しばらく前、柳田先生のブログで酵母のSir2の長寿効果に関する反駁論文の話が取り上げられていました。私も、そのNature論文が出た時に少し感想を書きました。それで、ふと思い出したのが、老化に関心を持っていたかつての同僚が、10年以上も前に「酵母での老化の話はウソらしい」という話をしていたことでした。どうして今まで思い出さなかったのか不思議です。どうも当の研究室内部の人か実験を追試した人から間接的に聞いた話だったようで、データが再現できないというようなことを言っていたような気がします。当時、私は老化にも酵母遺伝学にも興味が無かったので、聞き流していて、その後すっかり忘れていました。この話が本当だとすると、Sir2の論文が怪しいというウワサはずっと前からあって、それが表面化して正されるのに10年以上もかかったということになります。私の分野にも怪しいデータを一流ジャーナルに連発する人がいます。さすがに複数の人がデータに再現性がないことを問題にしだし、しばらく前のNatureのゴシップ欄でも取り上げられていました。つい数ヶ月前、反駁論文も一流紙に出ました。さすがに最近は多少居心地悪そうにしているようです。これらの人はおそらく自分で手を動かして実験していないでしょうから、データの信頼性を肌で感じ取ることができないのだろうと思います。日本の検察ではないですが、下から上がってくるデータのうち、都合の良いのだけを選んで話を作り上げているのではないでしょうか。話ができてくると、イワシの頭も何とやら、自分でも妄想と現実の区別がつかなくなって、自分のついたウソを信じ込んでしまうのではないでしょうか。そうでなければそのデータをネタに会社まで作らないでしょう。
ところで、ウワサでは、日本では、国相手の裁判では、裁判官が国に都合の悪い判決を出すとその裁判官は出世できないのだそうです。一ランク出世すると年に400万円収入が上がるという話で、だから国に都合の悪い判決は滅多にでないのだという話です。研究でも、実際に実験をしているポスドクにも似たような心理があるでしょう。ポスドクもポジティブデータを得てインパクトの高い論文を出すことに将来がかかっているわけで、実験データの解釈などにバイアスがかかることもあるでしょう。PIも同様に論文にグラントや出世がかかっているわけですから、同様のインセンティブが働くでしょう。特に自分で手を動かさないPIだと、ポスドクレベルでのバイアスがかかっているかも知れないデータに更にバイアスをかけてしまう場合もあるでしょうし、場合によってはポスドクに積極的にプレッシャーをかけて欲しいデータを出させようとするPIもいるであろうことは想像に難くありません。
今年を振り返ると、Sir2ほどのインパクトはないものの、慢性疲労症候群(CFS)の原因がXMRVというウイルスだと報告した人のスキャンダルもありました。XMRVの「発見」はCFSの患者や研究者に大ブレークスルーと持ち上げらてたものの、ほどなく「XMRVは実験室レベルで進化したマウスウイルスの試料へのコンタミに過ぎず、CFSの原因とは考えられない」という結末に落ち着いて、この著者の人の転落は始まったようです。今では、実験ノートや材料を無断で持ち出したとして、解雇された前の施設から告訴されているという話も聞きました。あと、今年始め「ヒ素細菌」で世間を騒がせたNASAの研究者の人はどうなったのでしょうか?Scienceへの論文発表後、あらゆる方面からバッシングを受けて、確か職を変ったという話を聞いたような覚えがあります。
この手の下世話な話はやめましょう。ただ、教訓としては、ウソはいずればれ、誤りはいつか明らかになるということ、しかしそれには通常、随分長い時間がかかり、その間、騙されて時間や労力を浪費する被害者がいるということでしょうか。
昔の友人は、よく言っていました、「信じるものはハメられる」と。科学は方法的懐疑がその精神の根底ですから、ハイインパクト論文はとりあえず疑ってかかるのがスジですね。というよりは、Due Deligenceをしっかりするということでしょうか。この世界では、信じて騙されても誰も責任をとってくれないのも事実です。「騙される方がバカ」というわけです。騙されないためには、知識を持ち、自分の頭で考え、判断できる能力を養うことが必要です。
新聞とかマスコミにも言えますね。新聞は言うべき事の半分以上は言わず、言うべきでないウソを平気で書き立てますから、要注意です。新聞やマスコミついでにドジョウや政府や役人の言うことに騙されるのは、いまや騙される方が悪いと考えねばならない世の中です。他人や政府を信じられないこのような社会は極めて非効率的です。しかし、ここまで日本の社会が崩れてしまっては、仕方ありません。すでに弱肉強食の市場原理社会で、ごく一般の人間にとっても自分の身を自分で守れなければ喰われてしまう世の中になってきました。加えて政府や企業のウソにウソを塗り固めるやりかたが白日の元に晒されました。まさに信じるものは騙される世の中です。たまたまチラッと見た一般アメリカ人向けのインタビューでTIME氏の編集長代理の人が今年を振り返り、日本の地震について、「日本という国は極めて効率のよい国だったが、今回の原発事故で、杜撰な管理や隠蔽体質が露になった」というようなコメントをしていました。アメリカから遠巻きに見ている人間でさえ、日本政府や東電がウソを繰り返し、正しい情報を隠蔽し、鼻からみそ汁が吹き出すような「原発事故収束宣言」をしているのを見て、余りのデタラメさにあきれかえっているということです。今や世界の中の誰が、ドジョウや日本政府を信じますか?中国政府の方がやり方が露骨なだけまだマシでしょう。今、残っている希望は、来年そうそうドジョウの行き詰まりをみて、小沢新党が立ち上がり、受けてドジョウはヤケにやって解散総選挙となって民主党壊滅、そして小沢新党中心に連合与党を形成して新政権が発足する場合でしょうか。しかし、官僚どもがしつこく小沢裁判を引っぱるようであれば、本当に市民革命が必要なのかも知れません。モスクワでは反プーチン市民が12万人のデモを繰り広げました。エジプトではムバラク退陣後、早速反軍事政権デモがおこっているようです。ガダフィ後のリビアもそろそろ危ないでしょう。財政破綻している地中海三国、イタリア、スペイン、ギリシャも爆発寸前となっています。世界中がキナ臭くなってきました。日本も間もなく戦国時代に入ります。自分の身を自分で守るための少なくとも心の準備は必要でしょう。