百醜千拙草

何とかやっています

フロントページ斜め読み

2018-02-16 | Weblog
去年の半ばから複数の論文のリバイスのための実験に多くの時間を取られて、ちょっと欲求不満が溜まっています。レビューアのコメントもややポイントがずれた高額の実験を要求していますが、「やらない」とはねつけるわけにもいかず、結局、あまり意味のない(と思う)実験をカネと時間をかけてやる羽目になっています。そのようなコメントが出るような論文を投稿したコチラが悪いのだ、自業自得なのだと言い聞かせながらやっています。ま、この一年半ほどの運気の谷間もそろそろも終わりのような気配はするのですが。

さて、サイエンスのフロントページ、斜め読み。

最近は論文のレビューのプロセスを公表する雑誌も増えてきましたが、まだまだレビューは匿名で行われることが多いと思います。ピアレビューですから、知っている人の論文をレビューすることも多いわけで、そこで実名で厳しいコメントを書いたりすると、研究者といえども人の子、感情の動物ですから、恨みを買うこともあり、後々、厄介なことにもなりかねません。「Judge orders unmasking of anonymous peer reviewers」という記事では、あるトレーニング プログラムを開発した会社がトレーニングプログラムの欠点を発表した雑誌を相手に訴訟を起こした事件を取り上げています。その雑誌社はどうもトレーングプログラムを開発した会社の健康ビジネスのライバル会社でもあったようです。論文は結局、撤回されたようですが、雑誌のエディターとレビューアが示し合わせて、論文を採択したという疑いを根拠に、原告側は、レビューアのアイデンティーを明かすように求め、結果、カリフォルニアの法廷がそれを認めたということらしいです。

これは雑誌社の情報の守秘義務のポリシーに反することで、今回の判決は例外的なものとのこと。多分、雑誌社側も逆訴訟をしたために原告の立場にもなったのが原因ではないかという話。

私、透明性を保つのは大切だと思いますが、論文のレビュープロセスというのは、emortionalなもので、レビューアは、著者にとっては、ある意味、エラソーに無理難題を言ってくる厄介な「敵」なようなもので、そこには圧倒的な力関係の差があるわけです。一方、レビューアも忙しい時間を割いてボランティアでやっている仕事であり、いくら科学的に公平なコメントをしたところで、著者から恨みを買う率はそれなりにありますから、雑誌社がレビューアを守ってくれないなら、誰もボランティアをしようとはしないでしょう。

その次のページ、「Forever young? Naked mole rats may know the secret」では、ひょっとしたらNaked mole ratには寿命というものがないのではないか、という衝撃的な仮説が展開されています。

Naked mole ratsは、げっ歯類でありながら、以前から、長寿であることは知られており、マニアに研究されてきました。非常な低酸素状態に耐えることができ、低体温で暗闇に住むためにROSやUVなどによるDNA損傷が起こりにくく、DNA損傷で誘導される細胞老化が抑制されているのではないかという推測があります。加えて、そのbiologyは興味深い現象に満ちており、2013年のNatureの論文では、Naked mole ratsにがんができにくい理由として、細胞が高分子のヒアルロナンを分泌し、そのシグナルの上昇ががん抑制効果を担っているというデータが発表されています。

今回のサイエンスの記事ではNaked mole rat研究者、Rochelle Buffensteinが彼女の三千匹に及ぶnaked mole ratsの記録を解析したところ、35年にわたるデータから、ひょっとしたらNaked moleには寿命というものがないぐらい長生きで、動物はランダムに死んでいくのではないかという衝撃的な仮説を提唱しています。ただし、最も長生きしているもので今のところ35歳ですから、誰かが100年単位で観察すれば、寿命というものは見えてくるかもしれません。
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