『人は見た目が9割』は情報の多くは言葉以外の例えば顔の表情や態度、服装、相手との距離などによって伝わることを例示し、論じた本だった。
『ウルトラ・ダラー』の著者は前NHKワシントン支局長。情報を収集し伝えることを仕事としてこられた方だ。あの9.11では連日TVで事件の情報を伝えていたことを記憶している。
この本の中には、情報を秘密裏に集める場面がいくつか出てくる。引用ばかりで気が引けるが・・・「ジャカード織の分厚いカーテンのリールに超小型の赤外線暗視カメラが据え付けられていたことに、ふたりは気づかなかった。」「会議室の天井の一隅から、小型のビデオカメラが成島の指先をじっと見つめていた。」「スティーブンは成島のノート型パソコンの左横にあるUSBポートにフラッシュメモリを素早く差し込んだ。四ギガバイトの高速メモリだ。」
物語はBBCの特派員にしてイギリスの秘密諜報部員、スティーブン・ブラッドレーを中心人物として展開していく。著者の知識と経験を基に描かれた長編サスペンス。
本の帯には「これを小説だと言っているのは著者だけだ」などと書かれているが、国家的な陰謀はこんなに凄いのか・・・。
日本のハイテク企業の社員、成島はパソコンを操作する指先をソウルのホテルの会議室でビデオに撮られるし、機内ではトイレにたった空きにパソコンの中の情報を吸いとられる・・・ エピローグで、物語は一気に終局に向かうがもう少しじっくり描いて欲しかった。
この小説は予想に反して女性の読者が多いと聞く。読了して、その理由が分かったが敢えてそのことは記さない。このブログの読者の女性にも読んで欲しいから。
『人は見た目が9割』竹内一郎/新潮新書を今朝読んだ。新書は文庫や単行本とは異なり装丁が同じだから書名が勝負だ。興味を惹くように工夫されている。
この本によると、言葉による情報伝達はたったの7%、残り90%以上は言葉以外によるのだそうだ。書名はこのデータに拠っているのだろうが、内容を正確に伝えてはいない。よく売れているようだから、ねらい通りだろうけれど。
確かに、言葉以外の情報伝達を日常的に経験しているし、そのことは小説からも例示することができる。
「白地の夏大島にトンボと花模様を描いた紗紬の帯をしめた師匠は、篠笛を自分で構えて、あるべきかたちを示して見せた。ゆったりと笛をもちながら、凛とした気品に溢れている。」 「何ひとつ痕跡は残していないのだが、あの目は何かを知っていると語りかけているようにも見える」 「ボスの瞳の奥深くに沸騰する怒りが燃え滾っていた」 以上、『ウルトラ・ダラー』手嶋龍一/新潮社 からの引用。
著者の竹内氏は舞台の演出や俳優教育、劇作、マンガ原作などを長年仕事としてきているそうだが、その経験や知識を駆使して様々な具体例を示しながら、非言語による情報伝達について書いている。ただし、それほど深い内容にまで論考は及んでいない。コーヒーを飲みながら気楽に読むのにちょうどいい本だった。
『ウルトラ・ダラー』 終盤の意外な展開には驚いた。そうか、背後にはあの大国が存在するのか・・・。