和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

98歳の冬。

2022-10-18 | 先達たち
苅谷夏子著「大村はま 優劣のかなたに」(ちくま学芸文庫)
はい。いつもはパラパラ読みの私ですが最後まで読みました。

最後には詩について語られている場面がありました。
大村はまの98歳の冬が無事過ぎたころのこと。

文部科学省の特殊教育関係の雑誌のインタビューを受け

「後日、インタビューをまとめた記事のゲラが届いた。
 それを読んだ大村は、どうも放っておけない違和感を感じたらしい。

 趣旨は正しく書かれていた。どこに誤りはない。しかし、
 文章の調子に、もっと引き締まった、厳しさ、切実さが欲しい
 と思った。・・・・

 それは記事全体の調子の問題であって、一つ二つ、
 注文を出したからといって変わることではなかった。
 また、そこまでまとめてくださった方に、そんなところまで
 要求できるはずもなく、その仕事を無にするようなこともしたくなかった。

 しかし、違和感はどうしても拭いさることができない。・・・

 丸一日、大村はじっと沈黙を守って、どうしたものかと考えていたらしい。                                      そして、突然、明るいさっぱりとした声で電話がかかってきた。
『インタビューの記事の最後に、詩みたいなものをね、
 載せてもらうことにしたの。・・・・・』
 
 それがこの『優劣のかなたに』なのだ。    
 ・・・・決定稿にまでもっていきたい。
 話し相手になってほしいから、ちょっと来てちょうだい、
 という約束の日の、その二日前に死がやってきた。  p255~257


この文の前に詩「優劣のかなたに」が、p251~255に引用されておりました。
詩の最後には注としてこうありました。
「この詩は、著者が亡くなるまで推敲を続けたので、遺されたメモ、
 下書き、校正稿をもとに、関係者らによって一部を補完した。」


うん。その詩から、一部分を私は引用したくなりました。

   今は、できるできないを
   気にしすぎて、
   持っているものが
   出し切れていないのではないか。
   授かっているものが
   生かし切れていないのではないか。     p254



はい。読めてよかった。


コメント (6)
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