marginal stabilityという語の日本語訳に困っている。これは今訳しているGoldstein,"Classical Mechanics"の11章「古典的カオス」に出てくる用語である。惑星の軌道の安定性がmarginal stabilityであるというのだが、どうも限界安定とか中立安定とか訳すのは憚られるようなのだ。
惑星の軌道は安定なのだが、それは10^{9}年くらいのオーダーでの話らしい。とすると普通の意味では安定といってもいいと思う。しかし、このような長期間にわたって安定ではあるが、数学的には安定とはいえないだろう。
「傍注つきの」安定性と訳そうかと冗談を言っているが、そうもいかないだろう。どなたか日本語の定訳というか適訳をご存知の方はいませんか。(marginalは「余白の」というのが辞書のはじめに出てくる訳語だが、「傍注つきの」という訳語をつけている辞書もある。それで安定だが、注釈つきの安定性とシャレようというわけである)。
たんぱく質の生成等で極めてきわどい条件での安定性が成り立つという話があるようだが、それらと話を一緒にしていいものかどうか。専門用語であるので、マージナルな安定性という訳語もゆるされるかとも思うが、悩んでいる。
(2017.5.12付記) マージナルという言葉でまた悩んでいる。これはここで述べたmarginal stabilityとは関係ないが、『昭和後期の科学史思想史』(勁草書房)に掲載されている、金山浩司さんの「武谷三男論」にはじめの方に「武谷三男はマージナル・マンである」とあるのだが、このマージナル・マンの意味がよくわからない。
いま辞書でmarginalを引いてみたが、どうも適訳を見つけることができない。marginとは本などの余白のことである。
中立安定性とか限界安定性と訳す方もそれなりに意味をもってはいるようです。というのはそういう安定性が不安定になるという条件が極めて特殊な条件のときに成り立つという事情があるらしいのです。
専門家にはほとんど訳語は必要がなくて元のmarginal stabiltiyで意味は通じてしまうところがあります。元の言葉をそのままカタカナ書きして使うことも多いのですね。
化学物質で左右反対のものがありますが、これは確かに薬として使うときに片一方は人間に効くのにもう片一方はまったく効かないことがあるのは事実ですが、両方とも物質でできています。
では自然界には圧倒的に物質が多くて、どうして物質と反物質とが自然界に均等にないかというのは以前からの謎ですが、いまでは宇宙ができたときに途中までは(とはいってもとても短時間でしょうが)両方が存在するような世界だったのが、途中でいま物質といわれるものだけが残るような力が働いたと考えているようです。
詳しいことは知りませんが、吉村さんという日本人の物理学者がこの分野の先駆的ないい研究をしたことで知られています。