◆大きな関心事である次期戦闘機の話題
次期戦闘機、F-22の航空自衛隊導入が米国での生産終了により、ほぼ不可能となって以降、あまり此処で扱ってきませんでしたが、昨日のコメント欄で少し触れましたので本日はこの話題です。
航空自衛隊は、千歳基地、三沢基地、百里基地、小松基地、築城基地に戦闘機/支援戦闘機二個飛行隊を配置、新田原基地、那覇基地に各一個飛行隊を配置して日本の長大な領空の対領空侵犯措置任務に当たっていて、飛行隊にはF-15J戦闘機を筆頭にF-2支援戦闘機、F-4EJ改戦闘機を配備、運用しています。日本列島の大きさをヨーロッパに当て嵌めれば北端をバルト海に置いた場合南端はアフリカ大陸に達するほどの広大な面積となっていて、広大な日本の領空を最小限度の極めて訓練され高い稼働率を持つ航空部隊で防空に当たっています。
この重責を担う航空自衛隊の戦闘機で最も古いのは基本設計が1950年代のF-4戦闘機で、近代化改修によってF-16に匹敵する能力を保持しているとされるのですけれども、どうしても機体そのものの古さは否めません。しかし航空自衛隊が必要としているステルス戦闘機は艦載型がようやく初飛行を果たした開発中のF-35か対外供与不可能の機体F-22で修得することは不可能、いっそのことF-16でもライセンス生産するかF-2の増産を行いF-35の完成を待つのはどうか、と書いたのですが新政権が出来ましたので改めて記載する事としました。
F-4EJ改の後継機ですが、航空自衛隊の戦闘機は伝統的に米空軍の制空戦闘機が充てられてきましたので、レーダーに探知される前に攻撃を行う事が可能で、電子戦状況を即座に把握し逆に目標を妨害、近接戦闘に入れば航空力学の粋を結した機体形状と推力偏向装置により瞬時に目標を攻撃するうえで最適な位置に展開することが可能であるF-22が航空自衛隊に配備されるだろう、と考えられていたものの、F-22はアメリカ以外に配備することが難しい程に機密情報をソフト、ハード共に織り込んだ機体で、輸出を行う事は難しく、仮に輸出が実現したとしても運用をアメリカ以外が行う事は技術的や機密保持の観点から難しく、輸出型を開発するという議論のさなかに生産終了が決定してしまいました。
航空自衛隊の次期戦闘機ですが、伝統的に航空優勢確保を最重要視してきた航空自衛隊の戦闘機なのですけれども、昨今では敵基地を攻撃する策源地攻撃能力、というものが必要だ、と考えられるようになってきました。つまり北朝鮮弾道ミサイル事案等に対処するために次期戦闘機へ対地攻撃能力をどの程度重視するか、ということが次期戦闘機を選定する一つの要素となってくるでしょう。そしてもう一つは、本年末に改訂される日本の長期的防衛政策の指針、防衛大綱に戦闘機定数がどのように記載されるのか、という事によっても機種選定は左右されてくる、と考えています。
防衛省の掲げる候補としてはF/A-18EとF-15E,そしてタイフーンが考えられています。空母艦載機として空母機動部隊の打撃力と艦隊防空を担うF/A-18E,強力な戦闘爆撃機であるF-15E、そして欧州機のユーロファイタータイフーンはF-22に準じる制空戦能力とF-35に準じる対地攻撃能力を有する、とされます。この中で、一番無難なのはF-15Jとしてある程度運用実績があるF-15Eなのですが、F-15系列の機体に何らかの共通運用障害が出た場合にはF-2しか防空を担えなくなるという難点があります。F/A-18Eですが、比較的取得費用も低く高度な機体なのですけれども空戦性能では機体重量に対してエンジン出力が充分ではないという難点があります。タイフーンは空戦性能では卓越したものがあるのでしょうが、欧州機ということで段階性能向上にかかる費用が大きいという難点があります。
個人的に推すのは、空対空能力が高いユーロファイタータイフーンか、候補には上がっていませんが現在生産が継続されているF-2支援戦闘機を増産する方向性、というところでしょうか。航空自衛隊の運用を考えますと、空対空戦闘の能力が高い機体が望ましいのですが、前述の通り対地攻撃能力が必要となる時代です、この点、F/A-18EやF-15Eは秀でているのですけれども、対地攻撃を行うとしてもその為の訓練を実施しなければ、装備だけ揃えても実任務には充てられません。しかし、日本周辺で海上における低空飛行を除けば低空侵攻を含む空対地攻撃の訓練、というのは難しい面がある訳です。米軍機による日本での低空飛行訓練が問題となっているのですが、対地攻撃を実施するには相応の訓練が必要で、その訓練地が確保できない限り、やはり空対空戦闘に主軸を置き、同時に対地攻撃能力を副次的に考える、という方式でなければ能力を最大限に発揮することが出来ない訳です。もっとも、米軍基地を受け入れる、という発言を社民党に持ちかけてくれたテニアン等で航空自衛隊が基地を建設して射爆訓練や低空侵攻訓練を行えば違ってくるのですけどね。これはまた別の機会に考えましょう。
総合的に空対空能力と対地攻撃能力を踏まえた場合、タイフーンが航空自衛隊の現状に向いている機体、といえるのですが、一方で防衛大綱の戦闘機定数、という事を踏まえて考えますと、別の選択肢も浮かんできます。Weblog北大路機関ではかねてから南西諸島の防衛体制を強化するために那覇基地の第83航空隊を二個飛行隊基幹の第9航空団に改編するべき、と提起してきましたし、中国が将来的に航空母艦を運用する場合日本はこれまで考えてこなかった太平洋側からの空母艦載機による脅威にさらされる、として小牧基地か浜松基地と小笠原諸島に航空隊を配置して太平洋側の防衛体制を固めるべき、と記載してきました。三個飛行隊所要の航空機を増勢する必要がある、とした訳です。
仮に防衛大綱で日本周辺における経空脅威の増大を真摯に受け止め、戦闘機定数を現在の270機から350機程度に増勢することが出来るのならば、F-4EJ改の後継機は、その性能もさることながら、多数が必要、という事になりますので取得性を重視する必要が出てきます。つまり、日本でライセンス生産を行うとした場合で、極力安く調達し、部隊での運用も極力低い運用コストで実現でき、機数が増大する中で防衛予算への影響を極力最小限に収めることが可能な機体の導入が望ましい、という事になる訳です。
運用コストを低く収めるにはエンジンが単発である方が望ましく、そうなりますとF-2かF-16戦闘機あたりが妥当、となるのではないでしょうか。個人的に航空自衛隊が戦闘機定数の増勢に踏み切るのならば、候補にはF-2かF-16が妥当になるのだろう、と考えています。現在生産中のF-2であれば、これはアメリカと日本で共同生産を行っていて、アメリカでの生産終了が決定していますので増産への交渉か生産関連設備の買収が必要となるのですが、運用基盤が整っていますので新規に整備機材や予備部品のプールを構築する必要がありませんのですんなりと導入することが出来ます。F-16は搭載レーダーがF-2より小さいので総合的にはF-2に劣りますが、順次電子機器やエンジン等に近代化改修が加えられており、米空軍でも当分は第一線で任務に当たる機体です。F-4後継機と増勢分を含めれば100機以上になりますので、ライセンス生産の基盤を構築するにも充分な需要がありますから、F-16というものは選択肢に含められてしかるべきなのかな、と言える訳です。F-16C以外にF-16Eとして輸出用の高度な機体、こちらは取得費用も高いのですが、あります。エンジンを含めF-2と共通化できる部分が少しでもあれば、運用コストを低減させることも出来ます。
ここまで読まれた方の中で、そもそもライセンス生産や国産に拘らず外国で大量生産されている戦闘機を直輸入した方が安いのでは、と思われるかもしれませんが、実は直輸入を行うと稼働率が低くなる、という問題点があって現実的ではありません。日本で生産している場合ならば何か故障が起こっても日本で部品を修得することが出来ます。しかし、直輸入を行った場合、例えば機体の脚が誘導路でマンホールに落ちてしまった場合、自国内で修理が難しくなります。これは韓国で実際にあったのですがF-15E(F-15K)がマンホールに嵌ってしまい衝撃で主翼を破損してしまうという事故がありました。直輸入していた韓国は生産しているアメリカのボーイング社から支援が行われるまでどうにもならなかった、という事があります。日本であれば脚の不具合でF-15が胴体着陸した際にも日本国内で修理することが技術的に可能でした。メーカー整備も日本は国内で実施できますし、予備部品も国内で調達できるものが多く、導入した機体の大半が飛行可能な状態に維持できます。しかし、韓国をはじめNATO以外の国では稼働率は半分ぐらいしか無く、例えば100機稼働できる戦闘機が必要な状況では日本ならば100機強の戦闘機を揃えれば対処できますが、半分しか飛べない空軍では200機を揃えなければなりません。
そしてもう一つ、直輸入に頼る場合、開発メーカーの支援が無ければ整備も行う事が出来ないのですが、この外国の開発メーカーによる支援が有事の際にも継続されるか、という事が未知数というリスクがあります。過去にサウジアラビアであった実例では、イギリスのBAE社の技師がアルカイダ系テロリストにより殺害され、事態を重く見たBAE社は社員の安全を図るためにテロの危険のあるサウジアラビアから社員を退避させた事がありました。日本で有事の際に、外国からの技師に支援を受けて戦闘機を飛ばしていた場合に、コマンドー部隊の襲撃を受けたり、空襲の危険があるなどで技師が帰国してしまった場合、戦闘機の運用が難しくなってしまいます。この点、国内で整備基盤があれば問題のリスクは大きく低減させることが出来る訳です。こういう意味で日本はライセンス生産か国産で防衛装備を調達しているので、少なくとも有事の際に外国に泣きつく事無く、粛々と整備を行い修理を行う事で自国の防衛が成り立つようになっている訳ですね。まあ、戦闘機を800機位揃えれば、稼働率が低下しても部品の共食い等で飛べる機体の数を維持できるのでしょうが、これはこれで難しそうですね。
それでは緊縮財政を背景に防衛大綱で戦闘機定数が削減された場合はどうなるのか。F-4後継機を選定せず純減、というかたちになるのですが、その場合にも“日本を諦めない”といいますか、防空体制を維持するのならば、米空軍のF-15Cのゴールデンイーグル改修のようにF-15Jを近代化改修で対処する事となります。米空軍は数が充分ではないF-22を補完するべく、F-15Cのゴールデンイーグル改修を実施しています。アクティヴフュ-ズドアレイ方式のAPG-63V3レーダーを搭載して索敵距離を2~3倍に増大させ、一方で可動部分が減少することで信頼性は50倍以上になるとのことです。更にレーダー妨害型曳航式デコイにより空対空ミサイルからの生存性を向上、IRST(赤外線追尾装置)を搭載してレーダーを用いない状況での航空戦対処能力を付与させて、データリンク装置も最新型としたのがゴールデンイーグル改修です。4月にフロリダ州の第159飛行隊に配備が始まり、今年中に48機が改修を受けるとのことで最終的に170機以上を改修するとの計画です。航空自衛隊の段階近代化改修よりも高い能力が付与されていて、仮に航空自衛隊の戦闘機定数が縮減されるのならば、F-15により高度な改修を行う必要が出てくるでしょう。もっとも、ボーイング曰くそこまで改修するのならば新造機を調達してもいいのでは、とも言われています。
現行定数を維持するのならば空対空戦闘に秀でたタイフーンか運用基盤の確立しているF-2,演習場環境をテニアンなどで強化するのならば対地攻撃能力が高いF-15EかF/A-18E。防衛大綱の定数を増加させるのならば安価で多用途性の高いF-16かF-2。防衛大綱での戦闘機定数が財政難を理由に縮減されるのであればF-15Jに対して米空軍のF-15C並の近代化改修を行う。いずれにしてもライセンス生産の体制を維持することで最小限の機体を高い稼働率で防空任務の完遂に充てる。これが一つの次期戦闘機への方向性、というところでしょうか、こう考えました次第です。
HARUNA
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