すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

参冊参校参稽(八)

2023年03月02日 | 読書
 2月下旬に読了したのは次の三冊。ますます娯楽的だがメモを残すことは悪くない。


『本の読み方 スローリーディングの実践』(平野啓一郎 PHP新書)

 この新書は再読。もう書棚にはないはずなので古本屋でまた買い求めた。4年前にここに感想メモを残している。最近、ますます読み方が雑になっている気がするが、再読自体はスローリーディングと言っていいし、その意味では教えを守っている(笑)か。「とにかく、大切なのは、立ち止まって、『どうして?』と考えてみることだ」…この一節は芯の一つ。読者の立場からいうと、そうならざるを得ない本との出逢いを求めているのだが…。それは受動的と言えるかもしれない。価値あるものを見逃さないためにゆっくり歩く習慣こそ肝要、と書いてしまうと生活全般に通ずると合点する。





『矜持 警察小説傑作集』(今野敏、佐々木譲、他  PHP文芸文庫)

 小説であってもふだんは筋を追う読み方をしてしまう自分。そうなれば警察モノが合うのは当然だ。かと言ってあまり多く読んでいるわけではなく、「隠蔽捜査シリーズ」以外はこうしたアンソロジーに手を出す程度だ。上掲の新書の学びを生かすとすれば、このジャンルの魅力の一端は、主人公や登場人物のキャラが立ちやすいこと。それは警察組織という背景が明快であり内部格差が大きいからだ。典型的な上意下達の存在、建前と本音がせめぎ合うなかで、事件等の解決に奮闘する人物が描かれる。そこに放たれる個性は多種だが、それほど複雑な要素がなく、わかりやすく人生を見せてくれるというところか。



『本が紡いだ五つの奇跡』(森沢明夫  講談社)

 初めて読む作家。五章仕立てで人物をつなぐ構成だ。始まりから妙に読みやすく、するするっと入ってくる。少し物足りないほどにスムーズ。ありがちと言えばそれまでだが、ハートウォーミング的な話とはさりげなさが下地になるだろう。台詞づくりの巧者かもしれないと感じた。キーとなって人物たちの心を動かす「小説」の中の一節「人生は雨宿りをする場所じゃない。・・・・」はもちろん、これなんかもいい。「人生の選択肢には正解なんてないけど、でも、いつか、その選択が正解だったって、胸を張って生きること。そういう生き方こそが、きっと正解なんだってさ」。映像化されやすい雰囲気が伝わる。