北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

鎮魂3.11 東日本大震災・東北地方太平洋沖地震から本日で二年

2013-03-11 23:21:55 | 北大路機関特別企画

◆巨大地震から二年を経た今日

 本日、3月11日、あの東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震から二周年を迎えました。

Eimg_0332 恐らく、当方の主観を踏まえ、東北地方の太平洋沿岸部被災地は今後22年、2035年頃にはほぼ復旧に依拠した復興を成し遂げるでしょう。これからも避難により分散した社会、浸水危険区域により滞る投資、多重負債による住宅再建、実態を欠いた放射能除染作業、見通し無き原発破損原子炉撤去と道は厳しいものが続きますが、必ず復興します。

Eimg_0287 実のところ、発災当初、当方は恐らく復旧復興は超法規と集中予算措置を採ればだれでも為し得ることだから、外国人献金問題などで揺れる当時の与党は当たり前の対処を行うことで、次の衆院選に勝ちうる要素を見出し、少々ぎこちなくも長期政権を確立させる余地があるのだ、と考えていました。そうしたうえで、復旧復興は発災一日遅れれば復旧は一ヶ月延び、一週間着手が遅れれば復興が一年遅れる、初動が重要であると記しました。

Eimg_0229 しかし、民主党政権は平時手順から非常時への移行を躊躇し、復旧を平時の水害や局地地震対処の範囲内で実施し、単なる激甚災害、という範疇で着手したため復旧の端緒を掴み損ね、各省庁を統括指揮すべき復興責任者を曖昧なものとし、逆に各省庁を統括せず業務依頼窓口としての復興庁を創設、責任者無き、指揮系統無き復旧復興を遅れながら着手に至る。

Eimg_0248 更には被災地を支える社会基盤が避難より分散する以前の有効な復興策を画定できず、産業基盤への大打撃と人口流出を招いてしまいました。しかし、一週間で一年復興が遅れるという計算でしたが、二年を経てこれは次世紀まで要する危機を感じつつ、その後の政権交代により、ようやく一定方向からぶれない復興枠組みに着手することが出来、このためこれを一週間で一年から一ヶ月で一年の遅れと修正し、見通すようにできた、ということ。

Eimg_0335 物事には逃していけない瞬間があります。例えば福島第一原発事故はあと12時間早く政府が電源喪失対策に必要な措置を採れば原子炉の破損を防げたでしょう。時間とは有限且つもっとも必要な資産であり、この中でも決断を行うまでの時間は短くとも必要で敵悪な判断を下せないことがその後数年数十年の負担を呼ぶことは間違いありません。

Eimg_0480 住民合意と現行法への過剰な、いわば平時の手続きは復興を遅らせる危険があり、批判されようとも速度を重視し復興を短期間で成し遂げる選択肢を為政者が捨て、法的に問題ない方法にばかり着目し数十年単位で責任が法的に及ばない手法を採ったこと、これは非常に辛いものがあります。

Eimg_0491 ただ、頑張る人たちは大勢います。復興を支えるのは社会であり、社会を構成するのが産業であり公的支援でありインフラです。これらへは政治は必要な手段を今後投じることは出来ますが、上記要素を支えるものの中で、文化や催事に祭事等の面で、一見復旧とは無関係と見えつつも、不可欠な、人、そして人と人との繋がりを再興させるために必要な支援など、本来公金が投じられることに疑問符が付く分野へも柔軟な判断を望みたいところ。

Eimg_0516 こうした点を踏まえつつ、我が国は火山性地形による大洋上の弧状列島であり、大地と海洋の恵みを享受する最高の立地に存在するとともに外敵からの防衛にも利する国土に暮らしつつ、地震及び火山災害からは運命的に逃れることはできません、これからの防災についても慎重に考えてゆく必要があるでしょう。

Eimg_1765 災害と自衛隊、未曽有の大災害でありましたが、自衛隊はよくその任務に対応しました。震災直前に東海地震を想定した10万名規模の動員後方支援訓練なども行われていたとのことですが、有事に備える組織としては、先進国において一昼夜で万単位の人命が失われた東日本大震災こそ、有事そのものでした。

Eimg_00110 しかしながら、厳しい財政難下での防衛装備は年々痩せ細り、特に着上陸の危険が少ないとされた東北方面隊が今回の災害への対処において厳しい状況がいくつもあったと聞きます。端的事例は、発災当時、初動に当たる東北方面航空隊の多用途ヘリコプターが指揮官の話として、定数20機に対し、稼働数が僅か8機であったことに全ての一端を見ることが出来るでしょう。

Eimg_0065 今後は、自衛隊が自衛隊として求められる能力を実際に行う上で必要な定数を厳密に研究し、これに見合った予算措置を行う政治を国民が求めてゆく必要があります。昨今は指揮系統のみを整備し、実動部隊と切り離して効率化する運用体系の模索が行われていますが、こうした行為は短期的に国家予算全体では0.1%単位でも財政健全化で国民が恩恵を享受しますが、今回のような有事には真っ先に人命を左右する不利益を被ることをわすれてはなりません。

Eimg_0543 さて、震災の年の九月、仙台駅で、仙台駅も地震により天井板崩落などの損傷を受けた場所ですが、営業運転列車の脱線こそなかったものの軌道損傷などにより長期間運休を余儀なくされていた東北新幹線が、その流線型の車体をあたかも何事も無かったが如く運転される姿はある意味感動的でした。

Eimg_2904 一方、発災から五日後、当方は東海道新幹線にて横浜へと足を運びました。京阪神からは福島第一原発の情勢如何によっては東京放棄の可能性も捨てきれず、という視点が確かにありました。こうしたなかで、これが横浜の見納めになるやも、という気概が無かったかと問われれば難しいものでした。

Eimg_2921 乗り慣れた横浜線ではなく地下鉄により新横浜から横浜へと進出、このあたりから非日常と言えば非日常ではありました。五日後といえば、今日残る記録では、被災地では未だ孤立地域があり、自衛隊や米軍に警察消防などの航空機が把握していない救援の手が未だ伸びずの地域があったわけですから。

Eimg_2931 横浜戦を利用しなかったのは、計画停電の影響により全線運休となっていたためで、不要不急路線の運休など、我が国は戦時体制に戻ったかのようでした。運行本数は路線によっては半減、火力発電所の被災や点検がままならない状態であり電力不足が危機的状態だった、ということ。

Eimg_29400 横浜は震源より遠く、しかし、それなりに大きな揺れを記録した横浜でしたが、日本の耐震構造建築物の底力といいますか、一部に損害はあったものの、都市機能は維持されていました。しかし、商店の品物は信じられぬほど品不足で、ホテルも社会基盤維持と日常の防衛という努力と使命感があってこその平常営業、というものだったのでしょうか。

Eimg_2987 磯子区では被災地の製油施設が津波と火災により完全に機能を喪失していたため、平時には数十km程度の移動のみ行う燃料貨物輸送列車が、初の震災救援列車として東北地方へ燃料を届けるべく、発車準備を行っているところでした。この列車が初展開する様子は、大きく日本海を迂回する経路をとり、記録もされています。

Eimg_2991 京浜東北線であれば分刻みで次々と列車が運行されていますから、平時は時刻表など気にしないところでしたが、この日ばかりは運行を確認しなければなりませんでした。首都圏はかなりの距離を隔てているとはいえ、発災数日後は首都圏にも非日常というものはあったわけです。

Eimg_3080 日本も何とかなるのではないか、そう考えるようになったのはそれからわずか数時間後、護衛艦いせ就役行事の時でした。式典は縮小こそされていましたが予定通り実施、考えれば終戦当日も海軍兵学校は講義を行っていた旧帝国海軍の今の姿が海上自衛隊、当然と言えば当然ですが、残っていた日常に、ある種感動しました。

Eimg_3869 そして数万単位の死者、数十メートルの大津波、数十万とも当時言われた行方不明者、原子力発電所の原子炉爆発、こうした常識外の事態が連続して続く中の、初めて接した明るいニュースが新しい護衛艦の就役であり、その門出、そこに立ち会うことが出来たわけですので、実のところかなりの涙も流しました。

Eimg_5464_3 こうしてあの日から約二年を経まして、被災地以外には日常が戻りつつあります。いや、建設資材の高騰などの問題もありますし、原子力発電所事故に伴う全国の原子炉停止が影響し、もしかしたらば日本全体が間接的被災地、という事なのかもしれませんが。

Eimg_5472_2 こうした中で、初動が重要な復興着手に大きな遅れがあった二年間ですので、時機を逃した代償はその道程が非常に長くなる、という問題は残っています。他方、今回の教訓の反映やこれからの防災政策など、まだ間に合う命題は残っていることも確かです、やるべきところを見出し、出来る古都を着々と進めてゆくことが遠回りのように見えて唯一のちか道やもしれません。

Eimg_5493_2 復興への決意と防災減災への覚悟と共に、長い道のりを着実に歩んでゆきましょう。最後になりましたが、東北地方太平洋地震東日本大震災で亡くなられた全ての人々の冥福を祈ると共に、復興へ臨まれる全ての人々の敢闘と幸いを祈り、本文の末尾とさせていただきます。

北大路機関:はるな

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国連制裁反発の朝鮮半島休戦協定破棄宣言と中国の尖閣諸島測量員上陸検討

2013-03-10 23:51:48 | 国際・政治

◆重要なのは予防外交の展開

 3.11を前にしてブルーインパルスの松島基地帰還実現決定など嬉しい報道も為されるのですが、我が国周辺は非常に気になる事案が生じています。

Img_4817 第一の懸念は朝鮮半島です。北朝鮮は先日の核実験を契機とする国連安保理制裁決議への報復として、朝鮮戦争休戦協定の白紙撤回を宣言し、米本土への核攻撃を含めた軍事行動を示唆しています。もちろん、宣言だけの攻撃は北朝鮮の常とう手段であり、“口撃”と揶揄されるものですが、金正恩新指導体制下ではどういった強硬措置が取られるか、現時点では未知数であり、特に韓国の軍事上の準備体制の欠如がこの地域の安定に際し大きな問題となる懸念があります。

Img_3528 韓国軍はあたかも我が国を最大の脅威として想定しているような装備体制を特に1990年代後半から転換し、隣国に大量の魚雷艇とミサイル艇に小型揚陸艇と小型潜水艦を有する海軍がありながら、大型水上戦闘艦やドック型揚陸艦にイージス艦とAIP潜水艦の整備を行い、陸軍でも千両単位でT-62とその改良型を運用する脅威があるのに対し、過度に高性能を意図しつつ技術的稚拙により使えない新型戦車や、機動力と火器管制装置に問題点がある装甲戦闘車、連続射撃能力と間接照準射撃制度に問題がある自走榴弾砲を揃えてきました。

Img_7080 自衛隊の装備体系は問題が指摘されつつも、昨今のNATOの実任務等を見れば、何処も似たようなものか、と考えさせられたものですが、韓国は上記の通り装備体系と運用体系に問題を抱えています。空軍も酷く、導入した戦闘爆撃機の維持費の大きさがほかの空軍訓練運用体系に支障を来し、訓練ではミサイル整備の手抜きにより誘導弾が電池劣化でそのまま自由落下、戦闘爆撃機用長射程誘導弾は一機一発の確保さえ成らず、見栄えはするものの実戦力としての能力には少々疑問符を点けざるを得ません。

Img_0002a 無論、高度な装備を導入しつつ使い切れていない点については我が国にも聞き覚えがあり、耳が痛くないかと問われれば難しいところではありますが、実運用で大丈夫かと問われた場合に、余りに想定脅威から離れた装備体系を構築してしまっているのが韓国軍で、もちろん北朝鮮人民軍の装備は総じて旧式が主体であり、観閲式に供される一部部隊を例外としても通信能力や視程外戦闘能力に大きな問題はあることも確かですが、動くのか怪しい装備を揃えてしまった韓国軍では五十歩百歩と言わざるを得ないことも確か。

Img_7007 日韓関係では元来同じ自由主義圏の国として価値観を共有する隣国同士ではありますが、竹島の不法占拠を行い半世紀以上を経て、過度に竹島問題を掲げて我が国に対する不可解な行動と防衛装備体系を構築しています。我が国は繰り返し国際司法裁判所での解決を希望し、自衛隊には確かに能力的には竹島を奪還する装備を有していますが国内政治の観点からそれを実行する可能性は現実的ではありません。しかし、過度に竹島防衛を掲げ、表玄関の先にある北朝鮮への防衛を疎かとしているのは不可解の一言に尽きます。

Iimg_0354 特に徴兵の兵員への供給する装備が柄こそ迷彩ながら実態はヴェトナム戦争時代のものという事で、朝鮮半島情勢について、華美な正面装備の導入と共に基盤となる防衛力の低下をまねている韓国軍の現状を見る限り、例えば局地戦を展開された場合への準備については疑わしいものがあり、他方で朝鮮半島有事は対岸の火事と言いつつも川幅が対馬海峡に日本海と非常に狭いのも事実であり、我が国としても重大な関心と共に予防外交を展開する必要性があるでしょう。

Aimg_24370 中国と日本の軍事衝突は、現在世界経済に与える最もおおきなリスクの一つに数えられている、こうした論調が一部にはありますが、その焦点となっている尖閣諸島に対し、中国政府は正確な測量を行うために調査要員の上陸を検討していることが、朝日新聞などの報道により明らかとされました。測量とはいえ、係争地域の姿勢圏外呼ばない地域へ上陸させるのですから、仮に強行された場合、我が国としては拘束せざるを得ず、これは尖閣諸島での緊張を一挙に突沸させる緊急事態に他なりません。

Oimg_3838 防衛省自衛隊では尖閣諸島近海には敢えて艦隊を展開させず、中国海軍の動向を公海上において警戒していますが、最前線には海上保安庁が巡視船多数を持って警戒に当たっています。先日中国国家海洋局が除籍された旅大型駆逐艦の海洋監視船転用を発表した際に、海上保安庁も護衛艦はつゆき型の巡視船転用を発表しました。今回、調査要員上陸を示唆した中国に対し、我が国が撮り得る対応策としては海上保安分署の設置など、尖閣諸島への陸上要員配置などが考えられます。

Himg_5267 中国側が求める日本政府への自制について、その定義は不明確ではありますが、少なくとも施政権が及ぶ領土でありながら隣国との摩擦を避けるよう常駐要員を置かず緩衝地帯のように扱い、周辺へは軍隊に当たる自衛隊を展開させることなく法執行機関である海上保安庁が展開していますが、対して行われるのは繰り返される領海侵犯に加え領空侵犯、公海上での護衛艦に対する武力行使に当たる火器管制レーダー使用、自制を求めるとは主権放棄を呼びかけているようにしか解釈できません。

Img_0392 国家である以上、日本は主権の放棄はできません、領土領域とはそういうもので、一方の強制力により奪取されることを認めては国家が成り立たなくなってしまいます。ここ数年間の過度な対中融和政策と一貫性を欠いた対米政策も中国へ誤ったメッセージを送ってしまったと批判されるべきところかもしれませんが、現状の中国の行動は、例えば別の国が海南島などに対し同等の行動を行えば、戦争となり、少なくとも自制を求めている国が行う事とは考えられないのではないでしょうか。

Img_1057 日本側が行い得る最大の妥協点は、日本側が日中学術調査を主宰し、自然科学を一義的に行う目的の項目に定点を定めない測地調査を含め、日本側の公船を用いて尖閣諸島の合同調査を行う、というところでしょうか。絶対条件として、一旦我が国に入国する、日本政府が主催する、杭などの基準点設置は日本側が行う、この条件を満たしているならば測量は認め得るところですが、そもそも中国側が対内的観点から引けないのか、実際に奪取する事が建前では無く戦略目標であるのかで、かわってきます。

Himg_6118 しかし、我が国の国是である憲法九条に依拠し、過度に防衛力を外交政策の展開において軽視し、我が方が軍事行動を行わない事が我が国に対し軍事行動を行わない、という政策に問題の根源があり、即ち相手に誤った印象を与える事は認識しておかなければなりません。尖閣諸島は周辺に豊富な海洋資源を有し、台湾有事には沖縄の米軍と台湾を結ぶ戦略的重要地域で、これを日本が維持できなければ台湾をめぐる戦争さえも誘発させかねません。

Bimg_8692 相手の立場に立って、ということばは様々な場面でなされるところですが、今回の場合も然り。日本列島は日本人だけのものではない、という言葉を発した政治家がいましたが、まさにその通りで、日本が日本列島を管理することで保たれる日本周辺国の平和があるのです。上面の文面だけの教条的な平和主義は、かえって戦争を誘発する、過度な無防備が戦争を誘発した事例は世界史に多く記録されているという事実の上で、如何に予防外交を達成するか、慎重に考えてゆく必要があるでしょう。

Gimg_4419 北朝鮮の核武装については、核不拡散体制の堅持こそ核戦争回避の唯一選択肢と考え、加えて核不拡散条約が核兵器国に核兵器削減義務を課している現状に逆行するものとして、制裁に妥協の余地はありませんが、北朝鮮が国家と体制存続の唯一手段に核兵器を見出しているところに誤りがあります。体制を維持しつつも、核放棄を実行し、順次民主化を進めて行ったならば、ミャンマーが不可能と言われた民主化により新しい発展と投資の入り口を築いたような、本当の意味での強勢大国への道を開く可能性はあると思うところ。

Img_0490 中国については、アメリカの予算均衡法による歳出強制削減により軍事的な抑止力が低下している現状が長期化したならば、次の一歩に出てくる可能性があります。現状では在日米軍の訓練予算は大きく削られていませんが、その母体である本土の総力が削られることは有事の際の増援を制限することにもなりかねません。ただ、中国の海洋進出が領域拡大の目的ではなく、海洋の自由航行に依拠した経済発展のための手段として行われているならば、海洋の自由航行は独占では無く共有するもの、として理解を図り、日中の共栄へ繋げることが出来るかもしれません。 

北大路機関:はるな

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舞鶴地方隊舞鶴展示訓練2011詳報⑥ 航空部隊の観閲飛行、SH-60編隊とP-3C哨戒機

2013-03-09 22:29:06 | 海上自衛隊 催事

◆航空集団の精鋭、航空部隊の飛行

 舞鶴展示訓練参加部隊は、観閲式を経て一斉に陣形を組み直しました。

Mimg_6998 遙か彼方に慎重に目を凝らしますと、霞の中を直線的に直線状の移動を続ける面のようなものが見え始め、それが寸秒を経て点の集まりであることに気づき、これが航空部隊、という事が漸くわかってきます、400mmズームレンズの写真を拡大すると、それがヘリコプターの編隊であることが分かります。

Mimg_6716 舞鶴展示訓練観閲飛行は、舞鶴航空基地第23航空隊のSH-60J/K哨戒ヘリコプター三機編隊、そして航続するのは厚木航空基地のP-3C哨戒機です。舞鶴地方隊の多用途支援艦やミサイル艇に掃海艇と輸送艦、そして海上保安庁巡視船の上空を飛行してゆく。

Mimg_6731 SH-60J/Kは、HSS-2B対潜哨戒ヘリコプターの後継としてアメリカ製S-70ヘリコプターへ国産対潜器材を搭載したもので、水上戦闘艦の空中センサーという米海軍のSH-60Bの域を超えて、吊下ソナーを搭載する高性能な自己完結型対潜哨戒システムであり、加えて水上戦闘艦との連携を行う。

Mimg_7010 哨戒ヘリコプターは、磁気探知装置やソノブイ、吊下ソナーにより潜水艦を捜索しますが、仮に探知に及ばない場合でも活発なヘリコプターの活動は潜水艦の行動を許しません。そして固定翼哨戒機と異なり、空中でホバーリングし停止できますので、そのまま水中に高性能マイクロフォンであるソナーを降ろして索敵できますので、潜水艦は動きを封じられます。

Mimg_6727 複数の哨戒ヘリコプターが任務に当たる場合、ソノブイにより捜索を行うと併せ、一方が縦横無尽に飛行し磁気探知装置により大まかな潜水艦位置を探ると共に、もう一方がソナーを海中に降ろし、効率的に広範囲を捜索する方式が取られ、このヘリコプターの艦上運用を早い時期から実施してきた海上自衛隊の対潜哨戒への意気込みが分かるでしょう。

Mimg_7019 P-3C哨戒機、海上自衛隊が100機を導入した対潜哨戒機で、搭載j器材が収集した情報をコンピュータにより情報処理し、広い海洋から隠れている潜水艦を見つけ出します。導入費用は1機100億円、当時護衛艦は200億円かた300億円ほどでしたので、それに見合う性能がどのくらい大きいか想像できるでしょう。

Mimg_7022 P-3C哨戒機の捜索能力の大きさは、同時に情報を得るソノブイ八本で四国と同等の面積の海域を哨戒できるそうです。海上に投下するソノブイと機体に搭載するレーダに磁気探知装置の微かな潜水艦兆候をコンピュータが蓄積し照合し、潜水艦の位置を探し出します。水上戦闘艦や哨戒ヘリコプターの情報中継や情報連携を行い、いわば、洋上の司令塔となるわけですね。

Mimg_7026 取得費用が大きいため、日本は100機を導入しましたが、P-3Cは余程海軍航空を重視している国でも10機導入するのは至難と言われるほど。哨戒ヘリコプターのように直接ソナーを海中に降ろすことはできませんが、ヘリコプターとは速度が根本的に違いますし、航続距離も桁違いで、滞空時間も非常に大きい。

Mimg_6777 観閲飛行が完了しますと、艦隊は展示訓練に向け再度陣形を整えます。大海原で展開される舞鶴展示訓練ですが、展示訓練実施海域は決して広くはありません。このため展示の際に何度も陣形を整える必要があるのですが、分刻みの転換と艦隊行動が実現できるのは海上自衛隊の操艦技術の高さゆえ。

Mimg_7038 潜水艦うんりゅう、の浮上、もちろん哨戒ヘリコプターや哨戒機がどんどんと集まったので観念して浮上した、というわけではありません、海上自衛隊の潜水艦は原子力潜水艦のように常に動き続ける機関ではなく、バッテリーに蓄電して動力としているため、非常に静かです。

Mimg_7062 うんりゅう、はAIP機関を搭載する潜水艦で、従来の潜水艦はバッテリーへ蓄電するために浮上しシュノーケルを海面に出して吸気しディーゼルエンジン発電を行う必要がありましたが、AIP機関は大気に依存せず潜ったまま発電できます。艦内に液体酸素と灯油を搭載し機関部内のヘリウムを加熱、この機体の膨張圧を動力としているため、潜ったまま発電できる、という仕組み。

Mimg_6761 潜水艦は潜航中に航空機などからその存在を暴露しないよう、真っ黒な塗装となっています。これが一たび浮上しますと、洋上に真っ黒な鉄の鯨が浮かび上がるわけですから、その威圧感は凄いものがあります。特に日常空間にはあり得ない形状と出現、ここが印象的だ。

Mimg_6777_2 護衛艦とヘリコプター、訓練展示へと、祝賀飛行を終えた航空部隊が、陣形を組み直した展示訓練参加艦艇の近くに展開してきます。今回の特集は舞鶴展示訓練です、従って観閲式の艦隊と観閲飛行の航空部隊は、これから洋上で有事の際に行う行動の一端を見せつけることになるわけです。

Mimg_6749 乗艦しているイージス艦ちょうかい、はイージス艦あたご、護衛艦あまぎり、の後方に就きました。飛行甲板の右舷側、展示が行われる方向に見学の乗艦者が集まっているところが見えるでしょうか、いよいよ舞鶴展示訓練は、訓練展示へと転換してゆきます。

北大路機関:はるな

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第4師団創設58周年 福岡駐屯地創設62周年記念行事詳報③ 観閲行進、普通科連隊前進!

2013-03-08 23:05:07 | 陸上自衛隊 駐屯地祭

◆機動力と打撃力を併せた機械化部隊

 第三回を迎えた詳報福岡駐屯地祭第四師団・創設記念行事は、いよいよ観閲行進へと行事が進みます。

Fimg_5296 観閲行進の先頭は観閲部隊指揮官を務める第四師団副師団長福田築陸将補です。師団幕僚の乗車車両と共にゆっくりと観閲第正面へ行進し、観閲台にて観閲する師団長武内誠一陸将に対し敬礼、師団長も答礼で返します。こうして機械化部隊となった第四師団の観閲行進がいよいよはじまりました。

Fimg_5289 82式指揮通信車、師団司令部は副師団長、幕僚長、幕僚幹事、人事担当の第一部長、情報担当の第二部長、運用担当の第三部長、補給担当の第四部長を以て編制され、支援する部隊として司令部付隊が本部、車両小隊、管理小隊、司令部勤務班が充てられています。

Fimg_5316 徒歩行進で続くのは自衛隊候補生、所謂新隊員です。自衛官候補生は共通教育として前期課程を修め、その後に能力と適性に応じて職種を決定し、部隊において専門教育を行う後期課程を経て第一線部隊の隊員となります。こうして更新している彼らも今では各部隊に配属され、活躍していることでしょう。

Fimg_5345 第四偵察隊の観閲行進、福岡駐屯地祭では徒歩行進は異常の通りで早速車両行進となります。機甲科の偵察隊は師団に先んじ、情報収集を行う部隊で陸上自衛隊では創設当初から機械化されていました。偵察小隊三個と電子偵察小隊を基幹としています。車両化部隊の威容をご覧ください。

Ffimg_5362 87式偵察警戒車は、偵察部隊の装甲装備で25mm機関砲を搭載し威力偵察に当たると共に、微光増倍暗視装置による監視や、必要に応じて地上レーダ装置を砲塔へ搭載します。また、斥候員が乗車しており、降車し斥候を行うと共に暗視装置などによる監視支援も行うことが出来ます。今日的には監視機材がやや不十分で、火力も十分とは言い難いですが、積極的な偵察には必要な装備です。

Fimg_5366 理想としては威力偵察を行うべく、105mm砲搭載の機動戦闘車が欲しいところで、もしくは装甲戦闘車を大隊規模で運用する海兵隊の軽装甲偵察大隊のような一定の規模の部隊が必要、と思う一方、第一線での敵との接触は警備管区の連隊にあるのだから、この種の装備を普通科連隊の情報小隊に配備する必要もあるのかな、と思ったりもします。

Fimg_6499 第16普通科連隊長濱本博文1佐が敬礼します。第16普通科連隊は長崎県の大村駐屯地に駐屯し、連隊は本部管理中隊、四個普通科中隊、重迫撃砲中隊から編制されています。普通科連隊は独自の警備管区を有し、防衛任務や近年は特に災害に際し、第一に対処する基盤的防衛力を担っています。

Fimg_5372 第16普通科連隊の高機動車、陸上自衛隊には既に3000両以上が配備されている高機動車はトヨタ自動車が普通科部隊の機動と重迫撃砲の牽引用に開発したもので、水冷ディーゼルエンジンを採用し、米軍のハンヴィーなどと比べ加速力が良好であることが知られており、一台でも多く必要といわれる信頼性の高さ。

Fimg_5380 本車は全ての普通科連隊に配備され、小銃手に分隊機銃や対戦車火器を装備した一個小銃班の機動に活躍します。車体ロールバーには機関銃が配置可能で、路外機動力も一定水準あり、こんな悪路を進めるのか、と乗ってみますとかなり感心させられるもの。

Fimg_5382 軽装甲機動車、第四師団の普通科連隊について、一部中隊にはこの軽装甲機動車が配備されています。自衛隊自慢の小型装甲車で、日本の狭い道路が網の目の如く広がる市街地において分散運用に威力を発揮しますし、野戦での機動力も高いが、少々重心が上にあるため、これだけは注意が必要とのこと。

Fimg_5401 重迫撃砲中隊の120mm重迫撃砲RT、以前配備されていた107mm重迫撃砲を置き換えるフランス製の迫撃砲で射程が大きく、従来の普通科連隊を直掩火力として支援した特科連隊の105mmの任務を担う事も出来る装備です。ちなみに、これを牽引時の高機動車は迫撃砲の備品扱いになるのだとか。

Fimg_5407 第19普通科連隊長井手正1佐、第19普通科連隊は師団司令部の置かれる福岡駐屯地に駐屯しており、部隊は即応予備自衛官を基幹として編成されるコア化部隊です。連隊の編成は、16連隊と同じく、本部管理中隊、四個普通科中隊、重迫撃砲中隊という編制になっています。

Fimg_5426 コア化部隊となっていますが、軽装甲機動車を多数装備しています。01式軽対戦車誘導弾を装備していますが、軽装甲機動車の機動力を活かし、敵砲兵火力からの生存を図りつつ、対戦車ミサイルの機動運用を行う車両と、機関銃搭載車両が協同するというのが本車の運用です。

Fimg_5433 第二中隊にも軽装甲機動車が装備されていました。軽装甲機動車は上記のような木目細やかな普通科部隊の分散運用を期して装備されているのですが、一個班を二両に分散し火力構成を分散し制圧面積を増やせる半面、操縦手が二名必要となり、降車戦闘要員が少なくなるため、降車戦闘時は車両を放置して展開する、とのこと。

Ffimg_5453 第19普通科連隊の高機動車をアップにしてみますと、鉄帽がマミをと共に耳のあたりの形状が特徴的な66式で、現用の88式鉄帽と形状が異なるのに気付きます、また、腕章には即応予備自衛官を示すものがあり、MINIMIを構えているこの隊員は即応予備自衛官であることが分かる。

Fimg_5457 重迫撃砲中隊、ちなみに、重迫撃砲は砲兵による優先制圧目標となってしまうため、この重迫撃砲中隊も装甲化する必要はないのか、と思うところ。不整地突破能力は間合いをいて運用する迫撃砲の特性上大きくないので、中型程度の装甲車で牽引、機動運用してもよいのではないかな、と。

Fimg_5467 120mm重迫撃砲は通常弾で最大射程8100m、射程延伸弾で13000mとのことで、フランス軍では四輪駆動のVAB装甲車できどうしています、軽装甲機動車では弾薬搭載量などの面で小さいため、軽装甲機動車をエンジン配置を改めキャブオーバー型とした重迫装甲牽引車、などあってもいいやも。

Fimg_6519 第40普通科連隊長中村祐亮1佐の敬礼、連隊は福岡県北九州市の小倉に駐屯しています。編成は本部管理中隊、四個普通科中隊、重迫撃砲中隊というもの。一部師団ではこの編制に加えて対戦車中隊が配置され、79式対舟艇対戦車誘導弾が配備されます。

Ffimg_5481 一方、第4師団の普通科連隊はその中隊に対戦車火力として射程2000mの87式対戦車誘導弾を対戦車小隊に配備し、射程1600mの01式軽対戦車誘導弾を第一線の小銃班に配備しています、あたかも米海兵隊のジャベリンとプレデターミサイルを思い起こさせるものですが、将来的に対戦車小隊へは射程の大きい中距離多目的誘導弾が配備されてゆくことでしょう。

Fimg_5503_2 第41普通科連隊長岡本良樹1佐、大分県の別府駐屯地に駐屯する普通科連隊で、本部管理中隊、四個普通科中隊、重迫撃砲中隊が基幹部隊としています。基本的に普通科連隊の編成は同一で、軽装甲機動車については管理替えなどで柔軟に運用されている模様ですね。

Fimg_5526 なお、福岡駐屯地祭では各普通科連隊が隷下の普通科中隊から一両二両と抽出して式典に参加しています、中部方面隊の行事ですと中隊ごとに、高機動車の中隊を行進させる連隊、軽装甲機動車を行進させる連隊、対戦車中隊を出す連隊に重迫撃砲中隊を出してくる連隊、と車両を単一で多数そろえてくるところ。

Fimg_5528 同一車両が多数固まっている方が観閲行進としては見応えがあるのですが、何故か毎年同じ中隊ばかりとなってしまうこともありますので、この西部方面隊方式、と表現してみるべきでしょうか、東部方面隊も第12旅団がそうでしたが、一つの方式なのかもしれません。

Fimg_6540 対馬警備隊長谷村博志1佐、対馬警備隊は陸上自衛隊で唯一の警備隊となっており、離島である対馬の防衛警備に当たる部隊です。対馬警備隊は本部管理中隊と一個普通科中隊を以て編成しており、本部管理中隊を置いているのは自己完結能力を高くする運用上の想定の下で実施された、とのこと。

Fimg_5547 対馬警備隊は有事の際には西部方面隊から空中機動や佐世保地方隊の輸送支援を受け中隊を増強するため、対馬警備隊そのものに普通科連隊並みの指揮通信能力を付与する、という目的があるそうです。一個中隊と十分な指揮通信能力に支援能力、これこそ離島防衛の在るべき姿でしょう。

Fimg_5550 しかし、対馬警備隊は自衛隊でも有数の精鋭部隊と呼ばれており、この背景に多くのレンジャー資格保持者を揃えていると共に、島民との一体というほどの厚い信頼関係で結ばれ、島内での国有地や場合によっては民有地でも演習や訓練が行えるところにあり、軍隊の強さとは住民の支持と理解と支援にほかならない、ということ。

Fimg_5556 第四対舟艇対戦車隊、第四師団ならではの独自の部隊です。玖珠駐屯地に駐屯する師団直轄対戦車部隊です。装備しているのは96式多目的誘導弾で、射程10km以上の視程外戦闘を行う戦術ミサイルシステムです。システムは情報処理装置と射撃指揮装置に発射装置と地上誘導装置に観測器材と装填装置で一個分隊を組み、二個分隊で一個小隊を編成します。

Fimg_5577 最大射程が気になるところですが、一つの手がかりがあります、派米演習に本装備がおくられた背景として、国内最大の矢臼別演習場では最大射程で運用した場合に弾着地から数km以内に国道があるといわれるため射撃訓練に制限がある為、と言われていました。

Fimg_5585 矢臼別はFH-70であれば19km射撃が可能となっていますので逆算すれば15km程度の射程がある、と言えるでしょう。ただ、演習場は射場がわけられており、特科火砲の射撃区域にて多目的誘導弾の運用を行うのか、一方視程外誘導は一種の間接照準射撃なのであり得るのではないか、など、演習場の区域は分かりにくいものがあるのですけれども。

Fimg_5589_2 多目的誘導弾は光ファイバー赤外線画像誘導方式を採用しており、後方の安全な掩砲所からミサイルを投射可能ということになります。弾頭重量は60kg、命中すれば上陸用舟艇は勿論、潜水艦やフリゲイトも無事ではすみません。対舟艇対戦車隊は四個小隊基幹で8セットが装備されている。

Fimg_5598 96式多目的誘導弾の射程を仮に射程15kmとした場合、僅か一個分隊で700k㎡をその火力制圧圏内に置くことが出来ます。これは京都市の面積が827.9k㎡ですので、旧京北町を除くほぼ全域において侵攻する戦車や鴨川を遡上する上陸用舟艇(オイ)などを精密誘導により撃破できるという、かなり恐るべき装備です。しかし、取得費用が大きく、二個師団と一個旅団に一個方面直轄部隊にしか回らなかったのは残念なところ。こうして普通科部隊の観閲行進は完了し、観閲行進は次へ続きます。

北大路機関:はるな

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平成二十四年度三月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2013.03.09・10)

2013-03-07 22:59:03 | 北大路機関 広報

◆自衛隊関連行事

 暖かくなりつつも花粉に黄砂にPM2.5に脅かされる今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか。

Img_2630 さてさて、今週末は3月9日と10日、即ち週明けがあの東日本大震災から二年を迎えるという鎮魂の日となりますが、併せて今後我が国を襲う東海東南海南海地震の連動、南海トラフ地震では広島核攻撃を上回る死者が想定されているという状況下にありますが、これに合わせて日曜日、大阪にて防災行事が行われます。

Img_3683a 大阪防災フェスティバルは3月10日の1000時から1600時に実施され、大阪南港ATCとその周辺を会場として実施されます。陸海空自衛隊がこの行事へは装備品展示として参加するようで、南海トラフ地震では最大で梅田と難波まで津波が到達する想定がありますので、防災への準備と共に自衛隊への関心を持たれた方は是非どうぞ。

Eimg_5922 護衛艦せんだい一般公開、が併せて大阪南港で行われます。満載排水量2800tと護衛艦では最小ですが、沿岸警備用に建造されました。新潟中越地震では一番艦あぶくま、が取るものも取り敢えず新潟港へ駆けつけました。続いて物資を満載した護衛艦はるな、とともに任務に当たった一隻で、小型と言えど頼りになる。

Img_1285 大阪湾展示訓練の際に大阪南港を出港する護衛艦いせ、これだけの大都市が津波に襲われるのか、と一瞬眩暈がしそうですが、海の恵みを全て享受して成り立つ日本、災害に立ち向かうのも我が国の文化であり、一つの宿命ですので、お時間がある方はぜひ足をお運びください。

Kimg_6495 与座岳分屯基地開庁40周年記念行事、土曜日に行われるこの行事、沖縄本島南部の第56警戒群が運用するレーダーサイトです。40周年というと、沖縄返還後すぐに創設されたレーダーサイトですが、通称ガメラレーダーことFPS-5警戒管制レーダーが運用されている基地でもあります。特徴ある形は一見してわかりますので、お近くの方は是非、弾道ミサイルへ目を光らせるガメラをご覧になられてはどうでしょうか。

Kimg_7883 今週末の海上自衛隊基地一般公開は、舞鶴基地北吸桟橋が土曜日広報の護衛艦上甲板開放と日曜日に岸壁一般公開が予定、佐世保基地は土曜日と日曜日の倉島桟橋一般公開にて掃海艇ひらしま一般公開、呉基地が10日の一般公開で護衛艦うみぎり一般公開、とのこと。

◆駐屯地祭・基地祭・航空祭

  • 3月9日:与座岳分屯基地開庁40周年記念行事・・・http://www.mod.go.jp/asdf/index.html
  • 3月10日:OSAKA防衛防災フェスティバル2013・・・http://www.mod.go.jp/pco/osaka/index.html

注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関

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尖閣諸島防衛への一視点⑫ はつゆき型護衛艦、除籍は特設巡視船転用か予備艦維持か

2013-03-06 22:57:48 | 防衛・安全保障
◆巡視船しきしま、の経験は応用できるか
 政府は今月退役する海上自衛隊護衛艦を延命改修し、巡視船として再就役させる方向で検討しているとのこと。
Himg_7751 護衛艦みねゆき、がその筆頭候補に挙がっているようで、この検討は海上保安庁が増大する沖縄県尖閣諸島周辺海域での中国公船への対抗手段として、物量において阻止しなければならないという太田国土交通大臣の指針の下、検討されているもので、既に1月の時点に海上保安庁は護衛艦を視察し、熟慮したうえで具体的な方法を模索しているようです。この旧式護衛艦の巡視船転用は、運用方式が違う一方で防御力が大きい護衛艦の特性を活かす任務を行う上で良い選択肢、と、かの江畑謙介先生も仰っていました。
Himg_0213 江畑先生と言えば軍事評論の世界では神様のような存在です。ただ、当方としては、はつゆき型を江田内あたりの泊地にモスボール保管し、教育訓練に充当しつつ、有事など必要において動させるのだ、という姿勢を見せることで無言の圧力とする、予備艦方式を採った方が抑止力となるのですが、江田内では台風で走錨する危険があるとのことで、自衛隊基地にてその心配が無いのは大湊基地か余市基地に函館基地くらいでしょうか、巡視船に転用する労力よりはこちらの方がまだ防衛面での抑止力となるのでは、と思うところ。
Himg_0136 さて、この退役護衛艦巡視船転用案は、民主党政権下の野党自民党が総選挙前に必要性を強調していたもので、海上保安庁では総トン数7000tを越える最新あきつしま型巡視船などを建造し、尖閣諸島周辺海域での警備活動へ大急ぎでの対応を進めているのですが、就役までは二年間の建造期間を要するため、それではまにあわない、として提示された、いわば暫定案というもの。
Himg_0621 海上保安庁が導入を検討しているのは、四隻の護衛艦はつゆき型とみられ、上記の視察は海上保安庁の技術担当者により横須賀基地において行われ、操船技術の違いや乗員確保など解決しなければならない問題がありつつも、転用を検討中、としています。実現したならば、旧海軍海防艦からの巡視船転用は過去にありましたが、護衛艦から巡視船への転用としては初めてとなるでしょう。
Himg_0715 はつゆき型護衛艦、基準排水量2950t、満載排水量4000t、全長130m、全幅13.6m、喫水4.2m、主機ガスタービン4機2軸推進、出力45000hp、速力30ノット、乗員200名、対空対潜対水上の各種誘導弾と共にヘリコプター運用能力を有する汎用護衛艦として、護衛艦隊の主力をめざし、実に12隻が建造されました。
Himg_07860 巡視船と比較しますと、予算要求が2900t型護衛艦でしたので、一瞬5000tや7000t級の巡視船を保有する海上保安庁の警備取締船艇よりも小さく誤解するのですが、海上保安庁の巡視船は総トン数で計算されており、例えば総トン数5200tの巡視船みずほ型は全長130m、全幅15.5m、大きさだけを見ますと、海上保安庁の巡視船で大きさでは二番目みずほ型と同程度という事が分かります。
Himg_0835 心強い元護衛艦の巡視船転用、つがる型や、みずほ型巡視船と同じく航空機搭載能力がありますし、船体も古いとはいえ頑丈、古いといっても海上保安庁巡視船の最古参よりは新しく、頼もしい、と言いたいところですが、問題点は幾つかります。その筆頭は、運用方式の根本的な違いが巡視船と護衛艦にはあるという事で、これは警備任務を想定して検挙と警戒に重点を置く巡視船に対し、護衛艦は戦闘を想定して自らが戦闘において損傷した場合にも任務を継続しつつ可能であれば自力航行し基地へ戻る、という違いに収斂されるもの。
Himg_1156 もちろん、護衛艦から巡視船に転用される際には、76mm砲は去就に注目されるのですが、このほかの、20mmCIWS,ハープーン艦対艦ミサイル、アスロック対潜ロケット、短魚雷発射管、シースパロー対空ミサイルなどは撤去され、マストからもヘリコプターデータリンク装置や電子戦装置などが撤去されるでしょう。ただ、これら兵装を取り除いたとしても、なお、護衛艦と巡視船には大きな違いがあるわけです。
Himg_2067 巡視船は、ブリッジから操船を行い、通信を行い、命令を発します。しかし、護衛艦はそうではありません、何故ならば艦橋は肉眼での状況把握には適した位置にあるのですが、もっともレーダーに反射する部分であるので、対艦ミサイルが命中しやすい場所です。したがって、艦橋は機関管制室を通じて速度の増減を行い、通信室は艦橋構造物でも下に、艦橋が破壊されたとしても戦闘を継続できるよう戦闘指揮所は離れて配置します。また、機関部も離して配置され、一発のミサイルや爆弾で機関部が全滅しないよう配慮もされています。
Himg_2234_1 ダメージコントロールといいまして、これはつまり、護衛艦は一か所に機能を集中するのではなく、分散することで損害に備えている、という事。そして通常の船舶では航海長が船長に次ぐ立場になりますが、護衛艦では砲雷長や飛行長など、任務において必要な要員が副長を務めます。このあたりについても、自分よりも重武装の相手への背曲的な戦闘を配慮せず、航行することが任務の大きな部分を占める巡視船、損害を受けることを想定しない巡視船と水上戦闘艦である護衛艦とのちがいといえるかもしれません。
Himg_2914 海上自衛隊の護衛艦が毎週一般公開されているのと同じように、海上保安庁の巡視船も寄港地で一般公開される機会はかなりありまして、実際に巡視船を見学してみますと、もちろんそうした仕様だからなのですが、通路などは水上戦闘艦という印象はなく、階段などの周辺は何度か利用したフェリーを思い出させる雰囲気があります。そして、指揮所、護衛艦でいう戦闘指揮所に当たる部屋はブリッジの後ろ半分にあり、時として撮影はさせてくれないのですが、一般公開であれば経路によっては自由に行き来させてくれるものもあります。
Himg_3701 対して、護衛艦では戦闘指揮所などは、一般公開ではまず入れず、通路は魚雷攻撃などの浸水に備え各所に防水扉が、階段は急なラッタルで防水ハッチが完備されています。また、巡視船は母港に戻りますと、ほぼ全員が上陸し、無人に近くなりますが、護衛艦は例え造船所のドックに入渠中であっても当直が配置され、夏場などは大変とのことですが、常時緊急時に備えている、このあたりも巡視船と護衛艦の大きな違い。
Himg_5021 以上の通り、海上保安庁の要員がそのまま、巡視船から元護衛艦の巡視船へ配置転換となっても、通常の引き継ぎのように運用することはできません。特に通信設備と操舵装置に機関管制の方式が通常の巡視船と全く異なりますので、相当な熟練が必要かもしれません。皆さんも、運転する自動車が突然フロントガラスに覆いをされ、助手席の車長がサンルーフから身を乗り出してハンドル操作を行うようになれば運転しにくいでしょう、ギアとアクセルにブレーキは後部座席から操作し、カーナビも後部座席に、そんな感じ。
Himg_6434 ただ、海上保安庁にとって護衛艦は全く未知の艦か、と言われますと実は何とも言えないものがあります、それは巡視船しきしま型の存在です。しきしま、は1992年に日本の発電用再処理済みプルトニウム輸送船護衛用に建造された総トン数7175tの世界最大の巡視船で、テロリストの攻撃に備える対空レーダーは、はつゆき型護衛艦と同型のOPS-16,船内はテロ対策の観点から未だ関係者以外一切の未公開で、報道公開されたロシア空母やアメリカの戦略ミサイル原潜よりも報道陣に対して閉ざされています。
Himg_6661 しきしま、は、テロリストや特殊部隊の攻撃を想定し、ダメージコントロール概念を設計の際に配慮していまして、しきしま、の運用はある程度護衛艦との共通性がある可能性があります。もちろん、これは実際に見たわけでもありませんから何とも言えないのですが、しきしま、が従来の巡視船とは違う艦内構造、とはよく言われるところ。既に就役し20年以上を経まして、海上保安官にも同船の経験者が多数いますから、特設巡視船はつゆき型対応特別チームを編制すれば、動かすことは可能なのかもしれません。
Himg_7216 他方、動かすには海上自衛隊からの支援が必要なのですが、海上自衛隊にその余裕があるかと言いますと、こちらの方が難しく、それならば予備護衛艦として延命させる道を探した方がいいやもしれません。そういうのも海上自衛官は充足率が充分ではなく、除籍された護衛艦の乗員は既に別の艦へと移ることが決定しています。問題の一つは、海上自衛隊から海上保安庁へ、バトンタッチするだけの要員の余裕が無い、ということでしょうか。もともと充足率の低さは毎年毎年財務省へ是正の予算を要求しているのですが、これがなかなか通らず、今に至る、ということ。
Himg_7388 鵜来型海防艦、今回の難題を越えることが出来るか、という一助といいますか雑学知識にこの名前を頭の片隅に入れても損はないでしょう。鵜来型海防艦は第二次大戦中の護衛任務用に建造され、船団護衛任務において接近する潜水艦や航空機を撃退する、一種の護衛艦です。米海軍と熾烈な戦いを切り広げた帝国海軍の海防艦ですが、12cm45口径連装高角砲に25mm三連装機銃、爆雷120発等を搭載し基準排水量940t、最高速力は19ノットで、航続距離は16ノットで5000浬を発揮していました。
Himg_9229 この中で大戦を生き延びた四隻は戦後海上保安庁に編入、映像としては東宝の映画ゴジラ、に最後オキシジェンデストロイヤーを投入する母船として映画に出ていますし、海防艦志賀は、巡視船こじま、として1964年まで運用、除籍後は千葉市海洋公民館となり、1998年まで保存されていました。過去に軍艦から巡視船へ転用された事例はある、という事は、目の前の問題解決には精神的以外の助けとなりませんが、それでも前例がある、ということもできるやもしれません。
Himg_9753 ただ、即座の警備力強化には、例えば交通船、一部交通船は海上自衛隊の19号型哨戒艇の設計を取り入れているものがありますので、これを、大きくはないのですが転用してはどうか、というもの。もしくは、まだまだ新しいので気は引けるのですが、多用途支援艦などは操艦方法がある程度一般の船舶とも近いとのことですから、巡視船に転用してはどうか、と思います。いろいろと困難はあるのですが、しきしま、の要員の経験、鵜来型の前例を元に、頑張ってほしいところです。
北大路機関:はるな

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最新護衛艦てるづき・最新潜水艦ずいりゅう、自衛艦隊授与式を経て引き渡しへ

2013-03-05 23:02:56 | 海上自衛隊 催事

◆あきづき型護衛艦・そうりゅう型潜水艦最新艦就役

 明日と明後日、海上自衛隊には新しい護衛艦と潜水艦が自衛艦旗を授与され、就役します。

Aimg_0673 あきづき型護衛艦あきづき、その二番艦として7日木曜日に三菱重工長崎造船所にて護衛艦てるづき、が就役します。初代艦長は林田嘉信2佐で、式典は引き渡し式を三菱重工取締役社長の大宮英明氏が、自衛艦旗授与式を佐世保地方総監吉田正紀海将が執行者として担い、海上幕僚長河野克俊海将も出席されるとのこと。

Aimg_2940 行事は1000時から1005時まで引き渡し式、1005時から1052時まで自衛艦旗授与式が行われ、1105時から1205時まで祝賀会、1225時から1240時にかけ出航見送り式が行われ、これはグラバー園など、長崎市の高台などから眺めることが出来、お時間がある方は足を運ばれてはどうでしょうか。

Img_5724 新潜水艦ずいりゅう自衛艦旗授与式は明日、三菱重工神戸造船所において行われます。引き渡し式は執行者に三菱重工取締役社長の大宮英明氏と自衛艦旗授与式を呉地方総監山口透海将がそれぞれあたり、海上幕僚長河野克俊海将も出席されます。ずいりゅう、は潜水艦そうりゅう型でAIP機関により長い潜航能力を誇る。

Timg_7312 ずいりゅう初代艦長は、渡辺忍2佐で、1100時から1145時に引き渡し式と自衛艦旗授与式、1200時と1250時まで祝賀会が行われ、1315時から1335時まで出港見送り式が行われます。ずいりゅう、は潜水艦そうりゅう型の五番艦で、これまでの四隻は呉基地第1潜水隊群に配備されています。

Kimg_9257_1 一方、除籍される護衛艦のなかで、はつゆき型については政府方針により海上保安庁への譲渡が計画されています。巡視船不足とは言え護衛艦の運用は海上保安庁には非常に難しいでしょうが、護衛艦みねゆき、などがそのまま解体されるのではなく、維持される方法が模索されているようです。

北大路機関:はるな

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防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望⑯ 国産装備の比較対象は妥当か

2013-03-04 23:39:57 | 国際・政治

◆装備への知識不足と読者層への配慮が背景か

 日本の防衛装備品ですが、高いので輸入の方が安い、という論調の背景にあるものはどういったものなのでしょうか、一方、比較している海外装備はヘンではないでしょうか、本日はこの視点を少しみてみましょう。

Mimg_2091 日本の防衛装備品が高い、という印象は、20年ほど前に湾岸戦争を契機とし、90年代後半にかけ多くの著書で強調された一方、これが少々整合性がとれていない点を指摘する著書が少ないまま訂正されず、その後海外の装備品を日本に輸入する場合の問題や仕様が全く異なる点を誰も指摘しないまま、今に至る点が背景にあるのではないか、と考えます。もちろん、性能の面で細かい点を精査すれば単純な比較は行えないことは分かることなのですが、あまりにも露骨な国産装備への偏見が一時期、識者の間にあったのではないでしょうか。

Gimg_6645 自衛隊は、性能面だけを見ますと独自性がある装備が多いですし、海外装備ですと日本の地形に合わないものが多かったりします。過去に提示したのが日本の細い車道には海外の大型装甲車が対応していない、というものでしたが、付け加えますと、どうようの問題を抱えた事例にイタリアがあります。あの国はアメリカからM-60戦車を導入しましたが、アルプス付近では大型すぎ、続いて世界が第三世代戦車に移行しつつあるときにようやく地形に合致するレオパルド1を導入したものの導入当初から時代遅れ、ようやく国産のアリエテ戦車開発に到達した、という例もあります。

Img_5285 しかし、自衛隊装備への批判を観てみますと、これは比較対象として自衛隊装備と比較されている海外装備がおかしい、比較軸がずれているのではないか、というものがあります。ここで思い出されるのは、民主党政権時代に行われた事業仕訳にて大学教授が89式小銃の値段の高さを批判する比較対象にAK-47が30ドルくらい、AK-47はそうとうな中古でも30ドルは難しいと思うのですが、生産終了している時代の話か、1ドル360円時代の話か、兎に角比較軸化比較対象がおかしいものがありました。

Img_2421 AK-47が30ドルというのは、登場当時の1950年ならばそのくらいで買えた、という事でしょうか、当時最大の硬貨は5円硬貨で1951年に10円硬貨が誕生、煙草のピースが60円時代ですので、30ドルは10800円、当時なら30ドルでAK-47が生産できたのかもしれません。竿竹屋かよ、と思われるかもしれません、下さいというとこれは20年前の値段ですという竿竹移動販売のように、ただ、単に事業仕訳に出た東大の先生が武器の値段を全く知らないど素人だったからでは、ともいえるかもしれませんが。

Img_5383 それなら大卒銀行員初任給が3000円だったと1950年のデータ出してその東大の先生に十倍の30000円で暮らせるか問うてみたいところですが、良く調べてみると事業仕訳にて東大の先生はインターネットで調べたら30ドルだった、とのこと。ううむ、ソースはインターネット、で通じる世界なのか。まあ、こうしたことは個人攻撃にもつながるのでやめましょう、そしてこれは極端な事例でしたが、専門書でも比較対象に不可思議なものが出されていることがあります。

Gimg_9961 例えばある著書では81式短距離地対空誘導弾とローランドミサイルシステムを提示し、後者の方が安く、第一線での運用にも適している点を強調し81式の調達を問題視するものがありました。ローランドは81式短SAMの半分程度の取得費用だ、とのことでしたが確かに81式短SAMは発射に際しての自動装填に際し装填台への搭載に人力を必要とする点や、信管が小型で尾部への装填が煩雑という問題点はありますが、運用思想が異なるものだという事を忘れてはなりません。

Bimg_5366 まず、81式短SAMはレーダーを搭載した射撃指揮装置一両と二両の発射装置を基本として編成しますので、一両でレーダーと発射機能を統括するローランドとは別の思想に位置する装備です。ローランドは装甲車に搭載し最前線で戦車や装甲車と共に運用するものなのですが、81式短SAMは師団の策源地での防空が念頭になっていたためです。このため、81式短SAMのレーダーは50km程度の対空捜索が可能であるのですが、ローランドの車載レーダーは小型であり、20kmから25km程度の捜索能力しかありません。

Bimg_8463 自衛隊では師団高射特科大隊を全般支援と直接支援に中隊毎に分けていまして、第一線防空はL-90高射機関砲や、現在は93式近距離地対空誘導弾により対処しています。つまり、第一線部隊向けの防空装備であるローランドと、後方拠点防空用の81式短SAMとを単純比較していましたので、より広い防空が求められる81式短SAMの方が高くなるのはある意味当然でしょう。専門家であればこの二つを比較するのは比較軸が違う事には気付くはずです。

Mimg_1654 実はこの話には続きがあります。とある軍事雑誌にて、スティンガーミサイルを八発ハンヴィーに搭載したアヴェンジャーと、93式近SAMを比較した際に、またしても安いのでアヴェンジャーを、という論調となっていました。93式近SAMは複合光学照準器と師団防空システムに連動させた効率的な対空戦闘が可能な装備です。対してアヴェンジャーは人力で照準し、防空システムとは連接していますが、官制は受けていません。つまり、性能面では93式近SAMの方がより高性能である、ということになります。

Simg_6391 実はアヴェンジャーと93式近SAMの単純比較記事は第一線高射特科大隊でも、これはおかしいぞ、となっていた話を聞きまして、この評論を行った方はお世話になったことがある方でしたので、とある機会にこの点を聞いてみましたところ、依頼として、自衛隊装備の問題点を強調してほしい、という話が合ったそうです。これは、自衛隊装備に問題あり、という論調の方が売れる、という厳しい出版業界の事情があり、売れなければ雑誌は存続できませんので、難しいところですが。

Aimg_2655 ちなみに、凄くどうでもいい話で知り合いのかたで、公官庁で防衛を研究する方がいます。この方は、勤められる前にとある軍事専門誌に、実は強いイタリア軍、という特集を提案されたこと、日本軍死ぬまで抵抗・イタリア軍死ぬ前に投降、先の大戦では半分の数のギリシャ軍に敗北、エルアラメインでは逃げ遅れ、地中海にイギリス海軍が入るとイタリア戦艦は引き籠り、今度はイタリア抜きでやろうと揶揄される始末で、某アニメではイタリア戦車を装備するアンツィオ高校は一コマで全滅していましたし。

Aimg_2450 ただ、確かにイタリア海軍人間魚雷部隊の活躍や、マルタ島攻防戦でのイギリス海軍への壮烈な航空攻撃、空挺部隊はイタリアも物凄く頑張りを見せましたし、エルアラメインではアリエテ戦車師団が最後まで抵抗、戦後もNATOでは巡洋艦隊により地中海防衛に睨みを利かせ1992年にはソマリア派遣で誤射してきた米軍航空部隊を対空戦闘で撃退しています、頑張れば強いイタリア軍なのですが、出版社の方からの返事は簡潔なものだったとのこと、強いイタリア軍本は売れない。

Mimg_6637 さて、前述の著書ですが、あさぎり型護衛艦とドイツの輸出用フリゲイトMEKO型やイギリスの23型フリゲイトを比較し、あさぎり型が高いことやVLSを搭載していない点などを問題視していました、ただ、あさぎり型は必要に応じヘリコプター二機を搭載する満載排水量4800tの大型艦でして、対してMEKO型は各型概ね3500t前後、提示されたのはトルコ仕様のヤウズ級でこちらは2950tですので、大きさが違います。もちろん搭載機器により建造費は異なりますが、同程度の能力を有する艦の場合は大型の方が建造費が大きくなる。

Img_7655 搭載機器というのは、例えばどんな艦でもイージスシステムを搭載すれば高くなります、そういう話でして、あさぎり型は汎用護衛艦で基準排水量3500tにたいし、兵装と燃料に各種物資を搭載した満載排水量で4800t、対して多目的フリゲイトとして汎用護衛艦と同等の運用を行うヤウズ級は2950tで、これは地方隊用の護衛艦あぶくま型2800tの方が多きさとしては近いのですが、遙かに大型の護衛艦と比較し、海外製の方が安い、と指摘していたわけです。

Gimg_4388 ただ、ここで気になりましたのは、あさぎり型の要目で基準排水量3500t、ヤウズ級は排水量3000t、と記載されていたことです。満載排水量と基準排水量の違いは上記に記したとおりですが、記載したように単位として違います。まさかとは思いますが、満載排水量と基準排水量を混同して同程度の大きさと誤解して比較していたのか、意図的に比較対象の艦艇を大きく見せようとしていたのか、前者であれば別に単なる知識不足ですが後者となれば少々気持ちのよくないはなしでしょう。

Aimg_2372_1 護衛艦の満載排水量は、旧帝国海軍が基準排水量を主として発表していた影響でしょうか、基準排水量のみ防衛計画等に明記されるのですが、あまり昔の書籍となると、混同しているのではないか、という記載を稀に見かけます。早い時期から満載排水量を取材し、著書に反映していたのは朝日新聞の田岡俊次氏くらいしか思いつきません、田岡氏は就役直後にイージス艦こんごう型を満載排水量9500tと記載しています。もっとも、海上自衛隊の方に聞くと、別に隠しているわけではない、とのこと。

Img_0616 満載排水量と基準排水量ですが、実は先ほどの著書を更に読み進めてゆくと、もしかして混同している方もいるのではないか、という部分として、おおすみ型の話が出てきます。当時まだ計画中の大型輸送艦でしたが、おおすみ型の問題点としてやはり建造費の高さが指摘されていました。しかし、比較されていたのがホイットビーアイランド級ドック型揚陸艦で、この説明に排水量で輸送艦おおすみ型の二倍の大きさがありながら、建造費はホイットビーアイランド級の方が安い、というもの。

Img_3619 ホイットビーアイランド級は満載排水量で15700t程度ですが、おおすみ型輸送艦の満載排水量は14000tでして、二倍ではなく一割少々大きい程度です。ただ、おおすみ型は8900t型輸送艦と言われていまして、8900tと15700t、基準排水量と満載排水量の違いを無視して比較すれば二倍といえないでもありません、14000tの二倍程度が15700tと計算間違いするのと、基準排水量と満載排水量の混同はどちらも残念な印象を受けてしまうのですが、恐らくは後者の方だったのかもしれません。

Gimg_0631 ただ、満載排水量と基準排水量の勘違いは色々と広くあるのかもしれません。例えば個人的に軍事シュミュレーションノベル業界の西村京太郎と呼ばせて頂いている、多くの著書を短期間で執筆されている方の著書で、もう一回湾岸戦争が起きて自衛隊が活躍する話でしたか、ソ連原潜と米空母が衝突して原子炉が大変な話になる話でしたか、それ以外でしたか、はつゆき型を見た印象として、排水量に対して搭載しすぎという印象がありますな、という表現が出てきます。

Gimg_0267 はつゆき型は満載排水量で4000t、後期艦で4200tですので、搭載している装備は、NATO加盟国の4000t級と比較すれば、しっかりと搭載してはいますが、搭載しすぎというほどではありません。イギリスの23型が満載排水量で4200tですので、ね。ここで積み過ぎ、という表現の背景にも、もしかしたらば基準排水量2900tという数字をのみ注視し、欧米の満載排水量3000t前後の水上戦闘艦と比較した、という背景があるのかもしれません。もっとも、此処については推測なのですが。

Bimg_3396 このほか、航空機でライセンス生産すれば高くなるので、同じ機種でも高くなるので、それならば輸入して多数を装備したほうが良い、という論調も先ほどの著書にありました。この点については、直輸入しますと予備部品や整備基盤などが国内にできなくなるためどうしても不足するので、稼働率が落ちてしまい、たとえばライセンス生産で200機導入するのと、直輸入で300機導入するのでは、飛べる機体の数で直輸入300機の方が少なくなる点を過去の本特集で掲載しました。

Eimg_2455 更に気付くところはあるのですが、肝心のその本が書架の奥の奥へ行ってしまっていまして、更に個人批判にもなりかねませんので、ここまでとします。ただ、自衛隊装備に問題あり、という論調で本が売れるというのならば、そろそろ、いや自衛隊装備の方もかなり優れている、という本が売れるころなのではないかな、と。なんというか、あの頃は税金の無駄遣いを叩くことが一つの趨勢で、明らかに必要な公共事業でも税金の無駄遣いだ、と叩かれていましたからね。

Img_2637 自衛隊装備でも国産装備の役割はしっかりとあるのだが、その頃の読者層が求めていた、叩くことに目的化した書籍の偏った知識が普及してしまった可能性があるわけです。北大路機関はこうした売れる売れないという出版のしがらみに関係せず、書きたいことをかけるわけなのですから、こういうところで、流されずにやっていこう、とも。ここが国産防衛装備万歳なのは、読者への配慮、中でも、同期や友人で防衛産業に進んだ人が多いからでは、呑みに行ったときにイビラレるからでは、と思われるかもしれませんが、・・・、いや、・・・・・・、まあ、・・・・・・・・・・。うむ。・・・そんなことはないですよ。・・・ホントだよ。

北大路機関:はるな

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祝600万アクセス突破! Weblog北大路機関をご覧いただきありがとうございます

2013-03-03 23:00:19 | 北大路機関特別企画

◆3月2日1600時過ぎに600万アクセスを突破

 Weblog北大路機関へ日頃たくさんのアクセスを頂きありがとうございます。お陰様をもちまして昨日夕方、1600時過ぎにアクセス解析開始より600万アクセスを突破しました。

Aimg_0634 600万アクセス、運用開始当時は考えられない大きな数字です。Weblog北大路機関は、2005年7月29日に阪急十三駅にて運用を開始しましたが、2006年10月よりアクセス解析を開始、順調にアクセス数を伸ばすことが出来、過去90日間の平均アクセス数は5385という大きなものとなり、今に至ります。

Aimg_4801 一日当たりのアクセス数は時として30000以上に爆発的に増大することもありますが、爆縮的に低くなることはありません、日々掲載する内容が好奇心の要請に応えると共に併せて多くの方の関心事や世界と日本の安全保障について考える機会、一視点を供する一助と成れているならば、望外の幸い。

Aimg_0583 アクセス解析では2008年6月27日に50万アクセスを突破、2009年4月27日に100万アクセス突破、2010年5月19日に200万アクセス突破、2011年1月30日に300万アクセス突破、2011年10月30日に400万アクセス突破、2012年8月4日に500万アクセス突破、順調に上昇してきています。

Aimg_0276 日はまた昇る、といいましょうか、Weblog北大路機関が運用開始となった時代は、世界がイラク情勢に注目し、潜在的脅威となっていた中国の太平洋での勢力拡大が今日では顕在化し世界安全保障上の最大リスクの一つに日中対立が挙げられるに至ったのは御承知の通り。

Aimg_2590 更に想定外という規模であった東日本大震災とこれに伴う福島第一原発事故は、防衛のみならず防災にエネルギー戦略を含めた広い意味での安全をどう確保するかいかに維持するかを突き付けました。こうしたなか、再度平和と安定を維持し日が昇る時を如何に推し進めるかも、考えてゆかねばなりません。

Aimg_0434 Weblog北大路機関では、拙い文章と校閲さえできない短い時間でゃありますが最大限の新装備や情勢分析記事とともに自衛隊を理解する上での行事紹介などを継続してゆきます。これら掲載は多くのアクセスとコメントにより支えられています、今後ともWeblog北大路機関をどうぞお引き立てくださいますようお願いいたします。

北大路機関:はるな

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米予算均衡法発動、国防大打撃!1兆2000億ドルの強制歳出大幅削減実施へ

2013-03-02 22:21:55 | 国際・政治

◆米連邦議会とオバマ大統領合意至らず

 アメリカ最大のリスクであった財政管理法に基づく財政赤字対策歳出強制削減政策が、回避へのオバマ大統領と議会の妥協案が実現せず、歳出の最規模削減へと進むこととなりました。

Gimg_8935 これは米財政赤字において国の借金である国債発行に上限を造ることで一定以上の財政赤字による国庫破綻を防ぐ制度ですが、オバマ政権は民主党政権の共和党時代のような歳出削減を念頭に安い政府やちいさな政府を求める政策ではなく、歳出を大きくし経済の活性化に積極的に国が関与しようとする政策の結果、国債発行の上限に達してしまった、ということです。しかし、単なる努力目標ではなく、明確な歳出削減が明示されているため、影響は小さくはありません。

Gimg_3063 2013会計年度からは850億ドルの歳出削減が行われます。連邦予算の一割削減に当たるこの削減で国防費では460億ドルが削減され、削減額は日本の防衛費に匹敵するものです。このため国防総省は文民職員80万に無給の週休を一日増やし人件費を削減すると共に、陸軍はアフガニスタン派遣部隊を除く8割の部隊で訓練の縮小を決定、海軍では海外派遣艦艇の縮小を実施し空母航空団四個の段階的な活動停止を、空軍は訓練の大幅縮小を、それぞれ念頭に縮小を行います。

Img_2861 この緊縮予算は2021年までの期間に1兆2000億ドルの歳出削減を行う事となっており、必要な改善策で米国内合意が図られない場合には、実に9年間に渡り緊縮予算が続けられることとなります。必要な改善策とは、オバマ政権が見合わせている富裕層への課税強化など増税による歳出増加を行うことで、併せて共和党が求める社会保障についての本来のアメリカ、市場原理への回帰の要求に応じる必要があります。オバマ大統領は、緊縮財政が支持率にも影響しますが、税率も支持率に影響し、難しい決断を強いられることとなるでしょう。

Aimg_8552 国防費の緊縮は世界の安定にも大きな影響を与えます。陸軍のアフガニスタン派遣部隊を除く訓練費の削減は同盟国との訓練の鈍化を通じてアメリカの世界秩序を守る立場にも影響がありますし、海軍空母航空団の段階的縮小は、緊急時の第一手となる空母機動部隊の作戦能力を削いでしまうことも意味します。加えて、航空自衛隊が導入を計画しているF-35戦闘機の開発費も一部見送られるか延期されることとなり、そういう意味でも我が国への安全保障上の影響はかなり大きい。

Gimg_2674 こうした緊縮財政に伴う国防費の急激な縮減は、2009年のイギリス国防費削減などが影響として大きく、あの際にはタイフーン戦闘機一部廃止と段階近代化改修予算捻出延期、F-35戦闘機調達計画の縮小、新空母クイーンエリザベス級建造の半減、空軍飛行隊複数の廃止、空軍基地の整理縮小、陸軍戦車の全廃検討、将来装甲車計画の中断など、かなりの影響があり、一方でアフガニスタン派遣費用は縮小出来ないことから、アフガニスタン予算偏重の、極めて歪な予算体制となってしまいました。

Simg_2549 アメリカの国防費の緊縮がどの程度長期化するのか、我が国周辺情勢への短期的及び長期的な影響はどういったものが考えられるのか、日本としても考えなければなりません。こういいますのも、日本の防衛費はGDP比率で0.7%から0.8%とアメリカを含めた先進国の中では大きくはなく、一方で周辺に緊張地域があることから、相応の負担を求められる、任される、要求される、等などの可能性があるためです。太平洋を越えた対岸の火事ではありますが、日本海と東シナ海を越えた対岸の大火災を誘発する危険性がある、こうした認識が必要でしょう。

北大路機関:はるな

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