つまらないことだが、わからなかったことがある。それはグラフの移動でいま任意の方向にグラフを平行移動させたとき、y軸の方に沿っての移動は直観とあっているのだが、x軸の方の移動が直観と反対になることだ。
すなわち、関数y=f(x)のグラフがあって、それを移動してy=f(x+a)となるときにxがx+aになるのだから、x軸方向の正の方向へaだけ移動するのかと思えば、そうではなくて負の方向へaだけ移動するのが正しい。
これがどうしてかしっくりしなかった。ところが最近ゲルファント先生の数学『関数とグラフ』(岩波書店)を読んでいてやっとわかった。といっても大したことではないし、70歳が近づいてきたのになんだといわれるだろう。
ともかくも気のついたことはつぎのことである。
関数形が変わっていないのだから、f(x)とf(x+a)とは同じ形のグラフである。そのときにこのあるx=x_{0}でのf(x)の値と等しい値をとるのはf(x+a)ではx=x_{0}-aのときであるということである。それだからグラフはx軸の負の方向へすなわち左に移動させなければならない。
こんな簡単なことだが、つきつめて考えなかったためにおよそ50年も分からなかった自分が恥ずかしい。
(2012.3.12付記) もっともこのグラフの平行移動がわかり難いのではないかと考えた先生方は高校の先生にもおられた。私が知っていた故矢野 寛(ゆたか)先生もその一人で、このグラフの平行移動を説明した論文があり、これは私が先生より後に書いたエッセイとは違った観点から書かれていた。
これは愛媛県数学教育協議会の機関誌「研究と実践」の昔の号に出ていたが、そのことに最近になってようやく気がついた。私も「グラフの平行移動」について、その後「研究と実践」に書いた。
そこではいろいろと書いたが、結局の要点は上の最後に書いたことにつきる。そして、このことは中学校3年の数学の授業で私たちの数学の担当だった、野間先生がさらりと言われたことであったろう。
しかし、この野間先生の注意を私には結局60年以上もかかって「そうだったのか」とわかったという、お粗末な次第であった。