■ライフルマン
『銃は、自分の身を守る最後の盾となるものだ。もし、扱いが悪く、本当に必要になったときに動かなければ、どれは死を意味する』陸上自衛隊の前期教育において幾度となく繰り返される文言ときく。
写真は第十師団第35普通科連隊の隊員による執銃訓練展示の様子であるが、小銃手というのは、普通科のみならず、機甲科、特科や施設科、更には輸送科や需品科といった後方職種の隊員も漏れなく装備している。また、小銃を支える弾薬嚢(マガジンパウチ)や戦闘防弾チョッキ、更に戦闘員である個々人を支える様々な装備を一通り身につけることで、如何なる状況にも対応することが求められる戦闘員たる基点につく。
89式小銃に銃剣を装着し、訓練展示の仮設敵陣地へ向けて喚声とともに突撃を敢行する第36普通科連隊の隊員(千僧駐屯地)。顔の迷彩ペイントやゴーグルの有無などが、第十師団と第三師団ではやや差異があることに気づかされる。
そこで今回は、駐屯地における訓練展示の様相を特集し、小銃手の装備や訓練内容の反映などで生じる各部隊ごとの個人装備などの差異を特集したい。
守山駐屯地祭における観閲行進の様子。記憶は曖昧だが第14普通科連隊の隊員であったように記憶する。
普通科の職種を表わす赤いマフラーを飾り、30連発弾倉一本を収容するマガジンパウチを前に左右各一本を配置した、観閲行進における一般的な装備である。ちなみに早駆けをしているのは後ろで車輌行進が開始されている為。駆ける際の小銃保持姿勢が解る端的な写真である。
守山駐屯地にて撮影、第14普通科連隊の観閲行進と記憶する。師団観閲式では各普通科連隊から一個普通科中隊程度の部隊が参加していたように記憶する。
肩に掛けているのはMINIMI分隊機銃で、89式小銃と同じ5.56㍉弾を発射する。250発入り箱型弾倉を用いて運用する。M-16A2突撃銃に12倍の火力を有すると米軍の教本にあるが、連射機能を有する89式小銃と比しても数倍の火力を有していると思われる。
最初に挙げた執銃訓練の様子。膝、肘を防護するプロテクターや戦闘靴の底部が確認できる。市街地における近接戦闘に際しては、自動車の陰や建築物内の脅威を排除する為に必要な姿勢である。イラク復興人道任務派遣や日本海からのゲリラコマンド脅威への対処という観点から急速に各部隊に取り入れられた訓練であり、冷戦期における野戦における対機甲部隊戦闘一辺倒と比して、個々人の能力が今まで以上に必要とされる分野であり、一層の精強化が進む端的な事例である。
第十師団、守山駐屯地祭における誘導隊の隊員。セラミックプレートを挿入することで小銃弾の直撃に耐える戦闘防弾チョッキ2型を装備している。
誘導隊とは、1999年に第一空挺団を基幹とした邦人救出訓練より、国外における武力紛争により通常の手段では帰国できなくなった邦人を救出する部隊として必要に応じて編成され、レンジャー資格を有する隊員の中から選抜して編成され、常時、全国では一定数の部隊が常時待機しているとされる。
プロテクターやゴーグルとともに、際立つ戦闘防弾チョッキ2型は、イラク派遣任務に際して様々な部隊でも見るようになった装備で、弾片防御に主眼を置いた従来の戦闘防弾チョッキとは大きく形状が異なり、マガジンパウチなどをチョッキ本体に装備させるもので、米軍のMOLLE(Mobular Lightweight Load-carrying Equipment)システムと同じような装備である。なお、幾度か試着した経験があるが、2型はやや重く、長時間の野戦移動というよりは、乗車時、もしくはフォースプロテクションに用いる装備との印象であった。
春日井駐屯地における第10偵察隊の訓練展示、彼らは偵察隊所属ということからもわかるように、機甲科隊員である。フェイスマスクやニーパット、エルボーパットといったプロテクターが黒色である。これら装備は、支給品ではなく、部隊訓練により必要性が確認された際に、部隊規模で購入することが多いとのこと。制式装備以外のものを運用することに難点を指摘する声もあるが、それよりは私見として精強な部隊を編成することの方が重要と考えるのだが、皆さんは同であろうか。
豊川駐屯地祭における第49普通科連隊の隊員。独特の形状であるブッシュハットを被り、顔には迷彩ペイントを塗り、大きな背嚢(リュックサック)を背負っている。
“R”という腕章から解るように、彼らは即応予備自衛官であるが、89式小銃を構え、仮設敵陣地の背後に回りこむべく走っている。即応予備自衛官とは、従来の予備自衛官とは異なり、訓練日数を大幅に増やした(とはいえ、同じく予備役の米軍州兵よりも訓練密度はかなり薄いという現実はある)隊員である。
中部方面隊創設記念行事(伊丹駐屯地祭)における第37期レンジャー過程に参加した隊員(そう記憶する、一見、第37普通科連隊の隊員にも見えるが)。顔の部分だけをペイントしたものは“お面”とされ、諌められるが、彼らは首の部分までペイントしている。装備としては小銃と弾帯、そして略帽を被っているが、レンジャーとは、個々人の能力を最大限に引き出すことを目的としており、身に着けた装備以上に精強なものを秘めた隊員たちの行進である。
大津駐屯地祭における陸曹教育隊の整列、この課程を終え、旧軍の伍長にあたる三等陸曹となる。部隊を率いる陸曹は、幹部と自衛官の間を支えるという意味で武装集団の精強さを左右するもので、米軍の将官、独軍の将校、日本の下士官、ロシアの兵士にて編成した部隊こそが(
言葉が通じるかが問題と思うが)最強の軍隊である、と表現されるように、旧軍と同じく陸上自衛隊の陸曹が優秀であることは、世界中で知られている。
同じく大津駐屯地祭における訓練展示の様子。二脚を立てて89式小銃を射撃している。伏撃の姿勢を端的に示した写真で、この他、88式鉄帽の前には偽装の為に小枝などを挟んでいる。射撃競技会などにより鍛えられた小銃射撃の技量は、優秀な射手に与えられる射撃徽章などをもつ隊員ではスコープ無しの小銃で450㍍先の風船に命中させる技量を有する。また、概して射撃技量は米軍よりも優れるといわれる。やたら連射すれば逆に自分の位置が露呈し反撃される為、一発必中は重要である。
仮設敵陣地に突入する陸曹教育隊の隊員。撮影位置の制約から後姿ではあるが、89式小銃は着剣し、戦闘防弾チョッキを着込んだ上で、弾帯には折畳式スコップ、水筒、二本入マガジンパウチを二つ装備し、銃剣を配置するという個人装備の様子が良くわかる一枚である(しかし右端の隊員はパウチの場所が異なる為、全てこの装備位置で無いということも判る)。マガジンパウチは一本用二個、二本用二個の四個を携帯している。訓練展示ではこうした個人装備を携行する事例が少ないだけに、貴重な一枚である。
信太山駐屯地祭の訓練展示における第37普通科連隊本部管理中隊情報小隊の隊員。UH-1H多用途ヘリコプターからロープ降下した直後、ヘリへ合図を送っている。
情報小隊とはレンジャー資格を有する隊員を中心に編成され、連隊の目として斥候を行う部隊で、師団や旅団の目となる偵察隊と似た運用が為されるようだ。行動を阻害しないよう、鉄帽ではなくブッシュハットを被り、更に背中には無線機(JPRC-F70?)を背負っている。
訓練展示において、軽装甲機動車から降車した隊員。左にいる二人の隊員は雑嚢(フィールドパックとかアスパックといわれる)を左腿のところにさげている。
88式鉄帽には新型の個人用暗視装置を装着している。第一空挺団より装備が開始された。聞くところではこの第三師団(管区に大阪を含む)と第一師団(東京に駐屯)という都市部を任務担当区に含む部隊より配備が進んでいるとのこと、片眼用で従来のものよりも軽量となっている。
第37普通科連隊は大阪府に駐屯する唯一の普通科部隊であるが、銃剣を装着せず、その代わりに暗視装置を装備しているのが特色である。以上が、昨年に撮影したライフルマン達の写真である。部隊ごとに個性があるのは、それだけ柔軟な運用が為されている事を示し、かつてのような硬直した組織よりは異なった意味で精強な部隊へ向かっているように思える。
HARUNA
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銃を構えている普通科連隊さんがすごくカッコイイです!
昨年10月に行った久里浜駐屯地では、通信学校ということで、隊員が持っている装備は古いものばかりで、銃ももちろん64式でした。
空挺団や普通科などは、やはり優先的に最新の装備が支給されるみたいですね。
5月には武山駐屯地の創立祭がありますので、普通科の装備をじっくり見てこようと思います!
小生が撮影する第三師団管区や第十師団管区では後方部隊を中心に64式小銃を運用する部隊も多く、いつかは特集を組みたいなとおもっています。
>銃を構えている普通科連隊さんがすごくカッコイイです
確かに、普通科は気合!という感じですね
>普通科の装備をじっくり見てこようと思います!
第一師団管区の普通科部隊は、都市型戦闘を重視した訓練をしているといわれますので、興味深いですね。