コンピューターに向かって書き物をしていると、後ろから話かけられました。振り向くと、見知らぬ人が同僚と一緒に立っていました。紹介されて、その見知らぬ人が、私と同じマウスを作ってしばらく前に某分子生物学雑誌に論文を発表した人だということがわかりました。オーバーラップする分野にいながら、所属学会も違うので、名前は知っていてもお互いに直接会ったことはありませんでした。相手は私の数年前の仕事は知っていたようですが、今回、同じマウスを作ったことは知らないようでした。私もまだ投稿前ですし、彼らの論文の一部と合致しないデータを持っていますので、そのマウスのことには触れず、にこやかに当たりさわりのない話をして、最後には一緒に写真まで撮って別れました。実は、私と共同研究をしているグループが全く別のネタで、彼のグループとどうも競争状態にもあるようです。私も少しかかわっているので、ダブルで彼とは利害関係があることになります。研究の世界は狭い世界なので、プロレスとか政治のように、お互いに仲間であると同時にライバルや敵であったりもするわけですね。同じネタで競合するというのは、同じ人間、思いつくことは皆同じということなのでしょう。最近作った別のマウスもその世界の大御所に似たようなマウスをつい最近発表されてしまい、また苦しみそうです。金も力もない凡人の私が、誰もが考えつくことをやっていては勝ち目はないなあ、とつくづくと思いました。
引き受けたグラント審査をぼちぼち、やりはじめました。4つのうちの一つは患者サンプルを使ってのマイクロアレイによる発現解析、二つ目はtandem MSを使っての蛋白の包括的定量解析をプロポーズしています。三つ目はゼブラフィッシュ胎児を使っての大規模薬剤スクリーニングです。こういうのはグラントとしてはまずダメです。しっかりしたネタがないので、とにかくデータが出て「何かが当たるかもしれない」実験を申請するわけです。大量にデータがでれば何か当たるだろうという考えの人は、当たらなかったらどうするか、というようなことは大抵考えてないものです。この手の実験をグラントに出してはいけないというわけではないのですが、出す場合は「やれば必ず価値のある解釈可能なデータが出る」という根拠を示した上で、それでも外れたらどうするかについて説得力のある説明を加えないといけません 。データは解釈できなければタダのゴミです。これら三つのグラントには、予想通りその辺のことは何も書いてなくて、やったら新しい発見ができて疾病の治療に貢献するはずだ、というような都合のよいシナリオが書いてあるだけです。実際はやっても何も発見できず、手ぶらに終わる場合が9割以上でしょう。これでは、「宝くじをいっぱい買えば、大当たりを引いてお金持ちになって、世界一周旅行に行ける」と言っているのと大差ありません。宝くじをグラントで買おうとしてはいけません。
そして、問題は残りの一本のグラントで、繰り返し読んでみても、何がプロジェクトのゴールなのか、そのためにどういう実験をするのか、そのゴールが達成されたらどういう結論が得られるのか、その結論はどう有意義なのか、という最もグラントにおいて重要な点がさっぱりわかりません。そのわかりにくい文章を解読すると、どうも計画の半分は過去の知見を単純に追試するだけのようで、あとの半分は、やはり仮説なしの「当てもん」実験をやりたいようです。これでは「ハシにも棒にも」のレベルです。しかし、コメントを書かねばなりませんから、とりあえず、何が言いたいのかわからない文章を理解しようと、貴重な朝夕の通勤時間を費やしているうちに、だんだん腹が立ってきました。私だって9月の小さなグラントもあるし、何より自分の実験や論文のことで忙しいのに、と怒りが涌いてきました。しかし、私の論文やグラントを見てくれた人も、同じように腹を立てたこともあったに違いないと思い直しました。お互いさまですから謙虚に誠実に勤めます。
それにしても、「英語だとストレートに表現する」とか言っていたどこかの社長がいましたが、それはウソです。このグラントは英語版ハナモゲラ語に近いと思います。ちなみに、「ハシにも棒にもかからない」は、英語ではどう言うのかなと思って調べたら、「hopeless」と出ました。これではちょっと身もふたもないなと思ったので、「身もふたもない」を調べてみたら、「brutally honest」とありました。身もふたもない訳です。
人生の時間は限られているのだから、「これは、面白い」とうならされるようなグラントや論文を読みたいものです。
引き受けたグラント審査をぼちぼち、やりはじめました。4つのうちの一つは患者サンプルを使ってのマイクロアレイによる発現解析、二つ目はtandem MSを使っての蛋白の包括的定量解析をプロポーズしています。三つ目はゼブラフィッシュ胎児を使っての大規模薬剤スクリーニングです。こういうのはグラントとしてはまずダメです。しっかりしたネタがないので、とにかくデータが出て「何かが当たるかもしれない」実験を申請するわけです。大量にデータがでれば何か当たるだろうという考えの人は、当たらなかったらどうするか、というようなことは大抵考えてないものです。この手の実験をグラントに出してはいけないというわけではないのですが、出す場合は「やれば必ず価値のある解釈可能なデータが出る」という根拠を示した上で、それでも外れたらどうするかについて説得力のある説明を加えないといけません 。データは解釈できなければタダのゴミです。これら三つのグラントには、予想通りその辺のことは何も書いてなくて、やったら新しい発見ができて疾病の治療に貢献するはずだ、というような都合のよいシナリオが書いてあるだけです。実際はやっても何も発見できず、手ぶらに終わる場合が9割以上でしょう。これでは、「宝くじをいっぱい買えば、大当たりを引いてお金持ちになって、世界一周旅行に行ける」と言っているのと大差ありません。宝くじをグラントで買おうとしてはいけません。
そして、問題は残りの一本のグラントで、繰り返し読んでみても、何がプロジェクトのゴールなのか、そのためにどういう実験をするのか、そのゴールが達成されたらどういう結論が得られるのか、その結論はどう有意義なのか、という最もグラントにおいて重要な点がさっぱりわかりません。そのわかりにくい文章を解読すると、どうも計画の半分は過去の知見を単純に追試するだけのようで、あとの半分は、やはり仮説なしの「当てもん」実験をやりたいようです。これでは「ハシにも棒にも」のレベルです。しかし、コメントを書かねばなりませんから、とりあえず、何が言いたいのかわからない文章を理解しようと、貴重な朝夕の通勤時間を費やしているうちに、だんだん腹が立ってきました。私だって9月の小さなグラントもあるし、何より自分の実験や論文のことで忙しいのに、と怒りが涌いてきました。しかし、私の論文やグラントを見てくれた人も、同じように腹を立てたこともあったに違いないと思い直しました。お互いさまですから謙虚に誠実に勤めます。
それにしても、「英語だとストレートに表現する」とか言っていたどこかの社長がいましたが、それはウソです。このグラントは英語版ハナモゲラ語に近いと思います。ちなみに、「ハシにも棒にもかからない」は、英語ではどう言うのかなと思って調べたら、「hopeless」と出ました。これではちょっと身もふたもないなと思ったので、「身もふたもない」を調べてみたら、「brutally honest」とありました。身もふたもない訳です。
人生の時間は限られているのだから、「これは、面白い」とうならされるようなグラントや論文を読みたいものです。