来週の論文紹介でテクノロジー論文を読むことにしました。
生命科学分野に限りませんが、テクノロジーの進歩と衰退の早さは驚くべきものがあります。私が学生時代には、ルーチンだった分子生物学実験の基本的な技術は既に新しいものにおきかわってきています。学生のころは、ノーザンもサザンもシークエンスもあれほど嫌というほどやったのに、PCRの進化で、この十年、ほとんどやった覚えがありません。制限酵素の組み合わせを工夫して複雑なコンストラクトを組むのは私の得意技でしたが、いまやGolden gate やGibson cloning で、複雑なコンストラクトでもあまり頭を使う必要もなくなりました。中でもシークエンシング技術の進化は大きく、ゲノムワイドでの遺伝子変異解析、遺伝子発現解析などといったマイクロアレイでなされていたことが、シークエンシングで行えるようになったほか、日常レベルのちょっとした実験にもこの技術が使われ始めています。先日は約10 kbのプラスミドのシークエンシングをdeep sequencingで行いました。bar codeをつけてmultiplex化することで、一つあたりのシークエンスのコストを下げています。プライマーも要りません。全長があっという間に読めます。最近、汎用化されてきたCrispr/Casなどによる遺伝子編集の解析もdeep sequencing なら大変効率的にできます。
その論文紹介で読もうとしいる論文は、Single cell transcriptome解析を大量に行う技術の開発についてで、非常によく似た技術を開発した別グループの論文と一緒に発表されています。後で偶然知ったのですが、筆頭著者は知り合いの知り合いでした。この二つのグループは地理的にも近く、非常によく似た技術と手法で研究を進めているので、てっきり最初から共同的にやってきたのだろうと想像していましたが、話を聞くと実はこの二つのグループは全く独自で技術開発しており、投稿直前まで競合者がいることを知らなかったそうです。これはmicroRNAの発見の複数論文もそうで、全く独自にやっていた研究がほぼ同時に発表に至りました。もう一方のグループは有名研究室ですが、本来、生物学研究室でテクノロジストではありません。にもかかわらず、ここまで技術開発にリソースを割いて、かつ成功させることができるというトップラボの底力には全く驚嘆しました。
Single cell transcriptomeの解析は、以前にも行われていますが、今回はそれを千、万というレベルの細胞数で行うために、いろいろな工夫が行われています。数が少ないと何でもないことでも、スケールアップすることはしばしば困難です。最大のブレークスルーは、各々の細胞を一つ一つ分離して正確に細胞特異的のバーコードをつけたcDNAライブラリーを効率よくつくる技術の開発です。その一つ一つのステップに細かい配慮と工夫がなされていて感動しました。その集大成がこの技術となっているわけです。
この技術はおそらく、いろいろな分野で非常に有用であろうと思われます。例えば、われわれの分野に多少関係するところでは、体組織に内在するStem cellの多様性というのが大きな問題となっていて、現在、いろいろなマーカーを使って試行錯誤的に個別に調べたりしているわけですが、そういった研究をもっと包括的に行うことが可能であろうと思います。
同時期にScienceには、多数のSingle cellでopen chromatin領域を同定するための技術開発の論文が出ていました。この論文でのSingle cellの分離はflow cytometryを使ったsingle cell sortingと比較的traditionalな方法を使っていて、そこには余り目新しさはないのですが、1000以上の細胞のゲノムを個別にbar codeしてopen chromatin領域を同定していくために、ATAC-seqを応用している所がナイスです。ATAC-seqはDNase-seqなどと異なり、Transposaseがopen chromatin領域にアクセスしやすいという性質を利用して、高活性型Transposaseにより外来性遺伝子をin vitroで挿入することでopen chromatin領域にタグをつけていく方法です。これによって、Bar-codeとPCR用配列をopen chromatin領域に挿入するというクールなアイデアです。
10年以上前にMassive parallel sequencingの技術が開発された時も、私は随分衝撃を受けましたが、今ではそれが汎用技術となり、今回はその技術を使ったSingle cell biologyへの応用がなされつつあります。生物学研究は技術開発ではないですが、しばしば技術の進化が生物学研究を押し進めてきました。数十年前の技術を使って実験している私は、このままでは気づいたら浦島太郎になっているかも知れません。
さて、政治社会面では、沖縄の翁長知事、DCで国務省役人や前共和党大統領候補のジョン マケインらと会談し、沖縄住人の強い反対があり、辺野古移設が非民主的に行われようとしていると訴えました。日本政府を飛び越えて宗主のアメリカ様に直訴、この知事の行動に対して日本政府の反応が聞こえてきません。翁長知事の主張に理があることを承知しているからでしょうか。
もう一つ、アベ政権の改憲にむけて審議中の安全保障関連法案に反対して、憲法学者ら171名の呼びかけ人と賛同者が廃案を求めて声明を発表というニュース。アベ政権の傍若無人のデタラメには天誅が下ると私は信じております。
生命科学分野に限りませんが、テクノロジーの進歩と衰退の早さは驚くべきものがあります。私が学生時代には、ルーチンだった分子生物学実験の基本的な技術は既に新しいものにおきかわってきています。学生のころは、ノーザンもサザンもシークエンスもあれほど嫌というほどやったのに、PCRの進化で、この十年、ほとんどやった覚えがありません。制限酵素の組み合わせを工夫して複雑なコンストラクトを組むのは私の得意技でしたが、いまやGolden gate やGibson cloning で、複雑なコンストラクトでもあまり頭を使う必要もなくなりました。中でもシークエンシング技術の進化は大きく、ゲノムワイドでの遺伝子変異解析、遺伝子発現解析などといったマイクロアレイでなされていたことが、シークエンシングで行えるようになったほか、日常レベルのちょっとした実験にもこの技術が使われ始めています。先日は約10 kbのプラスミドのシークエンシングをdeep sequencingで行いました。bar codeをつけてmultiplex化することで、一つあたりのシークエンスのコストを下げています。プライマーも要りません。全長があっという間に読めます。最近、汎用化されてきたCrispr/Casなどによる遺伝子編集の解析もdeep sequencing なら大変効率的にできます。
その論文紹介で読もうとしいる論文は、Single cell transcriptome解析を大量に行う技術の開発についてで、非常によく似た技術を開発した別グループの論文と一緒に発表されています。後で偶然知ったのですが、筆頭著者は知り合いの知り合いでした。この二つのグループは地理的にも近く、非常によく似た技術と手法で研究を進めているので、てっきり最初から共同的にやってきたのだろうと想像していましたが、話を聞くと実はこの二つのグループは全く独自で技術開発しており、投稿直前まで競合者がいることを知らなかったそうです。これはmicroRNAの発見の複数論文もそうで、全く独自にやっていた研究がほぼ同時に発表に至りました。もう一方のグループは有名研究室ですが、本来、生物学研究室でテクノロジストではありません。にもかかわらず、ここまで技術開発にリソースを割いて、かつ成功させることができるというトップラボの底力には全く驚嘆しました。
Single cell transcriptomeの解析は、以前にも行われていますが、今回はそれを千、万というレベルの細胞数で行うために、いろいろな工夫が行われています。数が少ないと何でもないことでも、スケールアップすることはしばしば困難です。最大のブレークスルーは、各々の細胞を一つ一つ分離して正確に細胞特異的のバーコードをつけたcDNAライブラリーを効率よくつくる技術の開発です。その一つ一つのステップに細かい配慮と工夫がなされていて感動しました。その集大成がこの技術となっているわけです。
この技術はおそらく、いろいろな分野で非常に有用であろうと思われます。例えば、われわれの分野に多少関係するところでは、体組織に内在するStem cellの多様性というのが大きな問題となっていて、現在、いろいろなマーカーを使って試行錯誤的に個別に調べたりしているわけですが、そういった研究をもっと包括的に行うことが可能であろうと思います。
同時期にScienceには、多数のSingle cellでopen chromatin領域を同定するための技術開発の論文が出ていました。この論文でのSingle cellの分離はflow cytometryを使ったsingle cell sortingと比較的traditionalな方法を使っていて、そこには余り目新しさはないのですが、1000以上の細胞のゲノムを個別にbar codeしてopen chromatin領域を同定していくために、ATAC-seqを応用している所がナイスです。ATAC-seqはDNase-seqなどと異なり、Transposaseがopen chromatin領域にアクセスしやすいという性質を利用して、高活性型Transposaseにより外来性遺伝子をin vitroで挿入することでopen chromatin領域にタグをつけていく方法です。これによって、Bar-codeとPCR用配列をopen chromatin領域に挿入するというクールなアイデアです。
10年以上前にMassive parallel sequencingの技術が開発された時も、私は随分衝撃を受けましたが、今ではそれが汎用技術となり、今回はその技術を使ったSingle cell biologyへの応用がなされつつあります。生物学研究は技術開発ではないですが、しばしば技術の進化が生物学研究を押し進めてきました。数十年前の技術を使って実験している私は、このままでは気づいたら浦島太郎になっているかも知れません。
さて、政治社会面では、沖縄の翁長知事、DCで国務省役人や前共和党大統領候補のジョン マケインらと会談し、沖縄住人の強い反対があり、辺野古移設が非民主的に行われようとしていると訴えました。日本政府を飛び越えて宗主のアメリカ様に直訴、この知事の行動に対して日本政府の反応が聞こえてきません。翁長知事の主張に理があることを承知しているからでしょうか。
もう一つ、アベ政権の改憲にむけて審議中の安全保障関連法案に反対して、憲法学者ら171名の呼びかけ人と賛同者が廃案を求めて声明を発表というニュース。アベ政権の傍若無人のデタラメには天誅が下ると私は信じております。