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F-35戦闘機墜落!三沢基地所属機が太平洋上訓練中消息絶つ,救助-原因究明-機体回収課題

2019-04-10 20:12:50 | 防衛・安全保障
■F-35墜落原因?急がれる救助
 航空自衛隊最新鋭ステルス戦闘機F-35Aが墜落しました、防衛省は捜索救助を急ぐと共に原因究明に当っています。

 航空自衛隊のF-35A戦闘機が4月9日1930時頃、青森県沖の太平洋上でレーダーから消えました。当該機はF-35Aの4機で夜間訓練中であり、航空救難部隊や哨戒機部隊、護衛艦や海上保安庁巡視船などが捜索に当りましたが9日深夜にF-35左右の垂直尾翼が海上で発見され、航空自衛隊はF-35が墜落したと断定しています。F-35Aは初の墜落事故です。

 訓練を中止する、NHK報道によれば防衛省発表として消息を絶ったF-35Aは操縦している40代の3等空佐から機体不調を思わせる通信を受けており、飛行中のトラブル発生の可能性があるとして事故調査委員会が設置されました。岩屋防衛大臣は報道記者会見において地元の皆様に大変ご不安を与えた事について深くおわび申し上げたい、と陳謝しました。

 F-35戦闘機はステルス性持つ機体に空間優勢を獲得する為の各種性能を盛り込んだ世界初の国際開発第五世代戦闘機です。アメリカを中心にイギリスが主要開発参加、イタリアとオランダが部分開発参加、ノルウェーとデンマークにカナダとオーストラリアとトルコが部品開発参加しました。航空自衛隊は現在42機を調達中、将来的に147機を導入予定です。

 三沢基地のF-35部隊は第302飛行隊、永らくF-4戦闘機を運用しましたが2018年1月26日に臨時F-35A飛行隊としてF-35Aの受領を開始、2019年3月26日に正式にF-4EJ改からF-35Aへ機種転換を完了し、航空自衛隊最初のF-35飛行隊となったばかりの事故となりました。非常に残念ではありますが、操縦士救助と事故原因究明を急がねばなりません。

 機体の回収、捜索救助と原因究明とともに急務となっている命題です。垂直尾翼が海上で確認されていますが、少なくとも先ず短期間でこの垂直尾翼を海上から回収せねばなりません、こういいますのもF-35の機体は情報の宝庫、特にアメリカや自由主義圏として価値観を共有する国々と敵対する諸国からは、構造断面や塗料一つとっても重要な意味がある。

 海底の機体改修は墜落が想定される海域の海底まで1000m以上の水深が考えられ、その回収には難易度の高さが考えられますが、海上自衛隊は1995年にMH-53掃海ヘリコプターの墜落事故が発生した際に、事故原因究明の為に海中から機体を改修した実例があり、F-35情報保全の重要性を鑑みる際、第三国への情報漏えい阻止へ、選択肢として必要でしょう。

 おおすみ型輸送艦や傭船として海上浮遊物回収船を展開させ、洋上に浮く機体構造物を改修すると共に、潜水艦救難艦を現場海域へ進出させ、ROV無人海中探査装置等を投入し海中の機体位置を把握した上で、回収作業を行う選択肢が妥当でしょう。また公海上で有れば第三国艦船による情報収集と回収作業についても政府は対応を留意せねばなりません。

 防衛省によれば事故海域は135km沖合であり、脱出の確認なども、脱出後救難信号等も発信されていない為、現在のところ脱出できていない状況も考えられます。ただ、全ての情報は流動的であり現時点で確たる情報は限られています。仮に脱出できていない場合には、乗員とともに海中に沈んだ可能性もあり、この場合は重ねて回収の必要が必要でしょう。

 F-4戦闘機という1957年に初飛行を果たした第三世代戦闘機を航空自衛隊は141機取得し運用してきましたが、流石に旧式化が進み過ぎ近代化拐取の限界と機体構造老朽化から、その後継戦闘機としてF-35を選定しました。取得単価は96億円、一見高いように見えますが三菱重工を中心に日米共同開発し国内生産を行いましたF-2戦闘機とほぼ同程度です。

 F-35戦闘機の墜落事故は航空自衛隊が世界二例目となります。最初の事故は2018年9月28日に米海兵隊のF-35Bで発生しました。サウスカロライナ州ボーフォート海兵航空基地近傍で墜落し、事故の後に燃料供給系統の整備手順が見直されています。墜落機をF-35Aに限れば、航空自衛隊が初の墜落事故となってしまいました。原因は何が考えられるのか。

 エンジンタービンブレード製造欠陥による空中でのエンジン破損停止の可能性が一つ。これは2014年6月23日、アメリカ空軍のF-35Aがエグリン空軍基地での離陸前にエンジンが爆発的火災を発生、操縦士は脱出し無事でしたがタービンブレードの欠損により破損部がエンジンと機体を貫通し燃料系統を破断した事が原因、全てのF-35が検査されています。

 低酸素失神問題の可能性が一つ。2011年5月より数か月間同じ第五世代戦闘機であるF-22戦闘機が部分飛行停止措置を実施しました、これは操縦士酸素吸気系統に何らかの悪影響が生じ低酸素状態となる問題があり、操縦中に意識混濁となる問題点が第一線操縦士から多々寄せられ、調査の結果事実であった為です。同様の問題はF-35でも発生していました。

 低酸素失神問題はF-35では2017年6月9日にアメリカ空軍ルーク空軍基地の第56航空団において発生しており、ルーク基地でのみ確認されている原因不明の問題です。航空医学上一酸化炭素中毒や燃焼排気混入等が精査され、今のところ原因不明ながら原因全要素を取り除く事で短期間の飛行再開となっています。今事故も低酸素状態の可能性は残る。

 バードストライク、鳥類との衝突の可能性が一つ。航空機事故としては特に低空で発生する事故です、一定以上の大型鳥類ですと風防を破壊する可能性がありますし、エンジンに吸い込んだ場合、タービンブレードを破壊しエンジン停止に陥る可能性があります。ただ、太平洋上での訓練飛行高度で鳥類と衝突する事は考えにくく、原因としては低いでしょう。

 空間失調による海面激突という可能性が一つ。地上に居る限り分りにくいのですが夜間や雲中では水平飛行している感覚で実は高度が降下し墜落、という事故は発生します。1998年8月25日、三沢基地第3航空団所属のF-1支援戦闘機が3機編隊での夜間飛行訓練中に2機が墜落しました、2機の操縦士は飛行時間が1500時間から2000時間ありましたが。

 空間失調は夜間飛行において視界を重視する事で発生します、高度計を同時に確認し続ける必要がある。ただ、F-35は複合光学装置により夜間雲中でも安定した視界を得られるため、果たして従来機の様な事故の可能性は未知数です。しかし、本件ではNHK報道で防衛省発表に事故前に訓練中止の通信があったといい、この一点で空間失調は考えられません。

 事故原因究明は防衛省は勿論、アメリカ国防総省にとっても急務となります。ロッキードマーティンが中心となり開発されたF-35は、アメリカ海空軍と海兵隊の主力機となります。この為、機体に原因がある場合にはアメリカが同盟国に有償供与する事が可能である唯一の第五世代戦闘機であり、既にイスラエル機が実戦投入されている今、原因究明は急務だ。

 欠陥機なのか、とF-35を問うならばアメリカ空軍だけで1763機もの多数を導入し、しかも現時点で生産されている第五世代戦闘機はF-35のみという状況では、欠陥機であるとは考えにくいでしょう。欠陥があれば調達を縮小し代替機を開発する筈です、しかし次世代に当る第六世代機の開発も概念の域を出ない現状では機体に根本的問題は考えられません。

 問題機か、と問われますと開発期間が異常に長期化した点は間違いではありません。これは開発国が多岐に及び性能要求が多様化すると共に長期化により戦闘機へ求められる性能が徐々に変化し、当初はステルス形状の安価な戦闘機という構想から第五世代戦闘機として位置付けられたためです。開発は長期化した事は事実ですが、不良の為ではありません。

 自衛隊におけるF-35の位置づけについて。前述の通りF-4戦闘機の旧式化が進み過ぎており、しかも多数の戦闘機を必要とした冷戦構造が終結後には後継機の必要性が二転三転した為、F-35Aへ決定するまでの期間が長期化しすぎました。現実的問題として現在は南西諸島から西日本まで中国軍機の脅威が顕在化しており、航空防衛近代化は焦眉課題の一つ。

 本年2月20日には福岡県築城基地第8航空団所属のF-2B戦闘機が山口県沖での訓練飛行中に墜落する事故が発生しています。事故が続いた、という印象ではありますが、F-2Bの事故では操縦士2名は脱出に成功し現場付近の海上で救出されました。今回のF-35A操縦士はまだ発見されていませんが、脱出さえ出来ていれば望みはあり、生存を祈りましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (13)
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