田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

大学が研究する観光最前線とは?

2014-11-26 22:14:37 | 大学公開講座
 北大は国立大学では初の「観光」研究を担う「観光学高等研究センター」を2006年に設置したそうである。国が「観光立国宣言」をしながら、観光学研究への支援は潤沢とはいえないという。そうした状況で孤軍奮闘(?)する研究センターの公開講座を受講した。

               

 観光学高等研究センターの公開講座はここ3年ほど毎年受講しているが、今年のテーマは「連続対談『観光創造の最前線』」と謳い、センターの教員とゲストが観光研究の魅力と課題を語り合うという、これまでとは少し趣を異にした講座だった。
 日程と内容、登壇者を私自身の記録のためにも紹介することにする。

 ◇第1回(10月23日) 「地域づくりにおけるよそ者のダイナミズム」
                  吉元美穂氏 × 敷田麻実教授
   ※ 吉元氏はNPO法人登別自然活動支援組織モモンガくらぶ事務局長

 ◇第2回(10月30日) 「広告・旅行会社のプランナーと考える観光・地域振興の仕事」
                ~「交流」仕掛け人たちの北海道新幹線カウントダウン~

                  原田亜紀氏、林純也氏 × 内田純一准教授
             ※ 原田氏は(株)JTB北海道 札幌法人人事部コミュニケーション営業部
             ※ 林氏は(株)電通北海道 コミュニケーションデザイン室 コミュニケーションデザイン部

 ◇第3回(11月06日) 「文化遺産を千年先に引き継ぐには」
               ~カメルーンで王様一族になってしまった先生と、
                            千二百年前の池を復元した先生の話~
 
                  下休場千秋氏 × 真坂昭夫教授
             ※ 下休場氏は大阪芸術大学教授、真坂氏は京都嵯峨芸術大学教授で北大観光学高等研究センターの研究部門教員を兼ねる。

 ◇第4回(11月13日) 「“昭和の旅と娯楽”再考」
              ~秘宝館からカラオケまで、日本人は何を楽しんできたのか?~
 
                  妙木忍氏 × 山村高淑教授
             ※ 妙木氏は北大国際本部留学生センター特任助教

 ◇第5回(11月20日) 「観光をめぐる『不都合な真実』とは?観光創造学のススメ」 
                  石森秀三氏 × 西山徳明教授
             ※ 石森氏は観光学高等研究センターの初代センター長であり、現在の北海道開拓記念館館長

 このラインナップを見ると、観光学に関心のある人、あるいはそうでない人にとっても、なかなか興味あるテーマが並んでいると思えないだろうか?事実、私は毎回毎回興味深く対談を拝聴した。特に今回のような対談形式による講座は、講師が一方的に話すのではなく、そこに対話があることによって、同じような内容であっても新鮮に聴こえてくるという効果があったように思う。

 ただ、このラインナップから観光学高等研究センターが受講者に何を伝えようとしたのか、というメッセージは伝わってこなかった。そのことはセンターもはっきりとした何かをというよりは、今回の講座を通してセンターの取り組みや成果を披露する。平たく言うと「センターのことを知ってほしい」ということが今講座の秘められたねらいだったと私は解釈した。

 そんな中において、唯一メッセージ性に富んでいたのが、前センター長の石森秀三氏のお話だったように思われる。
 石森氏は現職ではないという気安さもあったのだろうか、日本における観光行政や観光学に欠けていることについて忌憚なく語った。
 石森氏曰く、日本は観光立国を宣言しながら観光振興に関する予算が極端に少ないという。これは日本の各界(政界・財界・官界・マスコミ界・学界)における観光軽視・蔑視的見方が影響していると指摘する。
 そのことが、例えば自国への外国人旅行者数に表れている。欧米諸国とは比べるべくもなく、アジア内においても中国、タイ、マレーシア、香港などから大きく後れを取り、隣国韓国の後塵を拝しているのが我が国である。

 石森氏は言う。今やツーリズム産業は省資源・省エネルギー型産業として世界のリーディング産業であると…。氏によるとツーリズム産業は全世界のGDPの9.9%、全世界の雇用の8.4%を産み出しているという。
 その他、氏は「観光国富論」、「観光民福論」、「観光地域創造論」、「観光安全保障論」と多岐に渡って観光の利点を強調した。
 そして、国は、各界はもっともっと「観光」にこそ光を当て、潤沢な資金と優秀な人材を投入すべきだと熱を帯びた主張を展開した。

 「観光は単なる遊びに過ぎない!」と考える日本人はまだまだ多いのかもしれない。しかし、氏の主張をうかがい、アジアにおける観光ビッグバンが到来している現在、もっと観光産業に目を向ける時代が到来しているのではないか、という感想を抱いたのだが…。

 楽しい講座だった。