tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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司馬遼太郎が教えてくれた(1)幕末の志士は、死ぬことが平気だった

2013年03月10日 | 司馬遼太郎
 街道をゆく (1) (朝日文芸文庫)
 司馬遼太郎
 朝日新聞社

今年(2013年)は司馬遼太郎の生誕90周年である。早速、「月刊 文藝春秋」3月号が特集を組んでいる。私の亡父は司馬遼太郎の大ファンだった。家には『龍馬がゆく』や『坂の上の雲』などの小説がずらりと書棚に並んでいたし、定期購読していた「週刊朝日」が届くと、まっ先に「街道をゆく」を読んでいた。

しかし私はほとんど読んでいなくて、奈良で1人暮らしを始めたばかりの1980年(昭和55年)に『項羽と劉邦』がベストセラーになったとき全巻買って読み「これは面白い」と思い、それ以後、時々文庫本などを買うようになった。私は小説よりも、エッセイや講演録、対談や座談会のほうに関心があり、それは今も同じである。

 項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)
 司馬遼太郎
 新潮社

昨年の11月、古事記ゆかりの地をめぐるバスツアー(奈良まほろばソムリエの会と奈良交通とのタイアップツアー)で、葛城市を案内することになったとき、ソムリエ仲間でガイド名人の田原敏明さんから「笛吹神社には、司馬遼太郎が来ていましたね。『街道をゆく』に出ていました」という話をお聞きした。私もかすかに読んだ記憶があったが、早速、朝日文庫『街道をゆく1』630円を買い直して読んだところ、これがめっぽう面白い。ここ数年、古代史や奈良の歴史などを勉強したので、以前に比べ、面白さがよく分かるようになっていたのだ。今年は生誕90周年でもあるので何か記念ツアーを組むヒントになるかも知れないと、急いで司馬遼太郎を読み直しているところである。

読んでいると「うーん、そうだったのか!」と思わず膝を打つようなフレーズがぞろぞろ出てくる。忘れてしまってはもったいないし、ブログ読者の皆さんも興味を持っていただけると思うので、これから思いつくまま、紹介することにしたい。

さて、初回は朝日文庫『司馬遼太郎全講演[1]』の「歴史小説家の視点」から(1968年4月30日 新潮文化講演会 新潮カセット講演『司馬遼太郎が語る 第2集』が初出)。3月4日、当ブログに「天誅組を『南山踏雲録』から読み解く(2)」という記事を書いた。天誅組については「よくもこんな無茶な武装蜂起をして、あたら若い命を落としたものだな」と思っていたが、司馬遼太郎はこんなことを書いていた。

実録 天誅組の変
舟久保藍
淡交社

幕末の志士たちは死ぬことが平気で、すぐ死んじゃう。すぐ死んじゃうのに、「死んだ後、どうするんだ」と聞いても、きっと何も答えられないだろうと思うんです。死ぬことが平気なくせに、宗教がなかった。

われわれ日本人は、大変植物的な民族ですから、死ぬことは、比較的怖くない。幕末の志士は特にそうでした。幕末の志士とは、一言で言ったらどんなやつだというと、非常にたぎった時代ですから、たぎった人間を出します。平和な時代では想像できない人間を出す。


ここで高杉晋作の話が登場する。

高杉は将軍(徳川家茂)を暗殺してやろうと思ったんです。何も将軍は大物でないですから、暗殺する必要はないんです。しかし、将軍が暗殺されるという政治的効果を、この革命の天才は思ったんですね。将軍が暗殺されるとなれば、いままで大変なものだと思っていた徳川幕府が、何だこの程度だったのかということになる。時代の風潮がいっぺんに変わる。

 司馬遼太郎全講演 (1) (朝日文庫)
 司馬遼太郎
 朝日新聞社

さすがは革命の天才、これは五條代官所を襲撃した天誅組と同じ発想である。高杉が京都・二条城近くの下宿で仲間と暗殺計画の相談をしていたとき、1人の浪士(浪人の志士)がやってくる。

その浪士に、「将軍の暗殺は、自分たち長州藩の人間でやるので、他藩の人間の力は借りません」と、木で鼻をくくるようにして断った。そしたらその浪士は、別の場所で怒っちゃったんですね。自分を臆病者だと思ったのかと。「臆病者でない証拠を見せてやる」と言って、軒下で立腹切って死んじゃった。考えられないことじゃないですか。死んだらそれでおしまいだのに(笑)。これで実証はされたわけです(笑)。だいたいその種類の人間が、京都で走り回っておるわけです。

これはびっくり仰天であるが、ほんの150年ほど前の日本の話なのである。この講演の趣旨は、幕末には《芸術がほとんどなかったことと、宗教が全くなかった》ということである。締めの言葉は《「ない」ということからだけでも、いろんな具合で観察ができる。おもしろいものの考え方ができる。そういうことぐらいが今日の結論でしょうか》。

おかげさまで、天誅組を見る目が少し変わった。司馬遼太郎さん、有難うございました。
コメント (2)
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