◆マリアナとの連絡強化と自衛隊の展開能力向上
社会民主党が連立政権から離脱してしまい難しくなったのですけれども、本日はテニアンに関する話題。コツコツ書いていたら鳩山内閣も飛んでしまい、ちょうど参院選が近いからだれか書くかとマニフェストを俯瞰してもそういうものは無く、掲載する機会を逸していたのですが、まあ、掲載です。
自衛隊の訓練をできる限りテニアンに移転させて日本国内の基地発着数に余裕を持たせて、そこの余裕に米軍の沖縄で行っている戦闘機部隊の訓練を移転させては、という提案。そうすれば沖縄での訓練が本土に移転できますから負担軽減になります。加えてテニアンで訓練を行うことの意義と、実施する上で自衛隊が増強しなければならない装備品なんかについても少し考えてみましょう。
テニアンは過疎化と経済的な面で基地を必要としているとのことで、相当高密度の訓練も受け入れることが出来るとのことです。普天間飛行場移設問題は、日米合意で既に示されているように海兵隊の台湾海峡や朝鮮半島での事態に対処するための観点から沖縄より動かすことができない、という厳しい現状があります。一方で、普天間飛行場の訓練移設の問題にしても、訓練は発着訓練も相応に行われてはいるものの、北部訓練場や伊江島補助飛行場などで行われる海兵隊訓練との連動を考えれば単に飛行場さえあればいい、というものでは無かったのです。
しかし、沖縄の基地問題にはアメリカ空軍嘉手納基地から発着する戦闘機の爆音などほかにもこの種類の問題はあるわけで、鳩山首相は訓練の圏外移転を提示しています。海兵隊のヘリコプター部隊を訓練移転させるには演習場に近い飛行場が必要となるので、静岡県の富士演習場付近に、CH53を中型機発着枠で離着陸料を国庫から負担して富士山静岡空港に移転する方式や、鳩山総理のお膝元、帯広周辺の鹿追地区と帯広飛行場で訓練を一時的に、というくらいしか海兵隊と交渉できる余地はありません。
そこでもう一つ問題となったのは沖縄県の海兵隊訓練や空軍の訓練で受け入れられる負担はかなりもう全国に分散している、という現状でした。海兵隊の砲兵部隊による実弾射撃は東富士演習場に移転されていますし、嘉手納基地の発着訓練はかなりの回数が全国の航空自衛隊基地へ日米共同訓練という形で移転しているのですけれども、航空自衛隊基地周辺のも多くの住民がいますので移転するには限界があります。
また海兵隊の砲兵部隊の訓練は東富士演習場に移転されており、九州の日出生台演習場などにも各種訓練が移転され、沖縄の負担軽減に寄与しています。実のところ陸上自衛隊の規模を考えるならば現時点でも演習場は不足気味である中、海兵隊の訓練移転を受け入れているのですから、これ以上の負担を受けるとなりますと、今度は陸上自衛隊の訓練が不足、有事の際に人命に関わることとにもなります。
そこでテニアン、が浮かぶわけです。航空自衛隊や陸上自衛隊の訓練だけでもテニアンへ移転するできないか、という話です。テニアンは日本本土からは確かに距離がありますけれども、米軍を始め演習が行われている島でもあり軍事演習には一定の理解があります。海兵隊に日本国内の演習場を一部使わせる分、自衛隊の演習をテニアンで行い、日米合同演習という形で空軍に日本国内の自衛隊基地を使わせる分、テニアンにおいて本格的な訓練を実施する、ということです。
テニアンにおいて自衛隊が訓練を行う、ということには現在の保有している空中給油機を増勢しなくては戦闘機部隊のテニアン展開を支援することはできませんし、硫黄島を筆頭に小笠原諸島における給油施設を中心とした基地機能の強化を行う必要がでてきます。しかし、これらの地域は昨今中国海軍の行動が顕著である地域であるとともに日本の防衛の真空地帯として自衛隊の配置が疎らな地域でもあります。先日本Weblogで紹介した沖ノ鳥島補助飛行場案の背景、南西諸島と小笠原諸島島しょ部の防衛強化に寄与することになるでしょう。
また、テニアンにおいて陸上自衛隊の訓練を行う、陸上自衛隊の演習部隊を日本全国の港湾施設からテニアンへ海路で移動することが主となります。これを実現するには海上自衛隊の輸送艦部隊を強化しなければ実現しないのですが、輸送艦の増勢は同時に有事における自衛隊の緊急展開能力を向上させることにもなります。輸送艦の増勢には必然的に予算の増額が必要となるのですけれども緊急展開能力の充実は捨てがたい利点といえましょう。
陸上自衛隊は冷戦時代にソ連軍の軍事的圧力をもっとも受けていた北海道に全13個の師団のなかの4個師団を配置して、その4個師団に優先的に装甲車や新型戦車を配備、火砲の自走砲化等を精力的に実施、本州配備の師団よりも火力や機動力、装甲防御力等の面で優遇されていました。現在は小型装甲車やミサイル等の面で本土の師団の砲が優遇されているのですが、北方の脅威が薄まったことで、北海道の部隊が無駄になっているのではないか、という声も聞かれるようになったわけです。
しかしながら、北方の脅威は再び増している状況ですし、日本周辺に機甲戦力を伴う対処能力が必要な脅威が北方以外に不在かと問われれば、南西諸島や九州に健在ですし、ゲリラコマンドー対処が必要な北陸地方を含めた日本海側にも対処能力として機甲部隊は必要です。それならば西部方面隊や中部方面隊に移管すればこうした冷戦型という批判も当たらないのでしょうが、演習場の問題がでてきます。
生地演習というかたちで住宅街や農村で戦車の機動訓練だけでも実施できれば、まだ問題は少ないのでしょうけれども、日本ではこれが難しい。西部方面隊では演習場が不足している中で米軍の訓練を受け入れている、中部方面隊管内には大演習場が無く、中演習場も少ない状態、一部は東部方面隊管区の東富士演習場まで展開して演習を行っている状況です。
つまり、北海道の師団や旅団が高い能力を発揮できるのは重装備に見合った広大な演習場に隣接し訓練を行っているからでして、北海道に駐留してこそ、九州や南西諸島、北陸での有事に高い能力をもって対処する能力が維持できるわけです。
ここで、海上自衛隊や航空自衛隊の輸送能力、陸上自衛隊の戦略展開能力が現状では低いため、有事の際には北海道から全国に迅速に展開することが難しい状況を解決する必要がでてくるのですが、テニアンでの陸上自衛隊訓練、という形で部隊を遠隔地に展開させる能力を保持させれば、この問題は幾分か解決させることができます。
また、航空自衛隊の訓練もテニアンに極力移動させることで本土基地からの長距離飛行訓練が可能となり、例えば中部日本の基地から南西諸島への展開を想定した訓練を実施することも可能です。訓練を繰り返せば、飛行隊が整備補給機能を含めて長期間展開する場合にはどの程度の空輸能力が必要となるのか、という問題に明確な答えを導き出すことができます。
結果的に、輸送艦や輸送機、空中給油機の必要定数を増加させるものになりますので、自衛隊の展開能力は引き上げられます。そして、必然的に防衛予算の規模についても上方修正が必要となり、沖縄の基地負担軽減にかこつけた一種の軍拡なのでは、という指摘が出てくるでしょう。しかし、どうあっても自衛隊の展開能力の確保は喫緊の課題なのですし、機動力の向上により将来、部隊数や配置などを見直す契機となることも考えられます。こうした観点からも、自衛隊の訓練をテニアンに移転する、ということが可能な規模の能力を保持する考えをもつ意義はあるでしょう。
HARUNA
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