
血は争えない(争われない)という。
気質とか優位性をいう双葉より芳しの方面ばかりではなく、客観的な遺伝要素にも使うようだ。
父と兄二人と従兄が前立腺癌で死んだり闘病中だ。
三歳違いの従兄は、彼の父と私の母が兄妹なら、私の父と彼の母も兄妹で血の繋がりは濃い。
生まれ育った新潟県の田舎でも、生家の近所に「前立腺をヤッタ」「早く見つかって手術した」という人たちがいて、範囲を広げたらあの人もこの人もと増える。
風土病かとも思われるほど勢いがある。
そのようなわけで、いずれ前立腺癌になるのだろうと恐れ、毎年の血液検査にはオプションのPSA検査をつけてきた。
皆の発病年齢範囲に入り、ついに私のPSA数値が基準値を超えた。
近所の主治医が病院を紹介してくれるとて、希望の病院はあるかと問われた。
覚悟はしていたつもりでも、まだまだ先と楽観視していたので、そんな下調べはしていなかった。
どこでも良いと応えて、貰ったのが京都大学医学部付属病院泌尿器科外来担当医宛ての紹介状。
御侍史という言葉を初めて目にした。
医師、病院の世界でだけ残っている古い言葉だとか。
要は、医師の秘書なり病院事務宛ての連絡書面。
これを携え、男の病を得た私は数日後におずおずと大学病院に向かう。