北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

再論普天間移設問題,那覇基地拡張部分統合案と下地島イージスアショア併設海兵補助飛行場案

2019-02-24 20:11:59 | 国際・政治
■持論:那覇基地日米統合運用案
 嘉手納統合案は現実的ではないという結論までを前回提示しました、そこで今回は後篇ということで那覇統合案や離島分散案を提示します。

 最初に。在日米軍基地は沖縄に集中している、確かに間違いではありません。嘉手納基地の第18航空団と広大な嘉手納弾薬地区、普天間飛行場にキャンプハンセンの第31海兵編成群MEU,うるま市キャンプコートニーの第3海兵師団、勝連半島のホワイトビーチ桟橋、伊江島補助飛行場に牧港補給地区、沖縄市のキャンプシールズに展開するシービーズ等、実際多い。

 沖縄本島に米軍基地が多い、この点は事実なのですが、米軍基地は沖縄だけではない、という点を留意した上での視点なのか、ある種、米軍基地は沖縄にしかない、という誤解は無いのか、という視点を一つ。特に日本全土の自衛隊施設の多くも、有事の際には日米共用施設となるのですが、これを含めた防衛用地全体で考えてみますと、どうでしょうか。

 首都圏米軍兵站施設群、横須賀地区、岩国瀬戸内地区、佐世保地区、三沢基地があるように、しかし在日米軍基地は沖縄だけではなく、北部訓練場という広大な米軍訓練場の関係から全体で沖縄が占める面積が大きくなっている為、北部訓練場の大規模返還、将来的には北部訓練場日米共同使用により米軍施設における沖縄の負担は大きく縮小するでしょう。

 首都圏米軍兵站基地は、横浜ノースドックと横田基地に相模原総合補給廠にキャンプ座間、アジア地域での大規模紛争へ対応する北東アジア地域最大規模の兵站拠点が東京と神奈川に在ります。そして横須賀地区、実戦部隊の基地で、原子力空母と共にアメリカが有する世界最大の海外拠点で厚木航空基地と共に神奈川県へ広大な海軍作戦拠点を有しています。

 岩国飛行場は第5空母航空団と第1海兵航空団に海上自衛隊航空部隊を併せ、嘉手納基地を上回る極東最大の航空基地となっています。そして岩国基地と共に瀬戸内地区には広島の川上弾薬庫、広弾薬庫、秋月弾薬庫、この三弾薬庫がありここには50万名規模の地上軍や航空部隊が中長期にわたる戦闘継続を可能とするだけの弾薬が戦略備蓄されています。

 佐世保地区には両用遠征群という強襲揚陸艦にドック型揚陸艦と輸送揚陸艦を統合する打撃部隊が展開しており、更に機雷戦部隊が常駐しているほか、事前集積船も遊弋し、また燃料備蓄もかなり大規模なものがあります。実戦部隊としてはこの他に青森県三沢基地がF-16戦闘機の航空団という戦闘機部隊と共に極東地域の戦略通信傍受部隊が展開している。

 海兵隊もキャンプ富士や沼津へ片浜演習施設を維持、在日米軍は沖縄だけではないのですね。我が国周辺地域は戦後朝鮮戦争やヴェトナム戦争と台湾海峡危機という厳しい安全保障環境があり、自衛隊と米軍を併せた防衛への国民の理解と参画を欠いては、現実的な平和主義、平和の享受というものは成り立ちません、このあたりももう少し知られてほしい。そのうえで。

 那覇統合案は2010年代以来の持論です。上記の通り、嘉手納統合案には無理があります。そして海兵隊は水陸両用作戦に際し、沿岸部と内陸から接近経路確保等に空中機動を重視している為、海兵地上戦闘部隊の駐留している沖縄本島から飛行場を離す事は選択肢として考えられないでしょう、飛行場と海兵地上戦闘部隊は不可分です。故に那覇を提示する。

 那覇基地統合案は、普天間飛行場移設を現実問題としてとらえたうえで、名護市辺野古への移設を断念するのであれば、一つの有力選択肢となりえるでしょう。何故ならば、那覇空港では第二滑走路の埋め立て工事がほぼ完了、受け入れ用地がある為です。この第二滑走路建設は那覇空港が福岡空港に次ぐ日本最大級の過密空港故の混雑緩和へ行われました。

 第二滑走路は海上埋立滑走路です。この為、喩え夜間飛行を実施した場合でも騒音問題はそれ程大きくありませんし、名護市辺野古飛行場は計画では滑走路進行方向を変更した場合に航空機が一部市街地上空を飛行しますが、那覇基地第二滑走路は洋上を飛行します。これは平時以外、有事の際の不時着航空機受入の際にも付随被害低減に寄与するでしょう。

 小録飛行場、海軍飛行場として創設された那覇空港は、日本が戦前に造成し、日本側が現在も管理している沖縄本島唯一の飛行場です。そして海軍は民間航路開発を兵站線維持へ資するとして重視した為、戦前から民間空港としても機能していました。戦後は一時期米空軍戦闘機部隊が駐留しましたが、現在は自衛隊と海上保安庁が民間空港と併用している。

 那覇基地、航空自衛隊南西航空方面隊司令部と第9航空団に早期警戒機部隊、海上自衛隊第5航空群が置かれ、隣接して陸上自衛隊那覇駐屯地には沖縄を防衛警備管区とする第15旅団司令部とその主力が駐屯すると共に、第15ヘリコプター隊が駐屯しています。そして沖縄本島唯一の民間空港として那覇空港があり、これまで滑走路一本を共用していました。

 那覇基地は過密状態ですが、那覇空港そのものが拡張工事中です。その為、一部を転用する事で海兵航空部隊の受け入れは可能となりますし、有事の際には那覇空港の民間航空機が航空戦闘やミサイル攻撃により運行不能となります。その際に旅客機用区画を臨時転用し簡易掩体を構築する事で、米本土からの海兵航空部隊受け入れも可能となるでしょう。

 那覇空港第二滑走路は、その混雑緩和へ建設されているものですが、この那覇基地第二滑走路と共にLCC専用の第二ターミナル地区や航空貨物地区を周辺部へ移転する事が出来れば、普天間飛行場の那覇統合という選択肢が可能となります。近傍には返還予定の米軍施設が残り、この返還を中止する事で基地兵站施設や燃料補給施設へと転用ができることは確かです。

 普天間飛行場跡地ですが、例えば軍用基地としての運用を終了し民間空港へ転用、航空貨物地区とLCC専用空港とする事が出来れば、那覇空港の緩和をある程度相殺できますし、沖縄本島中北部振興策の一端ともなり得ます。LCCはボーイング737やエアバスA-320の新世代機であり、いまのところMV-22のような反対運動は全国の空港では起きていない。

 ただ、米軍機航空管制と民間航空機航空管制、自衛隊機航空管制の整合性をどのように調整するか、米軍機は日本の航空法枠外にあり、例えば那覇基地と南那覇基地というように航空管制を日米で分けるか、三沢空港や岩国錦帯橋空港のような日米共用飛行場の運用方式を導入する必要はあります。課題はありますが、既に第二滑走路がある点は、大きい。

 もう一つの案として、下地島移転案という試案を提示しましょう。非常に費用を要しまして、例えば海上自衛隊の護衛艦建造計画や航空自衛隊のF-15後継事業等を大きく圧迫し、将来戦闘開発の中止等長期化する可能性がありますが、下地島を要塞化し、併せてアメリカを巻き込むかたちながら、西日本までを含めた広範囲の防衛基盤を構築するというもの。

 下地島移転案、非常に突飛な案ですので傍論と考えてください、明らかに中国を刺激する案ですから。しかし、沖縄本島以外に移転するならば下地島にアメリカを巻き込む形での防衛強化、という視点が必要になります、これ以外の選択肢は台湾海峡有事の際に沖縄本島が巻き込まれる可能性が高まる、ミサイルも飛んできましょうし浮流機雷も流れて来る。

 下地島空港移設案、先島諸島の下地島ですが、基本的にアメリカは最初から反対しています。先島諸島の下地島は中国大陸から近すぎる為、台湾有事などで短距離弾道弾飽和攻撃を受け、短期間で滑走路や航空機をすべて破壊される懸念があります。また、沖縄本島の海兵隊地上戦闘部隊から遠すぎる為、海兵隊の立体作戦相互支援も距離の面で不可能です。

 南西諸島、しかし、下地島へ陸上自衛隊がイージスアショアを新設した場合どうでしょうか。イージスアショアは弾道ミサイル防衛システムですが、SM-3迎撃ミサイルを下地島へ配備する事で、沖縄県全域と鹿児島県島嶼部に至る弾道ミサイル防衛体制を構築可能となり、また南西有事の際に台湾と九州との間のミサイル防衛の安全回廊を構築できましょう。

 イージスアショアはSM-3迎撃ミサイルにより弾道ミサイルを飛翔中間段階で迎撃しますが、終末段階迎撃用にSM-6改良型が開発中です。スタンダードSM-6は現在、対航空機用にアメリカやオーストラリアが導入し海上自衛隊も試験導入を開始するものですが併せて220kmから飛行高度によっては370km程度までの対航空機巡航ミサイル防空が可能です。

 海兵隊が難色を示す戦略的縦深性、中国大陸へ近すぎる為離隔距離を置けない、という下地島の問題点はイージスアショアを自衛隊が配備する事により払拭できるとともに、スタンダードSM-6を運用する事で、南西諸島南部から本州西日本地域へ進出する中国軍ミサイル爆撃機を有事の際にかなり有効に迎撃する事が可能となり、日本全体の防衛に有意義だ。

 イージスシステムといえども大量に飽和攻撃を受けた場合は最初に破壊されるのではないか、という懸念はあるでしょう。しかし、イージスアショアは海上自衛隊イージス艦とのデータリンクが可能であり、飽和攻撃を受けた際には佐世保からの増援イージス艦や第七艦隊との協同により、持ちこたえる事も可能です。飽和攻撃へ盤石なシステムですから。

 西日本防空を沖縄から、とは突飛な発想ではありますが、SM-6はNIFC-CA海軍統合射撃管制システムと連接する事で航空自衛隊が配備するF-35AやF-35BにE-2D早期警戒機からの誘導が可能です。特に中国のH-6ミサイル爆撃機が和歌山県沖まで飛来する状況、沖縄の防空は沖縄の防衛という地域的なものではなく既に日本全体の問題となっています。

 しかし、沖縄本島の海兵地上戦闘部隊と航空部隊の離隔問題という根本問題は是正できません、海兵地上戦闘部隊を先島諸島併設できれば沖縄本島基地負担の問題は根本的に解消しますが、その為の兵站施設を受け入れるだけの都市規模が、下地島へはありません。そのため、下地島へは補助飛行場を新設し、同時に普天間飛行場も補助飛行場へ格下げする。

 海兵航空部隊の拠点を普天間飛行場や辺野古新飛行場一カ所に集約するのではなく、そもそも普天間飛行場展開の海兵航空部隊は岩国航空基地の第1海兵航空団隷下に在るのですから、既に決定している空中給油機部隊の鹿児島県鹿屋航空基地移転と合せ、複数の補助飛行場へ分散し、利用する形で南西諸島防空強化という強かな施策もあって然るべきです。

 沖縄県民投票は埋め立ての是非へ県民世論を問うている。ならば埋め立てではなく海上建造物方式はどうか、つまりメガフロートのような海上に浮いたものを展開させる、というもの。実は当然ながらメガフロート案は辺野古移設に際し検討されていました。結局様々な理由から採用されなかたのですが、部分的に採用する余地はあったのではないか、と。

 大規模洋上移動式補給基地MLB構想、要するに移動式洋上航空基地という全長2000m規模の浮桟橋、一種のメガフロート構造体ですが、こちらを転用するという選択肢もあるかもしれません。メガフロート工法を辺野古に構築するというのではなく、普天間飛行場をそのままとしたうえで、MLBを建造し、日米共同運用を行い普天間使用頻度を下げる、と。

 メガフロート、1980年代にも厚木基地にて問題となっていた陸上空母発着訓練における夜間飛行訓練騒音対策に相模湾等にメガフロートを構築する検討は、あったようです。空母程小型のものではなく、陸上飛行場訓練に匹敵する環境を、という事でして、一説には有事の際のシーレーン防衛へ日米共同運用を展開する構想も含めての検討、とつたわります。

 辺野古移設案に1996年頃までは埋め立てではなくメガフロート、という検討はあったようですが、幾つかの理由から実現しませんでした。第一に耐用年数が四十年ほど、第二に辺野古沿岸は波浪影響があり防波堤が必要となる、第三にメガフロートは造船所でブロック建造される為に沖縄地元産業界への還元が少ない、第四にミサイル攻撃への脆弱性は高い。

 メガフロート工法を採用した場合は一兆円以上を要する、これは民主党政権時代の辺野古移設撤回政策の撤回に際し、検討された様々な理由から流れてしまいました。流れるといいますと、特に実績が無い技術ですので、荒天時に動揺で陸上からの交通が不能となり、悪天候だけで文字通り滑走路が閉鎖、となってしまう可能性への危惧、ということですね。

 運用終了後は撤去できるのですが。もっとも、メガフロート工法は鉄の箱を連接する方式の海上構造体、1998年までに東京湾で実験は行われましてYS-11旅客機による試験飛行は行われていましたが、結局当初計画の海上空港への転用などの実績は無く、同規模の船舶よりは、かなり安価に構築できる、と言われているのですが未知数部分は大きいものです。

 大規模洋上移動式補給基地MLB、しかし先ほども少し触れましたが、全長2000m規模のMLBを普天間飛行場を維持しつつホワイトビーチ沖や勝連半島近くの波浪が少ない沖縄近海に遊弋させ、訓練移転を行う、つまり普天間の使用頻度を下げる、という選択肢はあるかもしれません。日本側が管理するならば、有事の際には防空作戦等にも転用でき得ます。

 さて、本文執筆時点ではまだ、沖縄県民投票の去就は不明です。しかし、繰り返しますがダム建設や河口堰建設のような20世型公共事業ではないのです、特に移設予定地である辺野古沖合へ想定外の軟弱地形が発見され、工事費用と期間増大の懸念が確実視されるなか、那覇移転や下地島分散に嘉手納拡張や移転中止等、再検討する機会ではないでしょうか。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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