田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

安田菜津紀 弱者に注ぐ眼差し

2025-01-26 20:19:11 | 講演・講義・フォーラム等
 フォトジャーナリストの安田菜津紀氏は、徹底してその眼差しを弱者に向け続ける人である。今、彼女の眼はパレスチナのガザ地区の住民に向けられています。ガザへの軍事侵攻で傷つくガザの人たちのことを淡々と話す安田さんのお話に耳を傾けました。

     

 昨日(1月25日)午後、新装なった北海道新聞本社に設けられた「道新DO-BOX EAST」において、札幌学院大学主催の学術講演会が参加しました。
 講演はフォトジャーナリストして活躍中の安田菜津紀さんを招聘し、「共に生きるとは何か ~難民の声、家族の歴史から考えた多様性~」と題する講演を拝聴しました。
 
 「道新DO-BOX EAST」には初めて入りましたが、以前の旧社屋に設けられていた「道新DO-BOX」と比べると、広さが倍近くとなり、横に広がった室内にはスクリーンが3枚掲げられていて、講演などにおいて受講者が内容を把握しやすくなるよう配慮がなされたようです。

 安田さんは講演の冒頭に、フォトジャーナリストらしく一枚の写真を提示しました。(下のような写真です)その写真はガザ地区の海岸、地中海に浮かぶ一艘の船に乗ったパレスチナ人の姿です。
 安田さんは言います。「この船に乗った人たちは遠くまで行くことができません。イスラエルが壁を作っているため、ガザの人たちは遠くへ出かけて漁をすることもできないのです」と…。
 つまりガザ地区の人たちは海からも隔離され、陸上にも頑強な壁が立ちはだかる中で、東京都の約6割の面積の中に約222万人の人たちが押し込められて生活しているというのです。

    

 安田さんはそのガザ地区に入り、ガザで暮らす人たちと交流を図り、彼らの困窮した生活ぶりをレポートします。
 また、以前にはシリアを訪れ、アサド政権が支配していた時代に反政府側であるために大変な生活を強いられた人々とも交流を持ったということです。

 ただ、安田さんの口からは、イスラエルのことも、アサド政権への批判も一切聞かれませんでした。彼女の眼差しはただ、ただ紛争地域で困窮する人々の姿に向けられているのです。
 だから彼女の眼は、紛争から逃れて日本まで逃げのびてきた人たちにも向けられます。2021年に日本で難民認定された数はわずか74人だそうです。一方、カナダは実に33,801人だというのです。この差を彼女は嘆きます。

 彼女が世の中の弱者に眼差しを注ぐようになったのは、彼女のルーツも関わっているのかもしれません。彼女が高校生の時に、パスポートを作ることになって戸籍謄本を取り寄せた際に、父親が在日二世だったことを知ったそうです。
 そのことで、彼女はきっと人種差別的な辛いこともたくさん体験したのではないかと想像されます。しかし、彼女はそのことについては一切口にしませんでした。
 代わりに関西にある韓国籍のお祖母さんたち(オモニ)が集う「ふれあい館」を取材した様子を話され、「身近な差別は大きな暴力である」と最後に訴えました。

    

 再三記してきましたが、安田さんはけっして政治的な発言はされませんでした。彼女はただただ、世界の中には紛争などによって犠牲となっている市民がいかに多いか、差別によって傷ついている人たちいかに多いかを訴えているのだと思います。
 その言説は時には煙たく思われ、反論されるようなこともあると思われますが、彼女はそうしたことを柔らかく受け止め、笑って「悲惨な思いをしている人たちを救いましょうよ」と呼びかけるのではないでしょうか?

 会場には札幌学院大学の学生たちもたくさん聴講していたようです。彼らは安田さんの言葉をどのように受け止めたのか気になるところです。 
 安田さんが最後に発した「身近な差別は大きな暴力である」という言葉を重く受け止めたいと思います。