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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【榛名防衛備忘録】自衛隊観艦式2019と中国青島沖国際観艦式2019,停泊観艦式からの変容

2019-04-25 20:17:28 | 防衛・安全保障
■日本型洋上移動式観艦式の時代
 自衛隊観艦式、考えてみれば当然ですが、個人Weblogで配信できるようになったのは平成初期には不可能だったのですね。こうした技術革新とともに観艦式の在り方も移ろう。

 観艦式、海上自衛隊の観艦式は1961年観艦式より停泊式観艦式を移動式観艦式へ転換させ、今日に至ります。実のところ、艦位を保持し艦隊運動と陣形運動を行う事は簡単ではなく、技術が発展するまでは海上自衛隊以外にはなかなか実施できないものでした。なにしろ、基準艦に対して単縦陣を維持し航行する事だけでもGPS普及前には簡単ではありません。

 海軍特別大演習観艦式、海上自衛隊の観艦式が移動式観艦式を採用する背景には旧海軍が天皇天覧下で海軍力を展示した海軍特別大演習観艦式の影響が挙げられます。海軍特別大演習観艦式は統帥権を治める天皇天覧という海軍最大規模の海上演習であり、駐在武官も招く国威発揚を兼ねた大演習に付帯した観艦式であった為、移動式観艦式を採用しました。

 移動式観艦式は停泊式観艦式と比較し、高い技量が必要となっていて自衛隊くらいしか行っていない、と一種通説として言われていたのですが、韓国海軍や中国海軍が十年に一度の規模で実施する観艦式や海軍演習に伴う観閲式では普通に移動式観艦式が行われているよう思えるが、何故だろう、とはお友達の素朴な疑問、そこでひとつ、調べてみました。

 観艦式、それでは停泊式観艦式は海軍力を誇示できないのか、と問われるならば寧ろ逆で、現代観艦式のはじまりとなった1897年の大英帝国ビクトリア女王即位六〇周年特別観艦式では、艦隊運動を天覧させる艦隊運動の技術よりも自国海軍と友好国、多数艦艇集め稼動状態を維持している事が、天覧観艦式としての国威発揚としての意味が在ったのでしょう。

 大英帝国ビクトリア女王即位六〇周年特別観艦式、停泊式観艦式を行っています。艦隊運動を19世紀末に展示する事が出来たならば、無線通信実用前の旗流信号と発光信号のみで艦隊運動を統括し、国家元首へ展示する事が出来たならば、それは非常に大きな海軍力の誇示となったでしょうか、航空機開発前では、その様子を俯瞰し誇示する事が出来ません。

 海軍特別大演習観艦式と海上自衛隊観艦式、海軍力の誇示と海上防衛力の展示という点で共通点があります、こういいますのも現在自衛隊には国家元首天覧の演習は勿論観閲式もありません、ただ、行政府の長たる内閣総理大臣は中央観閲式と観艦式に航空観閲式へは観閲官として臨席します。一方、海上自衛隊演習等演習への観閲官としては出席しません。

 自衛隊観艦式は内閣総理大臣臨席のもとで行われますが、海上自衛隊演習の様な実動演習への臨席が実現しない中で、観艦式に展示訓練を含めた事に意味があるのでしょう。中国やロシアに台湾や韓国では軍事演習の観閲官を大統領が担う事は多く、自衛隊統合演習や海上自衛隊演習に内閣総理大臣が臨席する必要性も感じるのですが、如何なものでしょう。

 移動式観艦式は、無線通信により可能となりましたが2000年代に入り、艦艇へのGPSの普及により難易度が下がりました。現在は10年に一度の韓国国際観艦式や中国海軍観艦式においても広く実施されています。一方、移動式観艦式は過去にもフランス海軍が1995年の観艦式においてクレマンソー級空母2隻を動員し実施していますが、近年増加の傾向が。

 国威発揚と記録方式、という観点から停泊式観艦式と移動式観艦式の時代の要請が変わってきている、という表現が妥当でしょうか。停泊式観艦式が主流であった20世紀、特に第一次大戦前から第二次世界大戦に掛けては新聞メディアの影響力が大きく、一枚の大判写真に多数の艦艇を並べる事が出来る停泊式観艦式が、その国威発揚に威力を発揮しました。

 大艦隊を洋上に展開させる勇躍威容は写真では物凄い迫力がありますが、一つの画角に収まる艦船数では停泊式観艦式には及ばず、記録映画のような映像が必要です。しかし、記録映像やテレビ動画は新聞、保存するだけで延々閲覧できる記録メディアには1990年代初頭にも、それ程及びませんでした。実際、昭和の観艦式は写真よりも動画が、探しにくい。

 あだちビデオ観艦式。東陽カメラセンターと当時よばれた自衛隊観艦式ビデオソフトが、実は移動式観艦式を世界に普及させた、という視点も挙げられるかもしれません。軍広報等を除けば、観艦式を映像ソフトとして大量に販売したのは東陽カメラセンター時代のVHSが世界初といいまして、この迫力の映像は各国の武官も参考に購入していた、とは同業の方のおはなし。

 映像の迫力は、しかし見る人が少なければ国威発揚に繋がりません、こうした中で、移動式観艦式は同時に映像メディアの進展と共に位置づけを高めてゆきます。重要な変化は、中継動画Web配信と映像Web共有技術の発信です。かつては難しかった動画配信は今や、スマートフォンにて5G通信以前の3G通信技術でも即座に共有できる時代となりました。

 停泊式観艦式は、と問われますと、新しい問題に直面しています、情報の拡大です。要するにかつては観艦式の日時でさえインターネット普及前は軍港都市でも無ければ、調べない限り分らないものでした。これがインターネットで共有できるようになりますと、例えば観艦式会場周辺の港湾からプレジャーボート等での接近し撮影が容易となったのですね。

 インスタ映え、という単語がありますが、停泊式観艦式は軍艦を出入港以外動かさない分簡単か、と問われますと、洋上での群衆整理が大変となりますし、なにしろ立ち入り禁止のロープ数十kmで観艦式の会場を囲んでしまう訳にも参りません。そして衝突事故でも発生したならば、それはそれで大問題です。それならば沖合から動画配信する方が、安全だ。

 中国軍はユーチューバー、という訳ではありませんが、従来は頑張って洋上での移動式観艦式を行ったとしても国威発揚へ共有する事は難しかった、この課題が動画配信技術の発達と、新聞写真比重の相対的変化により、動きがある観艦式への需要が高まった為、といえるのかもしれません。観艦式のかたちも、変化している、といえるのかもしれませんね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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