えることができない無責任な発言となっている。