tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

『88歳大女将、連日満室への道~集客10倍、バリアフリー観光はここまで来た~』

2016年01月02日 | ブック・レビュー
株式会社タブレットから出ている『88歳大女将、連日満室への道~集客10倍、バリアフリー観光はここまで来た~』(津田令子・編集部著 中村元協力)1,620円(税込み)という本を読んだ。昨年(2015年)11月20日(金)、中村元(なかむら・はじめ)さん(NPO法人日本バリアフリー観光推進機構理事長、NPO法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンター理事長)の講演を聞き、この本に興味を持ったのである。Amazonの「内容紹介」には、

廃業寸前旅館がバリアフリー対応で、奇跡の3倍増客を成し遂げたヒミツを証す、ユニバーサルツーリズムに乗り遅れないための、元気が出る実録物語。
・廃業寸前の古い旅館がわずかな資金と時間で再生した物語は、大女将の決断から始まった。
・眠っていた巨大マーケットを掘り起こしたのは、集客請負人で有名な水族館プロデューサー。
・巨大な高齢者マーケットを手にする武器は、目から鱗の「パーソナルバリアフリー基準」。
・東京パラリンピック観戦をきっかけに、世界のバリアフリーマーケットがやってくる。
・バリアフリー観光で、人にやさしいまちづくり推進を実現した伊勢市。
・三重県知事の「日本一のバリアフリー観光県推進宣言」で新たな誘客競争の時代に。
観光地の集客再生、高齢者顧客開拓、商店街活性化、人にやさしいまちづくり、ユニバーサルデザイン推進…など。商業とまちの行き詰まった問題を、ひとまとめに解決するヒントがここにあります。


 88歳大女将、連日満室への道
 津田令子ほか
 タブレット/三元社

毎日新聞三重版(2015.5.1付)も、こんな書評を書いている。見出しは「再生の軌跡 伊勢市補助金でバリアフリー化 大女将、出版の単行本を市に寄贈」。

伊勢市の補助金を受けバリアフリー化することで、廃業寸前から再生した老舗の「日の出旅館」(同市吹上)の軌跡を紹介した単行本「88歳大女将(おかみ)、連日満室への道」が出版された。4年前に改修を決断した生涯現役の同館大女将、岡田志づさん(91)と孫の女将、麻沙さん(37)は補助に感謝し、市に本60冊を寄贈した。

同館は1929年に伊勢神宮外宮近くのJR伊勢市駅前に創業。戦災で焼けたが、戦後に再興し、伊勢参りの宿泊客でにぎわった。しかしその後、交通網の発達などで人の流れが変化。外宮周辺は次第に衰退し、同館も客足が遠のいていった。

志づさんが廃業を考えるようになったころ、市のバリアフリー観光向上事業を知った。事業は、バリアフリー化を希望する市内宿泊施設を対象に市が2011、12年度に実施した補助制度。13年の神宮式年遷宮を前に、体の不自由な旅行者にも市内に訪れてもらえるようにするのが目的で、改修費の半額(上限400万円)を補助する内容だった。

市の説明会に参加した志づさんはすぐに工事を決断。NPO法人・伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの助言を受けながら、車椅子でも利用できる部屋を新設したほか、玄関のスロープ設置、廊下の段差解消、トイレの改修などを施した。

志づさんは「若い人やお年寄り、外国の人まで大勢来てもらえるようになった。思い切ってやって良かった」と話した。同館の取り組みをバリアフリー観光の成功例として、旅行ジャーナリストの津田令子さんらが取材し、本にまとめた。発行はタブレット(東京)。237ページ、1620円。全国の書店で販売している。【新井敦】


本書の目次を紹介すると、

第1章 伊勢で一番ちっちゃい女将は日の出旅館の大女将やで
(92歳、ちっちゃい大女将 廃業寸前だった日の出旅館 ほか)
第2章 伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
(バリアフリー観光に目を付けた理由巨大なバリアフリー観光マーケット ほか)
第3章 パーソナルバリアフリー基準
(バリアフリーツアーセンターの仕組みとは? パーソナルバリアフリー基準 ほか)
第4章 社会は人がつくる
(社会づくりは道楽 伊勢志摩バリアフリーツアーセンターを支えるスタッフたち ほか)

中村元さんの「パーソナルバリアフリー基準」という考え方が出色である。少し長くなるが、NPO法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの公式HPから抜粋する。

「行けるところ」ではなく、「行きたいところ」へ!
「バリアフリー」って、なんでしょうか?障害の種類は無数にあります。同じ車いす利用者でも、その人の身体の状態によってバリアとされる場所や種類は違います。さらに、個人行動なのか誰かと一緒なのか、同行者が若いか高齢者か、などによっても、バリアとされるものには差があります。視覚障害者でも、全盲と弱視、盲導犬を連れている人など、千差万別でしょう。

例えば、事故で下半身不随になった若い車いす利用者なら、10センチ程度の段差なら自力で上がってしまうことも珍しくありません。が、高齢のため車いすを利用している方は、できるだけフラットな通路を求めるでしょう。また、高齢の車いす利用者を元気な若者が介助しているなら、多少の段差も距離もものともしないでしょうが、老々介護の場合は、段差がないことはもちろん、移動距離も短いほうが楽なはずです。

それらどんな人にでも対応するモノづくりがユニバーサルデザインという理論ですが、世の中にすでにあるモノのほとんどはバリアだらけ。段差のまったくないわずかな施設だけを、バリアフリーだ、ユニバーサルデザインだ、と言って紹介していては、前述の若い車いす利用者や、介助者のいる車いす利用者にとっては、「行けるはずの場所」の情報を教えてもらえないことになります。また、世の中のバリアがすべてなくなるまで、私たちは待っていることはできません。

とりわけ観光においては、バリアは当然のようにあり、むしろバリアこそ観光の醍醐味、と言えることも少なくありません。山や海を代表する自然系のレジャーはバリアを越える楽しみそのものですし、神社仏閣には石段や砂利道など、俗世とのバリアがどこかに必ずあります。知らない街を散策することや方言もバリアの楽しみです。外国語ができないからと、海外に行かない人はいないでしょう。つまり、旅のバリアフリーで大切なのは、どこがユニバーサルデザインになっているかではなく、旅行者本人が何を楽しみたいか、なのです。

そこで私たちは「パーソナルバリアフリー基準」という相談システムを開発しました。パーソナルバリアフリー基準」とは、行けるところに行くのではなく、旅行者が行きたいところ、楽しみたいことを実現するために、旅行者一人ひとりの状況に合わせて情報提供や旅行アドバイスを行う相談システムです。

「パーソナルバリアフリー基準」では、障害者の数だけバリアの数はある、という考えにもとづき、「段差あり、なし」などといった画一的な基準ではなく、その施設の「バリア」をすべて詳しく調べあげ、ありのまま紹介するのが特長です。また、施設調査には障害を持つ当事者たちにも参加してもらい、当事者が実際に体験した信頼できる情報を集めています。例えば、

長~いスロープの先にある、絶景の展望台。
入口に階段が数段あるけど、魅力的な博物館。
フラットだけど眺めはよくない客室と、水回りに段差があるけどオーシャンビューの客室。
客室内にあるバリアフリーなユニットバスと、入口に段差がある貸切展望露天風呂。
ユニバーサル対応の1泊3万円の宿と、館内の車いすトイレ利用が前提のビジネスホテル。

私たちが提供する情報をもとに、旅の魅力と、自身にとっての使い良さを天びんにかけて、どれを選ぶのか。また、バリアを越えて行くのか、行かないのかは、お客さま自身が判断してください。お一人お一人のお身体の状態や、介助できる同行者の有無、行きたい気持ちの強さなどによって、さまざまな結果になるはずです。


つまり、何でもかんでも「ユニバーサルデザイン」にしないとバリアフリーではない、ということではなく、その場所の「バリア」を調べて情報提供し、その「バリアを越えてでも行きたいか否か」ということを旅行者自身に判断してもらう、ということが「パーソナルバリアフリー基準」づくりの根本にあるのだ。

「バリアフリーは障がい者の話だから、関係ない」と思っておられる方がいるかも知れないが、人間は誰しも「高齢者」という障がい者になるのだから、決して他人事ではない。

中村さんのアドバイスに基づいて改装し、奇跡の増客を達成した「日の出旅館」の物語。ぜひお読みいただきたい。
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