![]() | 口語訳 古事記―神代篇 (文春文庫) |
三浦佑之 | |
文藝春秋 |
昨日(2/17付)の産経新聞に、マーケティング・コンサルタントの西川りゅうじん氏が、「目指せ 神話ボーイ&ガール」というエッセイを載せていた(「平成志事術」欄)。なお西川氏の本籍地は奈良県である(氏のおばあちゃんが奈良県人)。西川氏のエッセイは、私が当ブログに書いた「kikiガール(古事記ガール)をハントしよう!」と同様、古事記や神話ブームにスポットを当てた話だったので、興味深く拝読した。以下、要所を抜粋(青字)するとともに、私のコメント(黒字)を加える。
各地の神社に友達同士やカップルで参拝する、神話好きの「神話ガール」「神話ボーイ」が増えている。昨今のパワースポット人気によって御利益にあやかろうとお参りするうちに、神社に祭られている祭神に興味を持ち、神話について学ぶようになった若者たちだ。
パワースポットブームというのは、確かにある。昨年参拝した大神神社(三輪明神 日本一のパワースポットといわれる)にも、たくさんの若いカップルや女性グループが参拝していた。
伊勢神宮への参拝者数の推移を見ても、近年はほぼ毎年増加しており、平成22年は約860万人を記録。日清戦争が終わった明治28(1895)年の調査統計の開始以来、過去最高を更新した。
それまでで一番多かった年は、昭和48年の859万人で、同年には第60回の「式年遷宮(しきねんせんぐう)」が行われた。遷宮の年以外で記録が更新されたのは初めてのことだ。
伊勢神宮への参拝者が過去最高を記録したことは、神宮の公式HPにも出ていて《第62回式年遷宮(2013年=平成25年)の開始から神宮に参拝される方の人数が増え始め、20年に一度の式年遷宮の年以外で記録が更新されたのは異例のことです。この数字は、多くの方が式年遷宮を機に神宮や神社に親しみを感じ、日本文化に対する関心が高まっていることを示すものと思われます》。
折しも今年は、712年に神話の書であり日本最古の歴史書である『古事記』が編纂(へんさん)されてから1300年に当たる。物語に登場する神々は各地の神社で祭神として奉られており、『日本書紀』と並ぶ、「神話ガール」「神話ボーイ」の聖典だ。
![]() | 古事記を旅する (文春文庫) |
三浦佑之 | |
文藝春秋 |
たしかにウチの近所の大和国鹿島香取本宮(奈良市中町2238)には、記紀に登場する武甕槌命と、『日本書紀』に登場する経津主命が祀られている。武甕槌(タケミカヅチ=建御雷)神が、イザナキが斬りつけた火の神カグツチの血から産まれた神だったということは、『古事記』を読んで初めて知った。
『古事記』は、国や地域の成り立ちはもとより、自分自身のことがわかる自分探しの書でもある。なぜなら、「八百万神(やおよろずのかみ)」といわれるようにさまざまな神様がいるので、共感したり憧れを抱く神様や自分の職業の元祖とも言える神様が必ず見つかるからだ。例えば、「りゅうじんさんのような仕事は日本には昔はなかったでしょう」とよく言われるが、そんなことはない。実は神話の中で語られているのだ。
天岩戸(あまのいわと)の神話はご存じだろう。弟の須佐之男命(すさのおのみこと)の乱暴狼藉(ろうぜき)に、姉の天照大神(あまてらすおおみかみ)がお怒りになって、岩戸にお隠れになる。すると、世界中が暗黒に覆われ、悪霊が騒いであらゆる災いが起こる。この緊急事態を打開するためのイベントを企画プロデュースしたのが思金神(おもいかねのかみ)だ。
まず朝を呼ぶ常世(とこよ)の国の長鳴鳥(ながなきどり)を集めて鳴かせる。そして、鍛冶と玉造の神に、後に「三種の神器」の内の2つとなる鏡と玉を作らせる。これらで飾った美しい玉串を供え、祝詞(のりと)をささげて、大宴会を開催する。芸能の神である天宇受売命(あめのうずめのみこと)が熱狂的なダンスを披露すると、集まった神々は大笑いして歓声を上げる。「私がいないのに、どうして、皆、楽しそうにしているの」と天照が不思議に思って隙間から外をのぞいたところを力の神の天手力男神(あめのたぢからおのみこと)が岩戸を開け、この世に再び光が戻ってくる。
![]() | 古事記講義 (文春文庫) |
三浦佑之 | |
文藝春秋 |
三浦佑之著『古事記講義』(文藝春秋)にも、《ここに描かれているのは、すべてオモヒカネ(思金神)の脚本による芝居なのです。オモヒカネは、この場面では脚本家兼演出家兼舞台監督という役割を担当し、神がみを役者としてひと芝居打つというわけです》と出ている。このほか、芸能人や鍛冶屋、玉造り・鏡造りなど、職業の元祖ともいうべき神々が登場する。
神話は日本人の心に光をもたらすのに違いない。「なでしこジャパン」も、記紀に登場する神武天皇を勝利に導いた八咫烏(やたがらす)のエンブレムを胸に世界一に輝いた。そして、神話の神々は長生きだ。神社に参って、天皇陛下のご健康とご長寿をお祈りしつつ、私たちも永遠の「神話ガール」「神話ボーイ」を目指そうではないか。
八咫烏(三本足の大きな鳥)は、中国大陸や朝鮮半島でもみられる伝説の鳥である。サッカー日本代表のシンボルマークであるが、「なぜ、これがシンボルに採用されたのか」ということは案外知られていない。実は《日本に初めて近代サッカーを紹介した中村覚之助に敬意を表し、出身地である那智勝浦町にある熊野那智大社の八咫烏をデザインした物であり、1931年に採用された》(Wikipedia)ということである。
それにしても、最近は「ボーイ ミーツ ガール」ではなく、「ボーイ&ガール ミーツ 神話」なのだ。若い人を含めた日本人が、イデオロギーの色眼鏡を外して記紀神話を読むようになったのは、とても好ましいことである。古事記1300年にあわせて、解説本や雑誌の特集記事も目につくようになった。皆さん、まずは古事記を学びましょう! 『つぎはぎ古事記入門』は、もうお読みになりましたか?