鎌田浩氏の論考「近世武士相續法の特色ー熊本藩を中心としてー」をプリントアウトして読んでいる。
私は細川家に限定はするものの、いわゆる馬乗り衆と言われる家格の代々の相続を見てきたが、上記論考は大原則論であり実際はなかなかそうはいかない現実的な相続が行われていることを実感する。
数代にわたり女子に男系血族ではない聟養子を迎え入れている事例など数多くある。
嫡孫相続・弟への継続・血族男子を養子とする継続などは、筋目優先の原則からするとまだ驚くものではないが、私が発見したS家の場合の事例は専門家も驚くようなものであった。
S氏との出会いはS氏が熊本史談会に入会されてからの事である。10年以上にわたり書道家のお姉さんの協力を得ながら、先祖附の読み下しを行い、遠祖については出身地などを訪ね、豊前の知行地や肥後に於ける任地・知行地やお寺等を訪ね諸資料を交えて立派な冊子を作られていた。
そんな時期に出合ったのだが、私の調査で新しい事実が次々に出てきたので追加記載が度々となり、完成とはならずに来た。そんな中で順当に相続が為されてきた中、6代目は5代目の従兄弟の子(従甥=6親等)が跡目相続しており、3代目の弟が分家しその3代目が一領一疋の身分であったというものだ。
この先祖附の記述に疑問を持った私はいろんな資料をひっくり返して、その裏づけを花岡興輝氏著「領国支配の構造」にしっかり紹介されているのを見つけ出した。某地区の地侍となっており系図が示されていた。
つまりこの相続は、従兄弟の子という一族の者ではあるが、「徒格」の身分から「士分」の家を継いだ訳である。
S氏はこれ等の資料を携えて、ある方にその旨を伝えた処、こういう事例がある事に「例外的だ」と大変驚かれたと報告を受けた。これ等の結果を書き加えられて「S家累代の歴史」という一冊に仕上げられたが完成は一年ほど伸びた。
あとがきには過分の御紹介をいただいたうえ、見事に作り上げられたその冊子をご恵贈いただいた。
ただ、この「異例中の異例とも思われる相続」が、どの様な経過を以てどう決済されて成立を見たのかは査として知れず、未だ闇の中である。