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参参参(十)諦念とはつまり

2023年03月12日 | 読書
 何かを選択していくことは、何かを諦念することだと…今さら嚙みしめる。


『諦念後 男の老後の大問題』(小田嶋隆  亜紀書房)

 「定年」を冠した書籍はあふれるほどだが、「諦念」と掛けた著者のセンスは流石としか言いようがない。コラムニストのモットーとしてきた「取材をしない・文献を読まない」という原則を捨てて、自身の老化の現実と、世に蔓延る様々な啓発的な物事(そば打ちやら終活やら)の実際を付き合わせてみて、類まれな文章力で綴ったこの著は実に面白かった。説得力が半端ではない。例えばSNS、「居心地の良い匿名の地獄を選ぶのか。それとも本当の名前で美しいことだけを申し述べる窮屈な天国を選ぶのか」…諦念とは、つまりこのふたつにひとつの選択肢しかないと知ることだ。






『仕事。』(川村元気  文春文庫)

 「仕事に丸をつけて肯定し、人生を楽しくするために働く。それが『仕事。』だ」書名に込められたテーマをもとに、山田洋次、沢木耕太郎といった、いわばレジェンドと呼んでもいい12名との対談集。予習、復習というページがあり、インタビューによって教えを乞うという形と言ってもいいが、相手はみんなフランクだ。そして一つの共通項がある。それはおそらく、「予定調和」の世界を生きていないこと。それぞれの仕事への向き合い方は様々で、醒めた目で自分の過去を見つめている。「確実なのは過去だけである」という上掲の小田嶋の言葉も浮かぶ。いずれ、進行形のレジェンドたちの話は面白い。




『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』
  (堀内都喜子  ポプラ新書)

 書名の「仕事」と「仕事。」は同義ではない。しかし単純に収入を得る手段として割り切っていないフィンランド人の姿も見える。ここでは直接的にライフワークバランスに焦点をあてているものの、それは何を優先するかというライフスタイルのことだ。キーワードとして「ウェルビーイング」(心身ともに良好な状態にいること)が挙げられているが、それぞれのマイペースを尊重し保障する文化が根付いているからと言えよう。それは風土が育んだ以上に、地道に制度をつくり上げてきた成果だ。ここでどうしても注目してしまうのは教育だ。思い描く社会がまだ散漫なこの国では、道は遠いような…。