北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中東危機と自衛隊アラビア海派遣【2】戦艦伊勢-日向,北号作戦の成功と南号作戦商船の悲劇

2020-01-11 20:00:10 | 国際・政治
■自衛隊責務はシーレーン防衛
 海軍の任務はシーレーンの防衛、とはよく説明されるのですが海上自衛隊も船団を見捨てるよりは護衛する事が国民には期待されているのだと思います。そこで歴史の話を一つ。

 北号作戦。戦艦伊勢と戦艦日向を中心に1945年2月10日に強行された物資強行輸送の歴史を思い出せば、護衛艦を派遣すべきでないと主張するならば代案に護衛艦隊を持って行け、という反論程度が必要になるでしょう。自衛隊を派遣できない危険な海域に可燃物を満載したタンカーを日本経済の為に継続して運べ、とはまさにそういう事に他なりません。

 伊勢、日向、軽巡洋艦大淀と駆逐艦3隻からなる輸送部隊は太平洋戦争末期、シンガポールのセレター港から広島の呉軍港まで、失陥しつつあるフィリピンの横を航行し、物資を強行輸送の命令が下されます。前年1944年10月にはフィリピンに来寇するアメリカ軍を阻止せんとするレイテ沖海戦に海軍は壊滅的被害を受け、取り残された戦艦群が参加する。

 完部隊として第四航空戦隊と第二水雷戦隊、掻き集めた可動艦艇で輸送が決定し、航空戦艦である伊勢と日向、艦隊旗艦用の大淀には飛行甲板と格納庫があり、航空揮発油ドラム缶10280個と普通揮発油ドラム缶326個,ゴム3620t、錫2760t、タングステン164t、水銀44t、亜鉛40t、技師疎開1200名と航空機揮発油タンク270tを搭載し輸送に臨みました。

 松田千秋少将率いる完部隊は2月10日夕刻にシンガポールを出航、12日にヴェトナムのカムラン湾で潜水艦の攻撃を受け駆逐艦朝霜が撃退、13日には南シナ海上で潜水艦複数の攻撃を受けるも戦艦艦砲を含む反撃で回避成功、フィリピンから発進のB-24爆撃機による哨戒をスコールに隠れ回避に成功します。14日、台湾から友軍駆逐艦と合流に成功する。

 台湾海峡を突破したのは15日で、燃料が枯渇し始めた駆逐艦に戦艦からの給油を実施、17日には中国浙江省沖の友軍制海権内まで到達します。19日には遂に朝鮮半島まで到達、我が軍の戦闘機部隊制空権に入りました。20日、こうして参加艦艇は一隻も失われず、呉軍港に到着、無謀な作戦と云われた強行輸送は奇跡的に成功したのでした。奇跡と云われた。

 戦史研究では、連合軍に察知された輸送作戦が奇跡的に成功した事が強調され、実は私も大昔には凄いなあと驚いたものですが、同時期に実施された南号作戦、民間船による強行輸送が並行して実施され、殆ど駆逐艦の護衛さえもつけられず、参加商船30隻中の24隻が失われた輸送を知ってからは、単に奇跡の成功だけに甘んじていてよいのか、と考える。

 南号作戦は特攻輸送として海軍が徴用商船や特設艦船により実施したもので、15回に渡り実施されました。しかし作戦発動の1945年は、潜水艦による通商破壊という甘いものではなく沖縄戦間近、空母機動部隊である第38任務部隊が空母10隻以上で航行する船舶を無差別攻撃し、更にフィリピンの陸上基地からはB-24重爆撃機が船団攻撃に当っていました。

 せりあ丸、タンカーが単行で航空燃料17000tの輸送に成功したヒ88A船団の事例がありますが、ヒ88J船団のように輸送船7隻全滅という事例もあり、レイテ沖海戦で壊滅したとはいえ多数の戦艦や巡洋艦と駆逐艦が本土へ帰還する際に、こうした南号作戦の船団を護衛していたならば、海防艦が護衛するより戦艦大和の方が護衛には適していたでしょう。

 ペデスタル作戦。船団護衛について対照的作戦はイギリス海軍が1942年8月に実施したマルタ島強行輸送の事例が挙げられます。地中海艦隊司令部の置かれるマルタ島はイタリアシチリア島の南に位置し、アフリカと欧州を隔てる枢軸の海上輸送における重大脅威でしたが、地中海の孤島であるマルタ島は真水が僅かで重油海水濾過装置稼動が不可欠でした。

 マルタ島強行輸送はヴィガラス作戦やハープーン作戦として幾度か実施されるも機雷敷設巡洋艦による輸送成功等効果は限られました。これはマルタ島占領を呼号するドイツ軍がイタリア海空軍と共に厳重に海域を閉鎖しており、ヴィガラス作戦では巡洋艦中心の護衛部隊に対しイタリアは戦艦リットリオを中心とした艦隊決戦を挑み、船団を阻止している。

 ペデスタル作戦に際してイギリスは不退転の覚悟で戦艦ネルソン、ロドネー、空母ヴィクトリアス、インドミタブル、イーグル、アーガス、巡洋艦7隻と駆逐艦24隻を護衛につけ、輸送船14隻を護衛しました。この輸送作戦でドイツ軍とイタリア軍は1000機による航空攻撃で妨害すると共に巡洋艦6隻と駆逐艦12隻からなる艦隊により阻止を試みました。

 イギリス海軍はこの作戦で空母イーグルと巡洋艦2隻に輸送船9隻を失いますが、当時世界最大のタンカーオハイオ等が輸送に成功しています。大損害を受けましたが、マルタ島失陥は回避される事となり、輸送の燃料により北アフリカ方面からの航空部隊を増強に成功、逆にドイツイタリア軍は地中海航路途絶で北アフリカ戦線を維持不能となっています。

 自衛隊にホルムズ海峡強行輸送を行えと期待するものではありません。しかし、不測の事態とともに日本タンカーコクカカレイジャス号が襲撃され、革命防衛隊によりイギリスタンカー拿捕事件等が相次いだのは昨年の事です。そして今回の米軍基地襲撃事件とソレイマニ少将空爆や米軍基地ミサイル攻撃と続いたように、事態は突沸し得る認識が必要です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和元年度一月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2020.01.11-01.12)

2020-01-10 20:17:53 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 2020年代の幕開けですが皆様、本日までの使用期限という青春18きっぷは全部使いきれましたでしょうか、今週末の行事紹介です。

 第1空挺団降下訓練初め。12日日曜日に挙行される毎年恒例の空挺団念頭訓練です。降下訓練と銘打った行事ですが、富士総合火力演習や方面隊総合戦闘展示などとは違い入場券や事前登録などは必要なく、習志野訓練場に行く事で自由に見学する事が可能です。第1空挺団は陸上総隊直轄の緊急展開部隊であり、自衛隊第一の精鋭部隊として知られます。

 習志野訓練場では、航空自衛隊輸送機や陸上自衛隊ヘリコプターからの空挺団長以下主要幹部の空挺降下に始り、空挺団の大隊規模による訓練展示が実施され、次々と輸送機から落下傘降下すると共にヘリボーン部隊と空挺地上戦闘部隊が展開、増援の戦車部隊や特科部隊と共に、習志野訓練場の一部を占拠した仮設敵を相手に迫力の訓練展示を展開します。

 アメリカ軍部隊の参加が近年新しい趨勢となっていまして、その少し前には水陸機動部隊の参加など、小規模な総合火力演習といえる規模となっています。ただ、悪天候の際には狭い習志野訓練場に降着できない風速だった場合、ヘリボーンのみ。更に視界不良等悪天候の場合は中止の可能性がありご注意ください。会場は習志野駐屯地ではなく訓練場です。

 習志野訓練場には小高い土手が長く連なり、比較的多数の見学者が良好な環境で空挺団の雄姿を一望できます。ただ、かなり寒い為に防寒具はご注意ください。多数の人が集まっている時間帯は賑わいで温かさが醸成されるのですが、寒風は土手に吹き上げ、また現在の予報では曇天から雨天が予報されており、冬山に準じた装備準備が理想かもしれません。

 水陸機動団のAAV-7は佐世保の相浦駐屯地に配備されており、本州では海兵隊キャンプ富士での一般公開を期待するか、もしくは富士総合火力演習や中央観閲式等でしか見られない貴重な装備です。稀有な装備が出まして16式機動戦闘車の初公開もここでした。本年はOH-6D観測ヘリコプター最後の活躍や19式装輪自走榴弾砲の登場などを期待したいです。

 海上自衛隊艦艇広報は輸送艦くにさき鹿児島港一般公開が12日日曜日に実施されます。くにさき、は輸送艦おおすみ型の三番艦でLCACエアクッション揚陸艇を搭載するドック型揚陸艦構造を採用しています。詳しい紅海場所は鹿児島県鹿児島市鹿児島港 本港区北埠頭1号岸壁とのこと。この他、舞鶴基地の週末一般公開が再開、総監部HPをご覧ください。

 さて撮影の話題を。自衛隊関連行事にて路線バスを活用しますと、例えば航空祭等ではシャトルバスの大行列に大変な思いをするものですから、それほど混雑していない路線バスというものは重宝します。目的地から若干離れた場所にバス停がある事もあり、歩く距離は若干長くなるのですが、なにしろ航空祭開幕が迫る中で延々一時間単位で待つのは焦がされる思いですし。

 しかし、路線バスは注意したいことがあります、航空祭等では交通混雑が大きくなりますので、バス停が変更されている、若しくは経路が変更している事があるのですね。実は前に漸く路線バスのバス停に到着したものの、交通渋滞を考慮して航空祭当日はバス停が300mほど移動しているとの掲示があり、その300m先までに交差点を迂回せねばならない。

 結局、交差点で信号無視などは出来ませんので丁寧に交通法規通りにバス停に向かってゆきますと、その途中に二時間に3本のバスが目の前を通過してしまいます、仕方ないので更に一時間近く歩いて、目的地までかなり長い距離を歩く事となりました。地図でバス停は調べるのですが、バス停変更を直前まで記載しない事例もあり、いやはや、参りました。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭


・第1空挺団降下訓練始め…https://www.mod.go.jp/gsdf/gcc/
・輸送艦くにさき鹿児島港一般公開…https://www.mod.go.jp/msdf/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中東危機と自衛隊アラビア海派遣【1】司令官空爆と報復!アメリカ-イラン緊張の十三日間

2020-01-09 20:06:48 | 国際・政治
■中東情勢,年末年始緊張突沸
 在イラク米軍基地攻撃と革命防衛隊指揮官空爆報復に反撃のミサイル攻撃、年末年始は中東情勢が突沸しました。

 アラビア海護衛艦派遣。一部には情勢が緊迫している為に中止すべきとの声が、特に旧民主党系野党と共産党等から示されていますが、護衛艦派遣を中止するならば、同時にホルムズ海峡を航行するタンカーに対しても航行中止を呼びかけ、石油供給を一時的に北海原油等に切り替える、これは世界経済に混乱招くが、こうした代案を提唱すべきでしょう。

 政府は昨年12月23日、アラビア海へ情報収集に関する護衛艦派遣を閣議決定しました。この護衛艦派遣は、現在実施されているアデン湾での海賊対処任務への護衛艦派遣と共に更に一隻の護衛艦を派遣、昨年発生した日本タンカーのコクカカレイジャス号襲撃を筆頭に相次ぐタンカー襲撃からペルシャ湾やホルムズ海峡での不測事態に備える派遣という。

 有志連合。アメリカはイラン核開発を契機とした経済制裁と共に相次ぐイランからの国籍不明武装勢力によるタンカー攻撃に対し、同盟国を中心に有志連合編成を進めており、我が国としては有志連合から距離を置きつつタンカー防護を図る玉虫色の解決策を提示した構図ですが、この点についてイランのロウハニ大統領は首脳会談の場で理解を示しました。

 13日間。キューバ危機を思い出す表現ですが、日本の護衛艦派遣が閣議決定されて後、昨年末から本日までの13日間、中東情勢が突沸と云えるほどに緊張し、果たして自衛隊を派遣しても安全なのかという疑義が野党を中心に巻き起こり、他方で緊張が高まれば日本タンカーへの危険が更に高まるとして、自衛隊派遣か、石油供給途絶か、緊張が始りました。

 アメリカとイラン、緊張の13日間。始まりは昨年12月27日に発生したイラク北部キルクークのイラク軍施設へのロケット弾攻撃でした。この攻撃によりアメリカ人民間人が死亡し、イラク軍とアメリカ軍兵士に負傷者が出ています。アメリカ軍は12月29日、この一連の攻撃にイラン革命防衛隊が参加しているとして、イラク国内での制圧作戦を行います。

 カタイブヒズボラ、革命防衛隊の外郭組織でありイラク国内での武装闘争を行う武装勢力拠点に対し、アメリカ軍は無人攻撃機による攻撃を実施、これによりイラク国内の武装勢力25名が死亡し55名が負傷したといわれますが、この攻撃により武装勢力拠点付近にてイラク潜入中だったイラン革命防衛隊コッズ部隊の司令官スレイマニ少将が死亡しました。

 イランでは各国での非合法活動と共に反イランを掲げるイスラム過激派との戦いに成果を上げているソレイマニ少将を支持する声は高く、イスラム最高評議会のハメネイ師は報復を宣言します。イランでは大統領よりも上に位置するイスラム最高評議会の決定により、革命防衛隊は日本時間8日、15発の弾道ミサイルによりイラクの米軍基地を攻撃します。

 ミサイル攻撃はアメリカ軍が駐留するイラク西部のアサド空軍基地とイラク北部のアルビル空軍基地に着弾、これによりアメリカはイランに対し攻撃を行った場合にはイラン国内の52施設を攻撃すると牽制していた為、危惧されたのはアラビア海を遊弋する攻撃型原潜等からのトマホーク巡航ミサイルによる攻撃等、紛争激化する事でした。しかし意外にも。

 トランプ大統領は日本時間9日に声明を発表し、イランによるミサイル攻撃は米軍兵士に被害が出中た事を強調した上で反撃は行わず、経済制裁強化を発表します。一時緊張したイラク国内でもイスラム指導者サドル師は、危機が去ったとして人民警備隊の警備解除を発表、イラン国内はイスラエル攻撃を求める声もありますが、現時点では安定しています。

 北号作戦と南号作戦。護衛艦をタンカー護衛に派遣するか、という議論はどうしても太平洋戦争末期に実施された海上輸送の教訓を思い出してしまいます。北号作戦とはフィリピン失陥後、シンガポールから本州まで、戦艦伊勢と日向の第四航空戦隊と第二水雷戦隊が実施した南方物資強行輸送です。これは奇跡的に成功したのですが、その陰で一つ悲劇が。

 南号作戦。これは海軍徴用船を中心にまともな護衛を付けずに実施した特攻輸送であり、参加輸送船の8割が撃沈される事となりました。北号作戦や南方から本土へ戻る戦艦や巡洋艦を、この南号作戦へ参加させたならば、戦艦大和もこの時期に本土へ帰還しており、強力な戦艦群を護衛に充てられれば、もう少し多くの船員が救われたのかもしれません。

 太平洋戦争での商船被害への反省が少しでもあるならば、ホルムズ海峡での緊張が破滅的状況となった場合に備え、海上自衛隊の護衛艦へ危険が及ぶ可能性はあったとしても、日本タンカーが航行するならば護衛艦や航空機を派遣してでも安全を確保するか、タンカー航行を禁止し石油供給は断念した上で計画停電を行うか、どちらかを考えねばなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【7】結局平和主義以外には無いのではないか

2020-01-08 20:11:47 | 北大路機関特別企画
■防衛安保支える正義の定義
 防衛力というものは如何に構築し様とも行使の時機と定義が必要となり、これを支えるのが正義という価値観です。

 結局平和主義以外無いのではないか、防衛を論じた新年防衛論集ですが、ここには正義が要る。平和主義、日本が世界へ提示することが出来る国際公序のあり方です。日本が世界と向き合うには何かしらの正義を提唱できねば成りません、正義とは簡単な言葉ではありますが公序といい代えますと単純ではない哲学的概念であることが理解できるでしょう。

 正義とは何か、安全保障において安易な一国主義として、戦争に参画しないという定義での平和が今日的には成立しにくい情勢がある、これは戦域の拡大という現実から示しました、好むと好まざるとに関わらず防衛協力や多国間協力という概念を深化させてゆかねばなりません。そのさいに正義は命題となる。勿論正義とは様々な概念に依拠していますが。

 キリスト教哲学的な正義と倫理を共有する欧州地域、自由主義的原初状態の平等を配分的正義として考えるアメリカ。共産党の安定繁栄を全てとする中国。では日本にとっての正義とは何か、自民党の安定と繁栄だけは野党が法的に存在し連立を組む以上違うのですが、キリスト教的倫理観か原初状態平等か、正義を問われると共有する倫理観は薄くなります。

 正義論的な視点から配分的正義、原初状態の平等を正義としているアメリカは明快です、単純とさえいえる、原初状態の平等を期するからこそ人権問題において圧制国家へ強い姿勢を維持し続けるのであり、正義とは機会均等であるべきだからこそ差別問題に取り組む、結果の平等ではなく機会の平等、と解しますと国際関係の展開における行動様式はわかる。

 キリスト教的倫理観は弱者の保護と手段としての自然に対する開発、という原点があり帝国主義時代の植民地政策は教化発展への支援であり侵略ではなく弱者の保護が源流に、現在の環境保全への取り組みは総論として弱者の保護という延長線上にあります。それでは我が国ではどうか、と。途上国経済支援は行っていますが、キリスト教的ではありません。

 日本の場合は陽明学や儒教的価値観が正義となりうるのではないか、という視点もあり得るかもしれませんが、日本における儒教は経世済民という統治機構的概念と上下関係という封建主義的な概念の背景であり、憲法に男女同権が明記されている現状とは合致しません。そもそも儒教そのものが定義で曖昧で哲学科でも儒教専攻はありません。曖昧なのだ。

 儒教の五常五倫は共有こそされていますが、これが国家の行動を定める正義の定義だ、としますと地域安定化へ対外戦争を是認する一種地政学的な危険な要素も内包しているのですよね。これは一種戦前への回帰ともなりかねませんし、儒教的概念という言葉は知っていたとして五常五倫までの価値観を含めて共有しているとは言い難いように考えてしまう。

 四季折々で美しい自然に包まれた国土、これは正義の定義にさえ成りません、四季折々を世界に広めることは出来ませんし、単なる自然科学の観測結果や美しいという定義の論争にしか成りませんから。国土の特性を示しているのみですね。ただ、繰り返すのですが正義の定義無しに防衛協力や安全保障を論じることは危険とさえいえる。使う時機が不明だ。

 平和主義を基調とし、軍事力の行使に対する忌避的自制と軍事力による領域変更への拒絶、日本の場合は提示しうる正義というものは日本国憲法の、この概念以上のものは出せないのではないか、と。日本国憲法、ただし、現行憲法では厳密に理解するならば、脱領域性を持たない概念であるとともに、憲法の平和主義も、平和の定義を明確に示せていません。

 平和主義、手段としての平和と目的としての平和が混同を意図的に放置している状況があります。手段としての平和の結果戦争が起きた場合、憲法の精神に合致した戦争状態を平和と云いかえる事は、できないものですからね。平和的生存権や苦役からの自由が仮に平和を手段とした結果、国民が次の敗戦により失う状況、合憲状態とは言い難いですしょう。

 ただ、平和を安易に軍事力に直結させますと、二つの弊害が生まれます、古来多くの戦争は平和を旗頭としており平和維持が軍事力行使の要素となり、故に軍事力行使への忌避という哲学は必要です。グローバル時代、平和というものは同時に脱領域性をもって共有できる価値観と出来ねばならないのですね。だからこそ平和の定義も必要だといえるのです。

 これは上記軍事力との関係とともに矛盾する概念を醸成しかねません。寛容と自由、ここで平和の概念を補強する点として寛容と自由というものを追記するべきでしょうか、思想信条の自由や経済活動の自由に信教の自由に男女同権まで、要するに様々な価値観への多様性と自由を平和主義の基盤として考える、というもの。この根元は摩擦の回避という。

 正義とは何か、これを平和主義こそ正義であり、その平和主義の精神を単なる手段としての平和主義にとどめず目的としての平和を標榜すると共に手段としての平和も重視し、故に戦いを忌避しつつその原因に取り組むとともに軍事力による現状変更には明白に拒否の姿勢を含む、故に軍事力も肯定し得る。こうした正義の論理が一種相応しいよう思えます。

 改憲論、実はこの正義という概念にこだわる背景には改憲論の現実化が挙げられます、新しい憲法では精義という哲学的な、しかし国家の方針を明確としなければならない故に不可避の論争について、本当に正面から取り組んでいるといえるのか。主権者は憲法制定権力として参加できているのか、インターネット意見募集の形式に甘んじていないか、と。

 憲法制定権力という概念からは、立法府に全てを委託している状況であり、結局、憲法がほぼ改正しにくい改憲条項しか有さない、戸締り厳重といえる憲法明文とは逆に、憲法制定権力への参政権を立法府議員選挙への参画という部分に甘んじているようで、一種百年単位の国家方針を明確に示す改憲への姿勢としては、若干、その違和感を禁じ得ません。

 憲法改正が連立与党を構成する公明党が示すような加憲、原文をそのまま維持するのであれば憲法の精神としての骨子は動かないのですが、連立与党を構成する主柱である自民党のような大幅な改正となりますと、同じ憲法としていいえるのかどうか、なにしろ硬制憲法故に明治憲法からの改正以来全くふれられなかった条文を代えることでの衝撃は大きい。

 日本国憲法とともに日本の国家としての政策基準を定める哲学的な主柱をどのように考えるのは、これは憲法の番人たる最高裁の価値観へも直結しますし、法令ひとつひとつの整合性へも影響します。自衛隊法の繰り返す改正に対して最高裁は違憲判決を出していない以上、ここまで許容される状況を見ますと統治行為論として更に進めるのではないか、と。

 統治行為論、要するに政治問題、として司法府の関与するところではない、という概念ですが、このまま自衛権の限界を延々と考えつつ自衛隊法の改正を重ねてゆけばよいとも考えるのですが、自衛権には限界がある可能性も認めないわけにはゆきません。法改正ではなく特措法で行う選択肢もありますが間に合わない可能性もあり、恒久法は必要でしょう。

 防衛論、するとこの難しい問題は単純な軍事技術の進展や戦術研究とともに、非常に面倒ではあるのですが、軍事と安全保障を司る概念として、国家が軍事力を行使しなければならない状況を定義づける命題、正義とは何か、この部分にも踏み込む必要は、出ているのでしょう。我が国が世界に国際公序として提示し得る正義は上記の通り、と考えます、が。

 日常系、といいますか軍事力の行使を忌避しつつ選択肢としては十分残すうえで摩擦を避ける寛容と自由を基調とした社会形成を行う、原初状態の平等とも儒教的ともキリスト教的ともいえる、折衷案的な正義への一視点ならば、日常系平和主義、といいましょうか、共有し得ると考えます。異論はあると思う、その議論が、防衛には必要と考えるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【6】グローバル時代のグローバル専守防衛

2020-01-07 20:20:58 | 北大路機関特別企画
■新しい時代の専守防衛を模索
 グローバリゼーションの時代と云われたのは1990年代ですが2020年代には専守防衛さえもグローバル時代を迎える必要があるように思います。

 陸上防衛力を大幅に再編し機動運用体制を強化しつつ、陸海空自衛隊の統合運用基盤を大きく強化する、この指針を示しました本特集は一見ラジカルではありますが機動運用部隊を基本としその人員規模を平成中盤の半数程度、八万名規模にまで縮小してでも装甲戦闘車や空中機動力、として必要ならば戦域を越えた機動力を付与させる必要を示しました。

 装甲機動連隊、こうした編成であれば例えば戦車2個小隊と指揮官車からなる戦車支隊三個に区分し、併せて装甲普通科中隊と合わせる装甲支隊という作戦単位が構成できますが、この規模であれば輸送艦おおすみ型にそのまま乗艦させることが可能です。即ち本質的な意味で機甲部隊も三自衛隊の統合機動防衛力へ参画することが実現する、という構図だ。

 装甲機動旅団構想、というものを“広域師団”特集として試案を示していますが、具体的にはこの装甲機動連隊三個を基幹とし、偵察戦闘大隊と無人偵察機隊を加えた偵察戦闘連隊、というべき部隊を加え編成するのが理想でしょう。一個連隊の戦車は20両を想定しますが、必要ならば旅団全体で任務に当れば、装甲車と併せた部隊総合力は底上げできます。

 装甲戦闘車、問題は将来装甲車が機関砲塔を搭載する装甲戦闘車であるかは確証がない点でしょうか。装甲戦闘車の場合、火器管制装置を搭載するだけで取得費用が高騰します。これはプーマ重装甲戦闘車やVBCI装輪装甲戦闘車等、戦車と同等の火器管制装置を採用し高価格化した事例を鑑みてのものです。ただ、機動線には装甲戦闘車は不可欠でしょう。

 89式装甲戦闘車を含めた世界の装甲戦闘車は大口径機関砲により、通常の装甲輸送車であればかなり脅威正面より離隔を以て下車戦闘に以降します、防御力と打撃力の限界ゆえ。しかし装甲戦闘車は大口径機関砲を以て歩兵近接戦闘の間合いまで接近し、最後の段階で機関砲の届かない隙間へ下車戦闘を展開する。この為に下車から合流までは非常に速い。

 40mmCTA機関砲であれば3P弾、つまり調整信管を用いた破片を散布する機関砲弾を投射可能で、これは防御側の歩兵が掩体から暴露する行動を徹底的に抑止します、40mmAP弾の貫徹力は第一次世代戦車の76mm砲に匹敵し、対装甲戦闘にも非常に有用です。将来的にこうした装甲戦闘車の配備再開はどうしても避けられない問題といえるのではないか。

 AAV-7,実のところこの装備と既に配備されているMLRSとを併せて、これらのパワーパックや後者については車体部分全般を含め、アメリカ陸軍のM-2A3ブラッドレー装甲戦闘車と共通部分があります。自衛隊は89式装甲戦闘車の量産計画が当初計画よりもかなり小規模で生産終了となり、装甲戦闘車という装備体系は宙に浮いています。そこで、M-2,と。

 M-2装甲戦闘車は自衛隊に採用されていませんが、パワーパックや車体部分の共通車輌だけで140両を採用している訳です、仮に自衛隊が遅まきながらM-2を導入したとしても兵站面での負担は思うほど大きくは無いように思えます。89式装甲戦闘車、厳密には99式自走榴弾砲が准共通車体を採用した派生型にあたるのですが、合計で170両弱という規模だ。

 将来的に自衛隊が装甲戦闘車を再整備するのであれば、89式装甲戦闘車改良型の再生産と併せてM-2A7装甲戦闘車のライセンス生産や国産砲塔搭載型を検討してもよいかもしれません。ただ現実的には、96式装輪装甲車に続く装甲車として配備される将来装甲車を暫定的に重装備の連隊が管理した上で将来的に即応機動連隊へ移管、という選択肢が望ましい。

 自衛隊が多次元機動防衛力を整備するならば、戦域優位に資する装甲戦闘車という装備体系を再構築する、その必要性も忘れては成りません。現状では戦車という有用な資産が在りながら活用する術を欠いている、恰も有力な戦艦群、12隻もの戦艦を有しながら活用しなかった為に時機を逸した帝国海軍と同じ轍を踏んでいるように思えてならないのです。

 自衛隊の装備体系はしかし異常を踏む敢えても北東アジア地域ではかなり有力な水準を有します。僅かに不足する装備を充実さえ出来るならば、更なるコンパクト化の余地もあります。核恫喝へは核抑止力、という冷戦型の常識をイージスミサイル防衛システムにより核に頼らない抑止基準を形成できたという意味では異次元問題に取り組んだともいえます。

 一方、その予算優先度により幾つか後継装備取得遅延はおきています、が。上記の装備充実とはここです。戦闘ヘリコプターの取得再開、実のところ喫緊課題はこの程度でしかありません。長年の懸案であった装甲戦闘車の問題は再度着手されつつあり、30FFM新護衛艦は幾つかの海上防衛の問題を包括して解決する道筋を形成、F-35戦闘機大量配備も然り。

 次の課題は陸海空統合運用の更なる深化です。折角世界にも例をみない防衛大学校、三軍統合士官候補生前期課程制度を構築しているのです、出来ない問題では無い。視点を転じれば、繰り返す命題である戦域の拡大という視点から、たとえ専守防衛の枠内であっても戦域が国内に収斂する時代は終わりつつあり、既にサイバースペースの戦いでは終わった。

 サイバースペースでの戦い、国内で戦域が収斂しない状況が現出していますが、これが実体の防衛力についても顕著となってゆく、そのための備えが必要でしょう。この通り、専守防衛は国内の枠に留まらない可能性があり、忘れては成らないのは国土が蹂躙されない状況でも、本土着上陸前に敗戦となった太平洋戦争の事例があります。これを忘れては。

 専守防衛を詳細まで検討しますと、我々は本当に太平洋戦争を直視できているのか、という懸念が払しょくできません。故にその一例として機動力の強化と陸海空の統合運用深化を示しました。戦車大隊や戦車連隊を置き換える装甲機動連隊を装甲中隊戦闘群単位で輸送艦一隻に乗艦できる体制を構築する。戦車部隊等についてはこう見方を変える必要が。

 遠征機動、軽装備の地域配備普通科連隊は遠征機動連隊として輸送機や鉄道網とヘリコプター搭載護衛艦を駆使した運用に最適化する、この主眼は隣接する大陸から広がる不寛容と閉塞の渦への対応です。大陸からの軍事圧力は自衛隊により南西諸島へ及ぶ状況を武力衝突に至る前の段階で抑止できていますが、北東アジア以外に大陸外縁部を俯瞰しますと。

 大陸外縁部。東南アジア諸国には我が国ほど軍事圧力に対応する抑止力を整備できている諸国は僅かです。リムランドとハートランド、時代錯誤的地政学を再形成するが如き状況が進展する中、結局機動運用の幅を大きく拡張、力による情勢変化や力による威嚇、国家単位で忖度を醸成させるが如き圧力が生じている。第三の道を提示できなければ、どうか。

 結局、不寛容と閉塞が地域公序となり、我が国も不寛容な社会を強要する圧力に曝される懸念があるわけです。これは憲法の精神にも反する。すると地域安定化に我が国としては、主導権と云いますか、平和主義を独善的な一国主義とするのではなく、思い切って多国間平和主義という様な航路へ、防衛力を再検討する必要があるようにも、考えるのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【5】装甲機動打撃力再編の胎動と新師団論

2020-01-06 20:10:35 | 北大路機関特別企画
■多次元防衛力時代の師団論
 イギリス型陸軍という事ではないが機械化と装甲化を強靭に進め陸海空統合運用の海に出るには陸上防衛力は8万から9万への再編が必要に思います。

 陸上防衛力は再編により強靭さと機動力を両立しつつ最適化する必要があるように思う。逆に表現するならば一個師団の戦域は現代、際限なく拡大しており安易に二方面の脅威が及ぶ時代ではない、しかし師団正面に曝される圧力は増大する為、現在の装備体系や部隊体系では対応できない打撃力に曝され得る。また経済力でも同様の制限が生じている。

 旭川の第2師団を司令部と兵站部隊のみ残し第2機甲師団とし、隷下に帯広の第5旅団と東千歳の第7師団を改編した第7旅団と真駒内の第11旅団を置く。練馬の第1師団を司令部と兵站部隊のみ残し第1広域師団とし、隷下に青森の第9師団と神町の第6師団を旅団化するとともに第1空挺団と中央即応連隊に水陸機動連隊などをそのまま隷下に置く。

 千僧の第3師団を広域師団として隷下に守山第10師団と相馬原第12旅団に海田市の第13旅団を置く。福岡の第4師団を広域師団として隷下に第8師団と第14旅団と第15旅団を、など。第1師団、第2師団、第3師団、第4師団、一見は少なくも見えますが、例えばフランスとドイツとイタリアなど欧州NATO諸国は現在、大型師団2個体制となっています。

 師団は三個旅団を隷下に置き装甲機動旅団と遠征機動旅団を各一個置き、即応機動旅団か水陸機動旅団を置く三個旅団編成。一個師団は16000名規模、四個師団で64000名規模と。9万陸上防衛体制、平成初期の陸上自衛隊は18万名を定数としていましたが、機械化と各種航空装備を充実させることで9万名規模が現実的な数値となるのではないでしょうか。

 問題点はこれまで削減させるための方便として部隊の名を変えていた印象がります、そして全普通科連隊に配備されるふれこみの96式装輪装甲車や北海道の師団にい個連隊は置かれるはずの89式装甲戦闘車は配備されませんでした、この悪弊は断ち切る必要があります。削減への方便としての機械化ではなく、機械化させることで人員規模が収斂するという。

 しかし単純な縮小ではありません、すべての師団を機動運用部隊とするのですから、防衛正面は現在の着上陸地域を守る地域配備師団の五千前後に二個乃至三個の即応機動連隊と空挺団という、正面一万前後という規模から、機動運用部隊にすべての師団を充てるのですから七万へ、五倍程度防衛正面は増強される、正面緊迫がこれだけ確保できれば、凄い。

 四個師団であっても、現状の9個師団6個旅団態勢の現状では着上陸した敵一個旅団を相当する事が現状の師団では厳しいですが、新しい師団案ならば違う。ほぼ日本本土を主戦場とする脅威を抑止できるでしょう。特に各種誘導弾の射程延伸を踏まえる必要もあります。方面特科部隊の装備する装備は、将来的にかなり射程が伸びるのではないでしょうか。

 着上陸の際に地域配備の師団管内はもちろん隣接方面隊まで延びるのですから、座布団師団とも揶揄された冷戦時代の編成を応用するには少々無理があります。自衛隊師団はおおむね司令部から100km以内に隷下部隊をおくのですが地対空ミサイル脅威からして既に250kmまで延伸、もっと広い防衛正面を担うには師団を大型させる必要があるということ。

 イージス艦とF-35、本題回帰という構図だ、この二つの装備ですが結局戦域がここまで拡大するのだから日本海と太平洋の間に本州島、というような領域と空間は超える必要がありまして、極端な話で10式戦車とF-35をデータリンクで結ぶ必要や護衛艦とSSMはもちろん特科部隊全般を連接させる必要が将来的に出てきます、が、進歩の部分は多岐に上る。

 F-35Aがミサイルと使い果たした場合にイージスアショアと連接したスタンダードSM-6がF-35の誘導で航空脅威を無力化する、このように陸上の装備が空へも海へも大きく到達する時代が到来するのですから。ヘリコプターの高性能化が陸上自衛隊に必要だ、この視点は前述したコマンドー空母としてのヘリコプター搭載護衛艦の統合運用に重なります。

 UH-2を搭載した場合に護衛艦は水陸機動作戦を展開する場合に航続距離の面で限界が来しますが、CH-101やUH-60JAではその制約が薄くなる、これは令和元年台風災害におけるヘリコプター搭載護衛艦の航空機支援でも象徴的に示されていまして、機数が少なくとも高性能機であれば必然的に全国から即座に集合させうる、ということにほか成りません。

 全国で何百航空機があっても必要な現場で不足していては意味がないのですね。そしてこの航空機の能力強化は、邦人救出や我が国へ重要影響を及ぼす第三国での緊張に対しても寄与する事は違いありません。ただ現状では自然減というかたちで小規模部隊へ収斂してしまいます。思い切って定数と部隊数の整理、という視点が必要となるのではないか、と。

 戦車300両体制、これは基盤的防衛力整備から統合機動防衛力整備に際して戦車定数を大きく転換した最終段階となりましたが、実は戦車定数が新防衛大綱画定に際して300両から200両に縮小されることを懸念していました、戦車二〇〇両時代の覚悟、という特集を準備したほどです。ただ、思い切った機動運用への転換へ、好機となるやもしれません。

 戦車300両体制が画定した当時は、陸上自衛隊の方向性が読み取れず中々に理解まで苦労し、多くの識者や現場の方の視点や見解等を聞いて回ったものです。この部分について、しかし陸上自衛隊は機甲部隊をその本質的な意味である装甲機動部隊という意味で、その能力構築を放棄していない点が将来装甲車選定として示されていて、高性能ばかりです。

 スイス製ピラニアLAV6.0,フィンランド製パトリアAMV,三菱重工機動戦闘車派生型機動装甲車、この三種が将来装甲車線艇の候補として挙げられていまして、戦闘重量が15tに満たない現行の96式装輪装甲車よりも大幅に防御力と不整地突破能力が改善した装輪装甲車が候補の俎上に挙げられていたのです。96式装輪装甲車は曲がりなりにも多数が揃った。

 96式装輪装甲車は、北海道の各普通科連隊に中隊規模で、また新編されている即応機動連隊に大量配備が実現しました装備で、89式装甲戦闘車のような少数装備を目指したものではありません、もっとも96式装輪装甲車はもともと全国の普通科連隊完全配備を目指した現在の高機動車のような普及を期していましたが。ともあれ、その後継車両ということだ。

 将来装甲車、機動装甲車であってもパトリアAMVであってもLAV6.0であっても、その車体は40mmCTA機関砲を搭載した砲塔が載る設計です、これは本格的な機械化部隊を創設するには十分な能力を有しているでしょう。装甲機動連隊、機動装甲車やパトリアAMVとピラニアLAV6.0を配備できるのであれば、10式戦車を戦車隊として配備し協同すべきだ。

 これは恰も即応機動連隊の16式機動戦闘車を有する機動戦闘車隊の戦車版にあたる、そうした連隊を編成し、現在ある戦車大隊や戦車連隊をすべて廃止し装甲機動連隊に置き換えてもよいのではないでしょうか、即応機動連隊と同じ定数ならば15個戦車隊へ改編できる規模を意味します。戦車隊と三個装甲普通科中隊に特科中隊と本部管理中隊、概略ですが。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【4】戦域概念の果てる事無き拡大進む時代

2020-01-05 20:20:32 | 北大路機関特別企画
■最大規模の再編が必要だ
 世界を視ればドイツ連邦軍やフランス陸軍とイギリス陸軍は現在陸軍兵力を二個師団に集約しています、緊張緩和の影響もありますが装備体系の変容も影響していましょう。

 戦域の急激な拡大、上記視点背景には近年の各種誘導弾の世界規模での急激な射程増大が挙げられ、結果としての戦域面積の増大を考慮せねば成りません。従来は、とはいっても第二次世界大戦中ですが一個師団の正面範囲はわずか22kmとなっていました、故に戦線が100kmに達する場合には一個軍団を置く必要があった、しかし、時代は変わりました。

 2003年イラク戦争、もう20年近く前の話題であることに率直に驚くのですけれども、その時点で事実上イラクを崩壊に追い込んだのがアメリカ陸軍第3機械化歩兵師団、これを支援する米英2個師団ではありましたが、楔を打ち込んだ師団が旧第24師団という我が国とは太平洋戦争中と戦後の進駐軍として縁のあった師団のたった一つにより実施された。

 一個師団は一国単位での作戦範囲を有するに至った事に驚かされます。これはデータリンクにより一個師団が作戦範囲を広げた背景もありますが、同時に各種装備の射程が冷戦時代には考えられないほどに延伸した現実を突きつけられる構図でしょう。イージスアショアとともにイージス艦のスタンダードSM-6の射程はまさにこれであり、戦域を広げました。

 一昔には弾道ミサイル迎撃用のスタンダードSM-3の射程が1300kmといわれたものを自衛隊が導入する事となった際、遂にこういう時代かと感慨深い思いを巡らせたものですが、自衛隊のスタンドオフ装備導入により1000km前後の射程を有する航空機用誘導弾装備が具現化した事で成る程といえる程の時代と世界規模の軍事技術発展を考えさせられました。

 スタンドオフ兵器の導入は同時に我が国周辺情勢、ロシア軍の艦載巡航ミサイルがカスピ海からシリア領内をねらう想定以上の射程や中国軍における中距離弾道弾の配備数増大など、懸念とともに具現化した一種の鏡面世界といえる。ミサイル射程増大とともに世界では特に欧州を中心にヘリコプターの高性能化が進んでおり、数的にも最適化されています。

 NH-90多用途ヘリコプターやEC-725中型輸送ヘリコプターというような高性能ではありますがかつてのUH-1系統の十倍以上の費用を要する機種が輸送における主力を形成しています。自衛隊の統合運用における深化は、例えばこの種のヘリコプターについても、もちろん現在試験中のUH-2を含め高性能機種以外の機体は用途を再考するべきでしょう。

 UH-2,軽多用途ヘリコプターや救急ヘリコプター等に留め、川崎重工がライセンス生産するAW-101系統のCH-101や三菱重工がライセンス生産するUH-60JA系統に収斂してゆく必要はないか、と。中距離弾道弾の脅威とともに前述の地対空ミサイルの航続距離延伸は着上陸阻止を念頭とした伝統的な専守防衛を想定した場合でも戦域拡大の重みは大きいもの。

 着上陸を仮定しましょう、海岸堡に長射程地対空ミサイルが揚陸された時点でUH-1系統の戦闘行動半径よりも内陸部までミサイル脅威下に収められる懸念が払拭できないという。CH-101を方面航空隊へ配備すべし、と安易に表現するのは、この部分は特に強調したいのですが、必ずしもありません、安易に高性能機を導入しますと確実に防衛費が不足します。

 結局十機十五機揃えるだけでほかの装備体系を圧迫し均衡を破綻させたまま調達終了となることは目に見えています。戦域の拡大とともに方面隊ごとに方面航空隊を置く方式は方面隊の枠外までミサイル射程が延びる時代には合理性が薄くなり、航空集団を中央に置き、平時の災害派遣等に備える即応航空機については分遣隊を進出させる方式に転換すべきだ。

 より率直に言うならばフォースユーザーとフォースプロバイダーに区分するべきではないか、と。防衛費を増やせという反論には、それならばもっと我々が働いて稼ぎ納税額を大きくしなければ無理だ、と対案を出します。労働時間を五割増やして過労死しなければ、それも可能でしょう。1:1で置き換えようにも装備は高性能が求められ高価格化している。

 フォースユーザーとフォースプロバイダーの運用分離は海上自衛隊が既に実施しており、この方式が確実に成果を示したのは2011年東日本大震災という明白な実戦の機会でした。陸上総隊が創設されたのですから、方面隊が有する師団や旅団を包括して総隊直轄部隊として移管する、こうした施策はあるはずです。無論、地域司令部として方面隊は維持する。

 方面隊は地域司令部として需要です、特に文民保護の自治体協定や地誌研究等は機動運用部隊には難しい。駐屯地業務隊や倉庫兵站と教育訓練や曹士人事は地域司令部として必要ですし、即応部隊として警備隊を置く必要もある。しかし、師団旅団規模の部隊は方面隊が掌握してしまいますと、隣接方面隊協力制度はあるにしても、集約が難しくなります。

 陸上総隊が在るのですから全ての部隊を集約すればよい、現状のまま地域配備師団や旅団を残す事は、結局のところ運用に時間を要する中間結節点を増やしているにすぎません。師団旅団についても整理する必要があり、これは師団の規模が水陸機動団や即応機動連隊創設で吸い取られ続け、実質師団でも諸外国の旅団以下という事例が出つつあるためです。

 師団を減らす、反論はあるでしょうが、現実を視るべきでしょう。一方、フォースユーザーとフォースプロバイダーへの区分化により、方面隊よりも巨大な師団、というものが生じた場合でも指揮階梯を損なうものではありません、必要な事態となれば方面総監を頂点とする統合任務部隊司令官隷下に全国の師団を置く方式への転換の意味とはこういうこと。

 師団は減らす、これはもう一つ、将官ポストが不足するためです。将官ポストは余っているように思われていますが、調整会議に明け暮れた東日本大震災に際して実際には不足し全国の方面隊から指揮官を調整要員としてかき集めています、現状は多数ある師団と旅団がそのポストとして文字通り、有事への余裕、というものを自然に醸成しているのですが。

 航空集団が必要だ、上記視点は、将官ポストが足りなくなる、という視点の背景です。航空集団司令官には将官が必要です、第1ヘリコプター団長とは比較にならない規模なのですから。統合運用の深化は自衛隊の各種学校を包括しなければ、例えば現在の即応機動連隊を一つとっても諸職種混成部隊の常設には対処できません、教育集団というものが要る。

 教育集団司令官には実質方面総監と同等のポストが必要です、訓練を包括化するとともに調整と実地運用研究を行うのですから富士学校長とは比較になりません。陸上支援集団として輸送調整を行い、国内の倉庫兵站や協力民間企業との連携を担う中央司令部が必要ですし、病院などを包括し衛生部隊の統括運用を行う衛生集団というものも必要でしょう。

 いわば、自衛隊が有事の際に一体となって戦う際に必要な連携の基盤を構築するには中央に集団司令部を置かねば成り立たず、そのためには既存の師団を整理してでも将官ポストを再編し、充てなければならない、ということ。指揮官というものは一朝一夕に養成できません、そして練成した上級指揮官の能力はそのまま防衛力の多寡にも直結しています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【3】自由と開放への戦争は待ってくれるのか

2020-01-04 20:00:48 | 北大路機関特別企画
■不寛容と閉塞の地域公序拡散
 現代の国際公序は自由と開放を基調としたものです、しかし不寛容と閉塞を基調とする国が存在し、その拡散を進めている状況があるのですね。

 戦争は待ってくれるのか。戦争という概念は国家間の直接的な軍事力を投射する武力紛争という基本的な概念から、国家間の闘争を示す全般的な、冷戦を含め、広い概念のものへ拡大して考えますと、北東アジア地域において大きなレジームチェンジが生じつつあり、このレジームチェンジは北東アジアに端を発し西太平洋全体に伸びつつある現状がある。

 南西諸島での緊張が顕在化したのは2010年代に入ってのもので、元々南西諸島における対立の火種は1970年代後半に海底資源の可能性が確認された時点から始まってはいるのですが、その頃には中国に充分な海軍力が無かった、という状況があります。海軍力の問題は同時に台湾海峡を挟む問題に対しても沖縄の在沖米軍が武力紛争を抑止し得た事でもある。

 武力紛争の可能性、実は冷静に北東アジア情勢と共に東南アジア情勢まで俯瞰しますと、南沙諸島や西沙諸島を巡っては小型艦艇に限定されますが海軍艦艇同士の衝突は不定期的に発生しています。また朝鮮半島を俯瞰しますと離島へ砲撃や国境地域での非正規戦等は不定期的に発生しており、必ずしも日本国土は万全安全、との状況にはなかったのですが。

 懸念すべき命題は、中国の海軍力増強、そして空軍の新世代戦闘機増強により、中国周辺部に限られてきました武力紛争の火種が徐々にその周辺部の概念が拡張し、日本本土が入るように転換した点でしょうか。特に沖縄県や九州南部へ接近する中国航空機への航空自衛隊による対領空侵犯措置が、冷戦時代にもなかった水準まで突沸した事は記憶に新しい。

 京阪神地区沖へのミサイル爆撃機の展開、中国の軍事圧力は沖縄の話であったのは2000年代までで2010年代に入りますとその圧力が九州まで延びてきましたが、驚いたのはミサイル爆撃機の編隊が紀伊半島沖まで接近し、その圧力は遂に京阪神地区まで、地元までやってきた、という事でしょうか。グローバルな話題からローカルな話題となった訳ですね。

 レジームチェンジ、これは急激に経済力を成長させた隣国大陸中国が、周辺地域に自由と開放の国際公序を不寛容と閉塞の国際公序に切り替えようとして消費させている実情があります。自由と開放の国際公序は一種欧州的な概念でありアメリカ的な概念、深層部分では異なるのですが求めるものが欧州とアメリカが一致し、グローバルなものとなりました。

 グローバルな国際公序は、しかし第二次世界大戦に不寛容と閉塞という概念を日本とドイツを中心とする枢軸諸国が、日本は海洋安全保障秩序へ、ドイツと欧州の枢軸諸国は自己実現への人権秩序で、国際公序に挑戦し敗北しました。その後は自由と開放を目指す国際公序は、その手法の視点から社会主義的なものと自由主義的なものに置き換わっています。

 不寛容と閉塞、この懸念は我が国周辺の大陸中国と北朝鮮が醸成する概念であり、共に一党独裁であり移動の自由を含めて領域を閉塞化します。問題は前者について、領域の閉塞化と共にこの概念を公海上に延伸し、公海上に人工島を造成してでも海洋への閉塞主義を醸成し得る点です。そして海軍力と共に建設力も大きく閉塞の海は急速に広がりつつある。

 東西冷戦を比較しますと、アメリカとソ連の超大国同士は互いを牽制しつつ、その両国が最大規模の武力衝突を行った場合にはどういった結果をもたらすかは両国の指導者が共に認識しており、国際政治学者ジョンギャディスが表現した“ロングピース”というべき不安定な平和状態が自然醸成されていましたが中国とアメリカの関係にはこれが及びません。

 ロングピース、この不安定な平和さえ実現しにくい現状は中国とアメリカの絶望的なまでの核戦力の格差があり、国際レジームへのチャレンジャーとして中国が位置している為、摩擦は中国が均衡を目指すまで継続的に推移するでしょう。その過程に置いて摩擦が局地的に火を起す可能性がある、問題は太平洋を挟む米中と異なり、日本は中国に近いという。

 不寛容と閉塞は、近年、自由主義の一端を担う要諦の一つ、自由主義経済を通じて経済圧力という形で不安定を展開させる現状があります。一つの形態は膨大な中国による対外借款を通じての債務不履行国への政治介入、一つの形態は一帯一路政策と共に内政への圧力、更なる経済支援を提示し実質的に忖度を強いるという構図が不寛容を広げてゆきます。

 平和的な概念でありつつ、平和の定義が不明確であるがゆえに、自国勢力圏が拡大する事が平和の要諦である、とする中国の施策は、結果的に衝突を醸成しかねません。不寛容と閉塞、この難しさは、我が国を始め欧州諸国やアメリカが混迷期の中国に競うように支援の輪を差し伸べて経済成長を促したのは、経済成長が次の変化を促すと期待した為です。

 自由主義、とまでは直結せずとも人権や自己実現への権利を国が国家の成長への要諦へ認める程度に、経済成長が余裕を持たせるのではないか、という期待が在った為ですが、残念ながら不寛容と閉塞の基本に変化の兆しは見えません。更には急激に進化するIT情報通信技術やAI人工知能技術を応用し、監視と管理について、その能力を強化している様にも。

 ウイグル人権問題や強制収容所の問題はAFPやロイターにより繰り返し報道されていますが、ロイターでは中国市場に関係するスポンサーの圧力が存在したことで結果的に中国に関する人権報道が、同時並行して進展していました香港民主化運動の報道を自粛するという構図で自由主義の根幹へ報道の自由へ報道しない自由を求める圧力が醸成されました。

 不寛容と閉塞は要するに軍事侵略を経ずしても、国境を越えて拡大し得る、という懸念を示すものとなったのですね。ただ、現時点では経済力が基本であり、軍事力による不寛容と閉塞の輸出というべき状況が為される段階には在りません、自陣営にはいれと軍事圧力を加えるには戦略展開能力が基本的に不足していたのですね。そう、不足していた、と。

 山東型航空母艦一番艦竣工、結局経済力による圧力に限定される段階が最終段階なのか、と考えますと、2019年12月に竣工した新しい航空母艦の一番艦、続く航空母艦の量産が、中国第一主義を標榜するように自陣営の拡大を試みる動向を高めるのではないか、軍事力による砲艦外交を展開させる段階に進むのではないか、という懸念が生じる訳です。

 日本国土は難攻不落、こう考えて日本本土が戦場となるまでは時間があると開き直る事は、実のところ可能です。しかし、不寛容と閉塞はグローバル企業を通じて我々の生活に影響を及ぼす可能性は高いですし、また気付けば不寛容と閉塞を受け入れて法制化する諸国が我が国の自由と開放という概念そのものを拒否する諸国となって包囲する可能性もある。

 安全保障による関与、日本の選択肢は、しかし現段階ではまだ数多い。軍事力による砲艦外交が南へ伸びた際に、近傍に自由と開放を標榜する諸国の一員として、これは同盟国アメリカを含め、ポテンシャルを発揮出来るならば、建前と本音、国際法を駆使し、善隣条約ではなく所謂良き隣人としての関係を維持できるかもしれません。戦争は防ぎ得ます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【2】多次元統合防衛力と自衛隊深層統合運用

2020-01-03 20:10:13 | 北大路機関特別企画
■自衛隊,深層部分の統合運用
 多次元統合防衛力を実現するには現在の常識を超えた深層の統合運用となる様に思います。

 V-22可動翼機、陸上自衛隊が新たに配備を開始する新型航空機もヘリコプター搭載護衛艦と統合運用することで、例えばアメリカ海軍が航空母艦への陸上航空基地から航空輸送に用いているC-2輸送機に、自衛隊のC-2ではなくE-2C早期警戒機の輸送機版ですが、その任務と同じ運用が可能です。SH-60Kが護衛艦への物資輸送に当てられている現状です。

 UH-60輸送ヘリコプターが今後は、この装備につきましては機種選定決定後に、海幕長がCH-101のほうが輸送に適していると反論し政治問題化したUH-60でして、実際その通りに思えるのですが不正競争防止法違反という厳しい判断、閑話休題、その任務に当たりますが、V-22の航続距離や輸送能力はUH-60とは当然、比較にならないほどに大きい。

 戦略展開能力、V-22とヘリコプター搭載護衛艦を考えますとその作戦範囲を大幅に、と安易な視点を持ちたくなるところですがKC-130空中給油輸送機とC-2輸送機に上記の同盟国が供しうる飛行場という視点を加えますともう少し広がる。KC-130により空中給油を受けつつ飛行するならばV-22は数千kmの長距離展開が可能です、海外派遣が可能という。

 C-2輸送機により同盟国が提供する飛行場へ物資を集積し、そこにV-22という装備が加わればどうなるでしょうか。護衛艦へ遠路展開したV-22を用いて補給物資、弾薬も含め輸送するという選択肢が生まれるわけですね。V-22,陸上自衛隊は17機という限られた規模ではありますが導入します。取得費用でCH-47の二倍やUH-60の三倍というV-22,高価でした。

 V-22,したがって選択肢としては自衛隊全般の航空機不足、後継なき耐用年数限界に伴う定数割れの現状をみますとV-22を17機取得する予算があるならばUH-60JAを51機追加取得し、一部を後日改修によりヘルファイア運用能力を付与し、30mm機関砲などとともに米軍特殊戦用のMH-60武装型と同様の運用に充てた方が、良い様に考えてもいましたが。

 HH-60であれば航空打撃力の一端を担える為、静かに進むAH-1S対戦車ヘリコプターの全廃への自然減とともに妥当とも考えたのですが、V-22の航続距離とC-2輸送機にKC-130空中給油輸送機、いずも型護衛艦やF-35B戦闘機と包含し総合的に考えた場合、行いうる選択肢は世界規模で増えるのだろう、と。世界規模の任務が増える将来を見越して、です。

 イージスアショア、陸海空自衛隊の統合運用深層化はこの陸上自衛隊が担う全く新しい装備体系により次の一歩を刻むのだろう、と。具体的にはイージスアショアにより航空自衛隊の戦域防空用ペトリオットミサイルは漸く後継装備に巡り会えたという。イージスアショアは陸上配備型イージスシステムであり、ミサイル防衛の専用装備では必ずしも、ない。

 政府はスタンダードSM-3の運用に限定する、としていますが対航空機用のスタンダードSM-6も運用可能です。スタンダードSM-6は低空目標にたいしては270km程度の射程を発揮するとともに高空目標へは450km以遠からの迎撃が可能という。ペトリオットミサイル射程は110km程度であり、現在の地対空ミサイル射程としては決して長くはありません。

 ロシア製S-400グランビル地対空ミサイルの射程が300kmまで延伸する中、1970年代の脅威を念頭に開発され、射程を大きく延伸できないままセンサー部分の改良に重点が置かれた背景から既に射程の面で陳腐化が進んでいます。ペトリオットミサイルの陳腐化は射程だけに留まりません、もう一つ、垂直発射方式を採用していないという問題があります。

 垂直発射方式ではない、故に全周警戒や射撃範囲に限界があるために現在急激に脅威度が顕在化している長距離巡航ミサイルや無人機技術を応用した自爆無人機による長距離攻撃、特に迂回経路から接近する脅威へは対応能力の限界が指摘されています。イージスアショアの利点は前述の二つの重要な点があります。それは既存のイージス艦とF-35というもの。

 イージスアショアについては懐疑的でした、導入検討開始当時にはスタンダードSM-3のみがミサイル防衛の手段であり、これは中間迎撃用、即ちミサイルが放物線を描く宇宙空間で迎撃する装備であり、落下直前まで迎撃を継続する終末迎撃能力がありませんでした。更にイージスアショアは固定装備であり、21世紀に固定要塞方式は時代錯誤に思えました。

 SPY-6レーダーを大型機動車両に搭載し陸上移動式とするならばともかく、と思ったものです。イージスアショアは依然として固定式ではありますか、しかし中間段階の迎撃能力というものからは脱却しています。SM-3については併せて対航空機用のスタンダードSM-6がその改良型から終末迎撃能力を付与されることとなった為に自己完結しました。

 スタンダードSM-6による州亶段階防空、考えればイージス艦は近年の新たな脅威、対艦弾道弾から航空母艦などを防衛する必要はあり、アメリカ海軍は終末迎撃能力構築を必要としていた。この結果イージスアショアそのものがSM-3の迎撃圏外を飛翔するロフテッド軌道による攻撃からは終末迎撃能力の付与により少なくとも自衛できる事とは、なりました。

 海上自衛隊のイージスシステムと共通の装備である点、そしてF-35戦闘機とイージスシステムとの連接性が挙げられまして、特に地形障害の向こうから接近する脅威、低高度目標の接近をF-35、そして将来的には固定レーダーサイトとのデータリンクによりレーダーサイト自身をイージスアショアの補完的な索敵装置と用いる事も可能となるかもしれません。

 イージスシステムの連接性は更に、日本近海のイージス艦を補完する能力とも重なります。ペトリオットの後継装備となりうる、併せて航空自衛隊高射隊の任務すべてを陸上自衛隊に移管、いや元々ペトリオット部隊の前身であるナイキ部隊は元来陸上自衛隊所属ではありましたので回帰というべきでしょうか、陸上自衛隊へと一本化が可能となるのですね。

 航空自衛隊の人員不足は常に指摘されているところではありますが、航空自衛隊の高射隊を陸上自衛隊のイージスアショアにより代替できるならば、無論その為には南九州か南西諸島北部、京都府日本海側から北陸地方北部にかけての地域等二カ所から三カ所の配備により、北日本と九州沖縄、首都圏及び京阪神地区の防空を実現させる必要性が生じますが。

 03式中距離地対空誘導弾などは、イージスアショアの弱点を補完する位置づけに、これはイージスアショアが固定式防空システムであるが故の飽和攻撃や近距離からの小型無人機による自爆攻撃などにたいし、イージス艦こんごう型と僚艦防空能力を有する護衛艦あきづき型の援護に近い、こうした運用は必要となりますが、幸い日本には国産技術がある。

 03式近距離地対空誘導弾後継装備を海上自衛隊の発展型シースパロー短距離艦対空ミサイル、射程が50kmあり短距離の定義が難しく成りつつありますが、こちらの将来における後継装備と一本化できるならば、それは日本版AMRAAMやASRAAMに近い概念として、弾薬体系を一本化し、備蓄や整備等の兵站面での重厚な防衛力を実現できるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【1】新しい八八艦隊に留まらぬ防衛力検証

2020-01-02 20:00:25 | 北大路機関特別企画
■謹賀新年-令和二年
 新しい年の始り、本日から新年防衛論集ということで一種毎年恒例的な深い話題を浮いた情景とともに考えてみましょう。

 令和二年を迎え自衛隊の将来防衛、戦術的な改編に留まらず戦略的な運用を含め論理を展開してゆきましょう。自衛隊は多次元統合防衛力整備へ今後十年単位での防衛力整備を進展させてゆきます。十年を経ない、前防衛大綱に基づく統合機動防衛力整備は果たして完結したのかとの疑問が残りますが、新しく多次元統合防衛力の整備へ着手したわけです。

 自衛隊の装備体系は、しかし冷静に見ますと幾つかの示唆を含むもの。ミサイル防衛へのイージスアショア配備やコンパクト護衛艦30FFMによる各種装備の任務領域を超えた運用とともにF-35B戦闘機の導入開始、全通飛行甲板型護衛艦へのF-35B配備や機動旅団と機動師団の改編など、自衛隊の運用体系は今後十年間で大きく変容する事となりましょう。

 部隊体系と装備体系、しかし上記の野心的な取り組みについては予算不足や災害派遣という強大な人員を要する任務の維持とともに思い切った再編が実現しない実状があるように思えます。陸海空の深層部分までの統合運用を進めるとともに部隊体系の根本的な再編も必要となる、この施策具現化には定数と定員の最適化、つまり削減も避けては通れません。

 人員と装備の最適化が必要になります。これに踏み切らねば戦略単位に対し装備定数や人員定数が定員割れとなるか必要な任務遂行能力を欠く規模に収斂しかねません。自然減というかたちで既にこの問題は顕著な状況となっています。上記を踏まえた上で。機動運用部隊への本質的な転換、実のところ今求められているのはこの変革ではないでしょうか。

 防衛予算には現実的応現があります。その上で機動運用部隊、これは当然、機動運用部隊は必要装備定数も大きく、必然的に防衛力整備へ費用を要するものですので大胆な再編を前提としています。機動運用部隊といえば陸上自衛隊では永らく第7師団や第1空挺団と第1ヘリコプター団、地域配備部隊とは根本的に装備の厚さが異なることが自明でしょう。

 多次元防衛力、そして前提となっている前防衛大綱での統合機動防衛力は、基本的に遊兵を前提としない運用が整備されていなければなりません。有事の際に第二戦線を構成された場合に備え地域配備部隊は必要、とは確かに同意できるものですが機動運用部隊により阻止できないものではありません。遊撃戦などからの重要施設防護については必要が残る。

 地域配備部隊の地方配備は故に必要、と同意できるのですがテロ攻撃と定義を共通させるものが多く、これは防衛力よりは警察力の強化が求められるものなのかもしれません。他方、本質的な着上陸への警戒と部隊配備には、しかし機動運用部隊への集約を図る施策を思案しますと、既存の各種装備体系と既定の新しい防衛装備が大きな意味を持つ事が分る。

 新しい八八艦隊、新時代の機動運用部隊では現在のヘリコプター搭載護衛艦を頂点とする装備体系の強化もその重要な要素となりえます。八八艦隊といえば大正時代に構想した巡洋戦艦八隻と高速戦艦八隻を頂点とした艦隊を八年ごとに更新する壮大な計画、88艦隊は冷戦時代に護衛艦八隻とヘリコプター八機からなる護衛隊群を整備する防衛力整備でした。

 新しい八八艦隊とは、現在海上自衛隊が運用する四個護衛隊群を構成する八個護衛隊にヘリコプター搭載護衛艦とイージス艦を配備させヘリコプター搭載護衛艦八隻体制とイージス艦八隻体制を整備、作戦単位を共通編成の八個体制とする毎年提示している防衛力整備私案の一つ。機動防衛力への思い切った運用というものは、この点に踏み込む視点です。

 陸上防衛力とヘリコプター搭載護衛艦の統合という視点です。ヘリコプター搭載護衛艦への陸上防衛力の統合化をも包含した認識が必要、というものでして例えば現在の旅団普通科連隊を更に軽量化、軽量化といいましても装備定数の削減ではなく山岳軽輸送車や空挺輸送車などの特殊戦車両を含めて軽量な機動力を付与させるという意味で、なのですが。

 コマンドー空母のように必要に応じて陸上防衛力を機動運用させうる体制を構築すべき、という視点です。CH-47輸送ヘリコプターやAH-64D戦闘ヘリコプターとUH-60JA多用途ヘリコプターを搭載可能であるヘリコプター搭載護衛艦、高機動車や軽装甲機動車とポラリス軽全地形車両であれば一定数を格納庫に収容し得ます、例えば軽量部隊を乗せ得る。

 地域配備師団のような重装備を欠いた編成の部隊を改め、軽量普通科連隊を寧ろ地域警備のための軽量装備で妥協という認識ではなく、本部管理中隊に三個普通科中隊と対舟艇対戦車隊と重迫撃砲中隊からなる、現在の即応機動連隊を大幅に軽量化させた編成といえる部隊、遠征機動連隊と仮称するような部隊を全国に機動運用部隊として新編する試案を。

 パワープロジェクション、戦力投射が必要な状況に際しては即座に近傍の全通飛行甲板型護衛艦に中隊戦闘群単位で乗艦させる体制が構築できるならば、安全保障の選択肢に防衛力の後見が必要な状況へ大幅な新しい選択肢を付与できるように、思うのですよね。即ち保有する装備の特性を最大限発揮する事で抑止力についても最大限とする事が可能となる。

 F-35戦闘機の配備、思い切ったF-35Aの増強とF-35Bの新たな配備を明記した平成最後の防衛大綱は、深層部分での陸海空自衛隊統合運用、この視点を大幅に拡張し得るものといえるでしょう。F-35Bは護衛艦にも搭載し得ます、ただ、航空自衛隊は表面上で単なる局地戦闘機の発着場所としてヘリコプター搭載護衛艦を想定している印象がないでもない。

 F-35Bは搭載するAPG-81レーダーがイージスシステムと連接でき、最大射程450kmというスタンダードSM-6を誘導可能です、SM-6はAMRAAMのシーカーを採用していますから妙な喩えではあるけれどもF-35Bに搭載できないAMRAAMをイージス艦が持ってゆくという構図に近い。F-35B,用途次第ではこうした強みがあるのですけれども、もう一つ。

 F-35AとF-35B,整備治具はかなりの部分で共通性があります、この点がもう一つの点です。F-35AとF-35B,これは補給物資や予備部品も同様です。つまりF-35Bの洋上配備とともに護衛艦がそのままF-35Aを含む運用基盤の展開手段に、成りうるということ。もちろんF-35Aでは艦上は無理ですが、ね。護衛艦艦内は広くはありませんが輸送機よりは運べる。

 陸上自衛隊と全通飛行甲板型護衛艦の統合運用が基本戦術として統合化できるならば、その意味するところは自衛隊が領域を超えて我が国安全保障上の非常事態へ対処する必要が生じた際にCH-47JAを運用する護衛艦はそのまま搭載するF-35の運用関連機材を島嶼部や国内民間空港はもちろん同盟国の提供する飛行場にも展開させる一助となるでしょう。

 包括安全保障協力協定締結国との協同に資する地域へF-35運用基盤を暫定展開させる事が可能となり、これは我が国が防衛力を国内が戦場となる前に必要な措置をとる事が求められる場合に、またステイクホルダーとして国際公序を維持する責任ある一員として参画するには新しい選択肢を付与する事ともなるでしょう。そしてもう一つ、期待の装備がある。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする