◆平成23年度防衛予算に調達を盛り込む方向
航空自衛隊の次期戦闘機に関して、来年度予算に数機の調達費を盛り込む方向で最終調整に入った、と中日新聞が報じました、後継機選定が為されるという事は戦闘機数純減で防空体制に真空地帯を生む事は無い、という意味が大きいのでしょうか、本日はこの話題です。
鳩山内閣が安全保障問題といえば普天間一本という状態になっていたのを最後に菅内閣への交代を経て久々の次期線と気に関する話題を中日新聞からの引用です。次期戦闘機予算計上へ・・・2010年6月26日 朝刊: 次期戦闘機(FX)の選定作業を進めている防衛省は、来年度の防衛費にFX数機の購入費を盛り込む方向で最終調整に入った。
総額1兆円近い「巨大航空商戦」の入り口となる機種選定には、米政府の意向や防衛産業の思惑が複雑に絡む。菅政権にとって「第2の普天間問題」ともいえる難問となりそうだ。候補機種は当初の6機種から、米国のF35(ロッキード・マーチン社)、FA18E/F(ボーイング社)、欧州共同開発のユーロファイター(BAEシステムズ)の3機種に絞り込まれた。
機種選定の基準となる要求性能を公表すれば、選定作業が本格化する。防衛省は要求性能を3機種すべてに該当する「(レーダーに映りにくい)ステルス性を持つ多目的戦闘機」とする方向だ。世界一高価とされた準国産のF2戦闘機(約120億円)を上回る1機150億円前後の超高額機となる見通し。
数年かけて2個飛行隊分(約50機)を導入する。年末の予算案決定までに機種が決まらない場合、予算枠だけ確保して機種決定を先送りする手法も検討されている。引用は以上です。それでは、この記事を元に少し考えを進めてみましょう。http://www.chunichi.co.jp/article/politics/news/CK2010062602000045.html
この問題が複雑化したのは、日本の航空自衛隊がぜひとも必要、としていたステルス戦闘機F-22が、機密性が高い機体という事で導入が出来なくなり、さりとて次の候補が無い、という状況に陥った事です。F-22は平時の任務では増槽を取り付けてレーダー反射面積を大きくしてステルス性がどの程度かわからないようにするほどの航空機です。航空自衛隊の基地にズラリと並べるのは難しかったようですね。
しかし、現在運用しているF-4は幾多の近代化改修を受けて高性能な機体ではあるのですが、基本設計は1950年代、航空自衛隊の導入が決定したのも1960年代で、配備が1970年代の戦闘機です。現在は、F-15戦闘機に隊領空侵犯措置の任務を譲り、対艦ミサイルを搭載して支援戦闘機に使えるようにするなどして頑張っています。しかし、144機が導入されたF-4は順次F-2等他の戦闘機に置き換えが進められたのですが、二個飛行隊分のF-4が残ってしまいました。
これをどうするか、2002年頃から大きな話題となっていました。40~50機なのだからさっさと決定できないのか、と思われるでしょうが、何十年も使うのですし、予備部品の調達や教育訓練体系、機種が増えるのならば予備の機体の装備も真剣に考えなければなりませんし、そろそろF-15Jの後継機も考えなければならない時期ですから、50機を調達した後で、更に調達される事も考えなければなりません。
航空自衛隊の戦闘機数は現時点で270機、と決められているのですが、それに機種によって整備に必要な労力や稼働率の問題、ライセンス生産が行えるのか完成機を輸入するのか、メーカーからのサービスが有事に突如遮断されるようなことは無いのかなど、異なる事はあありますから、広大な日本の領空を270機という限られた戦闘機の数で守る事は出来るのか、将来中国が開発する新型機やロシアのステルス戦闘機に対処できるのかを含めて、考えなければならない事は山のようにある訳です。
記事を読んでいて、機種選定の基準となる要求性能を公表すれば選定作業が本格化する、という部分ですが、現時点までに、そこまで本格化していないのかな、とも読み取れて意外な感じがしました。一方で“多目的戦闘機”という表現が用いられていますので、制空戦闘機、という位置づけでは無く、北朝鮮の弾道ミサイル事案の際に言われる“敵基地攻撃能力”などを意図しているのだな、と。
もっとも気になったのは、予算枠だけを確保して機種決定を先送りする手法、というものです。機種決定、というのは実は有力視されている機種の中で最もステルス性と対地攻撃能力が高いF-35戦闘機ですが、まだ開発中の機体で、国際共同開発という事で技術移転の遅れや開発意図、要求性能の変化により開発費が高騰していて、中々完成して実戦配備される目途が立たないのです。
F-35は開発参加国に優先配備されますから、待っていると2015年どころか2020年近くまで待つことになる可能性もあります。それに国際共同開発ですからライセンス生産が認められる可能性が難しく、開発に参加した各国と個別に交渉する必要があります。タイフーンは欧州機ということで、運用思想や整備補給に関する考え方が今まで装備していた米軍機と違う点があるのですけれども、制空戦闘から対地攻撃まで優れた機体です。
F/A-18Eは海軍の空母艦載機ですが、上記二機種と比べれば安価、というのが利点でしょうか。言い換えれば、ステルス性の高いF-35に固執するか、手堅い選択肢の中で米欧を選択するか、というのが大きな点となるのでしょうか、予算枠だけ、という事はF-35への思い入れの大きさを示すとも受け取れます。他方、後継機という概念が残っているという事は、長い事危惧されていた“財政難によりF-4後継機は選定せず純減”という日本の防空体制に真空地帯を生みだす決定は、菅内閣でも為されなかったとのこと、最低限の安心は出来るようです。なにせ、欧州のように冷戦後は国籍不明の軍用機による対領空侵犯措置が大幅に減る事は無く、先日も爆撃機による東京への接近、いわゆる東京急行があったばかりなのですからね。
記事を細かい部分で読んでみますと、次期戦闘機の選定は二本の航空防衛体制を考えれば非常に大きな問題ではあるのですが、第二の普天間問題、というとまだ取得する機種が決定していない訳で日米の合意を訳のわからない理由で一方的に破棄しようとした普天間問題と比べれば、かなり大袈裟な印象はあります。
また、絞り込みのF-35、F/A-18E,タイフーンという三機種についても、2005年に一時名前が消えたF-15FXですが、その後の動向もある訳で、この点片手落ちかな、と思ったりしました。もっとも、記事としては大きなものではありませんので、このあたり妥当性を見出すことも出来るのですが。
ステルス性を持つ、というと一応F/A-18E/Fやタイフーンも低視認性という程度のレーダーに映りにくい工夫はしているのですが、レベルは航空自衛隊が運用しているF-2とあまり変わらないレベルですので、ステルス性をもつ、といわれても、・・・、まあ、F/A-18EはF-15Eよりはレーダーに映らないのですけれども、ね。また、F-2を世界一高価、と言われてもユニットコストでは導入当時でもそこまでは高くないのですよね、開発費も可能な限り抑えられましたし、ドルレートの関係でF-15も導入当時は相当高い値段を提示されていたのですし、まあ、気になる点は皆無ではないのですが記事が出ていました。
HARUNA
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