北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

尖閣諸島防衛への一視点② 航空自衛隊による南西諸島航空優勢維持

2012-09-19 23:53:15 | 防衛・安全保障
◆沖縄の那覇・嘉手納・普天間三基地を最大限運用
 時間があるというのは本当に心に余裕が持てる中の本日のお題は尖閣諸島、短期集中連載なので取り急ぎ。
Oimg_1903 南西諸島防空ですが、一部週刊誌などでは中国空軍の戦闘機数を挙げ、福州から尖閣諸島へ最短距離の、杭州より沖縄本島へ最短距離の経路から我が領空に一定数の部隊を送れば、比較的短期間に航空優勢を確保できる、という短絡的な内容が紹介されていたとのこと、校正されて誤字が無い分当方よりも、というかもしれませんが、この考えはあまりに短絡的と言わざるを得ません。何故ならば、その経路は確実に台湾空軍の介入を招くからです。そして、尖閣諸島方面へ中国空軍戦闘機の接近による対領空侵犯措置任務が実施されない背景にも台湾の存在があるという事を忘れてはならないでしょう、何故なら台湾にとっても重大な問題なのですから。
Oimg_1224 さて、先ほどのはなし、那覇基地にはF-15戦闘機一個飛行隊しかいない、ということを提示したうえでの内容のようですが飛んでもありません、航空自衛隊は飛行隊規模の展開訓練を実施しています。必要であれば本土から数個飛行隊を引き抜き、比較的短期間に沖縄本島の基地に展開、航空優勢を維持するに十分な部隊を揃えることは可能なのです。 具体的事例としては、2010年チリ地震津波災害に際し、松島基地よりF-2B一個飛行隊全てが小松基地へ緊急避難した事例があります。まあ、この事例を基に東日本大震災でも、津波到達まであと2時間あれば全機退避できた、という声にもつながるのですが、このほか、コープノースグアムやレッドフラッグアラスカへ飛行隊の半分程度に当たる飛行隊を展開させています。
Oimg_8185_1 沖縄本島には、那覇基地のほか、嘉手納基地、普天間基地があります。1997年の日米防衛協力に関する指針、いわゆる日米新ガイドラインでは有事に際し日米の基地を日米が使用できる内容を含んでおり当時は朝鮮半島有事がひっ迫しているといわれていた頃ですので、有事の際に米軍が自衛隊の基地を使用する部分ばかりが強調されていたのですが、日本有事の際に米軍基地を自衛隊が使用することが可能、本土からの増援部隊を沖縄の米軍基地に収容することが出来るのだ、という部分を覚えておく必要があるでしょう。
Oimg_1007 嘉手納基地、沖縄最大の米空軍嘉手納基地は3700m滑走路二本を有し、敷地面積は羽田空港の二倍、200機の航空機が展開する北東アジア地域最大の航空基地となっていますが、こちらは、奇しくも普天間基地問題において普天間基地機能の嘉手納統合案が出された際に、有事の際には350機以上の空軍機を搬入するため容認できないという表明を以て、その能力の大きさが改めて提示されることとなりました。あまり関係ありませんが、沖縄トラフ地震、かつての八重山地震規模の大津波が発生したとしても嘉手納基地の標高は44m、羨ましい。
Oimg_1587 普天間基地、2700m滑走路を有し、海兵隊の航空部隊一大拠点となっていまして、こちらも有事の際には回転翼機で300機程度を収容する航空基地であり、その面積は480.5ヘクタール、F/A-18CやAV-8Bを運用する海兵航空部隊の受け入れを想定する普天間基地は、必然的に戦闘機部隊の運用に必要な滑走路強度や支援設備の受け入れ能力を有していることになるのですから、航空自衛隊の航空団規模の部隊であったとしても、この受け入れ程度は十分可能であるわけです海抜は75mとのこと。
Oimg_3839 米軍が全域を使用している状態となれば航空自衛隊の受け入れは不可能になるのではないか、という危惧をも他tれるかもしれませんが、それは杞憂というもの、嘉手納基地に空軍機350機、普天間基地に海兵隊航空機300機が集中する状態というのは全航空自衛隊と陸上自衛隊の全航空機が展開するようなものですので、その状況で更に航空自衛隊が展開しなければならないとは考えにくいもの、抑止力の塊というべき状態、想定するような事態が実際に起こる前に封じ込められてしまうでしょう。
Oimg_2306 増援部隊は全国の航空団から飛行隊を抽出して一時的に展開させる方式を採れば、我が国の防空体制を維持しつつ戦力集中が可能です。例えば、北部航空方面隊から一個飛行隊乃至二個飛行隊を嘉手納基地へ、中部航空方面隊から一個飛行隊を普天間基地へ、もしくはF-15二個飛行隊を嘉手納基地へ展開させ、F-2一個飛行隊を普天間基地へ展開、このような措置を採ったならば沖縄の防空能力は一挙に四倍となり、加えて米軍基地の航空掩体などにより戦闘機を、例えば弾道ミサイル攻撃に際して有効に防護する余地が生まれますし、日米の地対空ミサイル部隊による迎撃もかなりの密度となります。
Oimg_3258 航空作戦の中枢、これを担うのは実際には消耗戦に行かに耐えるか、という側面が強いのですが、現代の消耗戦は、第二次大戦中のような数百機が入り乱れての航空作戦は装備の長射程化により起きにくくなっており、航空機そのものの消耗戦ではなく、主として膨大な予備部品を必要とする航空機に対し、如何に予備部品を供給し稼働率を維持するかが大きな部分を占めることとなります。さしあたって、この場合に問題となるのは本土基地からの予備部品の沖縄への空輸といことになるのですが、この点で不安応訴は自衛隊の輸送機数の限界でしょう。
Oimg_2779 この問題に対し、一つ大きな力となるのは横田基地の第374空輸航空団のC-130H輸送機20機です。東日本大震災では、豪州空軍のC-17輸送機による嘉手納基地と横田基地間の第15旅団空輸支援の事例がありますが、南西諸島有事に際しても日本側が航空部隊の維持に必要な物資の輸送、木更津基地と入間基地に岐阜基地の補給処からの輸送支援に米空軍の支援を受ける事は可能であると考えます。我が国は専守防衛を掲げ、戦闘部隊を充実させつつ、外征能力を欠いてきた側面があるのですが、これを同盟関係が補完する、日米安保の理念そのもの。
Oimg_3020 戦闘機の稼働率維持、これはF-15J戦闘機と中国空軍のSu-27戦闘機の性能以上に重要です、稼働率が低下してしまえば劣勢となり、作戦空域に投入できない戦闘機は何百機あったとしても要を為さないからです。特にロシア製Su-27は、最高稼働率を高める欧米の戦闘機設計思想とは異なり、極限状況においても最低稼働率を一定数維持するという設計思想に依拠した航空機ですので、元来稼働率を高く維持する航空機ではありません。中国空軍の戦闘機整備体制と稼働率維持への部品準備態勢について、詳しい情報はありませんが、元々稼働率への考え方が異なる航空機という事を考えていく必要もあるということ。
Img_5656i 弾道ミサイル攻撃からの沖縄防衛は、2006年の北朝鮮弾道ミサイル連続発車事案を受け、陸軍防空砲兵部隊のペトリオットミサイルPAC-3一個大隊を嘉手納基地へ展開させています。一個防空砲兵大隊は四個射撃中隊を基幹とする編成で、沖縄本島の防空を考えた場合、航空自衛隊のペトリオット、運用しているのは対航空機用のPAC-2ではあるのですが、これもかなりの密度と言えるもので、米軍の沖縄重視の姿勢が見えるわけです。もっとも、同時に沖縄に多数の地対空ミサイルを配置する自衛隊の本気度合いも、図れるというものなのですが。
Oimg_3632 ただ、不確定要素が無いわけではありません。我が国は、浜松基地へE-767早期警戒管制機を配備し、その長大な航続距離を活かし、航空作戦の組織化を図っています。実のところ、これが重要な航空作戦の能力を有していまして、いっぽうで中国の早期警戒管制機との能力差は大きな不確定要素となる可能性があります。尖閣諸島近海には中国空軍の航空管制を行う手段は、KJ-2000早期警戒管制機となっています。実のところ、KJ-2000はレーダー出力がかなり大きい可能性が示唆されており、言い換えればF-35が導入されている状況ならば、この脅威をステルス性能を最大限発揮し排除することも可能性として残るのですが、不安要素の中では最大のものと言えるやもしれません。
北大路機関:はるな

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コメント (2)
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