◆佐世保で最初に乗った護衛艦
ミサイル護衛艦さわかぜ、意外に思われるかもしれませんが、私が初めて見学した護衛艦は、ミサイル護衛艦さわかぜ、です。そして初めて見た海上自衛隊の基地は大村航空基地、初めて見学した基地は佐世保基地です。
さわかぜ、に乗ってみえた方もこの記事を読まれたりしているのでしょうか、許す事ならば今一度さわかぜ、を見学したいのですが、どうやら叶わず終わるようです。明後日25日、ミサイル護衛艦さわかぜ、は自衛艦旗を返納、1983年から27年の現役時代を終え護衛艦籍より除籍されます。個人的に別れを惜しみたいのですが、一方で今月だけでかなりの護衛艦が除籍されます。そして代替艦は建造されません。さわかぜ、以外にも今月末には、はつゆき、ゆうばり、ゆうべつ、と4隻が除籍され、代替艦が建造されませんでしたので、実に一割近く、海上自衛隊の護衛艦数は少なからず減退します。
ミサイル護衛艦さわかぜ、は護衛艦隊直轄艦として横須賀基地船越地区の自衛艦隊司令部前に停泊している事が多いのですが、当方が大昔見学したときは佐世保基地の第62護衛隊に所属していました。護衛艦あさぎり、が沖留で、こんごう、は長崎で修理中。桟橋までは、米軍基地の中を通過して、自衛隊の護衛艦を見学するのに米軍地区を通らなければならない事に非常な衝撃を受けたのですが、127㍉砲がいかつい強襲揚陸艦ベローウッドを間近に見て衝撃を受けたのも、その時なのですが、思えば、ひゅうが型を含め、あれから海上自衛隊は大きくなったものです。
ベローウッド程ではないにしろ、確かあの時は、おおすみ型も建造中、アメリカと対等な関係を目指すためにはもっと日本も防衛力を高めなければならないのでは、航空母艦を独自に持たなければ、と、思ったりもしました。まあ、当時読んでいた鳴海章氏の“原子力空母信濃”シリーズに少なからず影響を受けている訳ではあるのですけれどもね。そういえば、佐世保に行ったときは、まだ、ヘリコプター搭載護衛艦はるな、の母港が舞鶴では無く佐世保の時代、第3護衛隊群旗艦でしたけれども、くらま、と並んでいた時代ですね。
さわかぜ、は、たちかぜ型ミサイル護衛艦の三番艦として1983年に就役した護衛艦で、満載排水量5200㌧、航空機に対処する射程の大きいスタンダードSM-1ミサイルを運用する護衛艦として建造されました。今ではイージス艦が就役して旧式、という印象を持たれる方が多いかもしれませんが、順次戦闘システム等を近代化しているので、防空艦としての性能は高い水準にあるようです。艦後部に搭載されたMk13ミサイル発射機には40発のミサイルが搭載されていて、さわかぜ、はスタンダードSM-1艦対空ミサイルか、ハープーン対艦ミサイルを運用することが出来ます。
さわかぜ、は、後部マック、マックとは煙突とマストを一体化した構造物の事なのですが、その頂点に取り付けられた三次元レーダーで発見した目標情報から艦内の戦闘システムを通じて最も脅威度の高い目標を選定、Mk13からミサイルを発射します。マックの後部に取り付けられた二基のイルミネーターが命中まで誘導して、撃破します。イルミネータが二基なので、同時に二つの目標しか誘導対処できない、と誤解されているのですが、実はもっと複数の目標に対処できます、数はお教えできませんが、と佐世保基地で教えてもらいましたのを今思い出しました。
さわかぜ、ですが、実は海上自衛隊が最後に建造した蒸気タービン推進方式の護衛艦であったりします。かつては護衛艦と言えば蒸気タービン推進方式が主流でした。ガスタービン艦は、加速性や機関始動の早さなどで利点がある一方、航空機と同じようなジェットエンジンを搭載していますから非常に軽量で多くの空気と排気を必要とします。一見利点にみえるのですが、艦の心臓部に軽量なエンジンを搭載するとトップヘビーになってしまいますし、排気が多いという事はファンネルが大型化してしまい、ステルス性の面で影響が出てしまいますし、風圧面積も大きくなり操艦にも影響が出てきます。
蒸気タービン推進方式でもう一つ利点は、推進力を創出する過程で海水を焚いて多くの蒸気とともに真水が生成できますから、ガスタービン艦と比べて入浴や生活用水の面で多く使えるのが利点です、と佐世保で教えてもらいました。水に独特の風味が付いてしまうという声もあったのですが、ガスタービン艦は真水の生成に専用の濾過装置が必要な一方、蒸気タービン艦は進むだけで真水を生成できる、ということは利点なのかもしれません。なお、海水を循環させる関係か、ガスタービン艦は定期整備が四年に一度でいいのに対して、蒸気タービン艦は三年毎に重整備が必要、というのが運用コストでは難点といえるやもしれません。
さわかぜ除籍は、もうひとつ、海上自衛隊史の転換点となるかもしれません。さわかぜ、は直轄艦ですが、旗艦ではありません。護衛艦あきづき、以来、むらくも、たちかぜ、と護衛艦隊は旗艦を隷下に有してきましたが、たちかぜ、を最後に機関、という位置づけは無くなり、直轄艦というかたちとなりました。護衛艦隊司令部は必要に応じて展開し、必要が無い場合は特定艦艇を旗艦とするのではなく、陸上に、という意味な訳です。現在のように通信技術の発展した時代においては洋上に艦隊司令部を置く、という意味合いは薄れたのですが、指揮先頭という伝統のみ維持されていました。
今週末は日米安全保障条約締結50周年を記念し、晴海埠頭において米海軍第七艦隊旗艦ブルーリッジと海上自衛隊からは護衛艦ひゅうが、が電灯艦飾を実施します。ひゅうが、は第1護衛隊群所属ですが、護衛艦隊は、さわかぜ除籍をもって直轄艦を持ちませんので、ひゅうが、が参加する、というかたちになるわけです(もっとも、むらくも、たちかぜ、が現役の時代から、ブルーリッジの姉妹艦は、しらね、でしたが)。たちかぜ、除籍を以て、護衛艦隊旗艦は無くなり直轄艦のみが維持されていたので、旗艦、という位置づけは無くなったのですけれども、護衛艦隊司令官の艦が無くなる、というのは一つの転換点となるのではないでしょうか。
無論、ひゅうが型が就役して以来、多目的空間の容積では従来型の護衛艦を転用して対応できるものではなく、たちかぜ、では後部52番砲を撤去して司令部設備を設けたのですが、通信能力その他を加えて、指揮系統を担うには不十分、という面があったのは否めません。しかし、艦隊司令官が座乗する護衛艦が、これまではあったのに、今後は無くなる、場合によっては群司令と同乗する可能性も出てくる、という一点は、転換点になるのではないでしょうか。初めて乗った護衛艦の除籍、という一点とともに最後の直轄艦の除籍、式典に参加することはできませんが、しみじみと感じています次第。
HARUNA
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