先日のドイツ語のクラスでnachschlagenという語が出てきた。ein Woerterbuch nachschlagen (アイン ヴェルタブーフ ナーハシュラゲン) と言うと、辞書を引くという意味である。この言葉がでてきたときに先生のR氏からつぎのような話がされた。
彼はドイツ語と日本語のちゃんぽんで話したのか、日本語で話したのかはっきりとは覚えていないが、多分日本語で話したのだろう。話は以下のようである。
クラスの参加者は私以外はみんな独和辞典をクラスにもって来ている。あるものは書籍としての辞書であり、あるものは電子辞書である。K夫人は電子辞書をもってきていた。それは三省堂のクラウン独和辞典である。この大問題はクラウン独和辞典についてである。
R氏が教室で教えていたときのこと、電子辞書にドイツ語の動詞の3基本形のうちで不規則(強変化)動詞の過去形と完了(過去)分詞が載っていないと学生が言い出した。それはこの電子辞書の第4版であった。
隣にいた学生は第3版をもっていたので、比べさせたところ、第3版はこの動詞の3基本形は見出し語のすぐ後ろに載っていた。ところが改訂されたはずの第4版にはこの3基本形が載っていないという。
いま、この不規則動詞をgehen(行く)だとしよう。普通の辞書にはこのgehenの後ろにging, gegangenという過去基本形と完了分詞が載っている。ところがこの第4版には少し後ろをクリックするか何とかすると元の不定詞gehenに帰ってしまうという。
それで、R氏は編集発行した三省堂に電話を入れた。ところがこの三省堂では話がつかず、クレイムセンターへと連絡することが要請された。ところがこのクレイムセンターでも話が理解されなかったらしいが、結局この3基本形の過去形と完了分詞の削除は三省堂編集部の指示であるということが告げられた。これでぐるっと話が一周したことになる。
仕方なくR氏はその電子辞書を販売したE大学生協に問題点を説明したが、電話ではなかなか大学生協はその問題点が理解されず、その後で事情を聞きに大学生協の職員がR氏のところを訪れた。
そのときに問題点を説明したのだが、なかなかわかってもらえず、それで困り果てたR氏はつぎのような、たとえで説明した。「もしあなたが英和辞典を買ったとする。そのときに英語で”行く”を意味するgoという語の過去形と過去分詞のwentとgoneが載っていない英和辞書を買いますか」と尋ねた。
それでやった大学生協の職員もやっとこの独和辞典の電子版の欠陥をわかったらしい。いろいろ調べた挙句にこのgehenの説明の3ページ目に、このgehen, ging,gegangenの変化が出ていることを突き止めたらしい。
だが、不規則動詞でのこの3基本形はとても重要なことであって、3ページ目にあるからいいという話ではなかろうというのがR氏の見解である。そしてその操作もとても面倒らしい。
What a mess !
私はこのクラウンの独和辞典の編者がどなたであるか知らない。多分編者自身もこの事態をご存じないことだったと思われる。だからクラウンの独和辞典の電子版第4版を貶める意図はまったくないが、欠陥があることが明白になった時点でその早い改訂をお願いしたいと考える。
辞書などというものは多くの人が使うものである。それだけに慎重な編集がされているのだと思うが、それでも人間のすることで間違いはつきない。
ごく最近だが、物理学者のNさんが私が編集している「数学・物理通信」第5号に岩波書店の数学辞典第4版にまだ残っている公式の間違いについて投稿されている。
ちなみに、この数学辞典は日本数学会が全力を上げて編纂したものであり、英語にも訳された世界的にも権威のあるものである。
私も3度ほど岩波書店に別の数学公式集のミスを通知したことがあるが、この書店は社員が忙しいのだろうか、すでにこのミスは訂正済みだとかなんとかいう通知は一度も受け取ったことがない。確かにこういう通知に一々答えていては本来の業務が進まぬのであろう。
だが、現在はメールでも返事がすむ時代である。ちょっと返事を書く誠実さは持ち合わせていてほしいような気がするが、とても難しいことなのだろうか。
(2012.1.25付記) 昨日だったかながら族でラジオを聞いていたら、英会話の講座だったかで、What a mess !を部屋が散らかっている表現に使っていた。だから、この表題の私の表現はおかしいのかもしれない。英語に強い方の助言がほしい。