平成17年版厚生労働白書
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「
介護保険制度の現状」
近年の少子化とも相まって、我が国は、他国が経験したことのないスピード
で高齢化が進展している。
一般に、総人口に占める65歳以上人口の割合が「7%」を超えると「高齢化社会」、
「14%」を超えると「高齢社会」と呼ばれるが、この「高齢化社会」から「高齢社会」
への移行に要した時間を比較すると、フランスでは115年、ドイツでは40年、
スウェーデンでは85年、アメリカでは72年など、他の先進諸国がおおむね50~
100年程度の時間をかけて移行したのに対して、我が国は24年という他国に類を
見ないスピードで移行し、今後ともさらに高齢化が急速に進んでいくことが見込まれ
ている。
このように、他国に類を見ない急速な高齢化が進展する中で、介護保険制度が将来
にわたり国民の老後の安心を支え続けられるよう「制度の持続可能性」を確保して
いくとともに、2015(平成27)年、2025(平成37)年といった将来を見据え、
予想される課題に適切に対応できる制度へと転換を図るため、2003(平成15)年5月
より、社会保障審議会において介護保険制度の見直しに向けた検討を行ってきた。
こうした検討の結果を踏まえ、2005(平成17)年2月に、「介護保険法等の一部を
改正する法律案」を国会へ提出し、同年6月に可決、公布されたところである。
同改正法においては、2006(平成18)年4月の施行を基本とし、「痴呆」の用語の
見直しについては公布日施行、施設入所者の利用者負担の見直しについては2005年
10月施行、介護保険料の徴収方法の見直しについては2006年10月からの施行と
している。
今回の見直しにおいては、まず第1に、状態の維持・改善の可能性が高い軽度者に
対しては、従来のように重度者と同じサービスを提供するのではなく、より生活
機能の維持・改善に資するサービスを提供することとしている。
第2に、従来は、「要支援」又は「要介護」の状態になってから、介護保険制度の
対象とし、給付を行ってきたところであるが、今回の見直しにおいては、こうした
「要支援」・「要介護」状態になる前の段階から、状態の悪化防止のための事業を対象
とすることにより、要介護状態となる者をできる限り減らすこととしている。
こうした「要支援」・「要介護」状態になる前の段階から軽度者までの介護予防に
ついては、市町村を責任主体としたマネジメント体制の下、一貫して継続的に行って
いく。
このように、介護保険制度を「予防重視型のシステム」へと転換することにより、
今後の超高齢社会においても、一人一人の高齢者が、長い高齢期を可能な限り健康で
活き活きと過ごすことができることを目指していくこととしているところである。
介護保険制度では、在宅におけるサービス利用と、特別養護老人ホーム等の施設へ
の入所とを利用者が選択できることとなっているが、利用者自身が負担するコストを
見ると、在宅と施設との間で大きく異なっている。
こうした差異は、在宅の場合、家賃や食費を自身で負担しているのに対し、施設の
場合は、居住費や食費の一部においても保険給付がなされていることによるもの
である。
今回の見直しにおいては、こうした在宅と施設との間の利用者負担の不均衡を是正
する等の観点から、施設における居住費・食費について、保険給付の対象から外し、
在宅の場合と同様に、利用者の負担とするとともに、所得に応じた負担の上限額を設
け、低所得であっても施設の利用が困難にならないような仕組みを設けることとして
いる。
2015(平成27)年、2025(平成37)年といった将来には、環境の変化への適応が
難しい認知症高齢者や、子ども世帯と同居していない一人暮らしの高齢者が大きく
増加することが見込まれており、こうした高齢者を、長年住み慣れた「地域」で
支えていくことのできる社会を構築していく必要がある。
今回の見直しにおいては、都道府県知事が指定等の権限を有する従来の介護保険
サービスに加え、住民に身近な市町村で提供されるべき新たなサービス類型として
「地域密着型サービス」を創設することとしている。
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「
若者自立・挑戦プラン」の推進
若者については、近年、フリーターや、働いておらず、教育も訓練も受けていない
いわゆるニートと呼ばれる若年無業者が増加している。こうした状況が続くことは、
若者本人にとっても社会にとっても大きな損失となることから、2003(平成15)年
6月に策定された「若者自立・挑戦プラン」に基づき、若年失業者等の増加傾向を
転換させるべく積極的に取り組んでいるところである。
若者のフリーター化・無業化を防止しつつ、企業の求人内容の高度化のニーズに
対応した実践的な能力を習得するため、企業実習と一体となった教育訓練を行うこと
により一人前の職業人を育成する日本版デュアルシステムの導入を推進している
ところである。
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「
企業ニーズ等に対応した職業能力開発の推進」
近年の技術革新の進展、産業構造の変化、労働者の就業意識の多様化等に伴う労働
移動の増加、職業能力のミスマッチの拡大等に的確に対応し、雇用のミスマッチを
解消するため、今後は、職業能力開発行政の重点として、労働者の職業生活設計に
即した自発的な職業能力開発(キャリア形成)を促進するとともに、これに資する
職業能力評価制度を整備することが必要となっている。
このため、現在、第7次職業能力開発基本計画に基づき、労働力需給調整機能の
整備のほか、企業ニーズ等に対応した職業能力開発及びキャリア形成支援のための
条件整備を推進しているところである。
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「
労働者の健康確保対策」
我が国の労働者の健康を取り巻く状況を見ると、依然として、じん肺、有機溶剤
中毒等の職業性疾病は後を絶たず、今なお、年間7,500人を超える労働者が罹患
している。
また、一般定期健康診断の結果、何らかの所見を有する労働者が年々増加する傾向に
あり、仕事や職場生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者は6割を
超え、過重労働による健康障害や精神障害に係る労災認定件数も高い水準で推移
している。
このような状況に対応するため、過重労働対策やメンタルヘルス対策を含め職業性
疾病予防対策の一層の推進を図るとともに、職場における労働者の健康確保対策を推
進していくことが重要である
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「
労災保険法及び労働保険徴収法の改正」
就業形態の多様化が進展する中で、複数就業者や単身赴任者が増加してきて
いることを受け、労災保険の通勤災害保護制度の対象となる通勤の範囲について、
現行の住居と就業の場所との間の往復に加え、
1. 複数就業者の事業場間の移動、
2. 単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居との間の移動を新たに追加すること
を内容とする労災保険法の改正案を、
また、近年の災害の減少を踏まえ、メリット制(労災保険においては、個々の
事業場の災害発生率に応じて保険料額を調整する仕組み)について、有期事業
の調整幅(±35%)を継続事業と同じ±40%とすることを内容とする労働保険
徴収法の改正案を、
「労働安全衛生法等の一部を改正する法律案」として第162回通常国会に提出
したところである。
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「
労使関係について」
我が国の労働組合は、企業別労働組合を基本に組織されており、政策・制度面を
始め、企業別組織では対応できない課題に取り組むため、これらが集まって産業別
組織を形成し、これらの産業別組織が、全国中央組織を形成している。
「平成16年労働組合基礎調査報告」によると、我が国の労働組合員数は約1,031
万人と10年連続で減少しており、推定組織率も19.2%と、低下傾向が続いている
(2004年6月現在)。
労働委員会は、使用者委員、労働者委員及び公益委員の3者構成の独立行政委員会
で、中央労働委員会及び各都道府県ごとに都道府県労働委員会が設置され、団体交渉
の拒否などの不当労働行為事件について審査を行うとともに、労働争議のあっせん、
調停及び仲裁を行っている。
今日、不当労働行為審査制度については、労働委員会における審査が著しく長期化
していること、労働委員会の命令に対する裁判所による取消率が高いこと等により、
労使間の対等な交渉を可能とするための基盤を確保するという制度本来の趣旨が十分
に実現できていない状況にある。
このため、2004(平成16)年3月に、労働委員会における審査の手続及び体制の整
備等を内容とする「労働組合法の一部を改正する法律案」を第159回国会に提出し、
同年11月に成立し、2005(平成17)年1月に施行されたところである。
今後、労働委員会においては、計画的な審査の進行や迅速・的確な事実認定を図る
ほか、中央労働委員会が都道府県労働委員会の事務局職員等に対し実務研修を行う
こと等により、新たな審査の手続及び体制の下で、迅速・的確に審査を行うことが
求められるところである。
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「
持続可能な医療保険制度の確立」
我が国の医療制度は、すべての国民が健康保険や国民健康保険といった公的な医療
保険制度に加入し、いつでも必要な医療を受けることができる国民皆保険制度を採用
している。
こうした仕組みは、経済成長に伴う生活環境や栄養水準の向上などとも相まって、
世界最高水準の平均寿命や高い保健医療水準を実現する上で大きく貢献し、今日、
我が国の医療制度は、国際的にも高い評価を受けている。
その一方で、医療制度を取り巻く環境は現在大きく変化している。まず、世界的に
も例を見ない急速な高齢化が進展し、医療費が年々増大しているが、医療費を賄う
主たる財源である保険料は伸び悩んでおり、医療保険財政は厳しい状況にある。
医療保険財政の現状については、各制度ともに厳しい状況が続いている。具体的に
は、2003(平成15)年度の決算見込みが健康保険組合の財政状況については
約1,390億円と、2003年度に総報酬制の導入や3割負担の導入等で収支は改善
したが、厳しい状況となっている。
2003年度の政府管掌健康保険の単年度収支については、約700億円と収支は改善
しているが、2005(平成17)年度概算要求時点の基礎係数等をベースにした試算を
みると、今の保険料のままで、制度改正等による医療費適正化の措置が講じられ
なければ、2008(平成20)年度には中期的な積立金に相当する事業運営安定資金が
枯渇する見通しになっている。
市町村が運営している国民健康保険の財政状況については、厳しい経済状況、就業
構造の変化、高齢者や低所得者の増加等により2003年度(見込み)は約3,520億円
の経常赤字となっている。
医療保険制度改革を進めるにあたっては、基本的な考え方として
・医療の地域特性を踏まえた医療費適正化の取組みの推進
・地域の医療費水準に見合った保険料の設定
・保険財政運営の安定化、
といった観点に立った下に都道府県単位を軸とした保険者の再編・統合を進めて
いくこととしている。こうした改革の第一歩として、国民健康保険の改革を行い、
都道府県への財政調整権限の移譲と給付費に対する都道府県負担の導入をする
こととした。
高齢者医療制度については、世代間・保険者間の保険料負担の公平化及び制度
運営に責任を有する主体の明確化を図って、75歳以上の後期高齢者と65歳以上
75歳未満の前期高齢者のそれぞれの特性に応じた新たな制度とすることを基本的な
方向としている。
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「
障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」
障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会
の理念が浸透しつつある中、障害者の社会参加が進展し、障害者の就業に対する意欲
が高まってきており、障害者の就業機会の拡大による職業的自立を図ることが必要と
なっている。
平成17年2月、
「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案」を第162回国会に
提出し、同年6月可決・公布されたところである。
同法律案の主な内容は次のとおりである。
・ 精神障害者に係る対策を充実強化するため、雇用されている精神障害者につい
て、障害者雇用率制度上、身体障害者又は知的障害者を雇用しているものとみなす
とともに、障害者雇用納付金等の額の算定対象に加える。
・ 自宅等において就業する障害者の就業機会の確保等を支援するため、これらの
障害者に直接、又は厚生労働大臣の登録を受けた法人を介して業務を発注した事
業主に対して、障害者雇用納付金制度において、特例調整金・特例報奨金の支給
を行う。
・ 国及び地方公共団体は、障害者福祉施策との有機的な連携を図りつつ障害者
雇用促進施策を推進するよう努めることとする。
障害者の雇用状況については、新規求職申込件数が前年に比べて増加するなど障害
者の就業に対するニーズが高まるなか、法定雇用率1.8%が適用される一般民間企業に
雇用されている障害者数が、257,939人と前年に比べて4.4%増加したほか、就職件数
が増加し解雇者数が減少するなど明るい動きが見られる。
一方で、民間企業の実雇用率は1.46%にとどまり、法定雇用率未達成企業の割合も
半数を超えているなど依然として厳しさも残っている。
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「
低所得者や災害の被災者に対する支援」
近年、ホームレスの急増や、生活保護受給者の急激な増加及び高齢化など、低所得者
に対する支援の必要性は高まっている。
生活保護制度は、利用し得る資産、稼働能力、他法他施策などを活用してもなお最低
限度の生活を維持できない者に対し、その困窮の程度に応じて保護を行い、最低限度
の生活を保障するとともに、その自立の助長を目的とする制度である。
近年は、長引く経済雇用情勢の低迷、高齢化の進展などの影響を受けて、1995年
(平成7)年度を底として、生活保護受給者数、生活保護受給率共に急激に増加して
おり、2003(平成15)年度は、生活保護受給者数が約134万人、人口千人当たりの
生活保護受給者数が10.5人、生活保護受給世帯数は過去最高の約94万世帯となって
いる。
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以上、一部抜粋です。
読んでみると、わかると思いますが、読んだことあるというか、見覚えがあるというか
多くは既に見ている内容ですよね。
それでは、試験まで残り30日ですが、がんばってください。