最近新たにアナウンスされたグラント募集を見つけ、来年の夏ぐらいを目処に応募したいと研究アイデアを考えています。グラントのテーマは私の分野とつながりがありますし、対象となっている加齢性疾患は極めて多いのに十分な治療法がないので、以前から多少興味は持っていました。基礎研究が進まない理由は、主には加齢性疾患であるために、よいマウスモデルがないこと(マウスでは疾患発症前に死んでしまうので)と、関連論文を見ていて思うことは、実験モデルのアセスメントが組織検査での主観的なスコアに頼っているという点ではないか、と考えています。私はその疾患に直接関係した研究はやっていませんので、その疾患そのものの研究を中心にするよりは、研究遂行の障害となっている技術的問題の解決に役立つような研究を主体にプロポーズしたらどうかと思っているところです。
昔、ゴールドラッシュの時に、一番儲けたのは金鉱を掘るためのツルハシやショベルなどの道具を売っていた会社だというような話がありましたが、私のアイデアもそれに近いようなものです。生命科学研究では、道具を開発するという仕事は余り評価されません。モノや方法を開発するよりも、何か生物学的に意義のある新たな発見するすることの方がはるかに価値が高いです。しかし、iPhoneもiPadも持っていない私でも、研究に関する新しいテクノロジーの話は大好きです。
昔、利根川さんが免疫細胞のDNAのsomatic recombinationを証明したときは、southern blotというDNA解析技術がなかったので、放射標識したプローブを制限酵素切断したゲノムDNAと液相で結合させた後、巨大なゲルで分離して、ゲルフラクションをシンチレーションカウンターでカウントした、という話を聞きました。southern blotの技術があれば、もっと簡単に、もっと早く、少ない資料で、より奇麗なデータが出たはずです。そう考えれば、単なる技術的な進歩に過ぎないsouthern blotが生命科学分野に与えた影響は測り知れません。PCR、RNAi、MALDI、ノックアウトなどなどノーベル賞になった技術的開発も無いわけではありませんが、研究技術がなければ研究そのものが成り立たないわけですから、もっと技術的開発の仕事も評価されて然るべきだと私は思っています。
技術開発と言えば、週末、京大がiPS細胞を使って血小板を作る技術を開発したというニュースがありました。これはかなり実用に近いのではないかと思います。化学療法などに伴う血小板減少はしばしばやっかいです。臨床で使われている血小板増加因子はITPなどの特殊な疾患に限られていますし、輸血用の血小板は高価な上、保存もききません。度重なる血小板輸血で血小板抗体ができてしまって、血小板輸血が無効になることも多く、昔は血小板抗体ができるのをできるだけ防ぐために、血小板輸血が必要になるとあらかじめ分かっている人には、特定のドナーの人からだけ血小板を分離して使うという負担の大きいことをしていました。血小板ならばiPS由来細胞を直接移植するわけではないので、移植細胞の癌化などの問題も少ないでしょう。iPS細胞バンクは、HLAタイピングを施して、各種のHLA型をあらかじめ決定した細胞を取り揃えて、臨床応用を目指そうとしているようですが、この血小板作成技術が進めば、iPS細胞バンクを利用して、患者さんに適合したHLA型をもつ血小板をタイムリーに安定供給することが可能になるかも知れません。この技術が確立して、iPSが臨床応用などで実際に大きく役立てばノーベル賞の可能性が近づくと思います。