◆航空偵察と偵察隊の情報収集開始
福岡駐屯地祭特集も第七回を迎え、前回までに観閲行進を特集、今回から訓練展示の紹介を始めましょう。
状況開始、情報収集へ偵察隊と飛行隊の前進が始まります。情報収集は何時の時代も空から、ではありますが勢いよくジャンプする第4偵察隊斥候小隊の偵察オートバイ、偵察隊は如何なる地形も踏破するべく非常に厳しい地形を訓練地として鍛錬を積み、徒歩でなければ突破できないような地形へも迅速に進出可能です。
第4飛行隊のOH-6D観測ヘリコプター、観測とは特科火砲が榴弾砲による長距離射撃を行う際に着弾地域を観測し、その精度を高めるべく修正する空中観測点を供する装備ですが、OH-6は観測員の機動のほかにも後部座席を用いて指揮官連絡や負傷者搬送任務に就くことが出来、簡便な装備は野戦運用に最適、情報収集にも重宝される。
偵察隊の斥候オートバイ、やはり人の五感は偵察に重要で、エンジン音や排気の匂いに微かな土煙と轍等の痕跡を以て情報収集を行うことは、今日、熱線暗視装置や戦場レーダ装置などの著しい発展を遂げる今日でも一定の意義があります。もっとも、技術発展は著しいため、折衷というものは必要なのでしょうが。
OH-6Dは上空から敵の兆候把握に努めます。近年は肉眼で発見できる範囲内に敵が浸透した場合、携帯地対空ミサイルや重機関銃により容易に撃墜されるため、数が必要な観測ヘリコプターにも遠距離から監視するFLIRなどの装備が搭載される趨勢があり、この種の装備の価格高騰を招いています。アメリカはRAH-66にARH-70と立て続けに計画が頓挫、自衛隊もOH-1の調達が中断、現状で自衛隊は低空飛行能力を磨き、技術で生存性を辛うじて補っているところ。
偵察でのオートバイも警戒に走り回る迫力は凄いのですが、オートバイに搭載できる装備は音声通信用無線機程度で、僅かに画像伝送能力が研究されているものの、大型の監視装置を搭載できないため、近年では装甲車に大型の観測器材を搭載するものや、装甲戦闘車や戦車が情報伝送能力を有するに至り、偵察任務を事実上兼ねている趨勢が訪れつつあります。
仮設敵部隊、敵装甲車が偵察隊の目の前に姿を現します、軽装甲車の車上から仮設敵は軽機関銃により我が偵察隊へ攻撃を開始してきます。偵察隊の偵察任務とは、敵の有無を計る斥候に対し、実際に敵と戦火を交え、その抵抗の度合いから敵戦力の規模を図ることに或る。
偵察隊員は、素早く車両ごと地面に伏せ、射撃姿勢に移行する。緊急時には車上から流鏑馬の如く射撃を行うことも可能だが、見た目の勇ましさと反面全身を敵に曝すため、伏せて車体を盾とし、抵抗が大きい場合には機動力を活かし俊敏に撤収を図り、次の偵察任務へ繋げる、これが斥候小隊の戦い。
敵装甲車の発見という一報に接し、偵察隊長は87式偵察警戒車による威力偵察を命じました。87式偵察警戒車は25mm機関砲と微光増倍方式暗視装置を搭載し、威力偵察と情報収集にあたります。必要に応じ地上レーダ装置を砲塔に搭載して電子情報偵察も可能とのこと。
仮設敵の軽装甲車が偵察警戒車との間で戦闘が繰り広げられる、が、流石に小銃弾を用いる軽機関銃を車体上から射撃する軽装甲車では、火器管制装置により正確な射撃を加える25mm機関砲、軽装甲車や低空のヘリコプターに対して大きな威力を発揮する中口径機関砲の威力を前に非常に不利だ。
オートバイ斥候の隊員は総員、伏せて小銃により適宜反撃の射撃を加えます。ちなみに、普通のバイクでは車体を傾けると燃料があふれる場合があるそうですが、偵察隊へ配備されている車両は傾けた場合でも燃料が溢れないよう、改修されたものを装備している、とのこと。
空中機動部隊前へ。我が部隊指揮官は、軽装甲車による攻撃や、その周辺からの射撃などの情報から、その周辺に敵が陣地占領を行っていると判断、更なる情報収集と共に攪乱戦闘を行うべくレンジャー隊員の投入を決意、12.7mm重機関銃を搭載した多用途ヘリコプターUH-1の支援下で空中機動を行う。
UH-1J多用途ヘリコプターは富士重工においてライセンス生産していたUH-1Hを元にエンジン出力の強化などの改良措置を加え導入したもので、師団飛行隊には4機程度が装備されています。11名の空中機動が可能で、弾薬輸送や空中消火に情報伝送や映像情報収集などなど、文字通り多用途に活躍する。
UH-1Jに搭載されている12.7mm重機関銃M-2,現在米軍ではM-2の派生型で発射速度を倍増させたM-3を装備しています、航空機上は安定しないため、命中させるにはそれだけ多くの弾薬を使う必要がある実情の反映で、発射速度が高くないM-2を用いる自衛隊は、射撃精度の向上とヘリコプターの低速飛行、それだけ訓練と危険を冒さねばなりません。
軽装甲車との射撃先頭に際し、偵察警戒車が牽制している中を、斥候のオートバイは迅速に離脱を図ります。オートバイを盾にしているとはいえ、オートバイは当然ながら防弾性が無く、盾と言っても遮蔽物程度でしかありませんので、適宜離脱する機動性と判断こそが重要、というわけ。
87式偵察警戒車は、導入当時、陸上自衛隊は普通科部隊の装甲化は夢のまた夢で自動車化を進めている最中にあり、そこにこれまでジープのような車両とオートバイのみであった偵察隊へ装甲車両が導入された意味は大きかったものの、近年ではより高い情報収集器材を搭載する車両か、戦闘能力の大きな装甲車両が望まれるようになってきました。
そういうのも、戦車などと遭遇した際に、近年のしぇん瀉法の精度は大きく向上し、火器管制装置の能力向上により遠距離から照準し射撃するため、対処できないためです。偵察警戒車との戦闘に際し、仮設敵は軽装甲車を一旦後方に下げ、戦車を前進させてきました。戦車は高い防御力と火力に機動力を併せ持つもの、戦車の前進を前に、偵察警戒車の対応では限界となります。機関砲で軽装甲車に優位に立った偵察隊ですが、戦車が出てくると分が悪いのは否めません。
偵察隊は実際の戦闘を交えてその抵抗からその規模を図ることですが、今回は師団行事の模擬戦なので抵抗がありました、偵察隊は独力で撃破できるのであればそのまま制圧して前進しますが、偵察隊では対応でき無い脅威に遭遇、いよいよ師団主力を以て制圧へかかることへ。
空中機動部隊と偵察部隊の連携、こうやって見てみますと、この福岡駐屯地が高層マンションのすぐ隣にある、という事が改めてわかる一コマで、こうした情景は全国の駐屯地で意外と多いのですが、沖縄の米軍施設が住宅街に隣接している、という報道に接するたびに、いや、普通ではないか、と思ったりもしたり。
戦車との戦闘が開始された中、陣地の存在が確認されたため、離れた場所へヘリボーンにてレンジャー隊員を展開させます。いや、凄く近いところに降りているではないか、と突っ込まれそうですが、実戦ではかなり離れた場所へ展開します。ここでそれやると、会場から見えないので此処へ。
レンジャー隊員は部隊戦闘に限らず、小部隊での遊撃戦闘と徒歩を含めた長距離機動と様々な技術を有する訓練課程を経て修了した隊員で、少人数であっても高い能力を発揮できます。隊員の素質は高いとの米軍の評判もありますので、前線航空統制訓練など更に新しい訓練を実施すれば、レンジャーの能力はより大きくなるでしょう。
UH-1はレンジャー隊員の投入が完了すると迅速に離脱します。レンジャー隊員はかなりの距離を重装備と共に踏破する訓練を受けていますので、敵の防空火力圏外であってもそこから降下し進出できますが、圏外とはいえ敵の存在が正確に把握できていない以上、長居は無用です。
偵察隊の情報収集と、広報に展開したレンジャーの情報により、敵部隊の規模は機甲部隊を中心とした大規模な侵攻と陣地構築が行われていると判明、我が部隊指揮官は即座に特科連隊よりFH-70榴弾砲を展開、155mm榴弾砲により長距離射撃を行い陣地の破壊と攪乱射撃、突撃破砕射撃の準備を命じました。
特科部隊は特科大隊長の命令一下、十分な離隔距離を以て射撃体制へ移行します。福岡駐屯地訓練展示模擬戦は、偵察隊の情報収集と航空偵察、レンジャーの空中機動と共に得られた情報から、いよいよ火力戦闘へ展開します。これらについては次回掲載、お楽しみに。
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