ベクトル解析の解説としては『物理数学入門』I (丸善)はなかなかの良書である。
これは少なくともベクトル代数についてはそうである。Levi-Civita記号を使ってベクトル代数の公式を導くことを基本に置いているからである。
私もこの本とは別にほとんど同じような論旨の展開をしたエッセイを方々に書いたことがあるので、私の主張とどう違うのかを詳細に検討してみたいと考えている。
『物理数学入門』は発行が1996.1である。私のLevi-Civita記号を用いたベクトル代数とかのエッセイは1997.12とか2001.9とかであり、その元となった「テンソル解析の学習における問題点」の改訂版は1998.3である。もっともこの版の原版は1985.3である。
もっともこれらはいずれも愛数協の機関誌「研究と実践」に掲載されたものであり、ほとんど一般の人の眼に触れることはなかったろう。それらをまとめた小著『数学散歩』(国土社)は2005.1に発表されてようやく少しは世間に知られるようになっただろうか。それでも一般にはあまり知られてはいないだろう。
私がなぜLevi-Civita記号を知ったかというと1967年に取り組んでいた私の学位論文で光子とパイ中間子の相互作用のハミルトニアンに4次元のLevi-Civita記号が出てきて、その縮約の公式が計算のために必要になったからである。
その縮約公式自身は有名なランダウ=リフシッツの『場の古典論』(東京図書)にも出ていたが、それがどうやって導かれたかがわからなかった。それでその導出を指導教官だった米澤穣さんに導出の方針を示してもらったという経緯があった。
「テンソル解析の学習における問題点」では実は米澤穣さんに導出してもらった方法は書いてなくて、穂苅四三二著『テンソルの理論』(生産技術センター)(再版)にあった一般化されたクロネッカーのデルタによって導いたと思う。
その後、昔のノートを引っ張り出して解読して書いたのが、「Levi-Civitaの記号の縮約」再論である。これが実は学位論文の研究で納得した「Levi-Civitaの記号の縮約公式」の導出法であった。
その後、ベクトル代数については「数学・物理通信」に何回か掲載している。これは前に書いたことがあるエッセイの改訂版である。
「数学・物理通信」はすべてのバックナンバーが名古屋大学の谷村省吾先生のサイトにあるので、検索すれば見ることができる。
もっとも「テンソル解析の学習における問題点」は改訂して「数学・物理通信」に掲載したいと思いながら、うまく改訂できていない。
太田浩一さんの『ナブラのための協奏曲』(共立出版)に改訂のヒントがあると思うので、改訂できればいいのだが。
『ナブラのための協奏曲』は多分ベクトル解析についての最高の書とは思うが、これはなかなか私にとっても難しい。物理学者は別として、一般の人はなおさらであろう。もっともこれが読み解けるようなら素晴らしいと思う。